一万打記念&秋のR18オンリー企画
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※カフェ店長シリーズの杉元です
ぎゅるるるる、とすぐそこで大きな音がして目が覚めた。アラーム?と思ったけど、今日は予定も何も無い土曜日だから設定した覚えはないし、そもそもこんなアラーム音なんてない。
「ごめっ、ふふっ……凄いお腹鳴っちゃった」
恥ずかしそうに佐一君が笑っている。その間にもコロコロとまたお腹が鳴っているのが愛おしい。佐一君が笑う度に抱きついている私も揺れて、意識が段々とはっきりしてくる。
「んん……なんじ……?」
「何時だろ……うわ、もう11時半だ」
ごろっと向こうを向いてスマホを見た佐一君が焦った声を出した。さっき一回起きた時はまだ8時とかだったのに……時の流れは残酷だ。もうすぐ今日の半分が終わろうとしている。佐一君は土日に試合が入ることもあるから、二人でゆっくりできる休日は案外貴重だったりする。外に出かけてワクワクする1日を過ごすのも良いけれど、こうやって家でのんびりと休みを満喫できるのも嬉しい。特に、今日みたいな雨の日は。
「早くパンケーキパーティーしよう?」
「うん……あ、ホットプレート出さなきゃ」
「寝る前に出しといたよ」
「さすが佐一君」
でしょ、と佐一君が得意げに笑いながら、まだあくびが止まらない私を抱き起こした。
今日は一日中雨の予報だし、久々の二人揃ってのお休みだし、折角だからパンケーキパーティーを開催しようと一昨日くらいから二人で決めていた。パーティーと言うからには沢山焼いて、色々トッピングを乗せて豪華にしようと、昨日のうちにヨーグルトやフルーツなんかも買っておいたのだ。
身支度もそこそこに、二人で手早くパーティーの準備を進める。準備と言ってもパンケーキミックスを混ぜてフルーツを切るぐらいなのですぐに終わってしまう。温めておいたホットプレートに少なめの生地を流し入れて、小さ目のパンケーキをいくつか焼いていく。空いた所でトッピング用のベーコンと卵も焼いておく。少ししてポツポツと表面に気泡が出来てきたらひっくり返して、また数分焼けば完成だ。ワクワクしながら、出来上がった優しいきつね色のパンケーキを自分たちのお皿に乗せた。
「うわーどれにするか迷うな」
「私ベーコンと卵にする」
「じゃあ俺はヨーグルトとフルーツにしようかな」
少し焦げ目がついて美味しそうなベーコンと半熟卵をパンケーキに乗せた。ちょこっとブラックペッパーを振れば、なんだかオシャレなお店のメニューみたいでテンションが上がる。いただきます、と一口大に切ったのを口に入れれば、頬が落ちるほどの美味しさに自然と笑顔になっていく。生地の甘さが控えめだから、塩味の強いベーコンにも良く合う。半熟の黄身をたっぷりとつけて食べれば塩っ気を優しく包み込んでくれて、まろやかな味に変化する。う〜ん!と目の前の佐一君も幸せそうに舌鼓を打っている。
「ふわふわの生地にヨーグルトの甘酸っぱさとフルーツが合わさってとってもヒンナ!」
「やっぱりトッピングがあると豪華でおいしいね。今度は明日子さんも呼ぼうよ」
「そうだね、絶対喜ぶよ」
奮発して買ったメープルシロップをベーコンの上に少しかけた。ドキドキしながら口に含めば、しょっぱさと甘さが合わさった背徳感溢れる味が口いっぱいに広がって、もっと幸せな気分になった。こんな贅沢なものを食べられるなんて、最高のお家デートだ。
「ん!そういえば来週なんだっけ、二人の初デート」
「そうそう。本当に大丈夫か俺もう心配でさぁ……」
浮かない顔をしつつも、佐一君のパンケーキを食べる手は止まらない。大きな一切れがまた口に消えていった。
佐一君と会う時は、決まってとあるカフェの店長さんの話になる。最初は知らない女の人のことを楽しそうに話す姿に面白くない気持ちがあったけど、段々と話を聞いていくうちに私もその店長さんと御曹司の恋の行方に興味津々になってしまった。少し前に生放送の放送事故──と言ったらなんだか可哀想だけど、公開プロポーズでトレンド1位を掻っ攫った時なんて、私達だけが知っていた店長さんが世間に見つかってしまった気がして、良く分からない嬉しさと悔しさが絡み合った複雑な気持ちになったほどだ。そして今回、もどかしかった二人がやっと一歩進んで、水族館に初デートに行くことになったらしい。
「佐一君、こっそり着いて行きたいなぁとか思ってるでしょ」
「……そんなことないよぉ?」
斜め上を見ながら返事をした佐一君に笑ってしまう。誤魔化し方が下手すぎる。着いていく気満々だ。でも本当のことを言うと私も着いていきたいのであんまり人のことを言えない。全部食べ終わった佐一君がまた一枚パンケーキを取って、もう一枚を私のお皿に乗せた。ベーコンと卵も取って、空いたホットプレートに新しく生地を流し入れていく。
「おかず系も美味いね」
「メープルもかけてみてよ」
「やだぁ、止まらなくなっちゃう」
佐一君があっという間に2枚目も食べ終わった。
「これもう頃合いかな?」と段々と表面がぽつぽつとしてきたパンケーキの底を確認し始めた。てきぱきと佐一君が全部やってくれているので私は食べる専門みたいになってしまっている。代わりに洗い物は任せてほしい。1枚目をようやく食べ終えて、次はヨーグルトにしようと容器に手を伸ばした時だった。
「あっ!」
佐一君が急に大きな声を出した。ひっくり返すのを失敗したのかと思ったけど違ったみたいだ。片面だけ焼かれているパンケーキは、ホットプレートの上で返されるのをまだかまだかと待っている。フライ返しを持ちながら佐一君がキラキラとした瞳を私に向けてきた。
「ナマエちゃん、来週一緒に水族館行く?」
「偶然を装おうとしてもダメだよ佐一君」
それに試合があるでしょ、とヨーグルトとフルーツを乗せたパンケーキを頬張った。「こっちもたまたま水族館デートしに来ただけですけど?」というテイで二人をこっそりつける魂胆なのだろう。見え見えだよ、佐一君。「ダメかぁ」と笑いながら今度こそパンケーキがひっくり返された。少し長めに放置されたからちょっと焼き目が強くなっている。でもこれはこれで香ばしくて美味しそうだ。
「鯉登さん、黒塗りの車で送迎するのかなぁ」
「あーしそう!あいつなら絶対するね!しかも運転手付き!」
佐一君が興奮気味に食いついてきた。
「あと喜んでたのが嬉しくて水族館丸ごと買ったりしそうだな」
「『これから毎日水族館に行けるぞ!』って?まさかぁ」
「あいつならやりかねないのが怖い」
佐一君が眉間に皺を寄せて真剣に言った。お金持ちってすごいな。会ったこともない鯉登さんについての勝手なイメージがどんどん膨らんでいく。セレブだねぇ、と最後の一口を頬張って、ふと佐一君がこちらを見つめていることに気づいた。
「ナマエちゃんも黒塗りの車で送り迎えされたかった?」
「え〜?いやぁ、それはちょっと……」
高級車でお出迎えなんて映画のようで憧れはするけど、実際されたらたまったものじゃないと思う。
「私はこうやってのんびり佐一君と過ごせるのが一番好きだよ」
言っていて少し恥ずかしくなったので、誤魔化すように食べごろになったパンケーキをお皿に乗せた。さっきの焼き目の強いパンケーキだ。これはシンプルにバターかな、と思って佐一君の近くに置いてあったバターに手を伸ばしたら、手首を掴まれた。
「ん?なに?」
「……好き」
驚いて手を引こうとしたのに、ぎゅっと手を握りこまれて叶わなかった。真っ直ぐこちらを見ながら、また「好き」と少し低めの声で言ってくる佐一君にじわじわと顔が火照っていく。
「ねぇナマエちゃん、ぎゅってしたい」
「……食べ終わってからね」
パッと手が離されて、佐一君がホットプレートの上に残っていた2枚のパンケーキをかっさらった。ダバァっと豪快にメープルシロップをかけて、大きな一口でどんどん食べ進めている。
「佐一君急ぎすぎだって。ちゃんと噛んでる?」
「ナマエちゃんも早く食べて」
ほらほら、と急かされて私もまた一口頬張った。そんなにぎゅってしたいの?と自惚れた考えが頭に浮かんでむず痒い。
「ほら、俺食べ終わったよ」
驚きの速さで2枚のパンケーキを食べ終わった佐一君が、両肘をついてじぃっとこちらを見て来るので居心地が悪い。早く食べて、と念じているのがひしひしと伝わってくる。でも目の前のパンケーキはまだ2/3ほど残っている。正直なところ、私の胃袋に入り切るのか分からない量だ。
「待って、ちょっともうお腹いっぱいかも……」
言い終わるや否や、佐一君が無言でキッチンからラップを持ってきて私のお皿の上にかけた。行動力がすごい。そのまま腕を引かれてソファーに連れて行かれ、佐一君の膝の上に乗せられた。
「俺もナマエちゃんとこうやって二人で過ごすの好き」
後ろからぎゅうぎゅうに私のことを抱き込みながら、嬉しそうに言う佐一君にぶわっと体温が上昇した。私よりもずっと大きな体にすっぽりと抱きしめられるこの体勢を、私がとても好きだということを佐一君は知っている。別にさっき食べている時に言ってくれたって良かったのに、わざわざこうやって伝えてくるところがとてもズルいと思う。
「照れてる?」
「照れてない」
「かわいいなぁ、耳赤いよ」
耳に軽いキスが落とされた。ひんやりとした唇の感触に、耳が真っ赤になっていることを痛感した。
「ね、こっち向いて」
言われるがままに佐一君の方を振り向けば、すぐに唇が重ねられた。いつもよりも何だか甘い気がするのは、さっき豪快にかけていたメープルシロップのせいだろうか。あれ結構高かったんだよ。でも佐一君が気に入ってくれたなら良いか。何度も角度を変えて、啄むようなキスが続く。最後にぺろりと唇を舐められて、佐一君が離れて行った。
「甘いね」
「佐一君も」
お互いに笑い合って、背中を佐一君に預けた。鍛えられた筋肉は一見硬そうに見えるけど、実際は指が沈み込むように柔らかくてクッション性がある。私だけの特別席だ。
「……外だとこういうこともできないしね」
囁かれた言葉に固まれば、ちゅっとまた耳にキスが落とされた。耳が熱い。顔も熱い。
「可愛い、ナマエちゃん」
さっきまでもぐもぐと幸せそうにパンケーキを頬張っていたとは思えないほど艶っぽい声が聞こえてきて、また体温が上昇する。もぞもぞと体を反転して、佐一君の首筋に顔をうずめて背中に腕を回した。心地良い沈黙が訪れれば、外のサァサァと振り続ける雨の音や、濡れた地面を走るタイヤの音が聞こえてくる。まだ昼下がりなのに、雨のせいなのかいつもよりもしっとりとした空気が私たちを包み込んでいる。雨音と、するすると髪を梳かれる感覚に、少しずつ心臓が落ち落ち着きを取り戻していく。
顔を上げれば、すぐに佐一君と視線が交わった。優しい眼差しは私だけに注がれている。このままずっと雨が止まなければ良いのに。そんなことを思いながら、今度は私から佐一君に唇を重ねた。
あとがき
ほんわかした雰囲気がお好きということでしたので、カフェ店長シリーズの杉元で書かせていただきました。次から次へとパンケーキを焼いて食べる杉元が書けて幸せでした…!あまり雨関係なくてすみません…!兎杏様、素敵なリクエストをありがとうございました〜!!
2024.06.03
ぎゅるるるる、とすぐそこで大きな音がして目が覚めた。アラーム?と思ったけど、今日は予定も何も無い土曜日だから設定した覚えはないし、そもそもこんなアラーム音なんてない。
「ごめっ、ふふっ……凄いお腹鳴っちゃった」
恥ずかしそうに佐一君が笑っている。その間にもコロコロとまたお腹が鳴っているのが愛おしい。佐一君が笑う度に抱きついている私も揺れて、意識が段々とはっきりしてくる。
「んん……なんじ……?」
「何時だろ……うわ、もう11時半だ」
ごろっと向こうを向いてスマホを見た佐一君が焦った声を出した。さっき一回起きた時はまだ8時とかだったのに……時の流れは残酷だ。もうすぐ今日の半分が終わろうとしている。佐一君は土日に試合が入ることもあるから、二人でゆっくりできる休日は案外貴重だったりする。外に出かけてワクワクする1日を過ごすのも良いけれど、こうやって家でのんびりと休みを満喫できるのも嬉しい。特に、今日みたいな雨の日は。
「早くパンケーキパーティーしよう?」
「うん……あ、ホットプレート出さなきゃ」
「寝る前に出しといたよ」
「さすが佐一君」
でしょ、と佐一君が得意げに笑いながら、まだあくびが止まらない私を抱き起こした。
今日は一日中雨の予報だし、久々の二人揃ってのお休みだし、折角だからパンケーキパーティーを開催しようと一昨日くらいから二人で決めていた。パーティーと言うからには沢山焼いて、色々トッピングを乗せて豪華にしようと、昨日のうちにヨーグルトやフルーツなんかも買っておいたのだ。
身支度もそこそこに、二人で手早くパーティーの準備を進める。準備と言ってもパンケーキミックスを混ぜてフルーツを切るぐらいなのですぐに終わってしまう。温めておいたホットプレートに少なめの生地を流し入れて、小さ目のパンケーキをいくつか焼いていく。空いた所でトッピング用のベーコンと卵も焼いておく。少ししてポツポツと表面に気泡が出来てきたらひっくり返して、また数分焼けば完成だ。ワクワクしながら、出来上がった優しいきつね色のパンケーキを自分たちのお皿に乗せた。
「うわーどれにするか迷うな」
「私ベーコンと卵にする」
「じゃあ俺はヨーグルトとフルーツにしようかな」
少し焦げ目がついて美味しそうなベーコンと半熟卵をパンケーキに乗せた。ちょこっとブラックペッパーを振れば、なんだかオシャレなお店のメニューみたいでテンションが上がる。いただきます、と一口大に切ったのを口に入れれば、頬が落ちるほどの美味しさに自然と笑顔になっていく。生地の甘さが控えめだから、塩味の強いベーコンにも良く合う。半熟の黄身をたっぷりとつけて食べれば塩っ気を優しく包み込んでくれて、まろやかな味に変化する。う〜ん!と目の前の佐一君も幸せそうに舌鼓を打っている。
「ふわふわの生地にヨーグルトの甘酸っぱさとフルーツが合わさってとってもヒンナ!」
「やっぱりトッピングがあると豪華でおいしいね。今度は明日子さんも呼ぼうよ」
「そうだね、絶対喜ぶよ」
奮発して買ったメープルシロップをベーコンの上に少しかけた。ドキドキしながら口に含めば、しょっぱさと甘さが合わさった背徳感溢れる味が口いっぱいに広がって、もっと幸せな気分になった。こんな贅沢なものを食べられるなんて、最高のお家デートだ。
「ん!そういえば来週なんだっけ、二人の初デート」
「そうそう。本当に大丈夫か俺もう心配でさぁ……」
浮かない顔をしつつも、佐一君のパンケーキを食べる手は止まらない。大きな一切れがまた口に消えていった。
佐一君と会う時は、決まってとあるカフェの店長さんの話になる。最初は知らない女の人のことを楽しそうに話す姿に面白くない気持ちがあったけど、段々と話を聞いていくうちに私もその店長さんと御曹司の恋の行方に興味津々になってしまった。少し前に生放送の放送事故──と言ったらなんだか可哀想だけど、公開プロポーズでトレンド1位を掻っ攫った時なんて、私達だけが知っていた店長さんが世間に見つかってしまった気がして、良く分からない嬉しさと悔しさが絡み合った複雑な気持ちになったほどだ。そして今回、もどかしかった二人がやっと一歩進んで、水族館に初デートに行くことになったらしい。
「佐一君、こっそり着いて行きたいなぁとか思ってるでしょ」
「……そんなことないよぉ?」
斜め上を見ながら返事をした佐一君に笑ってしまう。誤魔化し方が下手すぎる。着いていく気満々だ。でも本当のことを言うと私も着いていきたいのであんまり人のことを言えない。全部食べ終わった佐一君がまた一枚パンケーキを取って、もう一枚を私のお皿に乗せた。ベーコンと卵も取って、空いたホットプレートに新しく生地を流し入れていく。
「おかず系も美味いね」
「メープルもかけてみてよ」
「やだぁ、止まらなくなっちゃう」
佐一君があっという間に2枚目も食べ終わった。
「これもう頃合いかな?」と段々と表面がぽつぽつとしてきたパンケーキの底を確認し始めた。てきぱきと佐一君が全部やってくれているので私は食べる専門みたいになってしまっている。代わりに洗い物は任せてほしい。1枚目をようやく食べ終えて、次はヨーグルトにしようと容器に手を伸ばした時だった。
「あっ!」
佐一君が急に大きな声を出した。ひっくり返すのを失敗したのかと思ったけど違ったみたいだ。片面だけ焼かれているパンケーキは、ホットプレートの上で返されるのをまだかまだかと待っている。フライ返しを持ちながら佐一君がキラキラとした瞳を私に向けてきた。
「ナマエちゃん、来週一緒に水族館行く?」
「偶然を装おうとしてもダメだよ佐一君」
それに試合があるでしょ、とヨーグルトとフルーツを乗せたパンケーキを頬張った。「こっちもたまたま水族館デートしに来ただけですけど?」というテイで二人をこっそりつける魂胆なのだろう。見え見えだよ、佐一君。「ダメかぁ」と笑いながら今度こそパンケーキがひっくり返された。少し長めに放置されたからちょっと焼き目が強くなっている。でもこれはこれで香ばしくて美味しそうだ。
「鯉登さん、黒塗りの車で送迎するのかなぁ」
「あーしそう!あいつなら絶対するね!しかも運転手付き!」
佐一君が興奮気味に食いついてきた。
「あと喜んでたのが嬉しくて水族館丸ごと買ったりしそうだな」
「『これから毎日水族館に行けるぞ!』って?まさかぁ」
「あいつならやりかねないのが怖い」
佐一君が眉間に皺を寄せて真剣に言った。お金持ちってすごいな。会ったこともない鯉登さんについての勝手なイメージがどんどん膨らんでいく。セレブだねぇ、と最後の一口を頬張って、ふと佐一君がこちらを見つめていることに気づいた。
「ナマエちゃんも黒塗りの車で送り迎えされたかった?」
「え〜?いやぁ、それはちょっと……」
高級車でお出迎えなんて映画のようで憧れはするけど、実際されたらたまったものじゃないと思う。
「私はこうやってのんびり佐一君と過ごせるのが一番好きだよ」
言っていて少し恥ずかしくなったので、誤魔化すように食べごろになったパンケーキをお皿に乗せた。さっきの焼き目の強いパンケーキだ。これはシンプルにバターかな、と思って佐一君の近くに置いてあったバターに手を伸ばしたら、手首を掴まれた。
「ん?なに?」
「……好き」
驚いて手を引こうとしたのに、ぎゅっと手を握りこまれて叶わなかった。真っ直ぐこちらを見ながら、また「好き」と少し低めの声で言ってくる佐一君にじわじわと顔が火照っていく。
「ねぇナマエちゃん、ぎゅってしたい」
「……食べ終わってからね」
パッと手が離されて、佐一君がホットプレートの上に残っていた2枚のパンケーキをかっさらった。ダバァっと豪快にメープルシロップをかけて、大きな一口でどんどん食べ進めている。
「佐一君急ぎすぎだって。ちゃんと噛んでる?」
「ナマエちゃんも早く食べて」
ほらほら、と急かされて私もまた一口頬張った。そんなにぎゅってしたいの?と自惚れた考えが頭に浮かんでむず痒い。
「ほら、俺食べ終わったよ」
驚きの速さで2枚のパンケーキを食べ終わった佐一君が、両肘をついてじぃっとこちらを見て来るので居心地が悪い。早く食べて、と念じているのがひしひしと伝わってくる。でも目の前のパンケーキはまだ2/3ほど残っている。正直なところ、私の胃袋に入り切るのか分からない量だ。
「待って、ちょっともうお腹いっぱいかも……」
言い終わるや否や、佐一君が無言でキッチンからラップを持ってきて私のお皿の上にかけた。行動力がすごい。そのまま腕を引かれてソファーに連れて行かれ、佐一君の膝の上に乗せられた。
「俺もナマエちゃんとこうやって二人で過ごすの好き」
後ろからぎゅうぎゅうに私のことを抱き込みながら、嬉しそうに言う佐一君にぶわっと体温が上昇した。私よりもずっと大きな体にすっぽりと抱きしめられるこの体勢を、私がとても好きだということを佐一君は知っている。別にさっき食べている時に言ってくれたって良かったのに、わざわざこうやって伝えてくるところがとてもズルいと思う。
「照れてる?」
「照れてない」
「かわいいなぁ、耳赤いよ」
耳に軽いキスが落とされた。ひんやりとした唇の感触に、耳が真っ赤になっていることを痛感した。
「ね、こっち向いて」
言われるがままに佐一君の方を振り向けば、すぐに唇が重ねられた。いつもよりも何だか甘い気がするのは、さっき豪快にかけていたメープルシロップのせいだろうか。あれ結構高かったんだよ。でも佐一君が気に入ってくれたなら良いか。何度も角度を変えて、啄むようなキスが続く。最後にぺろりと唇を舐められて、佐一君が離れて行った。
「甘いね」
「佐一君も」
お互いに笑い合って、背中を佐一君に預けた。鍛えられた筋肉は一見硬そうに見えるけど、実際は指が沈み込むように柔らかくてクッション性がある。私だけの特別席だ。
「……外だとこういうこともできないしね」
囁かれた言葉に固まれば、ちゅっとまた耳にキスが落とされた。耳が熱い。顔も熱い。
「可愛い、ナマエちゃん」
さっきまでもぐもぐと幸せそうにパンケーキを頬張っていたとは思えないほど艶っぽい声が聞こえてきて、また体温が上昇する。もぞもぞと体を反転して、佐一君の首筋に顔をうずめて背中に腕を回した。心地良い沈黙が訪れれば、外のサァサァと振り続ける雨の音や、濡れた地面を走るタイヤの音が聞こえてくる。まだ昼下がりなのに、雨のせいなのかいつもよりもしっとりとした空気が私たちを包み込んでいる。雨音と、するすると髪を梳かれる感覚に、少しずつ心臓が落ち落ち着きを取り戻していく。
顔を上げれば、すぐに佐一君と視線が交わった。優しい眼差しは私だけに注がれている。このままずっと雨が止まなければ良いのに。そんなことを思いながら、今度は私から佐一君に唇を重ねた。
あとがき
ほんわかした雰囲気がお好きということでしたので、カフェ店長シリーズの杉元で書かせていただきました。次から次へとパンケーキを焼いて食べる杉元が書けて幸せでした…!あまり雨関係なくてすみません…!兎杏様、素敵なリクエストをありがとうございました〜!!
2024.06.03
