一万打記念&秋のR18オンリー企画
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※23話(インカラマッが中尉と内通していたことが判明した時)の杉元視点です
「ちょ、ちょっと待って……!」
こんなにも動揺しているナマエさんの声は、初めて聞いたかもしれない。篝火に照らされて、見開かれたナマエさんの瞳が大きく揺れている。はぁっ、はぁっと浅い呼吸を短く繰り返して、今にも泣きそうな顔で必死に何かを伝えようとしている。声をかけようとした時、視線が動いた。ナマエさんの縋るような視線が、俺を通り過ぎて止まった。
「この女、鶴見中尉と通じているぞ」
一瞬で瞳に安堵が満ちた。隣の尾形の銃口が、インカラマッに向けられている。ナマエさんがギュッと唇を噛んで、アシリパさんを射線上から離した。そのまま目を伏せて、懸命にいつもの自分を取り戻そうと深く呼吸を繰り返している。
なんでもインカラマッが話していた殺害現場に残されていた指紋の情報は、鶴見中尉しか知り得ないことらしい。あくまで鶴見中尉を利用しただけだと言い切るインカラマッ、のっぺら坊はアシリパさんの親父さんだと主張するキロランケに加え、土方が全て仕立て上げた可能性まで浮上してきた。誰が嘘をついていて、誰が裏切っているのか。俺たちがどんどん疑心暗鬼になっていく中、長かった夜が明けていく。ここで考えていても埒が開かない。インカラマッと二人で話がしたいという谷垣と別れ、また街で落ち合うことになった。
「ナマエさん、飛蝗大丈夫だった?」
「はい、海に出ていたので。杉元さん達は大丈夫でしたか?」
「あー……うん」
一瞬ラッコ鍋のことを思い出して言葉が詰まった。ナマエさんは気にならなかったようで「良かったです、杉元さんバッタ嫌いだって言ってたから」と笑った。
杉元さん、といつも俺を見上げてくるその瞳が好きだ。色の深い虹彩が陽の光を存分に含んで煌めいて、ずっと見ていたくなる。その瞳に映されるとまるで陽だまりの中に居るような、そんな錯覚さえ抱いてしまう。でも、今のナマエさんの瞳は翳って、笑顔には緊張と恐怖が見え隠れしている。小樽で再会したばかりの頃を彷彿とさせる姿だ。
インカラマッが中尉と繋がっていると気づいた時のナマエさんの動揺の仕方は尋常でなかった。あんなにも恐怖に震えている姿を見るのは初めてだった。思い返すだけでも胸が苦しくなる。でも、それだけじゃない。あの時、助けを求めるような視線が向けられたのは俺ではなかった。インカラマッに銃口が向けられて、揺れる篝火でも分かるほどに安堵が滲み出た瞳に、それが俺に対する物でなかったことに、悔しさが込み上げてくる。よりによってなんで尾形なんだ。数日前、釧路の湿原で「ああ見えて意外と頼りになるんですよ?」と屈託なく笑っていたことを思い出した。俺が証拠品のことなんて知っているはずがないから、尾形に助けを求めたのかもしれない。そう思いたかった。でも、そうでなかったら?
俺だって、ナマエさんを守れるんだよ。
尾形とナマエさんは、どれだけの月日を共にしたのだろう。少なくとも二人の感じから、俺が旅順でナマエさんと過ごした数ヶ月よりも長いのだろうと容易に想像できた。それが悔しくて腹立たしい。ナマエさんがたまに尾形にだけ見せる少し子供っぽい所とか、はっきり物を言う所とか、気を遣っていないような態度を目の当たりにする度、心がざわつく。どこかよそよそしいくせにちゃんと気を許していて、言葉がなくても通じ合えるくらい信頼しているのが伝わってくる。一体、何があったらこんな奴とそんな風に接することができるんだ。
「あの女、お前が睨んでいた通り鶴見中尉と繋がっていたな」
「やっぱり私たちが逃亡してからなんですかね……?」
前を歩くナマエさんと尾形が話している声が聞こえて来た。いつのまにか二人で並んで歩いている。二人の間には腕一本分ほどの隙間しかない。そんな話いつしてたんだ。何で俺には教えてくれなかったの。それ以上近づいたら殺すぞ。二人の姿を捉え続ければ、ドロドロとした感情に飲み込まれていく。ただの殺意ともまた違う、粘り気があってこびりついて取れないような、そんな薄汚れた感情だ。ナマエさんは知らない。尾形がいつもどんな目で他人と接するナマエさんを見ているのか。まるで手の届く範囲でのみ自由行動を許しているような、自分の物だと周りに牽制するような、そんな目だ。一昨日の尾形は特に酷かった。眠ったアシリパさんを抱いたナマエさんを見つめる目は、どこまでも暗く淀んでいた。二人が寄り添っているのが腹の底から面白くないと思っているようだった。訳が分からなかった。得体の知れない尾形の執着が怖かった。恋愛感情と言うには何か大事なことが欠落しているような気がしたし、親愛と言うにはねっとりと絡みつくような重くて気持ちの悪いものに見えた。
そいつは、ナマエさんが思っているような奴じゃない。ナマエさんのことだって平気で裏切って傷つけるような奴なんだよ。尾形と話し続けるナマエさんの横顔を見つめながら思った。誰にでも分け隔てなく接して、自分の足で自由に力強く進んでいくナマエさんが好きなのに、腕の中に閉じ込めて誰からも見えなくして、どこにも行けないようにしたいと相反する気持ちが膨らんでいく。ナマエさんとアシリパさんが笑っていられればそれで良い。そう思っていたのに、過ごす時間が増えるに連れて、浅ましい気持ちがどんどん増していく。ねぇ、ナマエさん、俺だけを見て。俺がナマエさんを守るから。
「あっ谷垣ニシパ!」
チカパシが指した方を見れば、谷垣とインカラマッがこちらに向かって歩いてきていた。キロランケとインカラマッという不穏分子が揃ったことで、俺たちの間に緊張が走る。ナマエさんと並んでいた尾形が一歩前に出た。昔俺に腕と顎を折られたくせに、一丁前に守ろうとでもしているのだろうか。些細な行動一つに、また苛立ちがふつふつと湧き上がってくる。
「それで……どうすんだよ、みんな疑心暗鬼のままだぜ?」
「誰かに寝首をかかれるのは勘弁だな」
白石と尾形の言葉に、ナマエさんがポツリと呟いた。
「……でも結局、行くしかないんですよね」
足元に落ちていた視線が、俺に向けられた。その瞳はさっきよりも力強く、いつも通りのナマエさんが少しずつ戻って来たのだと分かって安心した。でもそれは、すぐ横に尾形が居るからなのだろうか。尾形と話して、落ち着いたのだろうか。
「のっぺら坊がアシリパさんのお父さんなのかどうか……会えば全部ハッキリしますよね」
「ナマエさんの言う通り、網走監獄へ行くってのは最初っからずっと変わらねぇ」
そう、この旅を始めた時から何も変わらない。そして、俺たちの中の猜疑心や不安を取り除くための方法は一つしかない。
「インカラマッとキロランケ、旅の道中もしどちらかが殺されたら……俺は自動的に残った方を殺す。これで良いな?」
これが一番手っ取り早い。アシリパさんとナマエさんに危害が及ぶ前に、こちらから対処してしまえば良い。一瞬で顔が強張ったナマエさんの肩に触れた。瞳の中で光がゆらゆらと揺れている。多分、俺にそんなことして欲しくないとか思っているんだろう。でもこれは、俺がやらなくちゃいけないことなんだ。ナマエさんがそんな顔をする必要なんてない。
「大丈夫だよ、ナマエさん」
尾形も、キロランケも、インカラマッも、鶴見中尉も、ナマエさんを怖がらせて傷つけようとするものは全部消してあげる。その瞳に映る世界を、全て綺麗に均してあげる。
ねぇ、だから、ずっと笑っていて。
あとがき
みんな大好き嫉妬夢!姉畑回の試してみるか?発言とか、温泉回で弾薬持ってきたこととか色々考えたのですが、「重ければ重いほど良い」ということだったので、杉元的に一番ダメージが大きいのって頼られなかった時なのかなと思ってこちらにしました。…が、もっと重くできたかもしれない…!すずめ様、重さが足りなかったらすみません!これからも本編の方で嫉妬する杉元は必ず出て来ると思うので、そちらも合わせて読んでいただけたら幸いです。素敵なリクエストをありがとうございました!!
2024.07.15
「ちょ、ちょっと待って……!」
こんなにも動揺しているナマエさんの声は、初めて聞いたかもしれない。篝火に照らされて、見開かれたナマエさんの瞳が大きく揺れている。はぁっ、はぁっと浅い呼吸を短く繰り返して、今にも泣きそうな顔で必死に何かを伝えようとしている。声をかけようとした時、視線が動いた。ナマエさんの縋るような視線が、俺を通り過ぎて止まった。
「この女、鶴見中尉と通じているぞ」
一瞬で瞳に安堵が満ちた。隣の尾形の銃口が、インカラマッに向けられている。ナマエさんがギュッと唇を噛んで、アシリパさんを射線上から離した。そのまま目を伏せて、懸命にいつもの自分を取り戻そうと深く呼吸を繰り返している。
なんでもインカラマッが話していた殺害現場に残されていた指紋の情報は、鶴見中尉しか知り得ないことらしい。あくまで鶴見中尉を利用しただけだと言い切るインカラマッ、のっぺら坊はアシリパさんの親父さんだと主張するキロランケに加え、土方が全て仕立て上げた可能性まで浮上してきた。誰が嘘をついていて、誰が裏切っているのか。俺たちがどんどん疑心暗鬼になっていく中、長かった夜が明けていく。ここで考えていても埒が開かない。インカラマッと二人で話がしたいという谷垣と別れ、また街で落ち合うことになった。
「ナマエさん、飛蝗大丈夫だった?」
「はい、海に出ていたので。杉元さん達は大丈夫でしたか?」
「あー……うん」
一瞬ラッコ鍋のことを思い出して言葉が詰まった。ナマエさんは気にならなかったようで「良かったです、杉元さんバッタ嫌いだって言ってたから」と笑った。
杉元さん、といつも俺を見上げてくるその瞳が好きだ。色の深い虹彩が陽の光を存分に含んで煌めいて、ずっと見ていたくなる。その瞳に映されるとまるで陽だまりの中に居るような、そんな錯覚さえ抱いてしまう。でも、今のナマエさんの瞳は翳って、笑顔には緊張と恐怖が見え隠れしている。小樽で再会したばかりの頃を彷彿とさせる姿だ。
インカラマッが中尉と繋がっていると気づいた時のナマエさんの動揺の仕方は尋常でなかった。あんなにも恐怖に震えている姿を見るのは初めてだった。思い返すだけでも胸が苦しくなる。でも、それだけじゃない。あの時、助けを求めるような視線が向けられたのは俺ではなかった。インカラマッに銃口が向けられて、揺れる篝火でも分かるほどに安堵が滲み出た瞳に、それが俺に対する物でなかったことに、悔しさが込み上げてくる。よりによってなんで尾形なんだ。数日前、釧路の湿原で「ああ見えて意外と頼りになるんですよ?」と屈託なく笑っていたことを思い出した。俺が証拠品のことなんて知っているはずがないから、尾形に助けを求めたのかもしれない。そう思いたかった。でも、そうでなかったら?
俺だって、ナマエさんを守れるんだよ。
尾形とナマエさんは、どれだけの月日を共にしたのだろう。少なくとも二人の感じから、俺が旅順でナマエさんと過ごした数ヶ月よりも長いのだろうと容易に想像できた。それが悔しくて腹立たしい。ナマエさんがたまに尾形にだけ見せる少し子供っぽい所とか、はっきり物を言う所とか、気を遣っていないような態度を目の当たりにする度、心がざわつく。どこかよそよそしいくせにちゃんと気を許していて、言葉がなくても通じ合えるくらい信頼しているのが伝わってくる。一体、何があったらこんな奴とそんな風に接することができるんだ。
「あの女、お前が睨んでいた通り鶴見中尉と繋がっていたな」
「やっぱり私たちが逃亡してからなんですかね……?」
前を歩くナマエさんと尾形が話している声が聞こえて来た。いつのまにか二人で並んで歩いている。二人の間には腕一本分ほどの隙間しかない。そんな話いつしてたんだ。何で俺には教えてくれなかったの。それ以上近づいたら殺すぞ。二人の姿を捉え続ければ、ドロドロとした感情に飲み込まれていく。ただの殺意ともまた違う、粘り気があってこびりついて取れないような、そんな薄汚れた感情だ。ナマエさんは知らない。尾形がいつもどんな目で他人と接するナマエさんを見ているのか。まるで手の届く範囲でのみ自由行動を許しているような、自分の物だと周りに牽制するような、そんな目だ。一昨日の尾形は特に酷かった。眠ったアシリパさんを抱いたナマエさんを見つめる目は、どこまでも暗く淀んでいた。二人が寄り添っているのが腹の底から面白くないと思っているようだった。訳が分からなかった。得体の知れない尾形の執着が怖かった。恋愛感情と言うには何か大事なことが欠落しているような気がしたし、親愛と言うにはねっとりと絡みつくような重くて気持ちの悪いものに見えた。
そいつは、ナマエさんが思っているような奴じゃない。ナマエさんのことだって平気で裏切って傷つけるような奴なんだよ。尾形と話し続けるナマエさんの横顔を見つめながら思った。誰にでも分け隔てなく接して、自分の足で自由に力強く進んでいくナマエさんが好きなのに、腕の中に閉じ込めて誰からも見えなくして、どこにも行けないようにしたいと相反する気持ちが膨らんでいく。ナマエさんとアシリパさんが笑っていられればそれで良い。そう思っていたのに、過ごす時間が増えるに連れて、浅ましい気持ちがどんどん増していく。ねぇ、ナマエさん、俺だけを見て。俺がナマエさんを守るから。
「あっ谷垣ニシパ!」
チカパシが指した方を見れば、谷垣とインカラマッがこちらに向かって歩いてきていた。キロランケとインカラマッという不穏分子が揃ったことで、俺たちの間に緊張が走る。ナマエさんと並んでいた尾形が一歩前に出た。昔俺に腕と顎を折られたくせに、一丁前に守ろうとでもしているのだろうか。些細な行動一つに、また苛立ちがふつふつと湧き上がってくる。
「それで……どうすんだよ、みんな疑心暗鬼のままだぜ?」
「誰かに寝首をかかれるのは勘弁だな」
白石と尾形の言葉に、ナマエさんがポツリと呟いた。
「……でも結局、行くしかないんですよね」
足元に落ちていた視線が、俺に向けられた。その瞳はさっきよりも力強く、いつも通りのナマエさんが少しずつ戻って来たのだと分かって安心した。でもそれは、すぐ横に尾形が居るからなのだろうか。尾形と話して、落ち着いたのだろうか。
「のっぺら坊がアシリパさんのお父さんなのかどうか……会えば全部ハッキリしますよね」
「ナマエさんの言う通り、網走監獄へ行くってのは最初っからずっと変わらねぇ」
そう、この旅を始めた時から何も変わらない。そして、俺たちの中の猜疑心や不安を取り除くための方法は一つしかない。
「インカラマッとキロランケ、旅の道中もしどちらかが殺されたら……俺は自動的に残った方を殺す。これで良いな?」
これが一番手っ取り早い。アシリパさんとナマエさんに危害が及ぶ前に、こちらから対処してしまえば良い。一瞬で顔が強張ったナマエさんの肩に触れた。瞳の中で光がゆらゆらと揺れている。多分、俺にそんなことして欲しくないとか思っているんだろう。でもこれは、俺がやらなくちゃいけないことなんだ。ナマエさんがそんな顔をする必要なんてない。
「大丈夫だよ、ナマエさん」
尾形も、キロランケも、インカラマッも、鶴見中尉も、ナマエさんを怖がらせて傷つけようとするものは全部消してあげる。その瞳に映る世界を、全て綺麗に均してあげる。
ねぇ、だから、ずっと笑っていて。
あとがき
みんな大好き嫉妬夢!姉畑回の試してみるか?発言とか、温泉回で弾薬持ってきたこととか色々考えたのですが、「重ければ重いほど良い」ということだったので、杉元的に一番ダメージが大きいのって頼られなかった時なのかなと思ってこちらにしました。…が、もっと重くできたかもしれない…!すずめ様、重さが足りなかったらすみません!これからも本編の方で嫉妬する杉元は必ず出て来ると思うので、そちらも合わせて読んでいただけたら幸いです。素敵なリクエストをありがとうございました!!
2024.07.15
