カフェ店長シリーズ
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あ、これ、多分風邪だ。結構悪くなるやつだ。直感でそう思って"体調不良のため臨時休業"と看板を出して帰宅した。我ながら良い決断だったと思う。あれからもう二日も部屋に引き篭もっている。この頃は売上も好調で、数日休んでもそんなに痛手ではないのが幸いだった。
病院にも行こうかと思ったけど、ただの風邪だし、行ったところで治してくれるわけでもないし、それだったら家でゆっくりしたいと思ってこの二日間一歩も外に出ていない。心も体も弱っている時に一人暮らしだと少し、いや、結構心細く感じる。実家だったらなぁ、と何度思ったことか。幸い、出前アプリやネットスーパーに頼れる場所に住んでいるけど、熱でズキズキと痛む頭で商品を選ぶのがしんどくて、まだあまり活用できていない。くそう、もっと日頃から備蓄しておくべきだった……お腹が空いた。でも食べるものがない。体が重い。頭がぼーっとする。
空腹と倦怠感と眠気でうつらうつらとしていると、インターホンが鳴った。あれ、私なんか頼んだっけ?怠い体を引きずって行く。勧誘とかだったら角に小指をぶつける呪いにかかれ。そう思って画面を見た。
「……はぁっ?!」
大きな声を出したせいでゲホゲホっと咳が止まらなくなって死にかける。インターホンの画面に映っていたのは、鯉登さんと月島さんだった。あと一人、知らない人も居る。応答しなかったので画面が消えたが、またインターホンが鳴って画面が点く。映っているのはどう見ても鯉登さんと月島さんだ。
「なんで……」
なんで私の家の住所を知っているのか。なんで訪ねて来ているのか。またインターホンが鳴る。こう何度も鳴らされては落ち着かない。月島さんも止めてよ。寄ってたかって病人になんなんだよ。
「……うるさいです」
「ナマエ!体調不良と書いてあったから色々買ってきた。医者も連れてきた」
医者って連れて来れるの?もう下まで来ているし、ここで追い返すのも失礼な気がするし、しょうがないかと回らない頭で解錠ボタンを押せば、鯉登さんが足早にエントランスをくぐる姿が映っていた。
玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けようとして、玄関横の鏡に映る自分の姿が目に入る。すっぴんだ。しかも顔色がすこぶる悪い。なんだこの浮腫みと寝ぐせは。パジャマも毛玉がついている。てか今日顔洗ったっけ?え?この姿で鯉登さんに会うの?ゴンゴン、と今度はチャイムではなく扉を叩かれて飛び上がる。ええい、もうどうにでもなれ。
「大丈夫かっ?!」
鍵を開けた瞬間にドアをグイッとこじ開けられて、釣られてそのまま外に出てしまった。鯉登さんがよろけた私を受け止めた。ずっとカーテンを閉め切った部屋に居たから日の光が眩しい。酷い状態の顔を見られたくなくて、腕で顔を覆う。鯉登さんの体温が落ち着く。なんか良い匂いがする。
「医者を連れてきた。部屋で診てもらうと良い」
「あ、すみません……どうぞ」
先ほど画面に映っていたもう一人の男性が会釈をした。顔をできるだけ隠しながら部屋に招き入れる。鯉登さんと月島さんにも中に入るように促すが、二人とも微動だにしない。「私たちはここで良い」という返事にそりゃそうか、病原菌の巣窟みたいな所に入って風邪がうつったら大変だと、自分の軽い行動を少し後悔したのに。
「さすがに一人暮らしの女性の家に上がるのは私も気が引ける」
突然の紳士発言にヒンッと顔をしかめてしまった。顔を隠していて良かった。なんだ、なんなんだよ、もう。鯉登さんのくせに。
部屋で診察を受けて、ただの風邪だが念のため解熱剤や咳止めなどを出してもらった。お金を払おうとすれば大丈夫です、と言われてしまったので混乱する。お代はもう頂いております……って誰に?鯉登さんか?保険証渡してないけどこれ全額自己負担になるんじゃないの?出張費は?色々言いたいことはあったけれど、言葉にする力がない。手早く帰り支度を済ませたお医者さんと共に玄関へ向かう。
「ありがとうございました。ただの風邪なのにすみません……」
「いえ、何かあればこちらにご連絡ください。では私はこれで」
お医者さんは名刺を渡すと一人帰って行った。大丈夫だったか?という鯉登さんの声にハッとして手で顔を覆い、できるだけ髪の毛で隠れるように俯く。自分の顔の状態をすっかり忘れていた。
「何故隠す」
「す、すっぴんなので……」
「そうか?変わらないと思うが」
「さすがにその言い方は失礼ですよ」
鯉登さんの悪気のない言葉が弱った心にぶっ刺さるが、月島さんのツッコミで少し救われた。ありがとう。さすが月島さん。ナチュラルボーン顔整いの鯉登さんに、激悪コンディションのすっぴんをいつもと変わらないと言われるのは流石に傷つく。早く部屋に戻りたい。
「……言い方が悪かった」
顔を覆っていた髪を耳にかけられ、びくりと震える。
「どちらのナマエも、とても綺麗だと思っている」
うぅ……っと今度は羞恥心で顔を覆ってしまう。そのまま鯉登さんが私の頭をポンポンと撫でるので、心臓が壊れそうなほどバクバク動く。さっきからキュンキュンどころかギュンギュンしてばかりだ。なんだこれ。鯉登さんが10割増しでかっこよく見えている。顔以外もこんなにかっこよかったっけ。心臓がうるさい。暑い。さっきよりもさらに体温が上がって頭がガンガンする。
「ゼリー、スポーツドリンク、甘いものとしょっぱいものを適当に買ってきました」
月島さんがずっしりとしたコンビニの袋を差し出した。隙間から鍋焼きうどんのパッケージが見える。この二日間碌なものを食べていなかったので、それだけでお腹がきゅるきゅると鳴ったのが分かった。二人に聞こえてないと良いけど。
「ここに連絡してくれればすぐに駆け付ける」
「いや良いですって、仕事してください……」
電話番号とIDが書かれた紙を渡してこようとする鯉登さんを拒否していたら、無理やり袋にねじ込まれて焦る。取り出そうにもゼリーやスポドリの間に埋もれて見失ってしまった。体に障るから早く部屋に戻れ、と部屋に押し込まれてお礼もそこそこに扉を閉める。
「早く鍵をかけろ」
かけるってば、せっかちだなぁ。鍵をかけ、二人分の足音が遠のくのを聞いてからキッチンに向かった。鍋焼きうどんをコンロにかければ、ギュルルルと催促するようにお腹が鳴った。
ぐつぐつと煮えた鍋焼きうどんを頬張る。久々の栄養のある温かい食事にホッとする。五臓六腑に染み渡るとはまさにこのことか。急に押しかけてきた時は少しイラッとしてしまったけど、こうやって頼れる人が居るって良いものだなとしみじみ思った。体が触れた時の安心感を思い出してしまい、また少し体温が上がったのを紛らわすためにうどんを食べ進めた。あつい。
それから三日後、私は久しぶりに店を開けた。お世話になったので、貰った連絡先を登録して、お礼と全快したことを鯉登さんに送れば「良かった」と一言返ってきただけで、少し拍子抜けした。もっと鬼のように色々と送ってくるのかと思っていた。
午後には月島さんが来店して、来られなかった鯉登さんの分のドリンクも注文してくれた。この間のお礼にドリンクをサービスしたいと言ったけれど、断られてしまったので他の方法を考えなければいけない。
「体調はどうですか?」
「おかげさまですっかり良くなりました」
「それは良かったです。一人暮らしだと心細いですよね」
そうなんですよ、と相槌を打ちそうになったが"一人暮らし"という言葉に違和感を覚えた。
そういえば、鯉登さんも同じことを言っていた。なんで、私が一人暮らしだって知ってるんだ。それにあの時聞けなかったけど、私の住所もバレている……知るのが怖いが知らないままなのも怖い。腹を括って、勢いで聞いてみることにした。
「ところで、あの、なんで私の住所知ってたんですか……?」
「……すみません。実は最初に身辺調査を行ったので、ミョウジさんの個人情報は大方把握しています」
鯉登郵船やっぱり怖いよ。
病院にも行こうかと思ったけど、ただの風邪だし、行ったところで治してくれるわけでもないし、それだったら家でゆっくりしたいと思ってこの二日間一歩も外に出ていない。心も体も弱っている時に一人暮らしだと少し、いや、結構心細く感じる。実家だったらなぁ、と何度思ったことか。幸い、出前アプリやネットスーパーに頼れる場所に住んでいるけど、熱でズキズキと痛む頭で商品を選ぶのがしんどくて、まだあまり活用できていない。くそう、もっと日頃から備蓄しておくべきだった……お腹が空いた。でも食べるものがない。体が重い。頭がぼーっとする。
空腹と倦怠感と眠気でうつらうつらとしていると、インターホンが鳴った。あれ、私なんか頼んだっけ?怠い体を引きずって行く。勧誘とかだったら角に小指をぶつける呪いにかかれ。そう思って画面を見た。
「……はぁっ?!」
大きな声を出したせいでゲホゲホっと咳が止まらなくなって死にかける。インターホンの画面に映っていたのは、鯉登さんと月島さんだった。あと一人、知らない人も居る。応答しなかったので画面が消えたが、またインターホンが鳴って画面が点く。映っているのはどう見ても鯉登さんと月島さんだ。
「なんで……」
なんで私の家の住所を知っているのか。なんで訪ねて来ているのか。またインターホンが鳴る。こう何度も鳴らされては落ち着かない。月島さんも止めてよ。寄ってたかって病人になんなんだよ。
「……うるさいです」
「ナマエ!体調不良と書いてあったから色々買ってきた。医者も連れてきた」
医者って連れて来れるの?もう下まで来ているし、ここで追い返すのも失礼な気がするし、しょうがないかと回らない頭で解錠ボタンを押せば、鯉登さんが足早にエントランスをくぐる姿が映っていた。
玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けようとして、玄関横の鏡に映る自分の姿が目に入る。すっぴんだ。しかも顔色がすこぶる悪い。なんだこの浮腫みと寝ぐせは。パジャマも毛玉がついている。てか今日顔洗ったっけ?え?この姿で鯉登さんに会うの?ゴンゴン、と今度はチャイムではなく扉を叩かれて飛び上がる。ええい、もうどうにでもなれ。
「大丈夫かっ?!」
鍵を開けた瞬間にドアをグイッとこじ開けられて、釣られてそのまま外に出てしまった。鯉登さんがよろけた私を受け止めた。ずっとカーテンを閉め切った部屋に居たから日の光が眩しい。酷い状態の顔を見られたくなくて、腕で顔を覆う。鯉登さんの体温が落ち着く。なんか良い匂いがする。
「医者を連れてきた。部屋で診てもらうと良い」
「あ、すみません……どうぞ」
先ほど画面に映っていたもう一人の男性が会釈をした。顔をできるだけ隠しながら部屋に招き入れる。鯉登さんと月島さんにも中に入るように促すが、二人とも微動だにしない。「私たちはここで良い」という返事にそりゃそうか、病原菌の巣窟みたいな所に入って風邪がうつったら大変だと、自分の軽い行動を少し後悔したのに。
「さすがに一人暮らしの女性の家に上がるのは私も気が引ける」
突然の紳士発言にヒンッと顔をしかめてしまった。顔を隠していて良かった。なんだ、なんなんだよ、もう。鯉登さんのくせに。
部屋で診察を受けて、ただの風邪だが念のため解熱剤や咳止めなどを出してもらった。お金を払おうとすれば大丈夫です、と言われてしまったので混乱する。お代はもう頂いております……って誰に?鯉登さんか?保険証渡してないけどこれ全額自己負担になるんじゃないの?出張費は?色々言いたいことはあったけれど、言葉にする力がない。手早く帰り支度を済ませたお医者さんと共に玄関へ向かう。
「ありがとうございました。ただの風邪なのにすみません……」
「いえ、何かあればこちらにご連絡ください。では私はこれで」
お医者さんは名刺を渡すと一人帰って行った。大丈夫だったか?という鯉登さんの声にハッとして手で顔を覆い、できるだけ髪の毛で隠れるように俯く。自分の顔の状態をすっかり忘れていた。
「何故隠す」
「す、すっぴんなので……」
「そうか?変わらないと思うが」
「さすがにその言い方は失礼ですよ」
鯉登さんの悪気のない言葉が弱った心にぶっ刺さるが、月島さんのツッコミで少し救われた。ありがとう。さすが月島さん。ナチュラルボーン顔整いの鯉登さんに、激悪コンディションのすっぴんをいつもと変わらないと言われるのは流石に傷つく。早く部屋に戻りたい。
「……言い方が悪かった」
顔を覆っていた髪を耳にかけられ、びくりと震える。
「どちらのナマエも、とても綺麗だと思っている」
うぅ……っと今度は羞恥心で顔を覆ってしまう。そのまま鯉登さんが私の頭をポンポンと撫でるので、心臓が壊れそうなほどバクバク動く。さっきからキュンキュンどころかギュンギュンしてばかりだ。なんだこれ。鯉登さんが10割増しでかっこよく見えている。顔以外もこんなにかっこよかったっけ。心臓がうるさい。暑い。さっきよりもさらに体温が上がって頭がガンガンする。
「ゼリー、スポーツドリンク、甘いものとしょっぱいものを適当に買ってきました」
月島さんがずっしりとしたコンビニの袋を差し出した。隙間から鍋焼きうどんのパッケージが見える。この二日間碌なものを食べていなかったので、それだけでお腹がきゅるきゅると鳴ったのが分かった。二人に聞こえてないと良いけど。
「ここに連絡してくれればすぐに駆け付ける」
「いや良いですって、仕事してください……」
電話番号とIDが書かれた紙を渡してこようとする鯉登さんを拒否していたら、無理やり袋にねじ込まれて焦る。取り出そうにもゼリーやスポドリの間に埋もれて見失ってしまった。体に障るから早く部屋に戻れ、と部屋に押し込まれてお礼もそこそこに扉を閉める。
「早く鍵をかけろ」
かけるってば、せっかちだなぁ。鍵をかけ、二人分の足音が遠のくのを聞いてからキッチンに向かった。鍋焼きうどんをコンロにかければ、ギュルルルと催促するようにお腹が鳴った。
ぐつぐつと煮えた鍋焼きうどんを頬張る。久々の栄養のある温かい食事にホッとする。五臓六腑に染み渡るとはまさにこのことか。急に押しかけてきた時は少しイラッとしてしまったけど、こうやって頼れる人が居るって良いものだなとしみじみ思った。体が触れた時の安心感を思い出してしまい、また少し体温が上がったのを紛らわすためにうどんを食べ進めた。あつい。
それから三日後、私は久しぶりに店を開けた。お世話になったので、貰った連絡先を登録して、お礼と全快したことを鯉登さんに送れば「良かった」と一言返ってきただけで、少し拍子抜けした。もっと鬼のように色々と送ってくるのかと思っていた。
午後には月島さんが来店して、来られなかった鯉登さんの分のドリンクも注文してくれた。この間のお礼にドリンクをサービスしたいと言ったけれど、断られてしまったので他の方法を考えなければいけない。
「体調はどうですか?」
「おかげさまですっかり良くなりました」
「それは良かったです。一人暮らしだと心細いですよね」
そうなんですよ、と相槌を打ちそうになったが"一人暮らし"という言葉に違和感を覚えた。
そういえば、鯉登さんも同じことを言っていた。なんで、私が一人暮らしだって知ってるんだ。それにあの時聞けなかったけど、私の住所もバレている……知るのが怖いが知らないままなのも怖い。腹を括って、勢いで聞いてみることにした。
「ところで、あの、なんで私の住所知ってたんですか……?」
「……すみません。実は最初に身辺調査を行ったので、ミョウジさんの個人情報は大方把握しています」
鯉登郵船やっぱり怖いよ。
