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(前の話と繋げて読んでも
別と考えても大丈夫です)
異変を感じたのは、些細な会話での
真緒くんの対応だった
「おはよう!えーーっと…」
『ちょっと真緒くん!彼女の顔みて
えーっと、って酷くない!?』
「悪い悪い!俺疲れてんのかな〜」
これがきっかけだったと思う
「あ!あのさ…えーっと……………」
『…』
「ちょ、待てってば!」
『っえ、私だったの!?』
「そうだよ!」
『なら名前呼んでよ〜』
「ごめんごめん、結羅」
私を見ても、私と分からない
と言うような態度を真緒くんが見せるように
なって、それは次第に多くなる
それは私だけじゃなく、周りのみんなも
見てわかるくらいで
『…真緒くん、なにか病気なのかな』
「明らか変だよね、サリ〜がマセマセを
分からないはずないもん!」
「大切な彼女だからな」
『そうだよ〜!もしこれで彼女じゃない
とか言われたらもう堪らないよ!
私の処女返せ〜!この―』
「わわ!結羅ちゃん!
それ以上は放送禁止用語だよ!!」
他のみんなは分かってくれてるのに
真緒くんだけが可笑しい
『だって私…真緒くんの彼女だもん』
そう、私は衣更真緒の彼女なのだ
悲しくないわけが無い
『…………真緒くんのバカ…』
「おーい結羅〜」
『!真緒くんーーー!』
「おわ!なんだよ、教室なんだから
急に抱きつくなよ〜そう言うのは
家でな〜」
『は〜〜よかった。処女返せはもう
言わなくて済みそう!』
「は?」
よく分かってない真緒くんを見て
私は笑った。なんでもないよ、って
けど、やっぱり真緒くんは可笑しくて
時々私を見ても顔を顰める
日に日にそれは酷くなっていた時
真くんが休み時間に声をあげた
「みんな!特に結羅ちゃん
聞いて欲しいんだ…!!」
「どうした遊木」
「ウッキ〜珍しいね、教室でそんなに
大きな声出すの、どうしたの〜?」
『なになに〜?』
あんずちゃん含めた2-Aメンバーが
真くんを見る
「最近、衣更くんの様子が可笑しいって
言うのは皆分かるよね?皆にじゃない
結羅ちゃんに、だけ」
「確かに、それはあからさまだな。
朔間先輩や羽風先輩も、何となくだが
情報はいってるらしい」
「蓮巳殿や鬼龍殿も知っていた」
「先輩さえ知ってたからネ」
先輩たちにも届いてるんだ…
「僕も聞いてみたら結構アイドル科では
広まってるみたい。それでね、少し
調べてみたら、もしかすると衣更くんは
病気かもしれないってことに行きついて」
『真緒くんが…!?』
私は思わず立ち上がる
すると真くんは私を見た
「…あまりに条例が少なくて、探すのも
一苦労だったんだけどね…恐らく」
―忘愛症候群、だと思うんだ
『ぼう、あい………?』
「…好きな人のことだけを、忘れていく
一日で全て忘れる事もあれば
徐々に忘れることもあるんだって
衣更くんはきっと後者だと思う」
目の前が、真っ白になった
『……はっ……………はは…ま、ことくん
冗談、きつい、よ……』
「…色んなことを考えた。言動や症状
…その全てが、この忘愛症候群に該当する
…結羅ちゃん、衣更くんは」
『っ、治し方、治し方は……!?!?』
私は真くんに駆け寄り
必死になって聞いた。すると真くんは
目線を逸らして
―愛する、者の死
と、ただ一言そう言った
『…はっ…………?』
「……忘愛症候群は、想い人を想いすぎて
発症する。そして忘れていく…つまり
…衣更くんの場合……………」
「………マセマセが…?」
「おい、遊木…そういう冗談は」
「僕だって!こんなこと言いたくないよ!
けど本当なんだ……大抵の人はこの時点で
想い人を諦める…1度忘愛症候群になれば
その人と新しく思い出を作っても
完治しない限り何度も忘れるんだ……
…その想い人が、死なない限り」
そう言って真くんはその記事や情報が
載った物を、私たちの前に出して見せた
「………結羅殿、もしかしてだが、
自ら命を絶とうなどと言う野暮なことは
考えていないのだろう…!?」
「結羅、それはダメだ…!
命を粗末にしてはいけない」
『………つまり、どう頑張ってももう
私は真緒くんと無理ってこと?』
―結羅っ!
あの日々は、もう、来ない?
「マセマセ、ダメだよ!!」
「衣更は完全にお前を忘れたわけじゃない
真瀬、頼む…早まることは……」
『……私が死んだら、真緒くんは
思い出すんだよね?ってことはさ
残された真緒くんが苦しむんだよね
…私、それは嫌だなあ』
そう言ってみんなに笑いかけた
『大丈夫!私は私だから!
…真くん、調べてくれてありがとう』
「………ごめんね…何も出来なくて」
『ううん大丈夫!皆も!そんなに
気に、しない…でね…!』
涙を堪えてみんなに笑いかける
「…アイドル科の皆には、サリ〜の
このこと、伝えた方がいいのかな?」
「ああ。俺もそれは思った所だ」
「うん、皆が情報共有出来ていれば
結羅ちゃんだけが苦しむことは
ないと思います!」
口を閉じていたあんずちゃんが、
そう言った…その時
「うぃーっす、結羅居るか〜?」
『っ、真緒くん…』
「!?なんで泣きそうなんだ!?
ああぁ…!ほらほら、これで拭け〜?
って、余計に泣くなよ…!!!
ってかなんで泣いてるんだ!?」
『っ…真緒くんの、ことが…
大好きだからぁぁああ"あ"あ"』
「ははっ、俺も大好きだぞ〜?」
そう言ってみんなの前なんて気にせず
私は抱きつく
…本当に全部本当なら
あと何回こんな会話ができるなんて
分からないでしょ?
―その光景を
切なげにクラスメイトは見つめる
なにも出来ない、してあげられない
自らの歯がゆさを感じながら
この2人から、幸せを奪わないでくれと―
真緒くんのことは、直ぐにアイドル科に
知れ渡った。真緒くん本人に
伝わらないように、裏で伝わっていく
それでも皆、変わらず私たちに
接してくれた、それが救いだった
『失礼します〜』
「!お姉様!」
「結羅〜っ!大丈夫っ?
サルのこと、会長からきいたよっ…」
『ありがとう…ねぇ、みんな!
私と1つ、約束をして欲しいんだ!』
『真緒くん、いる?』
「あら、真緒ちゃんは今居ないわよォ」
『ならよかった…あのっ!2-Bの皆に
ひとつお願いがあって…!』
『失礼します』
「結羅!どうしたどうした!
3年生の教室に来るなんて!」
『実は皆さんに、1つお願いが…』
☆.。.
「でさ、その時スバルが」
『ははっ!それは真緒くんも災難だ!』
「笑い事じゃねえって!」
少し寒くなってきた時期、真緒くんと
手を繋いで帰る。これがあと、何回
出来るんだろう
『…ねぇ、真緒くん』
「ん?」
『真緒くんは、私の何処を好きに
なったの?』
「と、突然だな〜…」
だって、忘れる前に聞きたいんだもん
『教えてくれなきゃ私ここから
動かない〜!!!』
「なんだそりゃ!?えっと…まずは
仕事に一生懸命な所だろ?笑顔が可愛くて
頼ってくれて、俺のことよく見てる」
『うんうん』
「意外と食うとこ、我慢の限界になる前に
俺のところにくるとこ…あと」
『?あと―』
不意に、私の唇を塞いで
「…俺の事だけを、愛してくれるとこ」
『っ……ずるい…そういうの、ずるいよ』
「ええ!?言えって言ったのは
結羅だろ!?」
『へへっ…』
当たり前だと思ってた日常が
当たり前じゃなかったことに気づく
彼の中に私がいることが奇跡で
選んでもらったことが奇跡で
隣にいれることが奇跡なんだって
「結羅は?どうなんだよ」
『ええ〜私?私はね
仕事ばかで世話焼きで、頼まれたら
断れないところとか』
「それ悪口?」
『違う違う!あとはね、
私のことを、それなのにちゃんと見てて、
辛い時は支えてくれる…
どんな真緒くんも、好きだよ』
「っ…おう」
『きっと私の事を好きになってなくても
私は真緒くんを好きになってるな〜』
「ははっ、大丈夫。それは俺もだよ」
『っ…そっか………』
「…………結羅」
急に名前を呼ばれて真緒くんを見ると
細長い箱を渡された
「本当は明後日渡したかったけど
結羅が可愛くてつい今……」
『明後日?……!記念、日?』
「ああ」
『…あけても、いい?』
「気に入るかはわかんねえけどな〜」
そういう真緒くんの前で箱を開けると
ピンクのストーンが嵌め込まれた
綺麗なネックレスが、月に照らされて
キラキラと光っていた
『…綺麗…こんないいもの、貰っていいの?』
「寧ろ貰ってくれ。……子供じみた事かも
知れねえけどさ、これも…」
そう言って私の手をとると、優しく
左手の薬指に同じピンクのストーンが
嵌め込まれたリングを通した
『!!!』
「…絶対、将来ここに、ちゃんとしたの
付けさせるから…だから…予約……」
"将来" "絶対"
『…真緒…く…』
「っ!?最近よく泣くよな!?」
『ううっ…嬉じぐで……!!!』
そんな将来が絶対来ないことを
私はもう知ってる。だからこそ
今この時が嬉しくて辛い
将来、私じゃない他の人に
本物を渡す真緒くんがいて
私の事を愛してくれていても、その時
私が隣に居ることは…絶対無い
『っ…ありがとう、真緒くん…
すき…だいずぎ…っ』
「すげえ顔で言うなぁ〜。
…うん、俺も。俺も大好きだよ」
『…録音、ひでい"い??』
「ろっ、録音?!」
『家でも、真緒くんのその言葉を
聞くのおおおおお!!!』
「お、おう?」
ケータイを起動させ、ボイスメモを開く
『…ついでに色々言って』
「色々?」
『そう。辛い時の私に一言とか』
「なんだそれ。そういう時は、俺が
隣で直接言うっての〜」
忘愛症候群を自覚していない真緒くんは
いつも通りそう言う。
"いつも通り"
『忙しくて無理だったとき用に…』
「はいはい」
笑いながら真緒くんは私の携帯を見つめる
私はボイスメモをONにして
1つ1つ要望を伝えた
『頑張った時』
「偉いな、結羅!!あとで
沢山褒めてやるからな〜!」
『辛い時』
「無理しすぎじゃないか?今度俺と
出掛けてリフレッシュしような!」
『悩んでる時』
「お前は悩みすぎるとパンクするだろ?
パンクする前に、俺を頼れよ」
『嬉しい時』
「お前が嬉しいと俺も嬉しいよ」
1つ1つ別フォルダに保存して
『…好き』
「っ……俺も、好きだよ。大好き
あとでそれ、ちゃんと伝えてくれよ?」
最後のそれを撮り終わると、真緒くんは
あ、と声を出す
「ちょっと貸してくれ」
『?うん』
私の携帯をとり、公園に走っていく
しばらくしてから戻ってきて
私に携帯を手渡す真緒くん
『?』
「1番最後のフォルダあるだろ?
俺の自信作だから、どうしてもダメだ
って時はそれな!」
『…最終兵器?』
「そ!ただ、それ聞いたら俺に教えてくれ
また新しいの撮るから!」
『…うんっ』
笑いあって、また唇を重ねる
手を繋いで残り少ない帰り道をまた歩く
「またあそこも行きてえな〜
ほら、初デートの時に行ったさ、
でっかいパフェとかのあの店」
『あのお店いいよね!!今度は2人で
完食目指そうね…!!!!!』
「だな〜。あそこの近くだと
アクセサリーショップとかもあるしさ」
『真緒くんの見てたスポーツ用品のお店も
あるよね?ほら、ずっと見てる…』
「あれさ〜色とか好みなんだよ〜!」
『…わたしの服装で好きなのは?』
「え、白のトップスと黒のスカート。
あれは完璧だ…って、ちょいちょい、
何言わせてるんですかね結羅さん」
『へぇ〜あれ好きなんだ〜?』
「からかうのはやめなさい」
『じゃあ次のデートはあれを着ていこう
かな〜えへへ』
「あっ、それは嬉しいかも」
時間はすぎていく。家もどんどん近付いて
怖い夜がやってくる
目が覚めて、学校であって、私を
忘れていたらって、怯える夜が来る
「また明日な!」
『うん!また明日!真緒くん好き』
「俺も…結羅、好きだ。
…おやすみ、また明日」
満面の笑みで、彼は私を家まで送り
そのまま帰っていく真緒くん
『………』
それが……私の彼氏の……
.☆.。.:.+*
「おはようあんず!おっ!もしかして
プロデューサー2号か?」
翌朝、あんずちゃんと登校途中に
後ろから大好きな声が聞こえた
言葉で察した。もう彼の…真緒くんの中に
私は居ないのだと
『あっ……はい!』
私は涙を堪えて、緊張した装いで返事をした
「やっぱり。はじめましてだよな
俺はTrickstarの衣更真緒!
悩み事があればいつでも頼ってくれ!」
―「Trickstarの衣更真緒!
悩み事があれば言ってくれよな!」
―『真瀬結羅です…!
よろしくお願い致します!』
『あ…真瀬、結羅です…!
よろしくお願い致します!』
…出会った頃と、あまり変わらない会話
「ははっ、そんな固くなるなって!
同じ歳だろ?タメでいいぞ」
―「そんな固くならなくてもいいぞ?
隣のクラスだし、タメで気軽に
話しかけてくれよなっ」
―『分かった!よろしくね衣更くん!』
『うっ、うん…!』
違うのは、取り残された私の気持ちだけ
「…結羅ちゃん」
『…大丈夫だよあんずちゃん…衣更くん
Trickstarって、どんなユニット?』
「そうだなぁ…個性の塊?」
知ってるよ、誰より分かってるよ
ずっと、見てたんだもん
「(結羅ちゃん………)」
はじめまして
私を知らない、私の大切な人
学校に着いて、クラスに入る
真緒くんは隣だからそこで離れて
移動教室だったらしくそのまま移動先の
教室まで歩いていった
その背中が見えなくなるまで見送って
自分の教室に入った途端、
私の中で全ての集中の緒が切れた
ガタンッ
「結羅ちゃん!」
『…ははっ…力、抜けたや………』
「おはようマセマセ!どうしたの?」
スバルくんが寄ってきて、周りのみんなも
つられて寄ってくる
「子猫ちゃん?大丈夫かイ?」
『…大丈夫………』
夏目くんにそう返事をしてから
私はそのまま下をじっと見つめて
スバルくんに言った
『スバルくん、私ね…真緒くんに
……はじめまして、出来たよ』
「「「「!!!」」」」
クラスの空気が、凍る
分かっていた、分かってはいたんだ
こんな空気になることは
『…あんずちゃん、私…』
「うん」
『私…上手く、笑えてた…?
ちゃんと、真緒くんに…はじめまして
して…転校生に、なれてたっ…?
…好きは、出てなかったかなぁっ…!
っ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
座り込んだまま、ただ叫ぶ
どうしたらいいのか分からない想いを
戻らなくなった昨日までを
変わらないはずなのに変わった日常を
「…出来てたよ…大丈夫だよ…っ」
ただ、叫んだ
教室の前に、スバルくんに用事で
やってきた守沢先輩や、夏目くんの元に
やってきた宙くん。
そしてその日の午前で
アイドル科に知れ渡った
"とうとう、起きてしまった"
と言う言葉で
☆.。.:*
それから私は、懸命にただの友達に
なろうとした。なろうとしたのに
やっぱり出来なくて
「おはよう、結羅」
『おはよう真緒くん』
自分の首を、締め続けている中で
また私は自分を苦しめる事を言う
『……真緒くん、実は相談があって』
「相談?どうした?プロデュースか?」
『ううん、個人的な話なんだけど…』
「全然いいぞ!んじゃ、放課後どうだ?
今日何も無いし!」
真緒くんに相談を持ち混んだら
特に予定のなかったのか、放課後に
話を聞こうかと提案された
優しすぎるよ、だからまた好きに
なっていくんだよ…
『い、いいの?』
「俺から提案してるからな〜」
『っ……ありがとう、真緒くん!!』
勢いよく頭を下げてお礼を言う
真緒くんは笑って返事をした
「んじゃ、放課後迎えに来るよ」
『うん!お願いします!』
いつもより笑顔で私は笑った
笑えてるよね…。真緒くん相手だもん
きっと、ちゃんと笑えてる
そう気を引き締めた放課後
『真くん、ひとつお願いを聞いて貰っても
良いかな…』
「どうしたの?」
『……―』
「!!!そ、そんな…」
『お願い』
真くんと話をしていると
「おーい結羅〜」
クラスを覗き込んできて私の名を呼べば
他のみんなも真緒くんを見る
そうだよね、こうやって呼びに来るの
付き合ってた頃だけだもん…
もう…1ヶ月ちょっと前…なのかな…
『あっ、真緒くん!』
「お待たせ!行こうぜ!」
『うん!…じゃあ、真くんまた明日!』
「じゃあな真!また明日!」
「う、うん…!また、明日…!」
私は真緒くんと2人で久々に正門を出た
隣に彼がいて、景色は変わらない
帰り道の景色で、懐かしくて、苦しくて
愛しくて……泣きそうになる
『…真緒くん』
「ん?」
『…なんでもない』
「え、なんだよ〜」
『着いたら話すね!』
ごめん、ただ…
好きって、伝えたくなっちゃったから
堪えただけなんだ
『………また明日って、言ったのに』
商店街の中、何気ないことを話してると
喫茶店を真緒くんは指さす
「あそこでいいか?」
『!うんっ』
2人でよく来てた喫茶店
中に入れば店員さんは私たちを見て笑う
そんな店員さんの善意さえ苦しい
その思考を消すように
メニュー表を開く真緒くんを見た
『真緒くんはブラックコーヒー?』
「え、なんでわかったんだ?」
『ふふっ、寝不足が顔に出てるから』
「うげ……さすがだよ、プロデューサー」
苦笑いする真緒くんを見つめる
…声も容姿も…変わらないのに
いや、変わらないからこそ苦しいのか
好きになったから苦しいのか分からない
「結羅?」
『ん?』
「メニューもしかして決まってる?」
『うん!入る時に!』
「そっか〜、じゃあもう頼んじまうな!」
真緒くんはいつも通りコーヒーを頼む
『いちごとプリンのカスタードパフェ
お願いします!』
だから私もいつも通り頼んだ
「かしこまりました!失礼致します」
店員さんもつられたような笑顔でそう言うと
そのままカウンターに戻って行く
「…あのパフェでかくね?」
―「あれ食うのか?」
『ん?大丈夫だよ!』
「そ、そうか?」
その会話さえ愛しくて胸を締め付ける
大丈夫、まだ、まだ私は笑えてる
「んで?相談って?」
『あっ、そうそう!…真緒くんって、
今恋愛したいと思う?』
「……は?」
突然のその言葉に彼はキョトンとして
思考を停止させたようだ
突然のそういうのはやっぱり弱いよね
『真緒くん?おーい』
「っ、悪い!恋愛、だよな…んー…
あんま考えてなかったけど…今は学校とか
Trickstarで活動できるのが楽しいから
しなくていいかなとは思うよ」
『………………そっか』
それだけ言って、水を口に含んで
ふぅ、と息を吐いた
私は覚悟を決めて、言った
『………好きな人が、いるんだけど』
「好きな人?」
『そう。それが今日相談したいこと』
相談したいのは、あなたのこと
『好きな人が、振り向いてくれなくて』
「なるほどな。付き合ってはないのか?」
『まぁ…………今は…』
「そっか…その人がそんなに好きなのか?」
―「俺も好きだ」
そう聞かれ、真緒くんの目を見る
涙を堪えて笑いながら言った
『…好き、大好きだよ』
今も、ずっと…
真緒くんは1度息をつまらせて
私をじっと見る その後ハッとして
「その気持ちがあれば大丈夫だ!」
なんて、残酷な他人の言葉を私に言う
真緒くんの事だよ、なんて言えない
言えるわけもないから
『………………っ…うん……』
「俺が出来ることなら手伝うし!
応援してるからさ!」
『…ありがとう』
また、私は知らない振り
自分を苦しめて、真緒くんに話しかける
「おう!だからそんな辛そうな顔
するなって!幸せ逃げちまうぞ〜?」
『…そう、だよね…!ありがとう真緒くん』
例えば今、全部思い出してくれたら
こんな顔なんてしないのに
なんて考えてると料理がやってくる
「ま、マジでそれ食うのか?」
『うん!ここのパフェ大好きなんだ〜
後もうひとつ好きなのがあるんだけど
…』
―「またあそこも行きてえな〜
ほら、初デートの時に行ったさ、
でっかいパフェとかのあの店」
―『あのお店いいよね!!今度は2人で
完食目指そうね…!!!!!』
『………ねぇ真緒くん、土日は空いてる?』
突然の問いかけに驚きつつ
真緒くんは、んーと思考を働かせる
「土曜日なら空いてるけど…」
『良かった…良ければ1日、私に
付き合ってくれないかな?』
「?」
私は、彼に笑った
☆.。.:*
土曜日 AM10:00 夢ノ咲学院前駅
『真緒くん、おはよう!待った…?』
「おはよう!全然待ってな…………っ…」
―『…わたしの服装で好きなのは?』
―「え、白のトップスと黒のスカート。
あれは完璧だ…って、ちょいちょい、
何言わせてるんですかね結羅さん」
ねぇ、真緒くん…真緒くんとの約束通り
この服きてきたよ
―『じゃあ次のデートはあれを着ていこう
かな〜えへへ』
あの時くれたネックレスとリングも
…今日は、真緒くんが喜ぶ100点な私が
出せてるんじゃないかな
―「あっ、それは嬉しいかも」
「………かわいい」
『へ?』
「すっげー可愛い…」
―「俺も…結羅、好きだ」
「わ、悪い………!!」
『…っ、ううん!嬉しいありがとう!』
泣いちゃダメ、せっかく今日は
真緒くんとのデートなんだから
だから…泣いちゃダメだ…っ笑って…
『…今日はね、少し遠出をしたいんだ』
「…こ、こは?」
『喫茶店。ここのパフェが凄く凄く
美味しいの!どうしても食べたくて』
だって、真緒くんと約束したから
「お、おい結羅…」
『すみません、2人で!』
「……………」
今度は2人で食べようって
…せめて、約束は守る人でありたいの
そして待つこと7分弱
大きなパフェが目の前に現れた
『いただきますっ!ほら、真緒くんも』
「え、俺も?」
『私一人じゃ無理だもん』
そう言って真緒くんにスプーンを持たせる
「…うま……」
『んふふ〜おいひい……真緒くんは
こっちのクリーム担当ね、溶けちゃう!
私はこっちのクリーム行くから!』
「お、おう?」
そう言って溶ける前に食べる
―「ちょ、これは凄くね?」
―『大丈夫!いける!』
結局いけなかったから、こうして
真緒くんと2人がかりだけど……
けど…この記憶を持つのは私だけで
『…このパフェ、大好きなんだ』
この気持ちを持ってるのも、私だけ
あまり元気がない声が出たせいか
腕を止めて私を覗き見る真緒くん
変わんないなあ……
『…その、好きな人とね。初めて来て
初めて食べたの、これ…初デートでさ』
「…でも、付き合ってないんだろ?」
『うん。だから…彼はきっと…覚えてない
でもいいんだ〜!その人が忘れてても、
私が覚えてるからさ!』
「結羅」
そう、君が覚えてなくても私は覚えてるよ
ずっと覚えてる
『…人生の中に恋愛があるじゃん?
だから人生に何かあれば、必然と恋愛にも
何かある。嫌われるのは一瞬。
離れられるのも一瞬…』
前の日まであんなに好きだって、
両思いだって、分かっていても
同じ時間を共有していても
日付けが変わって、ほんの数時間離れて
日が昇って、会った時には
それは私だけの思い出になっていた
そんなの、望んでなかったのに
「…俺は」
『うん?』
「俺は、結羅から離れない」
『…え?』
「……いや、なんでもない」
『ふふっ、変な真緒くん』
本当にそうなればいいのに
…私が消えない限り、真緒くんが私の
思い出を一生覚えていることは無い
思い出すことも、無いっていうのに
『けど真緒くんと来れたから!
…今日だけ私のワガママを聞いてください』
分かってる、私の恋はもう二度と
結ばれることは無い。だからせめて
「…おう」
『ありがとう!』
最後くらい、彼氏と約束した場所へ
私を忘れた彼と共に行ってもいいでしょ?
その後
アクセサリーショップ、腕時計屋
化粧品、本屋と順に回って
『ここ!』
「ここ?」
最後に来たのはスポーツ用品の店
『1度来てみたかったんだ〜』
「なにか探してるのか?」
『うん!』
頷いて店の中に入る
迷わず店内を歩いて行って、彼を見た
『…真緒くん、これ似合いそう』
そう言って指を指したのは、いつも
真緒くんが気になっていた物
「やっぱ結羅もこれに
目が行くよな〜!」
だって、真緒くんが教えてくれたから
帰り道いつも話してたよ
『…今日1日凄く真緒くんを振り回して
色々付いてきてもらったから、お礼を
させて欲しいの、これ、良かったら
プレゼントさせて欲しいな』
せめてこれくらいなら許してくれる?
これなら、無くならないでしょ?
思い出は消えても、物は無くならないでしょ
ちゃんと、確かなものとして
そこに存在してくれるのなら、私は
最後くらい自分に素直でいたい
「っ!いや、俺はそんな大したこと…」
『いいの!逆に受け取って…!』
「いやいやほんとに大丈夫だから!」
『すみません、これお願いします!』
「聞いてくれー!!!」
会計を終わらせて
紙袋を持って真緒くんの元に戻る
『はい、真緒くん!』
「…ほんとに、いいのか?」
『うん!お返しだよ!』
このネックレスと、リングのお返し
私を忘れる前の、彼氏である衣更真緒が
彼女であった私にくれた
大切な大切な宝物の、ささやかなお礼
こんな可愛いものには
到底及ばないかもだけど、でも
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
『うん!』
「ありがとな」
『こちらこそありがとう!』
約束、守れた。
…真緒くん、真緒くん…………
私のことが好きな、彼氏であった、
衣更真緒くん………………私のこの判断は
間違ってないよね
『………………来てくれてよかった』
翌日 日曜日の朝
私は時間差で夢ノ咲の皆と一人一人
話をした
決めたことを話せばまず引き止められて
その後も引き止める人、泣く人、怒る人、
呆れる人、黙る人…それはもう多種多様で
けど最後はみんな口を揃えて言った
真緒くんのことが、大好きなんだね
って
『…大好き…衣更真緒くんが、1番…』
皆にひとつ、共通のお願いをした事
覚えていたか聞くときちんと覚えていて
明日からお願いって、約束をした
夢ノ咲のアイドル達と私の
たったひとつだけの約束
あんずちゃんなんて、鼻水だらっだらに
流しながら引き止めてきたけど
それでも…私は決めたから
朝からそんなことをはじめて、早夕方
最後に会う予定を組んだのは
『…真くん』
「結羅ちゃん」
彼と1番仲のいい、真くん
『…私ね』
「分かってるよ」
『………』
「僕を最後にしたのも、なにか理由があるんだよね?他のことは違う頼み事が…」
『………前個人的に話したこと覚えてる?』
―『真くん、ひとつお願いを聞いて貰っても
良いかな…』
―「どうしたの?」
―『……―』
―「!!!そ、そんな…」
―『お願い』
「…うん」
『それを、お願いしたいの』
「…………」
『分かってる、苦しい事も、真くんに
負荷をかけるのも分かってる…けど
きっと彼は、私を探すことを始めたら
真くんを頼るから…
夢ノ咲の皆が、私が引っ越したって
連絡も知らないって嘘をついてくれる
もしその嘘や私の居場所を、真緒くんが
知れば…真くんから、全部話して欲しい』
「………分かった」
『あと、これ』
「…手紙?」
『………全部伝えた時、真緒くんに
渡して欲しいな。一生来ないかもだけど』
「それは分からないよ。衣更くん
結構しつこいからね」
『ははっ、そうだね…!』
真くんに付き添われ、専門病院に向かう
…忘愛症候群で、自ら命を絶つ人が向かう
専門病院。ここにいる人はみんな、
私と同じ気持ちを抱えた人たちなんだ
『…あ』
「ん?」
『最期にこれ聴いていいかな』
「?ボイスメモ?」
『そう!真緒くんが忘れる前の日にね
私がお願いしたんだ〜結構聴いてるけど
やっぱり最期も聴きたくて』
「結構沢山あるね?」
『えへへ、この携帯も、あとで
真くんに預けるからね』
待合室に座って、真くんのイヤホンを
繋いでもらい、2人で真緒くんの声を聞く
流れるのは、あの時の私の声と
愛しい彼氏、真緒くんの声
―『頑張った時』
―「偉いな、結羅!!あとで
沢山褒めてやるからな〜!」
『…真緒くん、私ね、記憶無くなった
真緒くんとのお話、頑張ったよ』
初めて、このボイスメモに返事をする
―『辛い時』
―「無理しすぎじゃないか?今度俺と
出掛けてリフレッシュしような!」
『…それは、もう、できないや…』
―『悩んでる時』
―「お前は悩みすぎるとパンクするだろ?
パンクする前に、俺を頼れよ」
『いつも頼ってたよ…頼りっぱなし
…真緒くんがいなきゃ、私はここまで
頑張れなかった』
―『嬉しい時』
―「お前が嬉しいと俺も嬉しいよ」
『真緒くんが嬉しいことは、私も
すっごく嬉しいんだよ』
―『…好き』
―「っ……俺も、好きだよ。大好き
あとでそれ、ちゃんと伝えてくれよ?」
『ごめん…それは出来なくなっちゃうや…』
「…ねぇ、この別フォルダの物は?」
『あ…』
これは確か
―「ちょっと貸してくれ」
―『?うん』
私の携帯をとり、公園に走って
しばらくしてから戻ってきて
私に携帯を手渡してきた真緒くんが
―『?』
―「1番最後のフォルダあるだろ?
俺の自信作だから、どうしてもダメだ
って時はそれな!」
『…最終兵器だ』
「さっ、最終兵器?」
『真緒くんが、どうしてもって時に
聴いてくれって…』
―「そ!ただ、それ聞いたら俺に教えてくれ
また新しいの撮るから!」
―『…うんっ』
最期だから、聴いても新しいのは
お願いできないけど…どうしてもって
時だから聞いていいよね
そう思って、私はトラックを再生した
ボイスメモの中の彼は1つ
口ずさみ始めた
『…!』
「…虹色の…Seasons……?」
それは、Trickstarの曲だった
メンバーみんなで歌う所を、彼は
1人で歌い上げている
―君と出会いお互いを知り時は移ろってく
1人では何1つ変えられなかったよね―
…………なんで
『なんで、歌うのかなぁ…っ…』
―すれ違いの日々も 不安や寂しさも
支え合う強さへ 色を変えていくから―
『ばか…ばか…なんで忘れるんだよ…
真緒くんのばか、私の処女返せっ』
「…結羅ちゃん…」
―頑張ってきたこと誰よりも知ってる―
『ばか、ばか………すき…好きだよ…』
1度溢れ出た涙は止まることを知らなくて
ただ止まらなくて
―「…頑張ってきたこと、誰よりも
俺が知ってるから。だからさ
結羅は笑っててくれよ」
『…真緒くんが居なきゃ笑えない』
―「笑ってるお前が好きだ…勿論俺の隣で」
『いないじゃん、ばか………』
―「…なぁ、結羅」
『っ…なあに、真緒くん』
ボイスメモに居る、私の彼氏に
私は泣きながら返事をする
―「俺は、彼氏としたら何点くらいだ?」
何点、そんなの
『100点…満点だよ…っ』
―「俺はさ、結羅が
もし点数をつけるなら、付けれない
…点数じゃ伝わらないって思うくらい
最高の男になりたいんだ」
『…!!!!』
―「これからもさ、俺の隣で笑っててくれよ
本物の指輪渡しに行く日まで、渡してからも
歳とってからも、孫ができてもさ!
ずっと俺の隣で、笑っててくれ
……好きだ、大好きだ」
―「仕事に一生懸命な所だろ?
笑顔が可愛くて頼ってくれて、
俺のことよく見てる」
―『うんうん』
―「意外と食うとこ、我慢の限界になる前に
俺のところにくるとこ…あと」
―『?あと―』
―「…俺の事だけを、愛してくれるとこ」
約束するよ
『私も、真緒くんが大好きだよ
…もう、隣では笑えないけど
真緒くんのことだけを、愛してるよ
点数が、なくったって……っ』
「…結羅ちゃん」
『…真くん…真緒くんに伝えて
私のことを忘れて、幸せになって
って…』
「…それで、いいの?」
『っ真緒くんが一生私を気にするのは
嫌なんだ。真緒くんが幸せになるなら
それでいいから』
「…分かった、伝えておくね」
「真瀬さーん。真瀬結羅さーん」
看護師さんに呼ばれる
私は立ち上がり、ボロボロと泣いている
真くんに、別れを言った
『じゃあね』
「っ………僕…っ……何も、出来なくて
本当に…っ本当に…ごめんね…っ……」
『ううん!十分だったよウッキ〜!
…なんてねっ!1回呼んでみたかったの』
「っ………」
安眠室が私を待つ
今頃真緒くんは何してるかな
漫画読んでる?それともまた書類?
…その中で少しでも、昨日のデートのこと
考えてくれてたらいいな
そしたら少しは、私の気持ち
届いたって、思えるから
『本当に思い出してくれたら伝えて!』
部屋の前で振り返り真くんを見て言う
「なに、をっ…伝えたら、いいかなっ」
『…真緒、愛してるよ!』
「っ、っ!!!」
私の心からの気持ちと満面の笑みに
真くんは必死に頷いた
『じゃあね、真!』
「っ、バイバイっ」
部屋に入り、看護師さんに言われた通り
ベッドに寝転ぶ
「…素敵な、お友達ですね」
『はい、私の…大切な仲間です』
「……いいんですか?」
『…いいんですよ、私にとって
好きな人が何よりだった。それだけです』
「……きっと、来世では結ばれて下さいね」
『…ありがとうございます』
担当の先生が来て、私は深呼吸した
『………』
衣更くん…真緒くん………真緒…
真緒、真緒…………
なんて、素敵な名前なんだろ…
こんなに彼の名前を愛しいと、心から
思えるなんて、私は幸せだね
―「結羅」
なぁに
―「大好きだぞ!」
うん、知ってるよ
―「ずっと、大好きだから」
知ってるってば
―「次はどこにいこっか」
そうだなぁ、イルミネーションとか
行きたいね………
―「愛してるよ、結羅」
『わ、たしも…だよ…真緒、くん…』
―「ずっと、一緒に居ような」
…真緒……………
―「結羅!」
『なぁ、に…真緒………』
僅かな意識で、頭に浮かぶ愛しい彼に
呼びたかった呼び方で返事をした
すると彼は、あの愛しい笑顔で
―「…おやすみ、また明日」
うん
『…ま、お…………』
― おやすみ…
別と考えても大丈夫です)
異変を感じたのは、些細な会話での
真緒くんの対応だった
「おはよう!えーーっと…」
『ちょっと真緒くん!彼女の顔みて
えーっと、って酷くない!?』
「悪い悪い!俺疲れてんのかな〜」
これがきっかけだったと思う
「あ!あのさ…えーっと……………」
『…』
「ちょ、待てってば!」
『っえ、私だったの!?』
「そうだよ!」
『なら名前呼んでよ〜』
「ごめんごめん、結羅」
私を見ても、私と分からない
と言うような態度を真緒くんが見せるように
なって、それは次第に多くなる
それは私だけじゃなく、周りのみんなも
見てわかるくらいで
『…真緒くん、なにか病気なのかな』
「明らか変だよね、サリ〜がマセマセを
分からないはずないもん!」
「大切な彼女だからな」
『そうだよ〜!もしこれで彼女じゃない
とか言われたらもう堪らないよ!
私の処女返せ〜!この―』
「わわ!結羅ちゃん!
それ以上は放送禁止用語だよ!!」
他のみんなは分かってくれてるのに
真緒くんだけが可笑しい
『だって私…真緒くんの彼女だもん』
そう、私は衣更真緒の彼女なのだ
悲しくないわけが無い
『…………真緒くんのバカ…』
「おーい結羅〜」
『!真緒くんーーー!』
「おわ!なんだよ、教室なんだから
急に抱きつくなよ〜そう言うのは
家でな〜」
『は〜〜よかった。処女返せはもう
言わなくて済みそう!』
「は?」
よく分かってない真緒くんを見て
私は笑った。なんでもないよ、って
けど、やっぱり真緒くんは可笑しくて
時々私を見ても顔を顰める
日に日にそれは酷くなっていた時
真くんが休み時間に声をあげた
「みんな!特に結羅ちゃん
聞いて欲しいんだ…!!」
「どうした遊木」
「ウッキ〜珍しいね、教室でそんなに
大きな声出すの、どうしたの〜?」
『なになに〜?』
あんずちゃん含めた2-Aメンバーが
真くんを見る
「最近、衣更くんの様子が可笑しいって
言うのは皆分かるよね?皆にじゃない
結羅ちゃんに、だけ」
「確かに、それはあからさまだな。
朔間先輩や羽風先輩も、何となくだが
情報はいってるらしい」
「蓮巳殿や鬼龍殿も知っていた」
「先輩さえ知ってたからネ」
先輩たちにも届いてるんだ…
「僕も聞いてみたら結構アイドル科では
広まってるみたい。それでね、少し
調べてみたら、もしかすると衣更くんは
病気かもしれないってことに行きついて」
『真緒くんが…!?』
私は思わず立ち上がる
すると真くんは私を見た
「…あまりに条例が少なくて、探すのも
一苦労だったんだけどね…恐らく」
―忘愛症候群、だと思うんだ
『ぼう、あい………?』
「…好きな人のことだけを、忘れていく
一日で全て忘れる事もあれば
徐々に忘れることもあるんだって
衣更くんはきっと後者だと思う」
目の前が、真っ白になった
『……はっ……………はは…ま、ことくん
冗談、きつい、よ……』
「…色んなことを考えた。言動や症状
…その全てが、この忘愛症候群に該当する
…結羅ちゃん、衣更くんは」
『っ、治し方、治し方は……!?!?』
私は真くんに駆け寄り
必死になって聞いた。すると真くんは
目線を逸らして
―愛する、者の死
と、ただ一言そう言った
『…はっ…………?』
「……忘愛症候群は、想い人を想いすぎて
発症する。そして忘れていく…つまり
…衣更くんの場合……………」
「………マセマセが…?」
「おい、遊木…そういう冗談は」
「僕だって!こんなこと言いたくないよ!
けど本当なんだ……大抵の人はこの時点で
想い人を諦める…1度忘愛症候群になれば
その人と新しく思い出を作っても
完治しない限り何度も忘れるんだ……
…その想い人が、死なない限り」
そう言って真くんはその記事や情報が
載った物を、私たちの前に出して見せた
「………結羅殿、もしかしてだが、
自ら命を絶とうなどと言う野暮なことは
考えていないのだろう…!?」
「結羅、それはダメだ…!
命を粗末にしてはいけない」
『………つまり、どう頑張ってももう
私は真緒くんと無理ってこと?』
―結羅っ!
あの日々は、もう、来ない?
「マセマセ、ダメだよ!!」
「衣更は完全にお前を忘れたわけじゃない
真瀬、頼む…早まることは……」
『……私が死んだら、真緒くんは
思い出すんだよね?ってことはさ
残された真緒くんが苦しむんだよね
…私、それは嫌だなあ』
そう言ってみんなに笑いかけた
『大丈夫!私は私だから!
…真くん、調べてくれてありがとう』
「………ごめんね…何も出来なくて」
『ううん大丈夫!皆も!そんなに
気に、しない…でね…!』
涙を堪えてみんなに笑いかける
「…アイドル科の皆には、サリ〜の
このこと、伝えた方がいいのかな?」
「ああ。俺もそれは思った所だ」
「うん、皆が情報共有出来ていれば
結羅ちゃんだけが苦しむことは
ないと思います!」
口を閉じていたあんずちゃんが、
そう言った…その時
「うぃーっす、結羅居るか〜?」
『っ、真緒くん…』
「!?なんで泣きそうなんだ!?
ああぁ…!ほらほら、これで拭け〜?
って、余計に泣くなよ…!!!
ってかなんで泣いてるんだ!?」
『っ…真緒くんの、ことが…
大好きだからぁぁああ"あ"あ"』
「ははっ、俺も大好きだぞ〜?」
そう言ってみんなの前なんて気にせず
私は抱きつく
…本当に全部本当なら
あと何回こんな会話ができるなんて
分からないでしょ?
―その光景を
切なげにクラスメイトは見つめる
なにも出来ない、してあげられない
自らの歯がゆさを感じながら
この2人から、幸せを奪わないでくれと―
真緒くんのことは、直ぐにアイドル科に
知れ渡った。真緒くん本人に
伝わらないように、裏で伝わっていく
それでも皆、変わらず私たちに
接してくれた、それが救いだった
『失礼します〜』
「!お姉様!」
「結羅〜っ!大丈夫っ?
サルのこと、会長からきいたよっ…」
『ありがとう…ねぇ、みんな!
私と1つ、約束をして欲しいんだ!』
『真緒くん、いる?』
「あら、真緒ちゃんは今居ないわよォ」
『ならよかった…あのっ!2-Bの皆に
ひとつお願いがあって…!』
『失礼します』
「結羅!どうしたどうした!
3年生の教室に来るなんて!」
『実は皆さんに、1つお願いが…』
☆.。.
「でさ、その時スバルが」
『ははっ!それは真緒くんも災難だ!』
「笑い事じゃねえって!」
少し寒くなってきた時期、真緒くんと
手を繋いで帰る。これがあと、何回
出来るんだろう
『…ねぇ、真緒くん』
「ん?」
『真緒くんは、私の何処を好きに
なったの?』
「と、突然だな〜…」
だって、忘れる前に聞きたいんだもん
『教えてくれなきゃ私ここから
動かない〜!!!』
「なんだそりゃ!?えっと…まずは
仕事に一生懸命な所だろ?笑顔が可愛くて
頼ってくれて、俺のことよく見てる」
『うんうん』
「意外と食うとこ、我慢の限界になる前に
俺のところにくるとこ…あと」
『?あと―』
不意に、私の唇を塞いで
「…俺の事だけを、愛してくれるとこ」
『っ……ずるい…そういうの、ずるいよ』
「ええ!?言えって言ったのは
結羅だろ!?」
『へへっ…』
当たり前だと思ってた日常が
当たり前じゃなかったことに気づく
彼の中に私がいることが奇跡で
選んでもらったことが奇跡で
隣にいれることが奇跡なんだって
「結羅は?どうなんだよ」
『ええ〜私?私はね
仕事ばかで世話焼きで、頼まれたら
断れないところとか』
「それ悪口?」
『違う違う!あとはね、
私のことを、それなのにちゃんと見てて、
辛い時は支えてくれる…
どんな真緒くんも、好きだよ』
「っ…おう」
『きっと私の事を好きになってなくても
私は真緒くんを好きになってるな〜』
「ははっ、大丈夫。それは俺もだよ」
『っ…そっか………』
「…………結羅」
急に名前を呼ばれて真緒くんを見ると
細長い箱を渡された
「本当は明後日渡したかったけど
結羅が可愛くてつい今……」
『明後日?……!記念、日?』
「ああ」
『…あけても、いい?』
「気に入るかはわかんねえけどな〜」
そういう真緒くんの前で箱を開けると
ピンクのストーンが嵌め込まれた
綺麗なネックレスが、月に照らされて
キラキラと光っていた
『…綺麗…こんないいもの、貰っていいの?』
「寧ろ貰ってくれ。……子供じみた事かも
知れねえけどさ、これも…」
そう言って私の手をとると、優しく
左手の薬指に同じピンクのストーンが
嵌め込まれたリングを通した
『!!!』
「…絶対、将来ここに、ちゃんとしたの
付けさせるから…だから…予約……」
"将来" "絶対"
『…真緒…く…』
「っ!?最近よく泣くよな!?」
『ううっ…嬉じぐで……!!!』
そんな将来が絶対来ないことを
私はもう知ってる。だからこそ
今この時が嬉しくて辛い
将来、私じゃない他の人に
本物を渡す真緒くんがいて
私の事を愛してくれていても、その時
私が隣に居ることは…絶対無い
『っ…ありがとう、真緒くん…
すき…だいずぎ…っ』
「すげえ顔で言うなぁ〜。
…うん、俺も。俺も大好きだよ」
『…録音、ひでい"い??』
「ろっ、録音?!」
『家でも、真緒くんのその言葉を
聞くのおおおおお!!!』
「お、おう?」
ケータイを起動させ、ボイスメモを開く
『…ついでに色々言って』
「色々?」
『そう。辛い時の私に一言とか』
「なんだそれ。そういう時は、俺が
隣で直接言うっての〜」
忘愛症候群を自覚していない真緒くんは
いつも通りそう言う。
"いつも通り"
『忙しくて無理だったとき用に…』
「はいはい」
笑いながら真緒くんは私の携帯を見つめる
私はボイスメモをONにして
1つ1つ要望を伝えた
『頑張った時』
「偉いな、結羅!!あとで
沢山褒めてやるからな〜!」
『辛い時』
「無理しすぎじゃないか?今度俺と
出掛けてリフレッシュしような!」
『悩んでる時』
「お前は悩みすぎるとパンクするだろ?
パンクする前に、俺を頼れよ」
『嬉しい時』
「お前が嬉しいと俺も嬉しいよ」
1つ1つ別フォルダに保存して
『…好き』
「っ……俺も、好きだよ。大好き
あとでそれ、ちゃんと伝えてくれよ?」
最後のそれを撮り終わると、真緒くんは
あ、と声を出す
「ちょっと貸してくれ」
『?うん』
私の携帯をとり、公園に走っていく
しばらくしてから戻ってきて
私に携帯を手渡す真緒くん
『?』
「1番最後のフォルダあるだろ?
俺の自信作だから、どうしてもダメだ
って時はそれな!」
『…最終兵器?』
「そ!ただ、それ聞いたら俺に教えてくれ
また新しいの撮るから!」
『…うんっ』
笑いあって、また唇を重ねる
手を繋いで残り少ない帰り道をまた歩く
「またあそこも行きてえな〜
ほら、初デートの時に行ったさ、
でっかいパフェとかのあの店」
『あのお店いいよね!!今度は2人で
完食目指そうね…!!!!!』
「だな〜。あそこの近くだと
アクセサリーショップとかもあるしさ」
『真緒くんの見てたスポーツ用品のお店も
あるよね?ほら、ずっと見てる…』
「あれさ〜色とか好みなんだよ〜!」
『…わたしの服装で好きなのは?』
「え、白のトップスと黒のスカート。
あれは完璧だ…って、ちょいちょい、
何言わせてるんですかね結羅さん」
『へぇ〜あれ好きなんだ〜?』
「からかうのはやめなさい」
『じゃあ次のデートはあれを着ていこう
かな〜えへへ』
「あっ、それは嬉しいかも」
時間はすぎていく。家もどんどん近付いて
怖い夜がやってくる
目が覚めて、学校であって、私を
忘れていたらって、怯える夜が来る
「また明日な!」
『うん!また明日!真緒くん好き』
「俺も…結羅、好きだ。
…おやすみ、また明日」
満面の笑みで、彼は私を家まで送り
そのまま帰っていく真緒くん
『………』
それが……私の彼氏の……
.☆.。.:.+*
「おはようあんず!おっ!もしかして
プロデューサー2号か?」
翌朝、あんずちゃんと登校途中に
後ろから大好きな声が聞こえた
言葉で察した。もう彼の…真緒くんの中に
私は居ないのだと
『あっ……はい!』
私は涙を堪えて、緊張した装いで返事をした
「やっぱり。はじめましてだよな
俺はTrickstarの衣更真緒!
悩み事があればいつでも頼ってくれ!」
―「Trickstarの衣更真緒!
悩み事があれば言ってくれよな!」
―『真瀬結羅です…!
よろしくお願い致します!』
『あ…真瀬、結羅です…!
よろしくお願い致します!』
…出会った頃と、あまり変わらない会話
「ははっ、そんな固くなるなって!
同じ歳だろ?タメでいいぞ」
―「そんな固くならなくてもいいぞ?
隣のクラスだし、タメで気軽に
話しかけてくれよなっ」
―『分かった!よろしくね衣更くん!』
『うっ、うん…!』
違うのは、取り残された私の気持ちだけ
「…結羅ちゃん」
『…大丈夫だよあんずちゃん…衣更くん
Trickstarって、どんなユニット?』
「そうだなぁ…個性の塊?」
知ってるよ、誰より分かってるよ
ずっと、見てたんだもん
「(結羅ちゃん………)」
はじめまして
私を知らない、私の大切な人
学校に着いて、クラスに入る
真緒くんは隣だからそこで離れて
移動教室だったらしくそのまま移動先の
教室まで歩いていった
その背中が見えなくなるまで見送って
自分の教室に入った途端、
私の中で全ての集中の緒が切れた
ガタンッ
「結羅ちゃん!」
『…ははっ…力、抜けたや………』
「おはようマセマセ!どうしたの?」
スバルくんが寄ってきて、周りのみんなも
つられて寄ってくる
「子猫ちゃん?大丈夫かイ?」
『…大丈夫………』
夏目くんにそう返事をしてから
私はそのまま下をじっと見つめて
スバルくんに言った
『スバルくん、私ね…真緒くんに
……はじめまして、出来たよ』
「「「「!!!」」」」
クラスの空気が、凍る
分かっていた、分かってはいたんだ
こんな空気になることは
『…あんずちゃん、私…』
「うん」
『私…上手く、笑えてた…?
ちゃんと、真緒くんに…はじめまして
して…転校生に、なれてたっ…?
…好きは、出てなかったかなぁっ…!
っ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
座り込んだまま、ただ叫ぶ
どうしたらいいのか分からない想いを
戻らなくなった昨日までを
変わらないはずなのに変わった日常を
「…出来てたよ…大丈夫だよ…っ」
ただ、叫んだ
教室の前に、スバルくんに用事で
やってきた守沢先輩や、夏目くんの元に
やってきた宙くん。
そしてその日の午前で
アイドル科に知れ渡った
"とうとう、起きてしまった"
と言う言葉で
☆.。.:*
それから私は、懸命にただの友達に
なろうとした。なろうとしたのに
やっぱり出来なくて
「おはよう、結羅」
『おはよう真緒くん』
自分の首を、締め続けている中で
また私は自分を苦しめる事を言う
『……真緒くん、実は相談があって』
「相談?どうした?プロデュースか?」
『ううん、個人的な話なんだけど…』
「全然いいぞ!んじゃ、放課後どうだ?
今日何も無いし!」
真緒くんに相談を持ち混んだら
特に予定のなかったのか、放課後に
話を聞こうかと提案された
優しすぎるよ、だからまた好きに
なっていくんだよ…
『い、いいの?』
「俺から提案してるからな〜」
『っ……ありがとう、真緒くん!!』
勢いよく頭を下げてお礼を言う
真緒くんは笑って返事をした
「んじゃ、放課後迎えに来るよ」
『うん!お願いします!』
いつもより笑顔で私は笑った
笑えてるよね…。真緒くん相手だもん
きっと、ちゃんと笑えてる
そう気を引き締めた放課後
『真くん、ひとつお願いを聞いて貰っても
良いかな…』
「どうしたの?」
『……―』
「!!!そ、そんな…」
『お願い』
真くんと話をしていると
「おーい結羅〜」
クラスを覗き込んできて私の名を呼べば
他のみんなも真緒くんを見る
そうだよね、こうやって呼びに来るの
付き合ってた頃だけだもん…
もう…1ヶ月ちょっと前…なのかな…
『あっ、真緒くん!』
「お待たせ!行こうぜ!」
『うん!…じゃあ、真くんまた明日!』
「じゃあな真!また明日!」
「う、うん…!また、明日…!」
私は真緒くんと2人で久々に正門を出た
隣に彼がいて、景色は変わらない
帰り道の景色で、懐かしくて、苦しくて
愛しくて……泣きそうになる
『…真緒くん』
「ん?」
『…なんでもない』
「え、なんだよ〜」
『着いたら話すね!』
ごめん、ただ…
好きって、伝えたくなっちゃったから
堪えただけなんだ
『………また明日って、言ったのに』
商店街の中、何気ないことを話してると
喫茶店を真緒くんは指さす
「あそこでいいか?」
『!うんっ』
2人でよく来てた喫茶店
中に入れば店員さんは私たちを見て笑う
そんな店員さんの善意さえ苦しい
その思考を消すように
メニュー表を開く真緒くんを見た
『真緒くんはブラックコーヒー?』
「え、なんでわかったんだ?」
『ふふっ、寝不足が顔に出てるから』
「うげ……さすがだよ、プロデューサー」
苦笑いする真緒くんを見つめる
…声も容姿も…変わらないのに
いや、変わらないからこそ苦しいのか
好きになったから苦しいのか分からない
「結羅?」
『ん?』
「メニューもしかして決まってる?」
『うん!入る時に!』
「そっか〜、じゃあもう頼んじまうな!」
真緒くんはいつも通りコーヒーを頼む
『いちごとプリンのカスタードパフェ
お願いします!』
だから私もいつも通り頼んだ
「かしこまりました!失礼致します」
店員さんもつられたような笑顔でそう言うと
そのままカウンターに戻って行く
「…あのパフェでかくね?」
―「あれ食うのか?」
『ん?大丈夫だよ!』
「そ、そうか?」
その会話さえ愛しくて胸を締め付ける
大丈夫、まだ、まだ私は笑えてる
「んで?相談って?」
『あっ、そうそう!…真緒くんって、
今恋愛したいと思う?』
「……は?」
突然のその言葉に彼はキョトンとして
思考を停止させたようだ
突然のそういうのはやっぱり弱いよね
『真緒くん?おーい』
「っ、悪い!恋愛、だよな…んー…
あんま考えてなかったけど…今は学校とか
Trickstarで活動できるのが楽しいから
しなくていいかなとは思うよ」
『………………そっか』
それだけ言って、水を口に含んで
ふぅ、と息を吐いた
私は覚悟を決めて、言った
『………好きな人が、いるんだけど』
「好きな人?」
『そう。それが今日相談したいこと』
相談したいのは、あなたのこと
『好きな人が、振り向いてくれなくて』
「なるほどな。付き合ってはないのか?」
『まぁ…………今は…』
「そっか…その人がそんなに好きなのか?」
―「俺も好きだ」
そう聞かれ、真緒くんの目を見る
涙を堪えて笑いながら言った
『…好き、大好きだよ』
今も、ずっと…
真緒くんは1度息をつまらせて
私をじっと見る その後ハッとして
「その気持ちがあれば大丈夫だ!」
なんて、残酷な他人の言葉を私に言う
真緒くんの事だよ、なんて言えない
言えるわけもないから
『………………っ…うん……』
「俺が出来ることなら手伝うし!
応援してるからさ!」
『…ありがとう』
また、私は知らない振り
自分を苦しめて、真緒くんに話しかける
「おう!だからそんな辛そうな顔
するなって!幸せ逃げちまうぞ〜?」
『…そう、だよね…!ありがとう真緒くん』
例えば今、全部思い出してくれたら
こんな顔なんてしないのに
なんて考えてると料理がやってくる
「ま、マジでそれ食うのか?」
『うん!ここのパフェ大好きなんだ〜
後もうひとつ好きなのがあるんだけど
…』
―「またあそこも行きてえな〜
ほら、初デートの時に行ったさ、
でっかいパフェとかのあの店」
―『あのお店いいよね!!今度は2人で
完食目指そうね…!!!!!』
『………ねぇ真緒くん、土日は空いてる?』
突然の問いかけに驚きつつ
真緒くんは、んーと思考を働かせる
「土曜日なら空いてるけど…」
『良かった…良ければ1日、私に
付き合ってくれないかな?』
「?」
私は、彼に笑った
☆.。.:*
土曜日 AM10:00 夢ノ咲学院前駅
『真緒くん、おはよう!待った…?』
「おはよう!全然待ってな…………っ…」
―『…わたしの服装で好きなのは?』
―「え、白のトップスと黒のスカート。
あれは完璧だ…って、ちょいちょい、
何言わせてるんですかね結羅さん」
ねぇ、真緒くん…真緒くんとの約束通り
この服きてきたよ
―『じゃあ次のデートはあれを着ていこう
かな〜えへへ』
あの時くれたネックレスとリングも
…今日は、真緒くんが喜ぶ100点な私が
出せてるんじゃないかな
―「あっ、それは嬉しいかも」
「………かわいい」
『へ?』
「すっげー可愛い…」
―「俺も…結羅、好きだ」
「わ、悪い………!!」
『…っ、ううん!嬉しいありがとう!』
泣いちゃダメ、せっかく今日は
真緒くんとのデートなんだから
だから…泣いちゃダメだ…っ笑って…
『…今日はね、少し遠出をしたいんだ』
「…こ、こは?」
『喫茶店。ここのパフェが凄く凄く
美味しいの!どうしても食べたくて』
だって、真緒くんと約束したから
「お、おい結羅…」
『すみません、2人で!』
「……………」
今度は2人で食べようって
…せめて、約束は守る人でありたいの
そして待つこと7分弱
大きなパフェが目の前に現れた
『いただきますっ!ほら、真緒くんも』
「え、俺も?」
『私一人じゃ無理だもん』
そう言って真緒くんにスプーンを持たせる
「…うま……」
『んふふ〜おいひい……真緒くんは
こっちのクリーム担当ね、溶けちゃう!
私はこっちのクリーム行くから!』
「お、おう?」
そう言って溶ける前に食べる
―「ちょ、これは凄くね?」
―『大丈夫!いける!』
結局いけなかったから、こうして
真緒くんと2人がかりだけど……
けど…この記憶を持つのは私だけで
『…このパフェ、大好きなんだ』
この気持ちを持ってるのも、私だけ
あまり元気がない声が出たせいか
腕を止めて私を覗き見る真緒くん
変わんないなあ……
『…その、好きな人とね。初めて来て
初めて食べたの、これ…初デートでさ』
「…でも、付き合ってないんだろ?」
『うん。だから…彼はきっと…覚えてない
でもいいんだ〜!その人が忘れてても、
私が覚えてるからさ!』
「結羅」
そう、君が覚えてなくても私は覚えてるよ
ずっと覚えてる
『…人生の中に恋愛があるじゃん?
だから人生に何かあれば、必然と恋愛にも
何かある。嫌われるのは一瞬。
離れられるのも一瞬…』
前の日まであんなに好きだって、
両思いだって、分かっていても
同じ時間を共有していても
日付けが変わって、ほんの数時間離れて
日が昇って、会った時には
それは私だけの思い出になっていた
そんなの、望んでなかったのに
「…俺は」
『うん?』
「俺は、結羅から離れない」
『…え?』
「……いや、なんでもない」
『ふふっ、変な真緒くん』
本当にそうなればいいのに
…私が消えない限り、真緒くんが私の
思い出を一生覚えていることは無い
思い出すことも、無いっていうのに
『けど真緒くんと来れたから!
…今日だけ私のワガママを聞いてください』
分かってる、私の恋はもう二度と
結ばれることは無い。だからせめて
「…おう」
『ありがとう!』
最後くらい、彼氏と約束した場所へ
私を忘れた彼と共に行ってもいいでしょ?
その後
アクセサリーショップ、腕時計屋
化粧品、本屋と順に回って
『ここ!』
「ここ?」
最後に来たのはスポーツ用品の店
『1度来てみたかったんだ〜』
「なにか探してるのか?」
『うん!』
頷いて店の中に入る
迷わず店内を歩いて行って、彼を見た
『…真緒くん、これ似合いそう』
そう言って指を指したのは、いつも
真緒くんが気になっていた物
「やっぱ結羅もこれに
目が行くよな〜!」
だって、真緒くんが教えてくれたから
帰り道いつも話してたよ
『…今日1日凄く真緒くんを振り回して
色々付いてきてもらったから、お礼を
させて欲しいの、これ、良かったら
プレゼントさせて欲しいな』
せめてこれくらいなら許してくれる?
これなら、無くならないでしょ?
思い出は消えても、物は無くならないでしょ
ちゃんと、確かなものとして
そこに存在してくれるのなら、私は
最後くらい自分に素直でいたい
「っ!いや、俺はそんな大したこと…」
『いいの!逆に受け取って…!』
「いやいやほんとに大丈夫だから!」
『すみません、これお願いします!』
「聞いてくれー!!!」
会計を終わらせて
紙袋を持って真緒くんの元に戻る
『はい、真緒くん!』
「…ほんとに、いいのか?」
『うん!お返しだよ!』
このネックレスと、リングのお返し
私を忘れる前の、彼氏である衣更真緒が
彼女であった私にくれた
大切な大切な宝物の、ささやかなお礼
こんな可愛いものには
到底及ばないかもだけど、でも
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
『うん!』
「ありがとな」
『こちらこそありがとう!』
約束、守れた。
…真緒くん、真緒くん…………
私のことが好きな、彼氏であった、
衣更真緒くん………………私のこの判断は
間違ってないよね
『………………来てくれてよかった』
翌日 日曜日の朝
私は時間差で夢ノ咲の皆と一人一人
話をした
決めたことを話せばまず引き止められて
その後も引き止める人、泣く人、怒る人、
呆れる人、黙る人…それはもう多種多様で
けど最後はみんな口を揃えて言った
真緒くんのことが、大好きなんだね
って
『…大好き…衣更真緒くんが、1番…』
皆にひとつ、共通のお願いをした事
覚えていたか聞くときちんと覚えていて
明日からお願いって、約束をした
夢ノ咲のアイドル達と私の
たったひとつだけの約束
あんずちゃんなんて、鼻水だらっだらに
流しながら引き止めてきたけど
それでも…私は決めたから
朝からそんなことをはじめて、早夕方
最後に会う予定を組んだのは
『…真くん』
「結羅ちゃん」
彼と1番仲のいい、真くん
『…私ね』
「分かってるよ」
『………』
「僕を最後にしたのも、なにか理由があるんだよね?他のことは違う頼み事が…」
『………前個人的に話したこと覚えてる?』
―『真くん、ひとつお願いを聞いて貰っても
良いかな…』
―「どうしたの?」
―『……―』
―「!!!そ、そんな…」
―『お願い』
「…うん」
『それを、お願いしたいの』
「…………」
『分かってる、苦しい事も、真くんに
負荷をかけるのも分かってる…けど
きっと彼は、私を探すことを始めたら
真くんを頼るから…
夢ノ咲の皆が、私が引っ越したって
連絡も知らないって嘘をついてくれる
もしその嘘や私の居場所を、真緒くんが
知れば…真くんから、全部話して欲しい』
「………分かった」
『あと、これ』
「…手紙?」
『………全部伝えた時、真緒くんに
渡して欲しいな。一生来ないかもだけど』
「それは分からないよ。衣更くん
結構しつこいからね」
『ははっ、そうだね…!』
真くんに付き添われ、専門病院に向かう
…忘愛症候群で、自ら命を絶つ人が向かう
専門病院。ここにいる人はみんな、
私と同じ気持ちを抱えた人たちなんだ
『…あ』
「ん?」
『最期にこれ聴いていいかな』
「?ボイスメモ?」
『そう!真緒くんが忘れる前の日にね
私がお願いしたんだ〜結構聴いてるけど
やっぱり最期も聴きたくて』
「結構沢山あるね?」
『えへへ、この携帯も、あとで
真くんに預けるからね』
待合室に座って、真くんのイヤホンを
繋いでもらい、2人で真緒くんの声を聞く
流れるのは、あの時の私の声と
愛しい彼氏、真緒くんの声
―『頑張った時』
―「偉いな、結羅!!あとで
沢山褒めてやるからな〜!」
『…真緒くん、私ね、記憶無くなった
真緒くんとのお話、頑張ったよ』
初めて、このボイスメモに返事をする
―『辛い時』
―「無理しすぎじゃないか?今度俺と
出掛けてリフレッシュしような!」
『…それは、もう、できないや…』
―『悩んでる時』
―「お前は悩みすぎるとパンクするだろ?
パンクする前に、俺を頼れよ」
『いつも頼ってたよ…頼りっぱなし
…真緒くんがいなきゃ、私はここまで
頑張れなかった』
―『嬉しい時』
―「お前が嬉しいと俺も嬉しいよ」
『真緒くんが嬉しいことは、私も
すっごく嬉しいんだよ』
―『…好き』
―「っ……俺も、好きだよ。大好き
あとでそれ、ちゃんと伝えてくれよ?」
『ごめん…それは出来なくなっちゃうや…』
「…ねぇ、この別フォルダの物は?」
『あ…』
これは確か
―「ちょっと貸してくれ」
―『?うん』
私の携帯をとり、公園に走って
しばらくしてから戻ってきて
私に携帯を手渡してきた真緒くんが
―『?』
―「1番最後のフォルダあるだろ?
俺の自信作だから、どうしてもダメだ
って時はそれな!」
『…最終兵器だ』
「さっ、最終兵器?」
『真緒くんが、どうしてもって時に
聴いてくれって…』
―「そ!ただ、それ聞いたら俺に教えてくれ
また新しいの撮るから!」
―『…うんっ』
最期だから、聴いても新しいのは
お願いできないけど…どうしてもって
時だから聞いていいよね
そう思って、私はトラックを再生した
ボイスメモの中の彼は1つ
口ずさみ始めた
『…!』
「…虹色の…Seasons……?」
それは、Trickstarの曲だった
メンバーみんなで歌う所を、彼は
1人で歌い上げている
―君と出会いお互いを知り時は移ろってく
1人では何1つ変えられなかったよね―
…………なんで
『なんで、歌うのかなぁ…っ…』
―すれ違いの日々も 不安や寂しさも
支え合う強さへ 色を変えていくから―
『ばか…ばか…なんで忘れるんだよ…
真緒くんのばか、私の処女返せっ』
「…結羅ちゃん…」
―頑張ってきたこと誰よりも知ってる―
『ばか、ばか………すき…好きだよ…』
1度溢れ出た涙は止まることを知らなくて
ただ止まらなくて
―「…頑張ってきたこと、誰よりも
俺が知ってるから。だからさ
結羅は笑っててくれよ」
『…真緒くんが居なきゃ笑えない』
―「笑ってるお前が好きだ…勿論俺の隣で」
『いないじゃん、ばか………』
―「…なぁ、結羅」
『っ…なあに、真緒くん』
ボイスメモに居る、私の彼氏に
私は泣きながら返事をする
―「俺は、彼氏としたら何点くらいだ?」
何点、そんなの
『100点…満点だよ…っ』
―「俺はさ、結羅が
もし点数をつけるなら、付けれない
…点数じゃ伝わらないって思うくらい
最高の男になりたいんだ」
『…!!!!』
―「これからもさ、俺の隣で笑っててくれよ
本物の指輪渡しに行く日まで、渡してからも
歳とってからも、孫ができてもさ!
ずっと俺の隣で、笑っててくれ
……好きだ、大好きだ」
―「仕事に一生懸命な所だろ?
笑顔が可愛くて頼ってくれて、
俺のことよく見てる」
―『うんうん』
―「意外と食うとこ、我慢の限界になる前に
俺のところにくるとこ…あと」
―『?あと―』
―「…俺の事だけを、愛してくれるとこ」
約束するよ
『私も、真緒くんが大好きだよ
…もう、隣では笑えないけど
真緒くんのことだけを、愛してるよ
点数が、なくったって……っ』
「…結羅ちゃん」
『…真くん…真緒くんに伝えて
私のことを忘れて、幸せになって
って…』
「…それで、いいの?」
『っ真緒くんが一生私を気にするのは
嫌なんだ。真緒くんが幸せになるなら
それでいいから』
「…分かった、伝えておくね」
「真瀬さーん。真瀬結羅さーん」
看護師さんに呼ばれる
私は立ち上がり、ボロボロと泣いている
真くんに、別れを言った
『じゃあね』
「っ………僕…っ……何も、出来なくて
本当に…っ本当に…ごめんね…っ……」
『ううん!十分だったよウッキ〜!
…なんてねっ!1回呼んでみたかったの』
「っ………」
安眠室が私を待つ
今頃真緒くんは何してるかな
漫画読んでる?それともまた書類?
…その中で少しでも、昨日のデートのこと
考えてくれてたらいいな
そしたら少しは、私の気持ち
届いたって、思えるから
『本当に思い出してくれたら伝えて!』
部屋の前で振り返り真くんを見て言う
「なに、をっ…伝えたら、いいかなっ」
『…真緒、愛してるよ!』
「っ、っ!!!」
私の心からの気持ちと満面の笑みに
真くんは必死に頷いた
『じゃあね、真!』
「っ、バイバイっ」
部屋に入り、看護師さんに言われた通り
ベッドに寝転ぶ
「…素敵な、お友達ですね」
『はい、私の…大切な仲間です』
「……いいんですか?」
『…いいんですよ、私にとって
好きな人が何よりだった。それだけです』
「……きっと、来世では結ばれて下さいね」
『…ありがとうございます』
担当の先生が来て、私は深呼吸した
『………』
衣更くん…真緒くん………真緒…
真緒、真緒…………
なんて、素敵な名前なんだろ…
こんなに彼の名前を愛しいと、心から
思えるなんて、私は幸せだね
―「結羅」
なぁに
―「大好きだぞ!」
うん、知ってるよ
―「ずっと、大好きだから」
知ってるってば
―「次はどこにいこっか」
そうだなぁ、イルミネーションとか
行きたいね………
―「愛してるよ、結羅」
『わ、たしも…だよ…真緒、くん…』
―「ずっと、一緒に居ような」
…真緒……………
―「結羅!」
『なぁ、に…真緒………』
僅かな意識で、頭に浮かぶ愛しい彼に
呼びたかった呼び方で返事をした
すると彼は、あの愛しい笑顔で
―「…おやすみ、また明日」
うん
『…ま、お…………』
― おやすみ…