カフェ店長シリーズ
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今日もムカつくほどに皺ひとつない上等なスーツを着こなした鯉登が前から歩いてきた。一体いくらするんだあれ。俺の給料一か月分とか、下手したらもっとするかもしれない。結婚指輪かよ。
鯉登とはあの修羅場の一件があって顔見知りになって、ミョウジさんのカフェ周辺でたまに軽く挨拶を交わすような関係になった。大企業の御曹司だと聞いて、金に物を言わせて好き勝手やってるような嫌な男だったらどうしようと思っていたけど、案外悪いやつではないようだ。ただちょっと……いや、かなりボンボンすぎてズレてるだけで。
「よう、ミョウジさんとこ行く感じ?」
「あぁ、杉元は帰りか」
頷けばそのまま歩き出そうとしたので、慌てて引き止める。こっちは別にただ挨拶がしたくて話しかけた訳ではない。
「なあ、今度ミョウジさんと水族館行くんだろ?」
「なんでお前がそのこと……!」
「水族館選ぶなんて結構庶民的なデートするのな」
「デッ……」
耳を少し赤くさせて、鯉登がソワソワと目線を泳がした。もごもごと口を動かしているが言葉は出てきていない。なんだその初々しい反応は。こいつのことだから、てっきり「デートくらいで何だ。そんなことで一々盛り上がるな見苦しい」ぐらいは言われると思ったのに。デートという単語にこんなにも動揺する大人は今どき珍しいのではないか。
「あ、赤ちゃんアザラシを、見に行くだけだ……」
どこかで聞いたようなセリフをまごつきながら言う鯉登に、ふとあることが頭に浮かんだ。
「お前、恋愛経験ほとんどないだろ」
「キェエエエッ?!」
「うわびっくりした!落ち着け!」
「い、い、いきなり何を言うんだ失礼だな!」
飛び上がって奇声を発した鯉登に、周りの視線が一気に俺たちに集まった。すみません、俺も別にこの人そんな知ってるわけじゃないんで、あの、だから、そんな目で見ないでぇ?
ふぅふぅと肩を揺らして、真っ赤な顔で息を整える鯉登を見て「あ、この人本当に……」と口元を手で覆った。筋金入りの箱入り息子、天然記念物だ。事実は少女漫画よりも奇なり。でもちょっと設定盛りすぎなんじゃない?大丈夫?
正直、ヘリでもチャーターして夜景デートに行ったり、クルーザー貸切って青々とした海を見に行ったりして「この景色よりもナマエの方が綺麗だ」とか言ったりするのかと思っていたから、初デートが水族館と聞いて少し肩透かしを食らった。でももしかしたら、コイツはものすごく勇気を振り絞って誘ったのかもしれない。好きだ、結婚してくれと何度も真っ直ぐに伝える度胸はあるくせに、デートにこぎつけるまでに半年以上もかかったことに今さら合点がいった。こいつは、自分の気持ちの伝え方をまるで知らないんだ。ミョウジさんが好きで好きで仕方なくて、普通なら徐々に距離を詰めていくところを何段階もすっ飛ばして愛を叫んでいる。持て余した感情をただ一方的に押し付けている。それはまさしく恋だけど、果たしてそれは愛なのか。
そんな一辺倒なやり方を変えるべく、この男はやっと一歩を踏み出したのかもしれない。
「なんか……お前、良い奴なんだな」
「はぁ?」
「ただのムカつく世間知らずのボンボンじゃないんだな」
「お前は無礼で厚かましい奴だな」
だからミョウジさんも惹かれてるんだろうなと心の中で思った。ただの世間知らずのボンボンだったらとっくに出禁だろう。それどころか好きとか結婚してくれと言われることにミョウジさんも満更ではないようだし、もはや様式美といっても過言ではない一方的な告白を双方、そして俺も楽しんでいた。
そんな中、突如舞い込んだ水族館デートの知らせに俺は跳び上がるほど歓喜した。だってお店のカウンター越しでしか会うことがなかった二人が外でデートするんだよ?赤ちゃんアザラシ見ているうちに距離が近くなっちゃってドキドキしたり、水槽に近づきすぎてコツンって額ぶつけちゃうところを見てキュンってしたり、そういう甘酸っぱいことが次々起きるってことでしょ?!もう今から付き合うまでのカウントダウンが始まってるよ。
両片思いは美味しい。美味しいよ、それからしか得られない栄養がある。でもやっぱり幸せになってほしいじゃない。俺も、月島さん?って人も二人が結ばれるハッピーエンドが見たいんだよ。月島さんと会ったことも話したことないけど。そのためにもこのデートを成功させて、是非ともドキドキキュンキュンを目一杯浴びてきてほしいんだよ、俺は。
「デートプランとかちゃんと考えてんの?」
「そ、それは、まあ……それなりに……」
なんだかとても心配な回答だ。勉強のために何冊か俺の愛読書を渡したい気もする。サブスクで観られるドラマとアニメだって教えたい。水族館行くやつあったっけ。いや絶対あるはずだ。本当に一人で大丈夫なのだろうか。
「こっそり写真撮ってツーショット集送ってやろうか?」
「ついてくる気かッ?!」
ぐわっと一気に顔を顰められた。何なんだお前は?!と喚いている。そんな嫌がんなくてもいいじゃん。邪魔はしないからさ。本当に好きなんだな、ミョウジさんのこと。
「一度聞いてみたかったんだけどさ、鯉登はミョウジさんのどんなところに惹かれたんだ?」
「何でそんなことをお前に言わないといけないんだ」
「え~気になるじゃん」
嫌そうな顔をしていたが答えてくれそうだ。顎に手を当てて少し考え込んだ後に、鯉登が口を開いた。
「……どこが、というより全てだ」
ハイ出ました"全て"だ!素で歯の浮くようなセリフを真顔で言う男に、危うく買ったばかりの抹茶ラテを握りつぶすところだった。なんだこいつ、想像以上に本物だな。さすが生放送で公開プロポーズしてミョウジさんをトレンド1位にしただけのことはある。ほえーと感嘆の声を漏らしていたら、今度は渋い顔をした鯉登に質問された。
「私も一度聞いてみたかったことがある……杉元はナマエのことをどう思っているんだ」
「えっ?俺?」
「ずっと通ってるんだろう」
ミョウジさんから聞いたんだろうか。確かに、俺はオープン当初から通っている。なぜ通っているかというと、理由はただ一つ。ミョウジさんに会いたいからだ。
「うーん……会いに行ける推し、かな」
「お、推し……?」
「ミョウジさんって気さくで優しいけどたまに辛辣で、話してると楽しいから通っちゃうんだよね。メニューどれも美味しいし」
あとたまに抜けてるところも良い。そう付け加えればぐぐぐ、と唇を噛んで百面相する鯉登が面白い。好きな女の子のことを良く言われて嬉しいけど、男が言っていて複雑なんだろう。この男はとても分かりやすい。というか、分かりやすすぎる。大企業の御曹司として大丈夫なんだろうか、駆け引きとかできるのか。
「そ、それはつまり、す、す……」
「あぁ、いや、ミョウジさんとどうこうなりたいって訳じゃねぇよ、推しの幸せが俺の幸せだから」
胸に手を当てて答えれば、鯉登が首を傾げて訳が分からないという顔をしていた。推しの概念が分からないやつなのか?今どき珍しいな。ボンボンすぎて俗世のことに疎いんだろうか。住む世界が違いすぎて良く分からない。こうやって話してるのが不思議なくらいだ。カップラーメンとか食ったことあるのかな。
「まああれだ、ミョウジさんが幸せなら俺はそれで良いって話だよ」
そして最近の推しが一番輝いている瞬間は、恋バナをしている時だ。水族館に誘われたと恥ずかしそうに白状したときの顔ったら!デートじゃないと言い聞かせている様子も可愛くてしょうがなかった。ついて行きたいと言えば嫌がっていたけれど、推しの一大イベントに参加したいと思うのは当然のことでは?最後にやっと素直になって「デート、何着ていったら良いと思いますか」と恥じらいながらも聞いてきた時には思わず天を仰いでしまった。今まで散々「恋じゃない」とか、「一時の気の迷いですよ」とか言っていたあのミョウジさんが一歩を踏み出した瞬間に俺は立ち会ったのだ。マジで無理。推しが尊すぎて死ぬ。
「だから絶対に泣かせんなよ」
「そんなこと、するわけがないだろう」
フン、とどこから湧いてくるのか分からない自信に満ちた表情に腹が立つ。さっきまで顔を真っ赤にして慌てふためいていた男と同一人物とは思えない。二人には幸せになってほしい。でもこいつのボンボンでズレているところとか、自信家で見ているこっちが居た堪れなくなるほどにキザなところは腹が立つことが多い。
「へぇ……?」
鯉登に一歩近づいた。ミョウジさんにとんでもないアプローチを仕掛けている男が居ると知ってから、ずっと心の中で思っていたことがある。切れ長な目は怯むことなく、真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。
「泣かせたら──」
ポン、と肩に手を乗せれば、特徴的な眉がひそめられた。
「──お前の血でゴールライン引いてやる」
バチンッと手を振り払われて、物凄い勢いで距離を取られた。さっきまでふんぞり返っていたというのに、髪が乱れて顔も真っ青だ。あははっ、そんな焦っちゃってさ、なんだよ冗談だよ……冗談なのが冗談だよ。
「ほら、早く会いに行ってこいよ」
「う、うるさい。お前が引き止めたんだろう」
髪を撫でつけながら足早に歩いて行った鯉登の姿が、人混みに紛れてやがて見えなくなった。本当にこの二人は手がかかる。早くくっつかねぇかなぁ、でもくっつくまでが一番キュンキュンするんだよなぁ。今日帰ったら水族館デートに行く作品を探してみようかなぁ。そんなことを考えつつ、抹茶ラテを啜りながら会社へ戻った。
2024.05.10
鯉登とはあの修羅場の一件があって顔見知りになって、ミョウジさんのカフェ周辺でたまに軽く挨拶を交わすような関係になった。大企業の御曹司だと聞いて、金に物を言わせて好き勝手やってるような嫌な男だったらどうしようと思っていたけど、案外悪いやつではないようだ。ただちょっと……いや、かなりボンボンすぎてズレてるだけで。
「よう、ミョウジさんとこ行く感じ?」
「あぁ、杉元は帰りか」
頷けばそのまま歩き出そうとしたので、慌てて引き止める。こっちは別にただ挨拶がしたくて話しかけた訳ではない。
「なあ、今度ミョウジさんと水族館行くんだろ?」
「なんでお前がそのこと……!」
「水族館選ぶなんて結構庶民的なデートするのな」
「デッ……」
耳を少し赤くさせて、鯉登がソワソワと目線を泳がした。もごもごと口を動かしているが言葉は出てきていない。なんだその初々しい反応は。こいつのことだから、てっきり「デートくらいで何だ。そんなことで一々盛り上がるな見苦しい」ぐらいは言われると思ったのに。デートという単語にこんなにも動揺する大人は今どき珍しいのではないか。
「あ、赤ちゃんアザラシを、見に行くだけだ……」
どこかで聞いたようなセリフをまごつきながら言う鯉登に、ふとあることが頭に浮かんだ。
「お前、恋愛経験ほとんどないだろ」
「キェエエエッ?!」
「うわびっくりした!落ち着け!」
「い、い、いきなり何を言うんだ失礼だな!」
飛び上がって奇声を発した鯉登に、周りの視線が一気に俺たちに集まった。すみません、俺も別にこの人そんな知ってるわけじゃないんで、あの、だから、そんな目で見ないでぇ?
ふぅふぅと肩を揺らして、真っ赤な顔で息を整える鯉登を見て「あ、この人本当に……」と口元を手で覆った。筋金入りの箱入り息子、天然記念物だ。事実は少女漫画よりも奇なり。でもちょっと設定盛りすぎなんじゃない?大丈夫?
正直、ヘリでもチャーターして夜景デートに行ったり、クルーザー貸切って青々とした海を見に行ったりして「この景色よりもナマエの方が綺麗だ」とか言ったりするのかと思っていたから、初デートが水族館と聞いて少し肩透かしを食らった。でももしかしたら、コイツはものすごく勇気を振り絞って誘ったのかもしれない。好きだ、結婚してくれと何度も真っ直ぐに伝える度胸はあるくせに、デートにこぎつけるまでに半年以上もかかったことに今さら合点がいった。こいつは、自分の気持ちの伝え方をまるで知らないんだ。ミョウジさんが好きで好きで仕方なくて、普通なら徐々に距離を詰めていくところを何段階もすっ飛ばして愛を叫んでいる。持て余した感情をただ一方的に押し付けている。それはまさしく恋だけど、果たしてそれは愛なのか。
そんな一辺倒なやり方を変えるべく、この男はやっと一歩を踏み出したのかもしれない。
「なんか……お前、良い奴なんだな」
「はぁ?」
「ただのムカつく世間知らずのボンボンじゃないんだな」
「お前は無礼で厚かましい奴だな」
だからミョウジさんも惹かれてるんだろうなと心の中で思った。ただの世間知らずのボンボンだったらとっくに出禁だろう。それどころか好きとか結婚してくれと言われることにミョウジさんも満更ではないようだし、もはや様式美といっても過言ではない一方的な告白を双方、そして俺も楽しんでいた。
そんな中、突如舞い込んだ水族館デートの知らせに俺は跳び上がるほど歓喜した。だってお店のカウンター越しでしか会うことがなかった二人が外でデートするんだよ?赤ちゃんアザラシ見ているうちに距離が近くなっちゃってドキドキしたり、水槽に近づきすぎてコツンって額ぶつけちゃうところを見てキュンってしたり、そういう甘酸っぱいことが次々起きるってことでしょ?!もう今から付き合うまでのカウントダウンが始まってるよ。
両片思いは美味しい。美味しいよ、それからしか得られない栄養がある。でもやっぱり幸せになってほしいじゃない。俺も、月島さん?って人も二人が結ばれるハッピーエンドが見たいんだよ。月島さんと会ったことも話したことないけど。そのためにもこのデートを成功させて、是非ともドキドキキュンキュンを目一杯浴びてきてほしいんだよ、俺は。
「デートプランとかちゃんと考えてんの?」
「そ、それは、まあ……それなりに……」
なんだかとても心配な回答だ。勉強のために何冊か俺の愛読書を渡したい気もする。サブスクで観られるドラマとアニメだって教えたい。水族館行くやつあったっけ。いや絶対あるはずだ。本当に一人で大丈夫なのだろうか。
「こっそり写真撮ってツーショット集送ってやろうか?」
「ついてくる気かッ?!」
ぐわっと一気に顔を顰められた。何なんだお前は?!と喚いている。そんな嫌がんなくてもいいじゃん。邪魔はしないからさ。本当に好きなんだな、ミョウジさんのこと。
「一度聞いてみたかったんだけどさ、鯉登はミョウジさんのどんなところに惹かれたんだ?」
「何でそんなことをお前に言わないといけないんだ」
「え~気になるじゃん」
嫌そうな顔をしていたが答えてくれそうだ。顎に手を当てて少し考え込んだ後に、鯉登が口を開いた。
「……どこが、というより全てだ」
ハイ出ました"全て"だ!素で歯の浮くようなセリフを真顔で言う男に、危うく買ったばかりの抹茶ラテを握りつぶすところだった。なんだこいつ、想像以上に本物だな。さすが生放送で公開プロポーズしてミョウジさんをトレンド1位にしただけのことはある。ほえーと感嘆の声を漏らしていたら、今度は渋い顔をした鯉登に質問された。
「私も一度聞いてみたかったことがある……杉元はナマエのことをどう思っているんだ」
「えっ?俺?」
「ずっと通ってるんだろう」
ミョウジさんから聞いたんだろうか。確かに、俺はオープン当初から通っている。なぜ通っているかというと、理由はただ一つ。ミョウジさんに会いたいからだ。
「うーん……会いに行ける推し、かな」
「お、推し……?」
「ミョウジさんって気さくで優しいけどたまに辛辣で、話してると楽しいから通っちゃうんだよね。メニューどれも美味しいし」
あとたまに抜けてるところも良い。そう付け加えればぐぐぐ、と唇を噛んで百面相する鯉登が面白い。好きな女の子のことを良く言われて嬉しいけど、男が言っていて複雑なんだろう。この男はとても分かりやすい。というか、分かりやすすぎる。大企業の御曹司として大丈夫なんだろうか、駆け引きとかできるのか。
「そ、それはつまり、す、す……」
「あぁ、いや、ミョウジさんとどうこうなりたいって訳じゃねぇよ、推しの幸せが俺の幸せだから」
胸に手を当てて答えれば、鯉登が首を傾げて訳が分からないという顔をしていた。推しの概念が分からないやつなのか?今どき珍しいな。ボンボンすぎて俗世のことに疎いんだろうか。住む世界が違いすぎて良く分からない。こうやって話してるのが不思議なくらいだ。カップラーメンとか食ったことあるのかな。
「まああれだ、ミョウジさんが幸せなら俺はそれで良いって話だよ」
そして最近の推しが一番輝いている瞬間は、恋バナをしている時だ。水族館に誘われたと恥ずかしそうに白状したときの顔ったら!デートじゃないと言い聞かせている様子も可愛くてしょうがなかった。ついて行きたいと言えば嫌がっていたけれど、推しの一大イベントに参加したいと思うのは当然のことでは?最後にやっと素直になって「デート、何着ていったら良いと思いますか」と恥じらいながらも聞いてきた時には思わず天を仰いでしまった。今まで散々「恋じゃない」とか、「一時の気の迷いですよ」とか言っていたあのミョウジさんが一歩を踏み出した瞬間に俺は立ち会ったのだ。マジで無理。推しが尊すぎて死ぬ。
「だから絶対に泣かせんなよ」
「そんなこと、するわけがないだろう」
フン、とどこから湧いてくるのか分からない自信に満ちた表情に腹が立つ。さっきまで顔を真っ赤にして慌てふためいていた男と同一人物とは思えない。二人には幸せになってほしい。でもこいつのボンボンでズレているところとか、自信家で見ているこっちが居た堪れなくなるほどにキザなところは腹が立つことが多い。
「へぇ……?」
鯉登に一歩近づいた。ミョウジさんにとんでもないアプローチを仕掛けている男が居ると知ってから、ずっと心の中で思っていたことがある。切れ長な目は怯むことなく、真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。
「泣かせたら──」
ポン、と肩に手を乗せれば、特徴的な眉がひそめられた。
「──お前の血でゴールライン引いてやる」
バチンッと手を振り払われて、物凄い勢いで距離を取られた。さっきまでふんぞり返っていたというのに、髪が乱れて顔も真っ青だ。あははっ、そんな焦っちゃってさ、なんだよ冗談だよ……冗談なのが冗談だよ。
「ほら、早く会いに行ってこいよ」
「う、うるさい。お前が引き止めたんだろう」
髪を撫でつけながら足早に歩いて行った鯉登の姿が、人混みに紛れてやがて見えなくなった。本当にこの二人は手がかかる。早くくっつかねぇかなぁ、でもくっつくまでが一番キュンキュンするんだよなぁ。今日帰ったら水族館デートに行く作品を探してみようかなぁ。そんなことを考えつつ、抹茶ラテを啜りながら会社へ戻った。
2024.05.10
