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―おはよう桜庭!
―おはようございます、衣更先輩!
『!!!!!……………夢、か…』
随分懐かしい夢を見た
時計を見るともうすぐ起きる時間
行きたくない学校へ足を運ぶべく
私は布団から体を起こす
『…おはよう』
「お母さんもう出るから後お願いね」
『…うん』
「あっ、そうそう。今日は遅くなるから」
見たらわかるよ。お洒落してるもん
それに香水の匂いがキツい
どうせ知らない男の人と遊ぶんでしょ
『分かった。気をつけてね』
返事もして貰えず、そのまま家を出ていく母
見送ると同時に父が部屋から出てくる
「今日は遅くなるから夕飯は要らない」
『うん、わかった』
ただ、それだけ。でも知ってる
そのネクタイ前まで持ってなかった
ちょっと高いネクタイ。
どうせ女の人と遊ぶのに、目立つため
高いもの買ったんでしょ
もう何年、親から名前を呼ばれて
居ないのだろう
『………また、ひとりだよ』
そう言って大切な猫のぬいぐるみ、
【まおくん】に話しかける
返事はなくても、まおくんは私の話を
いつも笑顔で聞いてくれる
まおくんといえば、同じ名前の
衣更真緒先輩が学校にいる
―お前が転校生か?俺は衣更真緒!
困ったことがあればなんでも言ってくれ!
力になれることならなんでもするし!
その笑顔に一目惚れして…
いつかお名前呼べるようにって
このぬいぐるみの名前を まおくん にした
今思うと気持ち悪い話だけど
今更変えるのも難しい
『…学校行かなきゃ………』
リュックとは別のトートバッグに
まおくんを入れて、私は家を出る
『…行ってきます』
返事なんて、返ってこないのに
☆*☆*☆*
「桜庭さんまだ来てたんだ」
―あんずちゃんを突き落としたのに
張り付いた嘘
「桜庭さん居たんだ?」
―プロデューサーはあんずだけでいいのに
『ごめんなさい………あっ、衣更先輩
おはようございますっ』
「…おう」
目に見えるように人の考えが読める
私自身を見て欲しいのに、誰も私を
見てくれないし信じてくれない
「おはよう、衣更くん」
「!おはよう、あんず!」
想ってた人さえも、奪われる
『………間違えたかなあ』
この道…プロデュース科の道に行けば
家にはない私の居場所が、出来ると思った
私の力で、人を輝かせることが
出来るかもしれない、人の役に立てると
そう、思ったのに
―プロデューサー!
―転校生!
―あんず!!!
彼女は、圧倒的に人気と信頼があって
あとから来た私は補佐でしか無かった
ここにも居場所がないのは嫌だ
頑張らなきゃって
思ってたのに……………
―「桜庭、話は聞いたぞ」
―『えっ』
―「桜庭ちゃん…どうしてあんずちゃんを
突き落としたりしたの!?」
―『えっ……な、なんのことですか?』
そっと微笑むあんず先輩
それを見て確信に変わるのは、私が
嵌められたということ
みんな私を見てくれない、信じてくれない
話なんてまったく聞いてくれない
あんず先輩が、私の居場所をまた消してく
私何かした?
邪魔した??
あんず先輩のお手伝いをしようとしたのに
何もしてないのに
「あっ、結羅ちゃん」
『…あんず先輩』
「ごめんねっ、こんなことして」
傷口を縫い付けようと頑張って
理由を聞こうとする私
『…どうして…こんなこと………』
「んー…イライラしたからかな」
『そ、そんな理由……』
「そんな?私にとってはすごく大きな事
結羅ちゃんのせいで、みんな
私を見てくれないの。だからね
これしか無かったんだ。ごめんね」
『………』
笑顔で去るあんず先輩
『…………』
そこで、全てが嫌になった
運命の賽は既に振られていて私は敗者
求める人も探す人もいない
こんなはずじゃ、ないのに
でも、好きな気持ちも、
悲しい気持ちも、溢れるだけで…なのに
『!衣更先ぱ……』
「サリ〜はさ、あの子に好かれてるよね?」
「ああ、桜庭な」
「そそそ!実際のところどうなの?」
「ど、どうって……別に何も思わねえけど?
寧ろここまであいつの不評が広まって
困るくらいだよ」
―困ったことがあればなんでも言ってくれ!
…そういったのは、あなたなのに
言う前に、選択肢を奪われた
屋上から見つめていた
『…消えたら、気持ちも消えるよね』
それは曇り空の梅雨
私の最期にはお似合いの空模様を
『…………ここ…どこ…』
目を開けると、白い天井
私は確か…学校の屋上で………
学校の、屋上で………?
「…!気が付いたか」
『………………ここ、は…』
「病院だよ…お前屋上から飛び降りて
死にかけたんだ……無事で良かっ」
『なんだ、死ねなかったんですね私』
「!?命をなんだと思ってんだ…!」
『…どうしてそこまで言われないと
行けないんですか』
カッとなり立ち上がっている目の前の
衣更先輩にそう言った
『衣更先輩には関係ないはずです
プロデュースならあんず先輩がいる
除け者にされてる私のことなんて
寧ろ放っておいたら死んで良かったんじゃ
無いんですか?』
―バチン!!!
『!!!』
「………もう1回言ってみろ。また叩くぞ」
『良いですよ。叩いてくださいよ
放っておいたら死んで良かったんじゃ
無いんですか?みんな元通りでしょ』
―バチン!!!
『……そもそもなんでいるんですか
私が死んだことの確認ですか?
確認してみんなに伝えて、それで
あんず先輩に あの子死んだよ って
伝えて安心させるためですか?』
「は!?そんなことするわけ…」
どうしてそもそも居るの
目が覚めたら好きな人がいるって
普通に考えると嬉しいのに
『じゃあ衣更先輩はどうしてここに
居るんですか。私はあんず先輩に怪我を
させたんですよ?全部全部あんず先輩に
任せて、あんず先輩だけ苦しんで
私は、ラクして楽しんで…そんな後輩の
風上にも置けないやつの病室に
どうして来たんですか?いるんですか?』
最低だって決めつけて私から離れて
この想いを消すため、もう、何も失わない為
ひとりぼっちを選ぶため
それに…叩く度悲しそうな顔をするなら
関わらないでほしい
『帰ってくださいよ』
「…………桜庭」
『帰ってください』
「おい、桜庭」
『早く帰って。ひとりにして。迷惑です』
私はそう心に嘘をついて布団に潜り込んだ
「…………また明日、来るからな」
『来ないでください』
病室を出る足音。静かになることを確認して
私は起き上がる。横には私の鞄
トートバッグがあることを確認して
中から まおくん を出す
『……………死ねなかったね、まおくん』
☆*☆*☆*
『……………今なら、大丈夫そう』
まおくんを持って私は病室を出る
キョロキョロと階段を探して屋上を目指す
………今度こそ…
『この世界が、私を消してくれたらいいな』
歪んだ感情だと知りつつ、私は階段を見つけ
上の階へ向かうと、屋上への入口が見える
『!あった』
「桜庭さん?」
しまった、看護師にバレた
「まだ昨日の今日なので病室で
安静にしてないとダメじゃない…!」
『お外の空気、吸いたくて……』
「だとしても必ずナースコールを押して
教えてください!」
『うう、次からちゃんと押します…
1時間経てば戻るから…!!』
純粋な何もしないという顔を向けて
看護師を説得する。簡単に信じたその
看護師は、そのままナースステーション側へ
戻っていった
『よいしょっ…』
思い扉を開けて風を感じる
誰もいない曇り空の屋上
迷うことなく柵まで近付いた
『…さすが病院…高いなあ…』
けどこの柵を上がって落ちればきっと…
『…まおくん、今度こそ成功しようね
ね、私を消して。愛を消してね』
柵に手をかけた時
「おい桜庭!なにしてんだ!」
『!!!!』
私の腕を掴むのは、昨日私を叩いた手
………衣更先輩だ
「お前、また飛び降りようとしただろ」
『してないです』
「嘘つくな!なんでここにいるんだ!
完全にこの柵を登ろうとしてただろ」
『……………だとしたら』
「させない。戻るぞ」
『っ…………』
力強い手に引っ張られ、病室まで
連れ戻される…もう少しだったのに
『どうして邪魔したんですか』
「は?邪魔?」
『私は確かに飛び降りようとしました
別に誰に迷惑もかけてない。ただ
飛び降りようとしただけ。なのにどうして
邪魔したんですか』
「死のうとしてる奴がいたら助けるだろ」
『あんず先輩に酷いことをした人でも?』
「同じ命を持った大切な人間だ
当たり前だろ」
そう言われ、学校のプリントを渡される
「ほらよ、今日の分。時間ある時にでも
勉強はちゃんとしろよ〜?あしたも
持ってくるからな」
『…明日も来るんですか』
「当たり前だろ。心配だしな」
"心配"
その言葉をかけられたのはいつぶりか
じんわり心があったかくなる気がした
『そうですか』
「…………その、ぬいぐるみは?」
『私のです。まおくんっていいます』
「!!まお…?」
しまった、言ってしまった
けど撤回はできないからどうしようもない
諦めよう
『まおくんは、いつも話を聞いてくれる
私のたった1人の友達です』
「…………そっか」
『…で、衣更先輩はいつまでいるんですか』
「ギリギリまで?」
『…早く帰ってください』
まおくんを抱えてまた布団に丸くなる
「また明日も来るからな」
『来ないでください』
来ないでって言うのに、衣更先輩は
それからも毎日来ている
飛び降りようとしても必ず止められるし
どうして邪魔されないといけないのか
ここまで関わってくるのか分からない
貴方だって、私の事なんて信じてない
あんず先輩を庇うんでしょ
1週間経った時
『………まおくんまおくん、もうすぐ
衣更先輩が来る時間だね』
病室から看護師さんが去り、ふと
まおくんに話しかけた
なんとなく、衣更先輩が来る時間が
分かってきた。毎日来るのだ。
ユニットの練習も出来ているのか気になる
これで私のせいにされても困るし……
『まおくん、どうしよう…昨日もまた
死ねなかったね…ねぇまおくん、私を
消してよ。最低だって決めつけられた
私を消して。誰にも信じて貰えないの
お父さんもお母さんも1度も来ない
………やっぱり要らない子だったのかな』
まおくんは笑ったまま、いつも通りで
返事はしてくれない
『……まおくんまおくん、早く消えたいよ
誰にも必要とされてない私なんて嫌だよ』
じっとまおくんを見つめた時
【…結羅ちゃん、そんなこと
言わないでよ!】
『!まおくん…………?』
私の腕の中にいる、まおくんが話した
じっと見てみても、ドア付近を覗いても
誰も立っていない。隣のベットも空いてた
はずだし、カーテンも閉められてるから
誰も入ってきてないし…………
『まおくん、なの』
【お、おう!まおくんだよ!】
『…まおくんってそんな返事するんだ…』
驚きつつも、じっとまおくんを見つめる
【結羅ちゃん、学校で何があったの?
そんなに皆のことが嫌い?】
『…嫌いだよ…私はただ頑張りたかった
あんず先輩に言われたの
貴方は居なくていいんだよって……
階段から落ちようとするあんず先輩の
手を掴もうとしたのにね…振り払われて…
気付いたら、私が悪くなってた
まおくんには話したこと無かったっけ?』
【うっ、うん…………】
ぎゅっとまおくんを抱きしめて私は言った
『……好きな人もいた、みんなと仲良く
したかった。支えたかった………
まおくんも見てるでしょ?家の様子…
お母さんもお父さんも別の愛人作ってるし
私の事いつも放ってる……会話もほとんど
無くなっちゃったよね…せめて学校では
………居場所が、欲しかったなあ』
最低だって決めつけられて
瞬く間に居場所は無くなって
【…結羅ちゃんは、"真緒"くんに
とって大切な人だよ】
『ありがとう、まおくん。ねぇまおくん
私が死ねる日は、まおくんも一緒に
居ようね……死んだら、感情も消える
…愛情を消せる……記憶も、存在も全部
そこでやっと私は居場所が見つかる
生きてる中で居場所がないなら、
死んだ先でまおくんと探せばいいよね
黄泉の国でおさんぽしながら、私が
居るべき場所を一緒に探して欲しいな』
【……夢ノ咲学院には、無いの?】
まおくんは悲しそうな声でそう言う
『うん。ないよ!…そっか、まおくんいつも
鞄の中に居るもんね…もし生きて夢ノ咲に
また行くことがあれば、廊下とか一緒に
歩こう。そしたらみんなの反応が
まおくんもわかると思う…嫌な思いさせたら
ごめんね!まおくんは私が守るからね』
【まおくんが、結羅ちゃんを
守りたいな……】
『ううん!他の人に何されるか
わかんないんだもん!私が守るね
大丈夫、我慢するのは慣れてるから』
【結羅ちゃん……】
たった1人のお友達だから、絶対に
まおくんは私が守るんだ
『…まおくん、ちょっとお休みしよっか
…このまま目が覚めなくて、死ねたら
良いのにね……私を消してよ……みんな
のことを最低だって決めつけて、
そのままみんなの中から忘れられてさ…
そしたら…わたし、だって……衣更先輩…の
……こ、と……』
ふと襲って来る眠気
抗うことなく、まおくんを抱きしめて
そのまま眠りについた
…ああ、目が覚めませんように
☆
『………まおくんまおくん、もうすぐ
衣更先輩が来る時間だね』
看護師さんが出てきたから、
扉を開けたまま会釈だけして入れ違いで
病室に入ると
桜庭はぬいぐるみに話しかけていた
『まおくん、どうしよう…昨日もまた
死ねなかったね…ねぇまおくん、私を
消してよ。最低だって決めつけられた
私を消して。誰にも信じて貰えないの
お父さんもお母さんも1度も来ない
………やっぱり要らない子だったのかな』
顔を出せる雰囲気ではなくて
隣の空きベットのカーテン裏に隠れる
『……まおくんまおくん、早く消えたいよ
誰にも必要とされてない私なんて嫌だよ』
悲しい声が響く。そんな真瀬の声を
俺は聞いたことなくて…それで………
【…結羅ちゃん、そんなこと
言わないでよ!】
『!まおくん…………?』
俺は何してるんだ…………!!?
桜庭ってなんか呼んだらバレるかな
とか思って下の名前でしかもぬいぐるみ
っぽく高音出してみたけど…!
『まおくん、なの』
【お、おう!まおくんだよ!】
『…まおくんってそんな返事するんだ…』
信じた!?!?!?まじで!?!?
わかるだろ!?いや、こいつがそれほど
純粋ってことだよな…
【結羅ちゃん、学校で何があったの?
そんなに皆のことが嫌い?】
『嫌いだよ…私はただ頑張りたかった
あんず先輩に言われたの
貴方は居なくていいんだよって……
階段から落ちようとするあんず先輩の
手を掴もうとしたのにね…振り払われて…
気付いたら、私が悪くなってた
まおくんには話したこと無かったっけ?』
ぬいぐるみは分からないけど、少なくとも
俺は初めて聞いた。ここまで話している
真瀬を見るのも初めてだし、
その話をしてくれるのも初めてだ
【うっ、うん…………】
『……好きな人もいた、みんなと仲良く
したかった。支えたかった………
まおくんも見てるでしょ?家の様子…
お母さんもお父さんも別の愛人作ってるし
私の事いつも放ってる……会話もほとんど
無くなっちゃったよね…せめて学校では
………居場所が、欲しかったなあ』
そんな、泣きそうな声をしないでくれ
【…結羅ちゃんは、"真緒"くんに
とって大切な人だよ】
伝わってくれ。お前が今抱きしめてる
まお以外も、大切に思ってる事を
『ありがとう、まおくん。ねぇまおくん
私が死ねる日は、まおくんも一緒に
居ようね……死んだら、感情も消える
…愛情を消せる……記憶も、存在も全部
そこでやっと私は居場所が見つかる
生きてる中で居場所がないなら、
死んだ先でまおくんと探せばいいよね
黄泉の国でおさんぽしながら、私が
居るべき場所を一緒に探して欲しいな』
楽しそうな、嬉々とした声でそう言う
話していることはダメな話なはずなのに
ここまで明るく声を発する彼女は本当に
久しぶりだった
―おはようございますっ衣更先輩!
【……夢ノ咲学院には、無いの?】
『うん。ないよ!…そっか、まおくんいつも
鞄の中に居るもんね…もし生きて夢ノ咲に
また行くことがあれば、廊下とか一緒に
歩こう。そしたらみんなの反応が
まおくんもわかると思う…嫌な思いさせたら
ごめんね!まおくんは私が守るからね』
そうだ、彼女は元々明るい人間だ
この楽しそうな声が、嬉しそうな声が
真瀬が持つ本来の声なんだ
それを殺してるのは紛れもない俺たちで
【まおくんが、結羅ちゃんを
守りたいな……】
自分勝手だと分かっていても言ってしまう
けどこの思いも紛れもない真実で
『ううん!他の人に何されるか
わかんないんだもん!私が守るね
大丈夫、我慢するのは慣れてるから』
【結羅ちゃん……】
もう、頼ってくれない
困ったことがあれば言ってくれって
頼れって言ったのは俺なのに
『…まおくん、ちょっとお休みしよっか
…このまま目が覚めなくて、死ねたら
良いのにね……私を消してよ……みんな
のことを最低だって決めつけて、
そのままみんなの中から忘れられてさ…
そしたら…わたし、だって……衣更先輩…の
……こ、と……』
静かになったカーテン越しの隣のベット
そっと覗き込むと、ぬいぐるみを抱きしめ
桜庭は寝てしまったようだ
「最後、なんて言おうとしたんだ…」
初めて見る寝顔に胸が締め付けられる
彼女はこんなに優しい表情ができるのに
こんなに純粋な気持ちを持ってるのに
「…なあ、桜庭」
俺に、また笑いかけてくれるのは
いつになるんだろうな…
「…あれ、ここどこだ」
目の前には大きくて綺麗な川
川の先には沢山の花が咲いている
こちら側も負けじとたくさんの花が
咲いているが、向こう岸には劣る
-ひっぐ、ひっぐ……
「?誰かの、鳴き声………?」
ふと周りを見渡すと
「…桜庭?」
真瀬にそっくりな小さな女の子が
川に腰まで浸かり、涙を流している
…いや、そっくりじゃない。これはきっと
小さい頃の真瀬だと、不意にそう感じた
『ひっぐ、ひっぐ……』
「おい桜庭、どう………!!」
触れようとしても彼女の元まで行けない
声をかけても聞こえないようで
俺はただ、泣いてる彼女が
泣き止むのを待ち続けた
「もう、泣くな…」
『ひっぐ…おかあさ…おとうさ……
ひっぐ………ゆ、うら………さみ、しいよ…』
「!!」
それは、彼女の心の声
途端に俺の頭の中に聞こえたのは
-『お母さん見て!100点とれたよ!』
-「そう。お母さん忙しいのまた後でね」
-『う、うん…あっお父さん!
みてみて!皆勤賞取れたよ!!』
-「ああ、お父さん忙しいからそれは
お母さんに言いなさい」
『……ゆ、うら……っ…ほめて、ほしかった
出来るよ、って…知って欲しかった…』
徐々に声音は今に近付く。
視界を彼女に向ければ、姿もまた
成長しているようで
-『…だだいま……誰も、居ないよね
お母さんもお父さんも仕事だっけ…』
- 「ほら、誕生日プレゼントだ」
-『お父さん、私もう高校生だよ
ぬいぐるみなんて……でも、ありがとう』
そう言って抱きしめてるのは
彼女がずっと持っていた 【まおくん】
-『ねね!今日から夢ノ咲のプロデュース科
になるんだよ、私!』
-『…決めた、君の名前は まお!
…いつか、衣更先輩のことを真緒先輩
って呼べるように…練習させてね』
「…!!!」
-『まおくん!おはよう!今日は衣更先輩と
お話できるかな…?』
-『まおくん…衣更先輩ってどんな髪型が
好きなのかな…?』
-『まおくんまおくん、今日はね、
衣更先輩と沢山お話ができたよ!』
脳内に聞こえてくる言葉
それはどれも幸せそうな声をして
俺のことを話している声音だった
-「…桜庭ちゃん、あんずちゃんを
突き落としたってほんと?」
-『ちがう!そんなことしてない!』
けど、時が最近に進むにつれ
-『衣更先輩、おはようございます!』
『…衣更先輩……今日も、素敵です』
川の中にいる彼女は、震え始める
「………桜庭」
-「…おう」
『…衣更先輩……いつも、お疲れ様です』
「……桜庭」
-『おはようございます衣更先輩…!』
-「………おう」
『…衣更先輩………』
「…桜庭」
-『おはようございます…衣更先輩…』
-「………」
『衣更、先輩…………』
「桜庭」
『衣更先輩…………"たすけて"』
"わたし、なにもしてないよ"
途端に身体が軽くなる。同時に俺は
川の中にいる彼女目掛けて走り出した
…のに、同時に彼女も向こう岸目掛け
歩き始めた。いくら器用貧乏な俺でも
これくらいは分かる
「桜庭、行くな!お前死ぬぞ!」
『……衣更、先輩』
「俺はこっちだって!!!」
どうやらこの川…三途の川の向こう岸
…あの世には、俺がいるらしい
完全に引っ張られてるじゃねぇかよ
「おい、桜庭!」
何度呼んでも彼女が振り返ることは無い
このままだと本当に…
-『衣更先輩………"たすけて"』
桜庭を、救えなくなる
なにか、何か手はないのか…
「っ…結羅ちゃん!
そっちに行っちゃダメだよ!」
『!!…まおくん…?』
えっ、嘘だろこの声届くのまじで?
いやそんなことを言う暇はない
【そっちに行くと死んじゃうよ!
だから戻ってきて…!!】
『…まおくん……私、頑張ったよね』
彼女は肩を震わせながらそう言った
『…まおくん、もう疲れたよ』
【行っちゃダメだよ…待って!お願い!】
『……まおくん、衣更先輩の話
沢山聞いてくれてありがとうね』
「っ…桜庭!まて!頼む!」
『居場所、探そうね』
「待って、待ってくれよ…」
『…まおくん、私ね……衣更先輩には
何もしてないって信じてもらいたかった』
もう少し、あと少しで届くのに
『衣更先輩』
「桜庭…!!!」
パッと彼女は振り返って、笑った
『…大好きでした!』
「っ…結羅!!!!!」
ふと目を開き見渡す
変わらない病室と、変わらない風景が
そこには広がっているのに
「…はっ?」
―無機質な、一定の機械音が響いている
「…………まっ…て…くれよ……」
慌ててナースコールを押してから
彼女の手を握る
無機質な音は、彼女の心臓が
時を止めていることを尚も知らせている
「桜庭…なぁ、桜庭…!!!」
―『衣更先輩』
「…待って…………いくな…っ…まだっ
まだ…………お前に謝れてない………」
握りしめていた手に力を込めて、
俺は彼女に向かって声を出した
「まだ…」
―『大好きでした!』
「その言葉をちゃんと…
まだお前から聞いてない!!
まだ、まだお前を死なせない!!
俺の隣で生きてくれよ!!!」
いつからか、俺は泣きながら震えていて
どれだけ涙を流しても現状は変わらなくて
―ただ必要とされたかった彼女を
今になって俺は心から必要だと欲した
「…一命は取り留めました。ですがこうなった理由が分かりません。いずれ目は覚ますと思うのですが……」
「…そう、ですか……」
医師が出ていくと、再び俺と桜庭の
2人になる。不意に気付いたこの違和感
見舞いに来るのも、今の状態を知るのも
焦っていたのも、彼女が必要だと思うのも
全部、俺1人なのではないか
確かに彼女の両親が見舞いに来て、俺と
鉢合わせたことも無い
俺以外の夢ノ咲の奴が来たことも無い
なら本当に…本当に桜庭の友達は……
「お前だけ、なんだな」
俺はそんな大したものじゃない
頼れと言ったのに、彼女が起こした
あんずへの不祥事で書類は溜まり
困り果てていたのを理由に俺は、彼女へ
他の奴と同じ当たりをしていたのだから
「そりゃ頼れなく…いや…
頼らなくなるよな……俺の自業自得だし」
横に置かれたぬいぐるみを触り
俺は自らを嘲笑う
桜庭にとっては何気なくても
みんなと笑って過ごす日常こそが
価値のある宝物だったんだ
いつまでも続きますように、なんて
きっと思っていたに違いない
当たり前の日々がまた消えて
―助けて
初めて聞いた彼女のその声に
俺の胸が苦しく音をあげる
「……俺は信じるよ」
例えそれが許されなくても
ここまでの彼女を見たら、あんなこと
するはずないし出来るはずもないと思う
「だから目覚ましてさ…ずっと
俺のそばで微笑んでいてくれよ……」
泣かずにどうか俺の言葉を聞いて欲しい
何もしないし怖がらないで欲しいんだ
お前が辛いなら俺がそばにいる
もう、もう離れないから
……………だから怯えないでくれ
「…結羅」
『…………』
「…泣くな………」
彼女の目尻から涙を拭うと
『……………?せんぱ………い…?』
その声と共に、綺麗な瞳と目が合う
気付けば腕で彼女を包み込んでいた
「桜庭…ッ!よかった………」
『…わ、たし………………』
「急に心肺停止になったんだよ……
良かった…ほんとに…目を覚ましてくれて
本当に良かった…」
『…また、死ねなかった…んだ……』
「っ!!」
その言葉を聞き、俺が目を合わせた時
桜庭からまた口を開いた
『…衣更先輩、どうして助けたんですか』
「えっ…」
『私が死のうとしたのに、せっかく川を
渡り切ろうとしたのに…どうしてこっちに
引き戻したんですか…』
「引き、戻した………?」
―「その言葉をちゃんと…
まだお前から聞いてない!!
まだ、まだお前を死なせない!!
俺の隣で生きてくれよ!!!」
もしかして、あの声が
「俺の声が、聞こえたのか…?」
『はい』
「っ良かった…俺の声が届いたんだなっ」
『…………私は衣更先輩の声で…
隣で生きてくれって、そう聞こえました
勝手な解釈ですが…』
「いや、それであってるんだ」
『…はっ?』
きょとんとする彼女に、俺は言った
「お前の無実を証明する
絶対また学校に笑ってこれるように
俺がするから…もし難しくても俺が…
絶対……"結羅"を護るから
だから…死なないでくれ………」
彼女が消えないように必死に自らの腕で
また彼女を包み込んで、懇願するように
俺は声を振り絞ってそう伝えた
『……………本気、ですか?』
「本気だ」
『…ここまで私が悪いって広まってるのに
無実を探すんですか?』
「お前の為なら全力で探す」
『誰も手伝ってくれないと思いますよ』
「それでも俺ひとりで探す」
『衣更先輩まで悪く言われるかもですよ』
「お前が無実を証明できるならいいよ」
『…ほんとに、私がしたかも、
しれないんですよ?』
「俺は真瀬を信じる」
すると彼女は俯き、震えた声で
『な、んで…そこまで…っ………今更…』
一言一言、俺に伝えた
「…そうだよな、今更だよな………俺も
それは理解してる…ごめん、本当に。
もっと早く助けてやれなくて、他の奴らと
同じようにお前から離れて、勝手だって
分かってる。都合がいいって思うだろ
…けど、入院してからずっとお前を見てて
…絶対、あんずを傷つけることはしない
って……本当は優しいやつだ、って…
すげぇ感じたんだよ………」
『……』
「……俺……………」
そこまで言った時、病室の扉が開く
入ってきたのは俺と同じユニットの3人
「北斗、スバル、真…………」
「水臭いぞ衣更。何故俺達を頼らない」
「…えっ?」
「そうだぞホッケ〜!【マセマセ】の
無実を証明するんでしょ?俺達も手伝う!
だってマセマセはそんな事しないよ!」
『…っ…!……』
「衣更くん、僕達は仲間で友達だよ
1人じゃ難しいことも、4人居たら出来る
アテを辿るから、情報はやっぱり
僕に頼って欲しいな〜…なんて」
「真…………お前ら………!!!」
俺が感銘を受けていると、北斗は言った
「…桜庭、助けてやれなくてすまない
良い先輩とは言えないが、せめてお前が
学校でまた笑えるよう、Trickstarが
全力で無実の証拠を探そう」
『ひ、氷鷹先輩…………』
「ごめんねマセマセ……マセマセはね、
笑ってると凄くキラキラなんだよ!」
「結羅ちゃん、辛い思いをさせて
本当にごめんね…情報を見つけて、必ず
何とかするから………!」
『…明星先輩…遊木先輩………』
続けて声を発するスバルと真を見て
桜庭は涙ぐむ。その涙を優しく拭い
俺は目を見て笑った
「なっ?革命を起こした俺たちを
信じてくれ…お前を…俺たちは
………俺は…!絶対笑わせてやる…!」
すると目を見開いた真瀬は
少し頬を赤らめてから俺を見て
『はい、衣更先輩…っ!!』
出会った頃には及ばないけれど
彼女なりの【今】の心からの笑顔を見た
.☆.。.:.+*:゚+1年後
「お待たせ!」
『…!』
プロデュース科に移動し、会う機会が
少し減ってしまったものの、こうして
放課後に時間を合わせては一緒に帰る
『お疲れ様です、生徒会長』
「ははっ、お前から生徒会長って
言われると何かムズムズするよ」
『けど生徒会長ですし………』
あれから。真の情報調査…目撃者やカメラ
様々な分野からの情報によって
こいつが本当に何もしてなかったことが
きちんと証明された。
一斉に謝ってくる生徒達に、彼女が
言ったのはたった二言
―『大丈夫ですよ。ただ、あんず先輩を
責めないで下さいね………』
その言葉の影響か、あんずはすごい勢いで
謝罪。頭を下げ、涙を堪えながらも
本音を話し、彼女と向き合った
「ははっ」
『えっ、なんですかいきなり……』
けど、家庭環境は変わらないようで
俺は少しでも結羅が楽しく
過ごしてくれるよう、なるべく放課後は
出掛けて長い間過ごすようにしてる
「いや…お前がこうして笑って居てくれる
ことが幸せだなあって」
そうすれば家にいる時間も減って
彼女がもっと笑ってくれる気がした
『………誰のおかげだと思ってるんですか』
今ではあんずと一緒にプロデュース科を
引っ張る頼もしい子になっているし
そして何より
「んー、俺?」
『…わかってるじゃないですか』
「まぁな〜…んで、今日は一体全体
何処に行きたいんだ?…"結羅"」
『今日はずっと観たかった映画を…!
以前お話してたものなんですけど』
「お!俺が気になるって言ったやつ?」
『そうです。行きましょう!』
正門を出る彼女の後ろ姿を見て
1年前からの成長や進歩を感じて
胸がキュッと鳴る
『どうしたんですか?早くしないと…
…置いていきますよ、"真緒"先輩!』
こういう関係になれたのも
かなり嬉しいことで
「ええ!?待ってくれよ!」
楽しそうに笑う彼女の隣に立ち
優しく手を握りしめると、俺よりも小さく
柔らかい手は握り返してくれるのが愛しい
「………結羅」
『?』
左側を向くと彼女と目が合い、問う
「…幸せか?楽しいか?」
すると彼女は出会った頃より明るく
可愛い笑顔で言った
『はいっ!』
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