③『真緒!』 ①か②、もしくは両作品を読まれていれば話は通るかと思います
お名前を教えてください!!!
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「っあのね…衣更くん……!
…………僕っ………情報を得たんだ!!」
―結羅ちゃんの、居場所の
「……………………!!!!ほんとか!?」
その言葉に、俺は反射で立ち上がり
真の肩を掴んだのは先週の出来事
「う、うん……今度の休み…この日丁度
Trickstarのレッスンもないし、
行ってみたらどうかな…?また色々と
ハッキリとした場所が分かれば
衣更くんに伝えるね…!」
そう言って困ったように笑う真
俺は感謝しかなくて、ただ真にお礼を
言い続けた。
1年間、音沙汰の無かった彼女に会える
この時をどれだけ待っていただろうか
―『真緒くん!』
あの愛しい笑顔で、俺の名をまた
呼んでくれるだろうか。
少しの不安と溢れんばかりの愛しい想い
それらを抱えながら、生徒会の仕事を
終わらせる
これを終わらせればレッスンだ。
明日は休み。真が教えてくれた場所に
俺は彼女を探しに行く
遠すぎず近すぎない場所だと
真は言っていた。今日のレッスンで
その場所を聞く予定で
それまでに俺に教えたら勝手に行く
どうせなら丸1日何もない日に行って
本当に会えたらたくさん話がしたいという
俺の願いを真が汲んでくれたのだろう
俺は未だに場所がわからない
けど真の言うことだ、ハズレではないはず
「っはー!!!会いてぇよ…」
「何大きな独り言言ってるのさ」
「姫宮………会いてえんだよ俺もさぁ!
1年だぞ!?枯渇する…癒やしてくれ…
あの愛しい笑顔で俺を潤してくれよ
なぁぁぁ結羅〜!!」
そう言うと、何故か姫宮は切なげに
目を泳がせた。まるで言葉を探すように
「…姫宮?」
「っ!…居なくなったんだから、1年間
あったこととか全部いいなよ…その…
結羅に、さ」
姫宮は、そう言って俯いた
「おう!…っし!仕事終わり!
レッスン行ってくるな!」
「はいはーい」
生徒会室を出て、俺はレッスンルーム
目掛けてあるき始めた
明日に迫った、楽しみな気持ちを胸に
「〜♪」
―
「……………ねぇ、結羅
これで良かったんだよね………僕、ちゃんと
衣更先輩に笑えてたかな…っ」
「……………坊っちゃま………………」
「笑えてたよね…っ…じゃなきゃ、
結羅に怒られちゃうもん…っ」
☆.。.:*
レッスンもいつもより張り切る
心做しか身体がよく動いた
「衣更、今日はキレがいいな」
「まぁな。明日は休みだろ?真が
言ってた、結羅が居るかもしれねぇ
場所に行かねえとな」
「サリ〜すっごく張り切ってるね!
今日のダンス、すっごかった!」
「当たり前だろ〜?ほんとにもう
限界突破してるんだからさ〜」
なんて言いながら、俺はレッスン着を
畳んでいると、急に静かになった
「ん?どうした?」
「…いや、衣更は余程、真瀬のことが
好きなんだな、と思ってな」
北斗の苦笑いに俺は笑って答えた
「俺の中では…世界で1番
愛してやまない愛しい人だからさ
真!住所とか分かったか?」
「う、うん!後で送るね!明日もし
その場所に着いたら連絡してね…!
僕も会いたいし!」
「え〜俺もマセマセに会いたい〜!」
「…何を言っている明星。全員で
行ってしまえば"入れないだろう"?」
「それもそうだね〜……サリ〜!
ちゃんっっっと話してきてね!」
「おう!んじゃ、お先!真、また明日な!」
俺は荷物を纏めて、明日のためにと
早めにレッスンルームを出た
―
「…………とうとうここまで来てしまったか」
「…マセマセ、ウッキ〜に怒らないかな?」
「うっ…1年も衣更くんは探し続けたんだ
結羅ちゃんもきっと、僕なら
こうすると思って伝えてくれたと思う
………僕もさ、もう衣更くんを騙すのは
嫌なんだ……」
「遊木らしいな。けど…そうだな
真瀬もきっとわかってくれる」
「そうだね。……………マセマセ、明日
やっとサリ〜が会いに行くよ…
怒らないでさ、話を聞いてあげてよね」
.☆.。.:.+
翌日9:00
俺は真から聞いた住所の場所へ
向かう為、電車に乗っていた
近いとも遠いとも言えない距離
そんな場所で。真は丁寧に最寄り駅や
乗り換えも書いてくれていた
「次は〜」
それを頼りに駅までたどり着く
そこから徒歩で住所を探していく
記されているのは2丁目
駅が4丁目なのを確認して地図を見る
とりあえず2丁目まで行ってみよう
どうやら2丁目には大きな霊園が1つ
あるらしい。まずはそこを目指してみると
言うのもありだろう
「っと……………近いな〜
2丁目、31の……お!あった……
………………はっ?」
その建物を見て、俺は真へすぐ電話した
ー「もしもし?衣更くん?」
「おい真、もしかして間違った住所
送ったりしてねぇか?」
ー「えっ、もしかして変な所に
たどり着いちゃった!?」
変なところも何も………
「なんか霊園にたどり着いちまってさ〜
笑えねえよほんと〜」
ー「…………衣更くん、そこで待っててね」
「ん?おう」
そう言って電話が切れた5分後
「衣更くん!」
「早!?」
真は手を振りながらやってきた
……………何故か手に、花を持って
「その花…」
「……………僕に、ついてきて欲しいんだ」
「…あ、おう………」
そう言われそのまま霊園に入る
ただ、話もせずに真っ直ぐ進んで
沢山の墓の前をとおりすぎて
他の墓に比べて1つ、まだ綺麗な墓石が
俺の視界に映る。同時に真はその前で
立ち止まって、まだ綺麗な花の中に
持ってきた自らの花を挿す
「真、これは誰の―――っ…………」
呼吸を忘れた
目を見開いた
身体が動かなくなった
「…………衣更くん」
なんで、なんでなんで、なんで
どうしてだ、訳が分からない
「はっは……………っ……………」
呼吸が乱れ始める
纏まらない思考回路で、俺はもう一度
墓石に刻まれた、愛しくて
1年間探し求めていた彼女の名を見た
「…………結羅ちゃん、ごめん
約束破っちゃった。やっぱりさ、僕には
あんな嘘、付けなかったみたい………
でも、君が最期…僕に伝えてくれた伝言は
衣更くんにちゃんと伝えるから
そこは信じてほしいな」
「…ま、こと…?じ、冗談はやめろって
なんだ?ドッキリ企画か?事務所に
いつの間に来てたんだ…っ?ははっ
俺が忘れてただけだっけ?」
「…衣更くん」
「なぁ、今ならまだ大丈夫だから、
だからこんな心臓に悪いドッキリは
もう、やめようぜ?スバルとか北斗も
居るんだろ?」
「衣更くん」
「あんずもいるのか?それとも他の
メンバーとかも共犯で仕掛けて」
「衣更くん!!!!」
真の珍しく荒い声に、俺は意識をはっと
落ち着かせる
「………衣更くん、今から話すことは
全部本当のことだよ。嘘はない
…全部話すから、気になることがあったら言って欲しい」
「っ…………わ、かった」
真は墓石を見て、ゆっくり口を開いた
「衣更くん、忘愛症候群って知ってる?」
「忘愛症候群?病気か?」
「そう。とても例の少ない特殊な病でね
………好きな人を想いすぎる故に、その
好きな人を忘れてしまうっていう
凄く希少な病気なんだ」
「その忘愛症候群が、どうしたんだ?」
「………1年前、衣更くんは
忘愛症候群になった」
「!!!!」
真は、視線を変えないまま
淡々と話し始めた
「忘愛症候群は人によって違う
1日で好きな人のことを完全に
忘れてしまう場合もあるし、徐々に
記憶から欠陥していって忘れることもある
…衣更くんは後者だった
ねぇ、衣更くんと彼女の記憶があるのは
一体いつまで?」
「いつまでって………結羅が転校した
って聞いたあの日までだけど」
「それはいつ?」
「…10月25日」
「じゃあそれまでは?
8月29日から10月24日までの記憶は
完全に残ってる?彼女と何をした?」
「…っ、そ、れは」
おかしい…その時期はライブや生徒会、
日常のことは全て覚えているのに…
「結羅ちゃんとの記憶だけ
完全にないはず。衣更くんは8月28日
結羅ちゃんと2人で帰った。
その時、携帯のボイスレコーダーに
録音をしたんじゃないかな?」
「!それはした、それは覚えてる!
あの日…俺はプレゼントをしたから」
ピンクのストーンが嵌め込まれた
ネックレスとリング。
将来、絶対に本物を渡すって伝えて…
「…衣更くんはそれまでに何度か
結羅ちゃんの名前をド忘れしたり
誰かわからないことがあったよね?」
「…………あ…」
―「おはよう!えーーっと…」
―『ちょっと真緒くん!彼女の顔みて
えーっと、って酷くない!?』
―「悪い悪い!俺疲れてんのかな〜」
そう言えば
―「ちょ、待てってば!」
―『っえ、私だったの!?』
―「そうだよ!」
―『なら名前呼んでよ〜』
―「ごめんごめん、結羅」
あった、そんなことが…
どうしてそれを忘れていたんだろ…
「それが忘愛症候群の症状
そして、結羅ちゃんはそれを知って
衣更くんが自分を覚えている間に沢山の
思い出を必死に作ろうとした」
「思い出………」
「ボイスレコーダーに衣更くんの声を
録音したのは自分を愛してくれている
…彼氏である 衣更真緒 を残すため」
そう言って真は1つの携帯を出す
「!!!!結羅の…!!」
「最期病院で渡されたんだ。これを見て
ボイスレコーダーの再生回数」
―『頑張った時』
久々の彼女の声と、俺の声
そのボイスレコーダーの下には
3桁の再生回数が記されていた
「…衣更くんが忘れてから、彼女が
この声を聴いた回数だよ」
途端に、頭に色んな情景が流れる
それはまるで走馬灯のように
「…………お、れ………………………」
「…この翌日、衣更くんは結羅ちゃんに
なんて言ったか覚えてる?
忘愛症候群は完治してるから
思い出せるはずだよ」
そう言われ記憶を手繰ると
―「おはようあんず!おっ!もしかして
プロデューサー2号か?」
―『あっ……はい!』
―「やっぱり。はじめましてだよな
俺はTrickstarの衣更真緒!
悩み事があればいつでも頼ってくれ!」
………………………あぁ、そうだ
なんで、なんで忘れていたんだ
あの時の俺は、あれからの俺はどうして
どうして分からなかったんだ
あんなに前日まで愛しくて大切で
仕方の無い女の子だったじゃねぇか
「お、れ…結羅、に…っ!!」
―はじめましてだよな
「………それが、忘愛症候群
衣更くんはあの日、結羅ちゃんが
好きだから結羅ちゃんを忘れた
忘愛症候群は…完治しない限り、何度
好きになっても好きになった人を忘れる
完治の方法はひとつ。その愛する人の死
…………だから結羅ちゃんは
専門病院で自ら死を選んだ」
途端に、記憶が繋がっていく
抜けていた記憶と持っていた記憶が
ズレていたピースが合っていく
歯車が回っていく
―『真緒くんはブラックコーヒー?』
―「え、なんでわかったんだ?」
彼女だから。よく俺を見てたから
あの喫茶店にはよく行ったから
―『いただきますっ!ほら、真緒くんも』
―「え、俺も?」
―『私一人じゃ無理だもん』
ちがう…今度二人で食べようなって
帰り道に約束したんだ
―「全然、名前でいいぞ?俺もお前のこと
結羅って呼んでるし!」
―『っほ、んと………?』
―「おう!」
―『…嬉しい……ありがとう…!!じゃあ
…真緒くんっ!』
なんであんなに嬉しそうだったのか
今になってようやくわかる
「衣更くん、彼女は最後まで
君との約束を守ったと思うんだ
最後のデートだって、きっと…」
「…………!服装…」
俺はふと、あの時を思い出した
―『…わたしの服装で好きなのは?』
―「え、白のトップスと黒のスカート。
あれは完璧だ…って、ちょいちょい、
何言わせてるんですかね結羅さん」
―『じゃあ次のデートはあれを着て
いこうかな〜えへへ』
―「あっ、それは嬉しいかも」
当日、彼女は本当にその服装で
記憶を失う前の俺が渡した
ピンクのネックレスとリングをしていた
―「………かわいい」
―『へ?』
―「すっげー可愛い…」
そんな言葉じゃおさまらない
本当は何よりも好きな服装だった
俺の渡したもので
俺が好きだと伝えた姿をしていた彼女は
誰よりも可愛かったんだ
―「わ、悪い………!!」
―『…っ、ううん!嬉しいありがとう!』
なのにそんな言葉しか言えなくて
―『…その、好きな人とね。初めて来て
初めて食べたの、これ…初デートでさ』
―「…でも、付き合ってないんだろ?」
―『うん。だから…彼はきっと…覚えてない
でもいいんだ〜!その人が忘れてても、
私が覚えてるからさ!』
「結羅…」
君が覚えてなくても私は覚えてるよ
あの時、そう言われたのだと気づく
―『…人生の中に恋愛があるじゃん?
だから人生に何かあれば、必然と恋愛にも
何かある。嫌われるのは一瞬。
離れられるのも一瞬…』
前の日まであんなに好きだって、
両思いだって、伝えあってたのに
同じ時間を共有していても
日付けが変わって、ほんの数時間離れて
日が昇って、会った時には
それは彼女だけの思い出になっていた
そんなの、望んでなかったはずなのに
―「俺は、結羅から離れない」
―『…え?』
―「……いや、なんでもない」
―『ふふっ、変な真緒くん』
何言ってんだよ…俺はそんなことを言うより
もっと前に、それ以上の関係を
結んでいたじゃないか
―『けど真緒くんと来れたから!
…今日だけ私のワガママを聞いてください』
―「…おう」
―『ありがとう!』
最後くらい、俺と約束した場所へ
俺が忘れてしまったあの約束を
最後に彼女は全て叶えてくれていた
―『…真緒くん、これ似合いそう』
そう言って指を指したのは、いつも
気になっていた物で
帰り道によく俺が話してたから
―「やっぱ結羅もこれに
目が行くよな〜!」
―『…今日1日凄く真緒くんを振り回して
色々付いてきてもらったから、お礼を
させて欲しいの、これ、良かったら
プレゼントさせて欲しいな』
本当は、最後の贈り物をしたいって
意味だったんだろ?
―『はい、真緒くん!』
―「…ほんとに、いいのか?」
―『うん!お返しだよ!』
あの時俺は、大したことをしていないと
思っていた。けど違う…本当は、本当は
忘れる前の、彼氏である俺が
彼女であった真瀬結羅に渡した
プレゼントに対しての彼女なりのお礼
―「…じゃあ、お言葉に甘えて」
―『うん!』
―「ありがとな」
―『こちらこそありがとう!』
「あ、あ…………」
「…彼女は忘愛症候群を発症した衣更くんも
ずっとずっと見ていた。苦しい時は
ボイスレコーダーを聴いて、衣更くんに
支えられて、救われていた。
忘愛症候群になれば大抵の人は諦める
………………けど彼女はそれをしなかった
衣更くん。君だけを想い続けるって
彼女は決めていたんだ」
「………!!!」
真の言葉が、ひとつひとつ刺さる
「愛する人が死ねば、忘愛症候群を発症した人は完治する。愛しさも記憶も全て
元に戻る。だからこそ彼女は戻った時に
衣更くんが衣更くん自身を責める
…それをすごく恐れた」
「っ…え………………」
「夢ノ咲のアイドル科みんなに
嘘をつくように頼んだんだよ
"自分は転校した。連絡先は知らない"
…彼女なりの優しい嘘だった」
…その優しさは、俺の胸を抉る刃になって
今全ての現実を刺しこんでくる
「…う、そ…だろ……」
今思えば不思議だった
毎月同じ日付、Trickstarは必ず
レッスンがなくて。それだけじゃない
みんな俺が彼女の話を振ると、悲しそうな
つらそうな顔をしていた
引っ越した事への悲しさだと思ってた
けどそれは俺の見間違いで。
本当は皆、真実を知ってたからで…………
「衣更くんがもし手がかりを見つけたら
その時は僕から伝えるように言われた
…けど、僕はそれが出来なかった
頑張る衣更くんを見て、もう嘘で
隠し通すのはやめにしようと思ったんだ
…………ごめんね」
「………………そ、んな…」
記憶の糸が全て繋がった瞬間
俺はその場に崩れ落ちた
「…衣更くん…これ」
「?…な、んだ…それ………」
「…結羅ちゃんからの手紙」
「………手紙?」
俺は力なく受け取り、封を開く
中には5枚も紙が入っていて
1枚ずつ確認しようとすると
「………最後、待合室でね
結羅ちゃん、言ったんだ
『真緒くんが一生私を気にするのは
嫌だ。真緒くんが幸せになるなら
それでいい』
って……………僕はそう思わない
どうするかは衣更くんの自由だけど
僕は…彼女が一筋に衣更くんだけを
想いつづけて生きたからこそ、衣更くんは
それに応えることだって出来るんじゃないか
って、思うんだ」
「……………応える……か…」
俺は手紙に目を通し始める
そこには、結羅のふんわりとした
字が、びっしりと書かれていた
-真緒くんへ
こんにちは!元気かな?
私のこと、覚えてる?真瀬結羅です
って、この手紙を読んでるってことは
真緒くんは私の居場所をとうとう
見つけてしまったってことだよね
覚えてるも何も当たり前というか………
…真実を全部、知っちゃったわけだ
真くんから聞いたこと、それが全てだよ
嘘偽りのない真実
私はね、それを聞いたとき
頭が真っ白になった。ついつい
私の処女返せ〜なんて叫んじゃったよ
泣きたいのに泣けなくて、平然と真緒くんは
その後も私の名前を呼んで教室に来て
レッスンをして一緒に帰る
当たり前だと思ってた
当たり前じゃなかった。かえがえのない
たった一瞬一瞬の奇跡が作った時間だった
真緒くんが居ることが当たり前だと
何処かで思ってたのかもしれない
だからこそ罰があたったのかって…
今更言っても後の祭りだよね!
真緒くんが記憶を失う前
沢山ボイスレコーダーで撮ってさ、
プレゼントまで貰って…そうそう
真緒くん覚えてる?将来絶対…本物を
渡す〜って言ってくれたの。
すっごく嬉しくて、すっごく悲しかった
前だったら凄く笑顔で喜べたのに
あの時…絶対来ることが無い幸せな将来を
浮かべて…絶望した。こんなに笑顔なのに
こんなに好きだって真緒くんはいつも
伝えてくれるのに、いつか消えてしまう
その言葉も思い出も…私だけの記憶に
なってしまうんだ、って
片想いになってしまう、この瞬間が
続かないのなら、記録に残そう
辛くても、この声を聴いて頑張ろう
そう思って録音をお願いしたの
何百回も聴いちゃったや
だってすっごく好きが伝わるんだもん
…本物、欲しかったな、なんて。
もっとこの言葉を直接聴きたかったな
隣で笑ってキスしてさ、変態〜って
他愛ないことで沢山からかって
好きを伝えたかったなぁ…
分かってるよ、誰も悪くない
この病気はね…好きの気持ちが大きいから
発症するの。真緒くんがそれだけ
私のことを思ってくれたって考えたら
凄く幸せ者だね、私はさ!
記憶が無くなってからも
私は普段通りにしようとした。
頑張ってたでしょ?2ヶ月くらいさ…
最後のデートも、約束してたパフェ
一緒に食べて、真緒くんの話してた服装で
真緒くんがくれたアクセサリーつけて
…記憶がなくても、可愛いって
言ってもらえて嬉しかった。
ずっと真緒くんが気になってたものを
最後に買えて、渡せてよかった。
私、最期まで笑顔だったでしょ?
泣くの我慢して、ずっと友達として
頑張ったんだし、そこは褒めてね
じゃないと、私が馬鹿みたいだからさ
もう私はこの世にいない
けどきっと!真緒くんやみんなのこと
空から応援してるから!
生き急ぐのはやめてね。早く来たら
私追い返すし口も聞かないから!
沢山の思い出と愛を、ありがとね
最初で最後の彼氏が 衣更真緒 って
人間で良かったと心から思えます。
処女返せなんて言ったけど撤回
真緒くんにあげて良かった
デートも喧嘩もパフェも全部…!
沢山の、ありがとう
真瀬 結羅-
「………………真、結羅はさ
病院で死ぬ前…他になんの話してた?」
「ボイスレコーダーをきいて
それに返事をしてたよ。あとはそうだね
私の処女返せ、とかかな」
ほんと、最期まで強がりだったんだな
「あとね、本当に思い出してくれたら伝えて
って言われたことがあるんだ」
「え…………」
俺はしゃがみ込んだまま真を見る。
すると真はそのまま微笑んだ
「『…真緒、愛してるよ!』」
ああ、なんで
どうして最期にそうやって
呼んでくれたんだろう
…否、最期だからだろう
「…っ結羅……………好き、好きだ
っ…あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
手紙を握りしめて、ただひたすらに
泣き叫んだ。
戻ってくることは、ないのに
「………衣更くん……………」
「結羅っ、結羅結羅結羅 結羅っ…!
ごめん、ごめんなっ、こんな俺でッ
辛かったよなっ、苦しかったよなっ
泣きたかったよな…ずっと俺に、
助けを求めてくれてたんだよなッ…
ごめん、忘れて…気付けなくてッ
我慢させて…ッ殺して…ごめん、なさ…」
「衣更くん…それ以上は…」
謝っても足りない
彼女を追い込んで命を絶たせてしまった
俺が、忘れてしまったせいで…そんなの
―『真緒くん!』
俺が、もっと強かったら良かったのに
「ごめん、ごめん結羅ッ
愛してる…愛してるよ…ッ
会いたい会いたいよ…なぁっ、どうしたら
お前はまた俺の前に来てくれるんだ?
好きって伝えて、笑い合ってさ……
パフェ食べに行ってゲーセン行ったり
おそろいのもの買ったり…ッ
………俺からの本物を…どうして…
受け取る前に…居なくなるんだよ…」
分かってるよ、それも俺のせいだ
結羅も俺のためを想ってこうしたんだ
分かってるよ、分かってるけど
「ッ…会いてぇよ…お前に………」
泣きながら触れても、冷たい墓石でしかない
刻まれた名前は、俺の視界に映る度
愛しさと絶望を刻ませる
「…衣更くん、僕も聞いた話だけどね
結羅ちゃん、亡くなる瞬間まで
衣更くんのこと、呼んでたんだって」
「!!!」
真の言葉に、俺はうつむいていた顔を上げる
「看護師さんから聞いたんだ
…真緒くんって、呼んでたこと………
最期、息を引き取る瞬間にさ
結羅ちゃん、言ったんだって」
-真緒、おやすみ
………………ああ、なんて愛しくて
悲しい彼女の最期なんだろうか
「………馬鹿…俺は、結羅がいねぇと
幸せになれねえよ…他のやつなんて
見れないんだ…ずっとずっと、結羅が
1番なんだよ………だからっ、幸せになれ
なんて、お前がいなきゃ無理だ…
結羅…」
俺は日が暮れ、夜空が出るまで
ただひたすらその場所で泣いて叫び続けた
真はただ隣でそれを見ていて
俺が落ち着くまで待ってくれた
☆
「…ごめんな、真
1年間、すっげぇ負担かけちまって」
「ううん。きっと衣更くんはこうなるって
わかってて結羅ちゃんも僕に
頼んだはずだから……衣更くん、決して
早まるようなことは…!」
「ははっ、ぜったいしねぇよそんな事
俺まで追いかけちまったら、向こうで
結羅が口聞いてくれないみたいだし」
そういって俺は手紙をチラつかせる
「それに、Trickstarが心配すぎるからな
まだまだ死ねないよ」
「…そう、だよね!よかった」
「…なぁ真」
「なに?」
「病院でさ、最期に結羅が話してたこと
俺が忘れてる間に話してたこと……
全部教えてくれねえか?」
そう言うと、真は笑顔で頷いた
☆
「よっ、結羅」
20歳の誕生日の夕暮れ時。俺はひとりで
結羅の墓に来ていた
このためにレッスンも早めに抜け出して
花屋に寄ったくらいだし
「花を買うときにすげぇ見られたよ
皆にすげぇ驚かれたし。
何事だ!?みたいなさ!特に蓮巳先輩!
走るな、度し難い!って…ははっ
お前のためなら怒られてもいいんだけどな」
線香を焚いてから、俺はその場にしゃがみ
墓に刻まれた名前を見る
「結羅…」
真瀬結羅…結羅
こんなに人の名前を愛しいと思えるのは
きっとこれからの人生では二度と
無いんだろう。愛しくて大切で
「………触れたいよ…優しい顔して笑う、
大好きな結羅に……」
なんて、無理なことだけれど
お前が約束を守ってくれたんだ
今度は俺が守る番だよな
「…これ」
花を横向きに置いてから、箱を出す
「……絶対って、約束したよな?
天国だろうが関係ない。俺はお前と
一緒がいいんだって、あれからずっと
考え続けてた。怒ってもいいし、
もしそういう力があるなら
風で飛ばしてくれても良い。けど………
許してくれるなら………受け取ってほしい
………俺と、結婚してください」
俺はここに来る前の花屋での会話を
思い出しながら、片膝を付いてそう言った
-「お電話ありがとうございます!
フラワーブーケのご注文ですか?」
-「はい、今日の午後でお願いしたいん
ですけど可能ですか?」
-「はい!勿論です。種類と本数は
お決まりですか?」
-「赤い薔薇の花を101本お願いしたいん
ですけど………」
-「…よし」
-「?サリ〜なにそれキラキラ!
誕生日プレゼントでもらったの??」
-「有無。電話をしていたのは花屋か?
注文をしていたようだが」
-「ああ。前に教えてもらった花屋でさ
これはプレゼントじゃなくて俺が渡すの」
-「衣更くん、花もじゃあ渡すの?」
-「サリ〜!赤いバラっていってたよね!
8本だっけ?」
-「101本な〜?これと一緒に
…………結羅に渡すんだ」
-「悪い!ちょっと俺出るわ!」
-「マセマセのところ!?わぁ!
サリ〜もしかしてそれでいくの!?」
-「んだよ、似合ってねえか?
俺だって緊張してるんだからさ」
-「いや、とても似合っている
…きっと…いや必ず喜ぶだろう」
-「うん!頑張って、衣更くん!」
-「おう!」
-「衣更!そんなに走るな度し難い…って
どうしたその服装は!」
-「結羅の所に!」
-「どうした衣更!真瀬とデートか!」
-「そんなとこっす!」
-「すみません。花束を予約していた
衣更真緒です」
-「はい!お待ちしておりま…わ!
ほ、本当にTrickstarの!い、いい
衣更真緒さんだったんですね…っ!?
えっ、と…赤いバラの花束101本ですね
こちらでご用意してます」
-「ありがとうございます」
-「あの…」
-「?はい」
-「他言はしないので教えてほしいのですが
………プロポーズ、ですか?」
-「………はい、学生時代から付き合ってる
彼女に、プロポーズしようって
決めたんです」
-「そうなんですね…!
頑張ってください!あと、これからも
応援してます…!」
-「ありがとうございます!」
「本当はさ、999本にしようとして…
流石の俺もそれは墓に置けないわ!
ってなったんだよな!だから、101本
…受け取ってください」
その瞬間、夕陽か月か分からないような
曖昧な色の光が墓を照らす
それは綺麗に彼女の墓だけを照らしていて
それで
「………は…」
『勿論受け取ります喜んで!』
自らの墓石の上に座って俺を見る
半透明の愛しい女の子
「ほ、んとに…?」
『寧ろいいの?私と結婚したら
真緒くんは誰とも結婚できないよ?
…私、もう真緒くんのそばにいないのに…』
「っいつも見えなくても!
そばにいてくれるだろ…!?!?
俺はお前と結婚したいんだ!」
すると彼女は笑って指を出してきた
「へ…………」
『もう!真緒くん空気読んで!
…指輪、墓の前に置かれても誰かに
取られちゃうから………』
いやこの現状にまだ頭が追いついてない
…が、そう言われたことは間違いない
…彼女に触れることは、出来るのだろうか
触れても、いいのだろうか
「………」
『大丈夫だよ、真緒くん。私を信じて』
「…おう」
俺は結羅を信じる
たとえ俺の幻覚であったとしても
目の前にいる愛しい人の声を信じる
そう思い指輪を手に取り、目の前の
半透明な彼女の手を取った
「!!」
『ふふっこちらこそお願いします』
「……ゆ、うら………………っ」
2年ぶりに触れた彼女の手は冷たくて
あの温かさはもう感じれなくて
でも、ここに居ることは伝わって
涙が溢れて止まらなくなった
『似合うかな?』
「っああ、最高に綺麗だよ…」
そう言うと、俺の手から指輪の入っていた
箱を手に取る結羅
『箱もかわいいの選んでくれたんだね
大事にしなきゃ…!』
「結羅………あの、さ」
好きだって言わなきゃ
ごめんって謝らなきゃ
ありがとうって伝えなきゃ
『………真緒くん、今までの気持ち、
全部きちんと伝わってるよ。毎回ね
私の所までちゃんと届いてるから
だから、今素直に思うことを教えて』
今、思うことを…そんなの
「……っ、会いたかった。ずっと…!」
『…私も…ずっと彼氏である真緒くんに
会いたかった。やっと会えたね』
優しく俺の頬を包む結羅の手は
やはり冷たいけど、それでも
愛しい温もりは感じる気がする
その手を、俺は消えないように握り返す
『それに、なにそのスーツ…!
急にバッチリ決めて薔薇の花持って
お墓にくるから私声が出なかったよ』
「プロポーズはこうするって決めてたんだよ
本数もちゃんとしてるだろ?」
『本数?』
「101本…これ以上ないほど愛してる
って意味だから」
『!…ずるい、そういうの…』
変わらないあの頃の姿で
彼女はそう言って目を逸らすけど
そらしてほしくなくて頬を包む
「…こっち見て…欲しいな、なんて」
『…大人になったね、真緒くん』
「全然。あの頃から変わってないよ
後悔するところも、結羅をずっと
愛してることも」
『そんなの、私も変わってないよ』
なんて話をしていると、不意に彼女が
空を見上げる
『もっといたいけど、そろそろ
時間だってさ…………ごめんね』
「…………また、いっちまうのか…?」
『うん。私がいるべき場所は、もう
ここじゃないから』
そう言うと彼女は切なげに笑う
「……そう、だよな」
『……ねえ、これ持って行っていい?』
花束と指輪を見せる結羅
持って行っていいも何も…
「結羅の為に用意したんだ
当たり前だろ?」
『やった!向こうで飾ろっと』
そう言って彼女は立ち上がった
ふと、花の匂いが俺の鼻を掠めて
「……!」
『真緒くん』
「うぉっ!」
結羅はあの頃と変わらないまま
俺に抱きついた
「………ははっ…本当に…
そう言うところも変わらないな〜」
愛しくて、頭を優しく撫でれば
俺に頭を押し付けてくる…
分かってる。これは、彼女が泣くのを
我慢している時の癖だ
「結羅」
『………真緒…』
あともう少しだけ。まだ…もう少し
これが幻なら覚めなくていい
ただ結羅だけを見ていたい
『よーし、戻ります』
けどそれも叶わない
「…おう」
『真緒くん』
「ん?」
『好き』
「知ってる。俺も、好きだよ」
『大好き』
「お?俺に張り合うか?
俺は愛してるけど?」
『私だって愛してるよ!
もう世界で一番愛してるから!』
「俺は宇宙で一番…………っ!?」
久々の感覚に目を見開く。
結羅は確かに俺の目の前にいて
『…久々にキスすると恥ずかしいね』
「………そういうのは、俺からだろ」
そう言ってまだ触れることの出来る彼女を
引き寄せて俺は彼女の唇を塞いだ
『じゃあね、真緒くん』
「おう」
笑いあって最後に一言
『「だいすき」』
笑った彼女はやっぱり1番可愛かった
光が墓石に差さなくなった時
彼女はもういなくて…同時に
俺が持ってきた指輪や花束も全て
消えていた
「………結羅だけを見てるよ
これからも、ずっと」
また君に会えるように
それまでは俺も頑張るよ
「サリ〜」
「衣更」
「衣更くん」
「!!!お前ら…来てたのか」
振り返ればメンバーがいて
俺は笑いかける
「良かったね、マセマセとお話できて!」
「っへ………?」
「だがしかし、そういうのは俺からだろ
と言ってキスをするのは」
「待て待て待て…え、みてたのか?」
「ご、ごめんね…僕たちもお話は
したかったんだけど、やっぱり衣更くんと
二人のほうが結羅ちゃんも
嬉しいかなって………その…指輪の所から…」
…ほぼ全部じゃんか
「…………恥ずかしくて消えたい」
「でもでも!マセマセも受け取ってくれたし
それに!ちゅーしたから!誓いのキスだね!
サリ〜おめでとう!」
墓の前でも暗くならない
それはやっぱりこいつらの優しさと
彼女の人徳なのだろう
「………また来るな、結羅」
4人での帰り道、ふと
春を知らせるような風が吹いた
END