お人形さんと真緒のお話(微裏がある)
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―なあ知ってるか?お人形さんの話
―あ、知ってる!
―見たことないよな?人間?
―さぁな、けどお人形さんって言われる
あたり、まあ人間じゃないだろ
☆*°
「失礼しまーす!会長、お待たせし…
あれ、いねえ」
書類を持って生徒会室に来るが誰もいない
可笑しいな、今日は全員いるはずだし…
「…?」
『……』
「…………………え、人?」
待て、知らない女の子がソファで
寝ているんだが?制服でもないし…
でもちょっと高価そうな服だな…
「あ、あの〜」
『………』
「…起きないな」
「やあ真緒」
「うお!?!?お、お疲れ様です!」
後ろから急に会長に声をかけられ
上ずるが、しっかりと返事をして離れる
「おや、まだ寝ているんだね
ほら、起きなさい」
『………………』
「あ、起きた」
会長が声を掛けると起きた
そのまま立ち上がり、何も言わずに
ポットの前まで向かうと
「…そうだ、今日はアプリコットがいいな」
『………………』
「あ、あの…?」
しばらくすると、会長の隣まで
ポットを持って彼女は向かう
ティーカップを置くと、底に淹れたばかりの
飲み物を注いでいく
「………うん、淹れ方が完璧な
アプリコットだね。さすがだよ」
『………………』
彼女は、表情ひとつすら動かさない
疑問に思い俺は会長に声をかけた
「会長、あの、その子は…?」
「ああ真緒は初めましてかな
彼女は僕の"お人形さん"だよ」
「お人形さん…?」
「精密に作られてるだろう?僕の世話を
家でしてくれるんだ。どうやら今日
忘れ物をしていたらしくてね
ここまで届けてくれたんだよ」
「そ、そうなんですか」
「この子は衣更真緒くんだよ
僕の仕事の手伝いをしてくれてるんだ」
『…………』
視線が合うと、人形はペコッと
お辞儀をする。思わず俺もお辞儀をした
「…真緒、君ならこの子を
使いこなせるかもしれないね」
「え?使いこな?」
会長はひとつひとつ話し始めた
この人形は乏しいのだと
話すことはもちろん、笑うこともない
無機質な人型であると
「…そうだ真緒、この子と一緒に
しばらく仕事をお願いできるかな?」
「っえ!?お、俺ですか!?」
「大丈夫。彼女にはしっかり伝えるよ
いいかい?今日から1週間、君はこの
衣更真緒くんの仕事の手伝いをするんだ
結果、僕の仕事の手伝いに繋がる
どうか真緒の力になってほしい」
『……』
すると彼女は、何も言わずに俺の隣に
やって来て、そのままソファに座った
「真緒、彼女に何でも頼んでごらん
全てこなしてくれるよ
僕の優秀なお人形さんだからね」
「…は、はぁ…………
じ、じゃあ…この書類全てに印鑑…
お願いできますか?」
『………………』
すると人形は何も言わず、しっかりと
印鑑をひとつひとつ的確に押し始めた
すごい…ちゃんと人間の言葉も理解する…
さすが天祥院財閥というか…なんというか
『……………』
「………」
なんだか不思議な人形だ
人間みたいに綺麗な肌だし
ほんとに機械とは思えないほど。
これもAIの進化ってやつか…
―これが、俺とこいつの出会いだった
「……君の望みを、1週間だけ…」
「会長、何か言いましたか?」
「いいや、なんでもないよ」
―今思うと、あの日々すら愛しい
2日目
「お疲れ様で…あ」
『……………』
ソファには人形が寝ている
これどうやって起動するんだ…?
「………」
『……………』
「うわ、肌柔らか…」
思わず頬をつついてしまったが
人間のように柔らかい
って、人形とはいえ女の子の姿してる
奴に何してるんだ俺は…
そういや昨日は会長の言葉で起きてたよな
「お、おーい…起きろ〜」
『……………』
「あ、まじで起きるんだ。おはよ」
『………』
「あっと…えーっと………し、仕事だよな
この企画書にじゃあ今日も印鑑を頼む…」
『……………』
そう頼むとしっかりまた仕事を始める
これだけでもかなり助かるな
やっぱり人手…うーん機械の手?も
いるってことか
「…なあ、お前名前とか無いの?」
『…………………』
「機械の製造番号とかでもいいし!」
『……………』
「だめかあ…」
こんな会話のない空間…大丈夫か?
1週間も保つか??無理じゃね?
「っあー…早く終わんねえかな」
『………』
「っあ悪い…お前のことを別に嫌いとか
使えないとかそういうのじゃないんだ
ただ俺も、こうやって仕事するのは
初めてっていうか………」
『………』
黙々と印鑑を押す人形に、
俺は何を話してるんだろうか
けど、何故か人形とは思えなくて
「……」
『……………』
微妙な空気になりつつも、仕事を進めた
紅月とfineは確か次のライブがあって
生徒会室にはあまり来れないはず…
副会長は書類を持って帰ってそうだな…
ってことは暫く生徒会室に来るのは
俺1人が多そうだ
「なあお前、会長の家にいつもいるのか?
今最近はどうしてるんだ?」
『…………』
「もしかして学園に放置か?」
『…』
「んー…喋らないって言ってたけど
そもそも喋る機能が無いのかも…」
なんて思いながら書類を進めると
人形は全て仕事を終わらせていた
「うお、俺よりはやい…さすが人形…
んじゃ…書きとかって出来るのか…?
この書類のこの面に、同じことを
書いていって欲しいんだけど…」
『………………』
そう伝えると人形はペンを取り
丁寧に字を書き始めた
「まじか書けるのか!すげぇ!
…………って…結構可愛い字書くんだな
ほんとに人間みてえ」
『…………』
ぴくり、と。不意に人形が
止まった気がして見てみるが
表情に変わりはない
気のせいだと思い、仕事を続けた
「いやあありがとな!
予定より早く終わったよ!
会長探してくるから、お前はまたここで
会長待っててくれよ!
んじゃ、また明日な」
『…………』
そう伝え、2日目を終えた
……本当のことを、俺はまだ知らなくて
☆*°
3日目
「お疲れ様でーす」
『…………』
「…起きろ〜」
『…』
「よっ!今日も仕事の手伝いよろしくなっ」
『……………』
何も言わずソファに起き上がる人形に
昨日と同じような仕事のものを渡す
「…なあ、お前いつから会長と一緒なんだ?
ほら、造られた時とか」
『………』
「んー…話す機能がやっぱり無さそう…
ってことは俺の話か…」
『…』
「俺さ、Trickstarってユニットに
所属してるんだけど、メンバーがすげー
面白い奴らでさ!」
人形なのに話してしまう
何故かわからないけど、いやきっと
俺が気まずかったからだろう
何も言わず仕事するのが、いくら
人形と言えどなんか嫌だった
すげー人に見えるし
「お前は生徒会長の家にいるんだよな
ってことはfineのライブとかは
観たりするのか?もしいいなら、
Trickstarも見て見てく……………って
人形だから、無理だよな」
『………』
「…お前、意外と整った顔してるよな
人間だったら普通に可愛いと思うし」
何よりちょっと俺のタイプ…って
何考えてるんだよ!!
『…』
「…ん?なんか赤くね?あれ?
体内の機械オーバーヒートした!?
っえ!?そんなことあるのか?」
『……………』
「と、とりあえず水…は壊れるか!
クーラー付けて!!」
『………』
俺は急いで玄関のリモコンまで向かって
温度を下げる
『…ふふっ』
「?なんか今聞こえた気が…気のせいか
とりあえず!これで温度も落ちて
機械的にも大丈夫だろ!」
『…………』
「うん、元に戻ってきたっぽい
よし、残りの仕事もやりきるぞ!」
流れるように、3日目は過ぎた
「んじゃ、また明日な」
『…………』
プログラムされてるのか、生徒会室の
入口まで俺を見送る人形
白いドレスをふわふわと動かせて
俺が扉を占めるまで入口に立っていた
「っし、じゃあ帰るか〜
…お、あんずー!」
扉を閉めたあとの
『…また明日、真緒さん』
彼女の声は、聞こえてない
4日目
「やべ、ちょっと遅くなっちまった」
急いで書類を持って生徒会室に向かうと
同じように待っている人形
今日は眠っていない。何故か起きていた
『…………』
「よっ!遅くなっちまった。ごめんな
よし、今日はこんだけ!半分よろしくなっ」
『……』
何も言わずに、書類を始める人形
俺もその隣に座って書類を進める
この4日で慣れてきたものだ
あと3日で終わる。終われば人形は
生徒会長の元に戻る。つまり言うことを
しっかり生徒会長の言葉で聞いて
生徒会長の家にずっといることになるだろう
「そいやお前、会長が忘れ物して
やってきた所を俺と出会って
俺の手伝いするようにって指示なんだよな
俺が来てなきゃ家に帰れたし、今も会長の
仕事出来てたんだよなぁ、そう思うと
なんか申し訳ねえけど」
『…………』
「……なんて、人形に言っても仕方ねえか
…でもさ、俺なんかお前のこと
人形って思えねえんだよ」
『………』
また、ピクリと止まった気がした
けど表情も何も変わらず、人形は
書類を進めている
その隣で俺も進めながら話を続けた
「普通に可愛いし、人間だったら
好きになったと思う。無機質に恋するほど
俺は疲れてないからな〜
けど、お前人形としてすげー可愛いし
仕事もできるから大切にしてもらえてる
と思うんだよ。そんな綺麗なドレス着て」
『…………』
「…って、何言ってんだ俺…
あ、その前の書類俺宛のだ…悪いちょっ」
不意に人形と手が重なる
反射で手を引っ込め…
「あれ……あ、つい…」
『…………』
「………」
人形としての違和感を感じる
手が暖かかった気がするんだ
ペンを持つ温かさというか、力というか
気のせいか…?
『………』
「……………悪ぃ」
『……』
「…………………!!!!!」
人形の手を掴む。掴んだ手から
―脈の、音がした
「…………し、失礼します」
『………』
変態だと言われることを承知の上で
人形の胸元に耳を近づけた時
「…お、前……………」
『…………』
「…お前、機械じゃなくて…
っ人間…なの、か………?」
確かに、心臓の音がした
すると何も無かったように扉が開く
「やあ真緒。仕事は捗っているかい?」
ちょうどいい所に、張本人が来た
「っ会長教えてください!
こいつは…人形じゃなくて、人間…
なんですか……?」
すると生徒会長は笑顔で言った
「人形とは言ったけど、僕は機械だなんて
一言も言ってないよ?
彼女は僕が拾った人形さ。可愛い可愛い
人間の女の子のね」
………時が、止まった気がした
「…は……じ、じゃあ…」
「その様子じゃまだ一言も話してない
ようだね?彼女は僕が拾ったんだよ
最も、感情が見えないし話もしないから
人形って周りからも呼ばれるんだけどね」
「っ…………」
聞いたことがあった
生徒会長は人形を持っている
とても優秀な人形
けどそれは人形ではなかった
『………』
「…お前…っ………」
俺と同じ、人間だった
「さて、今日は少し用があるんだ
早めに彼女を返してもらうね
真緒、明日は土曜日だ。彼女は休日も
ここに来させるから、仕事があれば
君も来るといいよ」
「……こいつのこと、なんだと…思って
るんですか……」
「ん?さっきも言っただろう?
お人形さんだよ。使いのいい…ね」
俺は、その場から動くことが出来なかった
☆*°
「………」
その日の夜、1人布団の上で考える
―『…』
話す姿なんて見た事ない
声も、表情も…
けど確かに、生きていた。
暖かくて、どくんどくんと脈を打って
俺と同じ人だと伝えていた
「………酷いこと、いっぱい…
言っちまったな…………」
人形、機械、製造番号とかって…
色々言っちまった……明日謝らねえと
―「人間だったら普通に可愛いと思う」
………
「はァァァ…………」
らしくねえなあ…。
マジでホント…俺はなんでこうも
あいつのことばっか考えて…
5日目
『………』
「……お、おはよ」
『…』
「休みの日までごめんな、これ…
頼めるか…?」
『………』
いつも通り書類を進める
ペンを持ち書いている字を見る
「…やっぱり、可愛い字書くよな
機械なのにって思ってたけど
人間だもんな…」
『………』
「…ごめん。俺、お前のこと沢山傷つけた
機械とか人間だったらとか…!
色々言って…ほんんっとにごめん!」
『………』
「…なあ、なんで、喋ってくれないんだ?
なんで、表情を動かしてくれないんだ?」
なんて聞いても何もかえってこない
本当に人形だと思ってしまう
…そうだ
「なあ、明日は朝の10時に
夢ノ咲の正門前にいてくれ!!!
あと…出来ればもう少し抑え目なドレス…
っていうかワンピースとか!!
そっち系で来て欲しい!」
『………』
そう言うと、初めての時のように
コクリとひとつ頷くだけ
それでも承諾して貰えただけで嬉しい
「ありがとな!じゃあぱぱっとまた
終わらせようぜ」
『………』
「んじゃこっちの申請書を確認して
問題なかったら印鑑押してくれ」
『…………』
そう伝えてしばらくしてから、
俺の少し上に何枚か書類が置かれる
ふと確認してみると、申請書の書類に
付箋が付いていて…
「っ………!」
―予算を超えている
―内容と費用合計があっていない
と、付箋に貼られたものが
置かれていた
…この字は間違いなく彼女のものだ
「っ…ありがとな」
『…………』
しっかり見てくれてる
なにより文字越しだけど、彼女が
生きてるということを実感出来るだけで
嬉しくて、胸が鼓動を早めた
「………なあ、これ」
『…………』
「さっきの書類、ここの費用も踏まえて
だから、予算合ってるやつなんだよ」
『……』
そう伝えると
『…………』
「……!!!!」
付箋に彼女はペンを走らせて
―そうなんですね、ごめんなさい
そう、書いた
「っ………声、出せないのか?」
そう聞くと、また付箋にペンを走らせる
―そんなことないです
「……じゃあ。なんで…」
―話す理由が無いからです
「…そ、そっか…」
そう返すけど、俺の鼓動はまた
ドキドキと鳴っていた
彼女と…会話が出来ている。それだけで
…幸せだ、嬉しい、もっと知りたい
と思ってしまう
「……なあ、人形って言われて
辛くないのか?」
―仕方の無いことです
「………俺は、沢山話して笑って
楽しそうなお前を見てみたいって思う
お前は嫌なのか?」
『………』
書類のペンは止まらない
答えてくれ無さそうだ
「……年齢は?分かるのか?」
―人形に年齢はありません
「っそれは周りから言われてるだけで
本当は普通の人間だろ!?
だからそんなこと言うな!」
『…………』
俺は思い切り彼女の手を握り
そう伝えた。すると彼女は無表情のまま
視線を逸らして書類を見る
俺の手を掴んで自らの手から離させると
またペンを取って書き始めた
―人間として扱ってもらったことがなくて
どう対応したら良いかわかりません
『……』
「…………なら、俺が教えてやる」
『…』
「書類はこれで全部だ!今日は帰って
休め!明日1日かけて、教えてやるから!」
そう言って、俺はカバンを取り立ち上がる
生徒会室から見えたが、もうじき
会長も来る頃だろう
「また明日な!」
『………………』
こんなこと言いながらも生徒会室の扉前で
俺を見送ってくれる
ほんとに人形みたいで悲しくもなる
けどその姿を見て俺は決めた
明日こそ、彼女の声、表情、名前を
知りたい…俺が彼女を変えたいと
扉を閉めて、確信に変わった
「………恋、か…」
好きに、なってしまったと
『…………また明日、真緒さん』
「…入るよ。どうかな、真緒との時間」
『……………』
「君が願った事だ。あと2日…存分に
楽しむんだよ…結羅」
『………』
6日目
「……!おーい!」
『…………』
「おはよ!ごめんな、待たせて」
『……』
日曜日、夢ノ咲の前に来ると
既に彼女は来ていて、いつもより抑え…
と言っても普通の女の子のような
リボンがあしらわれた洋服を着ていた
「その服、すげぇ似合ってる」
『………』
「今日さ、ちょっと着いてきて欲しいんだ
…水族館に!」
☆*°
「ほら見てみ!あれ!すっげーデカい!
水槽もすごい広いよなあ」
『……………』
水族館に来たら、色んな動物とか見て
少しはこいつも表情が緩むかなって
思ったんだけど…!!!!
中々前途多難なようだ…
『…………』
「…ん?」
ふと、隣にいた彼女が足を止める
視線の先にはふれあいコーナー
が、すぐ何も無かったかのように俺の
隣に立ってくるから
『…………』
「…行ってみるか!」
『……』
こいつのこと、もっと沢山見たら
考えてることがわかるんじゃないか
って思った
「お、結構いるなあ…」
『…………』
「………」
ちらりと彼女を見ると
視線の先に居るのはカワウソ
「よーし、カワウソから行ってみるか!」
『…………』
ピクリと反応したのが分かった
少し頬を緩めて2人でコーナーへ向かうと
「キー!キー!」
『………』
カワウソが彼女の元に走ってきた
「お姉さん、この子に気に入られましたね!
この子人懐っこいんですけど、ここまで
鳴くのは初めてですよ〜!」
『…………』
「だって、良かったな」
「良かったら触りますか?ほらっ、
ここ喜ぶんですよ〜!」
飼育員さんがカワウソを抱え、
俺たちの前にやってくる
すると彼女は
『……………かわいい』
「!!!!!」
―風鈴がなるような細い声で、そう言った
そう…声を出したのだ
「よかったね!お姉さんに可愛いって
言って貰えたよ〜!」
「キー!キーキュイキュイ!」
『…………』
「…………………」
想像してたよりも可愛い声で
思わず思考が止まる。
『………』
「……………」
何も考えられなくなって
ただ暑くなった頬を隠せずに
そのまま彼女を見つめると、無表情の
彼女もまた俺を見返してくる
「こ、声…」
『…………』
「…すっげー………か、可愛い…な…」
『……』
彼女はまたひとつお辞儀をするだけ
それでも、知らなかったものを知れた
嬉しさが強くて
「い、イルカ!見にいくか!」
『………』
歩き出す俺についてくる彼女が
愛しくてたまらなかった
☆*°
「ここなら見やすそうだな」
『………』
見えやすそうな席に座ると
しばらくしてから人が溢れてきて
直ぐにたくさんの賑わいを見せる
それから間もなく、イルカショーが始まり
『………』
「!!!」
隣で、目を光らせたように
イルカを見つめる彼女の姿
水族館に来たのは正解だったみたいだ
こんなにも目を輝かせている
そんな姿、この6日間で初めてだった
イルカではなく、隣の彼女を見つめてしまう
「…………」
もっと彼女のことを知りたい
もっと…もっと…………
『………』
「っあ、悪い!もうショー終わったんだな
次のコーナー行こうぜ」
『………』
次に向かったのは深海魚
………なんか、暗いな
「暗いし、手でも繋ぐか?」
『…………………』
「…………」
………あれ、俺今なんて言った?
……………
…………
…あれ
「…す、すまん!今のは忘………」
『………』
「!!」
きゅ、っと…俺の左手に来る温もり
俯いている彼女の表情を見たくても
暗くて見えはしない、それでも
「…暗いから、離れないようにな」
『………』
繋いだ手は、本物
その温もりを離すことなく、歩き続けた
☆*°
「もうこんな時間か〜
何か食べたいものあるか?」
『………』
晩飯の時間になりそう聞くが
首を横に振られた。どうしたものか
「…食べてみたいものとか!」
『…………』
「うーん……あ、そうだ」
『………』
ふと思いついて連れてきたところが
『……』
「ここ、Trickstarでよく来る
ファミレスなんだ!生徒会長の家にいる
ってことは、こういうとこ来たことあんま
無いんじゃないかと思ってな!」
『……………』
店内に入り席に案内されると
彼女の前にメニュー表を出した
「好きな物とかあるか?」
『………』
「…ははっ、それな」
『……』
無表情のまま、彼女は俺を見つめる
何となく、伝えたいことが
わかってきた気がする
「これだろ?お前を見てたらわかるよ
んじゃこれで注文しちゃうな」
『…………』
注文してから、じっと彼女を見て
俺はまた口を開いた
「明日で1週間経つけど、
お前はまた戻るんだろ?
もう、学院に来なくなるのか?」
『…』
ふいに、視線が泳いだ
「…何か、訳があるんだな」
『……』
「…………なぁ、生徒会長はお前のこと
拾ったって言ってた。人形とも。
けどお前は人間だ。理由があるなら
俺は知りたいって思う」
『……………』
泳がせていた視線が下へ行く
ここまで動揺している姿は初めてだ
何か訳があるに違いない
「お待たせ致しました〜!」
「あっ、ありがとうございます!」
「ひゃっ、Trickstarの衣更真緒くんっ
………………………か、彼女さん…ですか?」
『………』
「…あー内緒でお願いしますね?」
『………!!!』
「勿論です…っ!失礼しました!」
店員が去ってから彼女を見ると
彼女は俺をじっと見ていた
「っあ悪い…彼女とか…」
『……………』
「………」
気まずい空気が流れたと思った瞬間
『…………大丈夫です』
「!!!!!」
『…………』
また聞こえる、風鈴のような音
ふわりと耳に届く心地よい2度目の声に、
俺はまた意識を持っていかれた
『………』
「っあ悪い…!いただきます!」
『……』
まだ引かない身体の熱と彼女の存在を
目の前で確かめながら、
俺は右側の箸に手を伸ばした
☆*°
『………』
「はー美味かったな!…あ、そいや家って
生徒会長の家だよな?ってことは…
こっちか!」
『……………』
「送るよ。今日1日付き合ってくれたし」
『…………ありがとうございます』
「!!!いいって、こちらこそだよ
寧ろ俺がお礼言う方だし…!!」
聞こえるかどうかギリギリの声で
彼女の声が聞こえる
それを研ぎ澄まして拾い上げて
しっかりと返事をして
「…聞いてもいいか?」
『…………』
「……年齢と、名前…とか…」
『……………』
「……」
『………結羅…15歳です』
「!!!!……ゆ、うら………」
『…………』
「結羅…ありがとう…いい名前だな
…ずっと名前呼びたくてもわからなくて
申し訳なかったんだよ」
『……』
薄暗い道を歩きながら、そっと手を伸ばす
触れ合った手をゆっくり繋いで
『…………』
「……!」
結羅も優しく、握り返してくれる
…この時間が続けばいいのに
「結羅」
『………はい』
「俺さ、1人の女の子として、結羅のこと
ずっとみてるんだ」
『…………………』
「会って1週間も経ってないけど…
この腕の中から、離したくないって思う」
『…………!』
つないだ手を引き寄せて抱き締めて
「…もうちょい、抱きしめてもいいか?」
『………良いですよ。真緒さんなら』
―真緒さんなら
「………そんな堅苦しい呼び方なんて
しなくていいよ、真緒でいい」
『…それは出来ません。年上の方なので』
「律儀だなあ………」
そんなところも可愛い、こんなに沢山
話してくれるようにもなって嬉しいし
声は冷静でもしっかり届く
―どくん、どくん
少し早くなってる鼓動
そんな音を出されたら期待してしまう
…なんて思った時だった
「真緒、結羅」
『………………』
「会長!」
「やあ真緒、彼女を送ろうと
してくれたのかい?ありがとう」
「いえとんでもないで…結羅?」
やってきた会長を見て結羅は
俺の手をギュッと握る力を強める
『…………』
「ふふ、名残惜しいのかな?
でも、戻る時間だ。かわいいかわいい
僕のお人形一緒に帰ろう」
『……………』
「っあ、おい結羅!!」
俺から手を離して、彼女は会長の元に
向かっていく
せっかく近付けたのに、また…また
『…………ありがとうございます』
「!!!」
『楽しかったです。さよなら』
「結羅っ!」
彼女は、俺を拒むように離れる
……待て、待ってくれ…行くな
そんな声も届かなくて、彼女は会長と
車に入っていった
「…また明日って、言ってくれよ…」
まるで最後みたいな言い方をしないでくれ
そう思いながら、走り去る車を
ずっと見つめていた
☆*°
「……………よし」
帰り道、まだ開いている
アクセサリーショップに立ち寄ると
俺はそのまま1つの品をレジへ持っていき
ラッピングして貰った
「…………」
明日、7日目。
大切な日、俺と結羅の…
「…大丈夫、絶対に」
根拠の無い自信だけがやってくる
けれどそんなこと気に出来なくて
俺はただ明日が早く来ることを願った
☆*°
7日目
「おはよう!」
『…………』
「結羅、おはよう!」
『……』
「…もう、喋ってくれねえのか?」
『…………』
変わらない白のドレスをふわりと揺らせ
ポットの前に立つと、お茶を淹れ始める
その姿をソファに座りながら
ただじっと見つめていた
『……………』
「…なあ結羅。終わったらこっち
来てくれないか?」
『……』
するとお茶を持って俺の隣までやってくる
俺の前に置いて、じっと見つめてくる姿は
出会った頃と同じだった
「……人間だもん、自由にいたいよな」
『…………』
「お前は会長に助けて貰って、会長に
恩があるのかもしれない。けど俺は
だからといって完璧に従うことは
必要ないと思ってる」
『…………』
「…恋、したことあるか?」
『……』
昨日より少し濁った様な瞳は
ただじっと俺を見つめている
…きっとまだ、恋は分からないんだろう
「…相手のこと思うだけで、胸が苦しくて
でもドキドキして楽しくて…
一緒にいたいなって思うようになる…
自分が自分じゃないみたいに」
『………』
「俺は、結羅に恋をしたんだ」
―彼女の瞳が少し、揺れた
『………』
「恋をしたらさ、その恋をした人に…
結羅に…触れたくて仕方なくなる
……今だって本当は…」
『………………』
「………ごめん」
ただ一言謝って、俺は彼女を抱きしめた
昨日と違うのは、彼女の心音が一定だと
言うことだろうか
「…昨日、会長に何かされたのか…?」
『…………』
昨日とはまるで違う
何だ、会長は何をした?
これじゃあまるで洗脳されてるみたいだ
分からない。天祥院財閥の考えも
会長のこともまるで理解できない
どうしたら、また昨日のように
話してくれるだろうか
「…………また、水族館に行こう」
『………』
「イルカショー見たり、カワウソ触ったり」
『……』
「ファミレス行ってご飯食べよう」
『…』
「…だから頼む、昨日の結羅に
戻ってくれ」
そう伝えて、抱きしめていた腕を緩めると
そのまま躊躇いなんて捨て去って
―結羅の唇にキスをした
『…………!!!』
「………結羅?」
『……』
ふと、静かな空間に
どくんどくん、と心音が聞こえる
『…真緒、さん』
「!!結羅…」
『………わがままを、聞いてください』
「なんだ?」
『…もう一度、してください…』
「!!…………」
ー………
それが望みなら、喜んで受けよう
『……英智さまに拾われてしばらくしてから
お忘れ物を届けに来た日がありました』
「………」
『そのとき、廊下を歩かれる真緒さんを
見たんです。あれはきっとご友人様と。
…………楽しそうに笑う真緒さんから
目が離せなくなりました』
「……………」
唇を離した時、結羅は
ゆっくり話し始めた
『英智さまに沢山、真緒さんのことを
聞いたんです。話を聞く度、真緒さんと
お話したいって思いました』
「………」
『1週間だけ、真緒さんといたい。
特別なにか話すことは無いけれど
でも私は満足だから、また英智さまに
お仕えする完璧なお人形さんになれる
そう、何度も伝えてました
…けど私は所詮英智さまのお人形です
余計な事を望んではいけない。大人に
何度も何度もそう言い聞かせられました』
「!それ、って……」
本当に洗脳じゃないか
『……ですが英智さまは優しかった
忘れ物を届けに来た私をここまで案内し
真緒さんとの時間を与えて下さった
…1週間という、期間を付けて』
「…………」
『…私の願いは叶いました
1週間真緒さんのそばに居れたんです
今日が終わればきっと、私は英智さまの
お家で、大人の方から教育を受けるんです
同じように、英智さまのお人形として
完璧なお人形になるために』
「………」
『…真緒さん、私は1週間…きちんと
真緒さんの力になれたでしょうか?』
「っ………」
やめてくれ
そんなこと言わないでくれ
そんな風に歪めた…苦しそうな笑顔を
初めての笑顔を、悲しみに染めないで
「結羅」
『…………』
「……はぁ」
『!ん…………ぅ……』
あぁもう、俺は何してんだ
ソファに結羅を押し倒して
苦しそうになった結羅が少しだけ
口を開けた瞬間、待ち望んでいたように
舌まで絡めるようなキスまでして
『………ま…』
「覚えて、俺が今してること全部」
『ん………っ…』
「……」
今ここで結羅の全てを奪ったら
どこにも行かず、これからもずっと
俺の隣にいてくれるだろうか
「………結羅…好きだ」
『…はい。きっと私も、初めて見た時から
真緒さんが好きなんだと思います』
「…………」
『でもそれも今日までです。大人たちに
忘れさせられるんです…お人形さんに
そんな感情は要らない、と』
「…そんなこと出来るわけ…………」
『………』
カッコイイ人なら
俺が助けてやるなんて言えたんだ
けど俺はこんなトコでも情けない
『…真緒さん、最後の1日です
今日のお仕事は、なんですか?』
「…っ、今日はこの荷物を―」
助け方が、分からなかった
何をしたらいいのか分からなかった
☆*°
「よし、これで全部だな!」
『………』
「…会長が来るまで、一緒に居よう」
『…!……はい』
ソファに座って、静かに手を繋ぐ
あぁ、好きだなぁ………離したくない
「結羅これ」
『これは…』
「お前に似合うと思ってさ
…受け取ってくれるか?」
渡したネックレスを見つめながら
彼女はぽつりと話し始める
『いつか真緒さんが、そばに居たくて
離したくない人が見つかるまで、
真緒さんの思い出に私を入れてください
……なんて、これもわがままでしょうか…』
「…………わがままじゃないよ」
夕陽が照らしながら、残り時間が
少ないことを知らせてくる
『なら良かったです…大切にしますね』
「…なあ、結羅」
『?』
「結羅は今…俺といて幸せ、か?」
『………はい、幸せですよ』
あぁ、俺はその笑顔が
ずっとずっと見たかった
光が射し込むような柔らかい笑顔
「…良かった」
『私も良かったです。願いが叶って
…私がもっと、対等な人なら…もっと
真緒さんと居れたんですけど』
「…………」
…この子を攫ってしまえたらいいのに
「…結羅。この奥に応接室が
あるのは知ってるか?」
『?はい』
「…簡易ベッドがあるのも?」
『英智さまから聞いています』
「………ならごめん…応接室行こう」
『どういう…………えっ』
「………そういうこと」
立ち上がって手を出すと、
彼女も俺の手を取って立ち上がった
☆*°
「ごめんね。遅くなってしまって」
『…………』
「真緒、今日で1週間だ
色々苦労をかけてしまったね」
「そんなことないです、助かりました」
『…………』
「じゃあ帰るとしようか…そうだ、真緒も
一緒に帰るかい?」
「っえ、でもいいんですか?」
『………』
「うん。1週間、僕のお人形が世話に
なったからね」
「…じ、じゃあ………」
お言葉に甘えて、俺は会長のリムジンに
乗せてもらう。結羅と会長と俺
…とても、気まずい…と思った時
「?会長の…」
「あぁ。人形には先に降りてもらう」
『………』
何も言わず立ち上がり、車から降りる
外を見れば、家の前には既に
何人かの使用人が彼女を待っていたようだ
「っ…結羅………」
『…………』
「…結羅!!!!」
『……』
「結羅っ…好きだ、大好きだ!」
何も出来ない俺を許してなんて言わない
なんなら恨んでくれてもいいのに
『………』
「っ…」
扉が閉まる時、彼女はちゃんと
俺を見て……笑ったんだ
幸せそうに…なのに、諦めたような顔で
「…………」
「…真緒。君は僕が思ってた以上に
"彼女"の心を動かしてくれた
幸せを与えてくれて、ありがとう」
「……本当は、この手の届く範囲にいて
…そばにいて…欲しかったんですけどね」
「………そうかい」
俺は好きな人を守れるほど
強くなかった
☆*°
翌年 生徒会室
「っはあ〜疲れた
そいや今日天祥院先輩が俺宛に
荷物届けるみたいなこと言ってたよな」
庶民的になった椅子に座って
書類を見つめていると
コンコン、とノック音がする
「どうぞー」
『…………』
「……………」
……"荷物"…か…
「結羅」
『初めまして。英智様のお申し付けにより
貴方様の補佐をさせて頂く事になりました』
そっか…やっぱりあの後
"忘れさせられた"んだな…
「…助けてやれなくて、ごめんな」
『何のことでしょうか』
「いや…。俺は衣更真緒。よろしく」
『よろしくお願い致します、真緒さ…
……………あ、れ』
「!!!」
俺は彼女の元に駆け寄る
結羅は涙を流しながら
訳が分からないという顔をしていた
『…申し訳ございません。何故か…』
「いいんだ、泣きたい時は泣いて」
『私は天祥院財閥の人形です。
こんな感情……』
「結羅は人間だ。人形じゃない
1人の女の……ーっ!」
『…』
「…おかえり……」
そう伝えた時、彼女の胸元に光る
ネックレスをみつけて
涙を堪えながら優しく抱きしめた