カフェ店長シリーズ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この数ヶ月間、ほぼ毎日来ていた鯉登さんがぱったりと来なくなった。かれこれ1週間以上姿を見ていない。月島さんも見ていない。あれだけ毎日来ていた人が急に居なくなると、さすがに少し寂しい気持ちがあった。
まあでも、つまるところ私たちはカフェ店長と客という関係以上でも以下でもないし、今までだって、足繁く通ってきてくれていた人が急に来なくなったことは何度かあった。引っ越しや転職だったり、ただ味に飽きたのかもしれない。足が遠のくのにも色んな理由があるだろう。私にだってそういう経験はある。あんなに好きだの結婚して欲しいだの、気持ちは死ぬまで変わらないだの色々言っていた鯉登さんだって、例に漏れないはずだ。
そもそも鯉登郵船の御曹司だったらもっと相手を選ぶべきなのだ。付き合う友達は選んだ方がいいぜってあのスリザリンのやつも言ってたじゃないか。家柄に合うもっとお上品で、可愛らしくて、優しい人を見つけたかもしれないし、急に「なんであんな貧乏人に構っていたんだ?」とかふと思ったりしたのかもしれない。人生出会いもあれば別れもある。大人の付き合いなんてそんなものだろう。
「ミョウジさん最近元気ない?」
「えっ、そう見えます?」
「うーん、ちょっとだけ?」
常連の杉元さんはオープン当初から通ってきてくれている。職場が近いらしい。顔の傷とがっしりとした体格に、最初は危ない人なのかと戦々恐々としていたけれど、注文がいつも甘いドリンクという可愛いギャップを持つ人である。ちなみに今日はサービスでシロップをマシマシにした期間限定のストロベリーフラッペを飲んでいる。
「もしかして、バラの人と関係ある?」
しかも中身は恋バナが大好きな乙女である。私に4本のバラを贈った客が居ると知ってから「恋のお話聞かせて……?」と、鯉登さんとのあれこれを定期的に摂取しに来るようになってしまった。甘いドリンクを飲みながら恋バナなんて胸焼けがしそうだけど、杉元さんの瞳は爛々と輝いている。
「……なんていうか、ずっと来てたのに急に来なくなったんですよ」
「あーっ!はい、はい!」
「恥ずかしいのでちょっとテンション下げてもらえます?」
「ごめん、初手でめちゃくちゃ王道展開来たから熱くなっちゃった……」
ニマニマしながらそんなことを言われてしまって、言葉に詰まる。でも確かに、先ほどの情報だけでは押してダメなら引いてみろ的なあれにまんまと引っかかっているように聞こえる。
「でもそういうのじゃないっていうか……」
「と、いうと?」
「そのお客さんのことは普通に好きですよ?でも恋って感じじゃないっていうか…」
だって顔が良い男に毎日アプローチされたら、誰だって少しは舞い上がってしまうものなのでは。果たしてこれは恋なのか。
「んー……これは俺の持論なんだけどさ」
ズズッと杉元さんがフラッペを啜る。金色の目が細められる。
「恋じゃないって言ってる時は、大抵恋だよ」
杉元さんとそんな会話をしたのも忘れた頃。突然、鯉登さんと月島さんが店に現れた。
「会いたかったぞナマエ!」
鯉登さんが眩いほどの笑顔でこちらに向かってくる。久々の鯉登さんにすっかり免疫が落ちてしまったのか、それだけで顔が少し熱を持つのを感じた。
「お久しぶりです、ミョウジさん」
「おっ、お久しぶりです月島さん、鯉登さん。お元気でしたか?」
たった一、二週間なのに、もう随分と会っていなかったように感じる。当たり前だけど前回会った時と比べて二人とも変わりなく見える。むしろ変わっていた方が心配になるけども。
「えぇ、少し出張でロシアの方に行ってまして。これ、お土産です。」
紙袋がスッと渡される。「いえいえそんな、悪いですよ」「ほんの気持ちですから」「すみません、お心遣いありがとうございます」と月島さんといつものやりとりをして紙袋を受け取った。
ロシアのお土産なんて初めて貰った。なんだろう。全部キリル文字で書いてあって読めない。不思議そうにパッケージを眺めていたら「チョコです」と月島さんが補足してくれた。月島さんが選んだものなら多分、すごくちゃんとしたものなんだろう。改めてお礼を言って、紙袋を丁寧にカウンターの中に仕舞った。あとで食べるのが楽しみだ。
「お二人ともロシア語を話せるんですか?」
「月島が話せる」
「えっ凄い!」
「少しだけですよ」
謙遜しているが絶対それなりに話せるんだろう。月島さん凄い。元々私の中で月島さんは、なんでもそつなくこなせる社会人の鑑のような人だったけど、更に語学も堪能とは。スーパー社会人だ。一度ビジネス研修を受けたい気がするけど、そういう時の月島さんは鬼軍曹みたいになりそうでちょっと怖そうだな、とか勝手なイメージが膨らんでいく。
そうだ、見せたいものが……と鯉登さんがスマホを取りだした。さすが鯉登さん、背面にカメラが何個も付いている最上級モデルだ。少し操作した後に、フフっと笑いながら画面を見せられた。
「小さいトナカイがいた」
まるで少年のように笑う鯉登さんにギュンと心臓が締め付けられた。あざとい。このボンボン、あざとすぎる……!意識が飛びそうになるのを堪えて画面を見れば、そこには白銀世界の小さいトナカイが写っていた。
「わぁっ……可愛いですね」
周りの成体と比べると顔があどけなくて、モフモフで愛くるしい見た目をしている。ぬいぐるみみたいだ。鯉登さんは次々と画面をスワイプして、小さいトナカイの写真を何枚も見せてくる。いや撮りすぎか。
「ナマエに見せたくて撮りすぎてしまった……」
口元を隠しながら恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言うのだから、こちらも照れてしまう。以前だったら「そうなんですね、ご注文は?」とか言えたはずなのに、少し会っていなかったせいか調子が悪い。かぁあっと顔に熱が集まって何も言えなくなってしまった。鯉登さんと視線が交わるが、お互い言葉が出てこない。ふ、ふふっ……と良い大人が二人してもじもじしているのは大変よろしくない。
「……そろそろ注文、いいですか」
「は、はいっ!すみません!月島さんはいつものですよね?」
「私はこの期間限定のやつを試してみたい」
──恋じゃないって言ってる時は、大抵恋だよ。
ストロベリーフラッペを注文されて、杉元さんの言葉が甦る。引き始めていた熱がまたぶり返す。どうせ少女漫画から得た知識のくせに!とあの時は笑い飛ばしていたのに。杉元さんの持論は案外、当たっているのかもしれない。
まあでも、つまるところ私たちはカフェ店長と客という関係以上でも以下でもないし、今までだって、足繁く通ってきてくれていた人が急に来なくなったことは何度かあった。引っ越しや転職だったり、ただ味に飽きたのかもしれない。足が遠のくのにも色んな理由があるだろう。私にだってそういう経験はある。あんなに好きだの結婚して欲しいだの、気持ちは死ぬまで変わらないだの色々言っていた鯉登さんだって、例に漏れないはずだ。
そもそも鯉登郵船の御曹司だったらもっと相手を選ぶべきなのだ。付き合う友達は選んだ方がいいぜってあのスリザリンのやつも言ってたじゃないか。家柄に合うもっとお上品で、可愛らしくて、優しい人を見つけたかもしれないし、急に「なんであんな貧乏人に構っていたんだ?」とかふと思ったりしたのかもしれない。人生出会いもあれば別れもある。大人の付き合いなんてそんなものだろう。
「ミョウジさん最近元気ない?」
「えっ、そう見えます?」
「うーん、ちょっとだけ?」
常連の杉元さんはオープン当初から通ってきてくれている。職場が近いらしい。顔の傷とがっしりとした体格に、最初は危ない人なのかと戦々恐々としていたけれど、注文がいつも甘いドリンクという可愛いギャップを持つ人である。ちなみに今日はサービスでシロップをマシマシにした期間限定のストロベリーフラッペを飲んでいる。
「もしかして、バラの人と関係ある?」
しかも中身は恋バナが大好きな乙女である。私に4本のバラを贈った客が居ると知ってから「恋のお話聞かせて……?」と、鯉登さんとのあれこれを定期的に摂取しに来るようになってしまった。甘いドリンクを飲みながら恋バナなんて胸焼けがしそうだけど、杉元さんの瞳は爛々と輝いている。
「……なんていうか、ずっと来てたのに急に来なくなったんですよ」
「あーっ!はい、はい!」
「恥ずかしいのでちょっとテンション下げてもらえます?」
「ごめん、初手でめちゃくちゃ王道展開来たから熱くなっちゃった……」
ニマニマしながらそんなことを言われてしまって、言葉に詰まる。でも確かに、先ほどの情報だけでは押してダメなら引いてみろ的なあれにまんまと引っかかっているように聞こえる。
「でもそういうのじゃないっていうか……」
「と、いうと?」
「そのお客さんのことは普通に好きですよ?でも恋って感じじゃないっていうか…」
だって顔が良い男に毎日アプローチされたら、誰だって少しは舞い上がってしまうものなのでは。果たしてこれは恋なのか。
「んー……これは俺の持論なんだけどさ」
ズズッと杉元さんがフラッペを啜る。金色の目が細められる。
「恋じゃないって言ってる時は、大抵恋だよ」
杉元さんとそんな会話をしたのも忘れた頃。突然、鯉登さんと月島さんが店に現れた。
「会いたかったぞナマエ!」
鯉登さんが眩いほどの笑顔でこちらに向かってくる。久々の鯉登さんにすっかり免疫が落ちてしまったのか、それだけで顔が少し熱を持つのを感じた。
「お久しぶりです、ミョウジさん」
「おっ、お久しぶりです月島さん、鯉登さん。お元気でしたか?」
たった一、二週間なのに、もう随分と会っていなかったように感じる。当たり前だけど前回会った時と比べて二人とも変わりなく見える。むしろ変わっていた方が心配になるけども。
「えぇ、少し出張でロシアの方に行ってまして。これ、お土産です。」
紙袋がスッと渡される。「いえいえそんな、悪いですよ」「ほんの気持ちですから」「すみません、お心遣いありがとうございます」と月島さんといつものやりとりをして紙袋を受け取った。
ロシアのお土産なんて初めて貰った。なんだろう。全部キリル文字で書いてあって読めない。不思議そうにパッケージを眺めていたら「チョコです」と月島さんが補足してくれた。月島さんが選んだものなら多分、すごくちゃんとしたものなんだろう。改めてお礼を言って、紙袋を丁寧にカウンターの中に仕舞った。あとで食べるのが楽しみだ。
「お二人ともロシア語を話せるんですか?」
「月島が話せる」
「えっ凄い!」
「少しだけですよ」
謙遜しているが絶対それなりに話せるんだろう。月島さん凄い。元々私の中で月島さんは、なんでもそつなくこなせる社会人の鑑のような人だったけど、更に語学も堪能とは。スーパー社会人だ。一度ビジネス研修を受けたい気がするけど、そういう時の月島さんは鬼軍曹みたいになりそうでちょっと怖そうだな、とか勝手なイメージが膨らんでいく。
そうだ、見せたいものが……と鯉登さんがスマホを取りだした。さすが鯉登さん、背面にカメラが何個も付いている最上級モデルだ。少し操作した後に、フフっと笑いながら画面を見せられた。
「小さいトナカイがいた」
まるで少年のように笑う鯉登さんにギュンと心臓が締め付けられた。あざとい。このボンボン、あざとすぎる……!意識が飛びそうになるのを堪えて画面を見れば、そこには白銀世界の小さいトナカイが写っていた。
「わぁっ……可愛いですね」
周りの成体と比べると顔があどけなくて、モフモフで愛くるしい見た目をしている。ぬいぐるみみたいだ。鯉登さんは次々と画面をスワイプして、小さいトナカイの写真を何枚も見せてくる。いや撮りすぎか。
「ナマエに見せたくて撮りすぎてしまった……」
口元を隠しながら恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言うのだから、こちらも照れてしまう。以前だったら「そうなんですね、ご注文は?」とか言えたはずなのに、少し会っていなかったせいか調子が悪い。かぁあっと顔に熱が集まって何も言えなくなってしまった。鯉登さんと視線が交わるが、お互い言葉が出てこない。ふ、ふふっ……と良い大人が二人してもじもじしているのは大変よろしくない。
「……そろそろ注文、いいですか」
「は、はいっ!すみません!月島さんはいつものですよね?」
「私はこの期間限定のやつを試してみたい」
──恋じゃないって言ってる時は、大抵恋だよ。
ストロベリーフラッペを注文されて、杉元さんの言葉が甦る。引き始めていた熱がまたぶり返す。どうせ少女漫画から得た知識のくせに!とあの時は笑い飛ばしていたのに。杉元さんの持論は案外、当たっているのかもしれない。
