短編
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※無自覚だけど若干明治の記憶がある二人。当時死に別れてるので苦手な方は注意。
何かの拍子でふっと意識が浮上した。はぁ、はぁ、と荒い呼吸が隣から聞こえてくる。重い目蓋をほんの少しだけ開ければ、薄暗闇の中、佐一君が上体を起こして顔を覆っていた。
「どうしたの……?」
ごめん、と掠れた声が返ってきた。
「こわい夢でもみたの?」
返事の代わりに、覆いかぶさるように抱きつかれた。伝わってきた随分と早い鼓動と震える吐息に驚いて、半分夢の中だった意識が一気に覚醒する。腕を回して、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。
「大丈夫だよ、夢だから」
「うん……」
ごめんね。また謝罪の言葉が返ってくる。佐一君の顔が私の頬にすり寄ってきた。ふわふわとした癖毛がくすぐったくて身じろぎをすれば、頬がひんやりとして濡れていることに気づいた。泣いている。驚きに一瞬固まってしまった。佐一君がこんなにダメージを受けるなんて、どんな夢だったのだろう。大丈夫だよ、と大きい体を目一杯抱きしめて背中をさすった。佐一君はごめん、ごめんね、とすすり泣きながら繰り返している。何に対しての謝罪なのか分からない言葉に胸が締め付けられた。目が覚めて良かった。こんなにもつらそうな佐一君を暗闇の中一人にしていたらと思うと、胸が張り裂けそうだった。
一体どれだけそうしていたのだろう。段々と心音も呼吸も落ち着いてきた佐一君に私も安心していく。
「……すごく、怖くて悲しかった」
「うん」
ぎゅうっと私のことを抱きしめながら、佐一君が震える声で話し始めた。
「ナマエちゃんを守れなかった」
「私?私はほら、今もちゃんと生きてるから大丈夫だよ」
よしよしと頭を撫でながら、だからあんなに謝っていたのかと理解した。夢の中の話なんだからそんなに気にしなくても良いのに。ゾンビに襲われたり、得体の知れない何かから逃げ惑ったり……夢の中でなら私はもう何度だって死んでいる。足を撃たれ、兵隊さんに銃の先に付いた剣でぐっさりと刺されたことだってある。妙に生々しくて、それ以来、戦争物の映画やドラマが観られなくなったくらいだ。それでも現実世界の私は生きている。
「うん……いや、そうなんだけど……ずっと、ずっと前の話」
「ずっと前?」
「俺も良く分からないんだけど、何か……その……今じゃなくてもっと前」
もっと前、ってどういうことだろう。死んだ覚えなんて勿論ないし、平和な時代を平和に生きてきたから、何か事件に巻き込まれて死にかけたこともない。
「もしかして……前世とかそういう……?」
頭に浮かんだ漫画やドラマのような言葉を口にしてみれば、少しだけ恥ずかしさがこみ上げてくる。肝心の佐一君も「そうなのかなぁ……?」と首をかしげているのだから困ったものだ。佐一君はロマンチストではあるけど、前世なんてそんなスピリチュアルなことを言い出すような人でもないし、"ずっと前"が何を指すのか本人も良く分かっていないようなのがまた何とも不思議だった。
「ごめん、こんなこと言って。困るよね」
「ううん」
まあ夢だもんね。不思議なこともあるよ。それに申し訳ないけれど、私のことを守れなくてあんなにも取り乱していたのかと思うと少し嬉しかった。
夢の中の私はどんな私だったのだろう。"ずっと前"の私と佐一君はどんな人生を歩んでいたのだろう。もし仮に、本当にそんな私達が存在していたとしたら、優しい佐一君はきっと、深い後悔を抱えたまま生きていたのかもしれない。一人でさっきみたいに泣いて、謝っていたのかもしれない。ごめんね、私が佐一君を置いて行っちゃったばっかりに。存在していたかも分からない"ずっと前"の佐一君の痛みを想像してしまって、ツンと鼻の奥が痛んだ。みるみるうちに目頭が熱くなる。自分の妄想で泣くなんて、だいぶ滑稽だ。
「置いてっちゃってごめんねっ……」
「……ううん、俺が役立たずだったから、ナマエちゃんを幸せにできなかった」
「そんなことないよ。ずっと前の私もきっと、佐一君と少しでも一緒に居られて幸せだったよ」
ずずっと、二人分の鼻を啜る音が重なって、しんと静まり返った寝室に響き渡る。うるさくて笑ってしまった。大人二人で、なんでこんな変な話を泣きながらしているのだろう。
「今の私も佐一君と一緒に居られて幸せだよ」
「……うん」
さっきからずっと情けない表情をしている顔を両手で挟んだ。
「だからそんな顔しないで、佐一さん」
「……えっ?」
「うん?」
「いや、今……えっ?」
両頬を挟まれたまま、驚いたように私の顔をまじまじと見る佐一君がおかしい。むにむにと頬を捏ねれば、やっと佐一君が笑みを零した。もっと笑って、と頬っぺたを引っ張れば「痛い痛い」と今度は口を開けて笑った。佐一君が笑っていると安心する。一緒に居られて、持て余すほどに幸せだった。前世とか本当にあるのか分からないし、あったとしても俄かに信じ難いけど、生まれ変わってまた佐一君と出会ったというのなら、これ以上ロマンチックで嬉しい話はないのかもしれない。だって、死でさえ私達を分かつことができないなんて、結構凄いことなんじゃない?白熊 無断転載禁止
「俺も幸せ」
ずっと前の私も、きっと大好きだった笑顔が言った。
何かの拍子でふっと意識が浮上した。はぁ、はぁ、と荒い呼吸が隣から聞こえてくる。重い目蓋をほんの少しだけ開ければ、薄暗闇の中、佐一君が上体を起こして顔を覆っていた。
「どうしたの……?」
ごめん、と掠れた声が返ってきた。
「こわい夢でもみたの?」
返事の代わりに、覆いかぶさるように抱きつかれた。伝わってきた随分と早い鼓動と震える吐息に驚いて、半分夢の中だった意識が一気に覚醒する。腕を回して、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。
「大丈夫だよ、夢だから」
「うん……」
ごめんね。また謝罪の言葉が返ってくる。佐一君の顔が私の頬にすり寄ってきた。ふわふわとした癖毛がくすぐったくて身じろぎをすれば、頬がひんやりとして濡れていることに気づいた。泣いている。驚きに一瞬固まってしまった。佐一君がこんなにダメージを受けるなんて、どんな夢だったのだろう。大丈夫だよ、と大きい体を目一杯抱きしめて背中をさすった。佐一君はごめん、ごめんね、とすすり泣きながら繰り返している。何に対しての謝罪なのか分からない言葉に胸が締め付けられた。目が覚めて良かった。こんなにもつらそうな佐一君を暗闇の中一人にしていたらと思うと、胸が張り裂けそうだった。
一体どれだけそうしていたのだろう。段々と心音も呼吸も落ち着いてきた佐一君に私も安心していく。
「……すごく、怖くて悲しかった」
「うん」
ぎゅうっと私のことを抱きしめながら、佐一君が震える声で話し始めた。
「ナマエちゃんを守れなかった」
「私?私はほら、今もちゃんと生きてるから大丈夫だよ」
よしよしと頭を撫でながら、だからあんなに謝っていたのかと理解した。夢の中の話なんだからそんなに気にしなくても良いのに。ゾンビに襲われたり、得体の知れない何かから逃げ惑ったり……夢の中でなら私はもう何度だって死んでいる。足を撃たれ、兵隊さんに銃の先に付いた剣でぐっさりと刺されたことだってある。妙に生々しくて、それ以来、戦争物の映画やドラマが観られなくなったくらいだ。それでも現実世界の私は生きている。
「うん……いや、そうなんだけど……ずっと、ずっと前の話」
「ずっと前?」
「俺も良く分からないんだけど、何か……その……今じゃなくてもっと前」
もっと前、ってどういうことだろう。死んだ覚えなんて勿論ないし、平和な時代を平和に生きてきたから、何か事件に巻き込まれて死にかけたこともない。
「もしかして……前世とかそういう……?」
頭に浮かんだ漫画やドラマのような言葉を口にしてみれば、少しだけ恥ずかしさがこみ上げてくる。肝心の佐一君も「そうなのかなぁ……?」と首をかしげているのだから困ったものだ。佐一君はロマンチストではあるけど、前世なんてそんなスピリチュアルなことを言い出すような人でもないし、"ずっと前"が何を指すのか本人も良く分かっていないようなのがまた何とも不思議だった。
「ごめん、こんなこと言って。困るよね」
「ううん」
まあ夢だもんね。不思議なこともあるよ。それに申し訳ないけれど、私のことを守れなくてあんなにも取り乱していたのかと思うと少し嬉しかった。
夢の中の私はどんな私だったのだろう。"ずっと前"の私と佐一君はどんな人生を歩んでいたのだろう。もし仮に、本当にそんな私達が存在していたとしたら、優しい佐一君はきっと、深い後悔を抱えたまま生きていたのかもしれない。一人でさっきみたいに泣いて、謝っていたのかもしれない。ごめんね、私が佐一君を置いて行っちゃったばっかりに。存在していたかも分からない"ずっと前"の佐一君の痛みを想像してしまって、ツンと鼻の奥が痛んだ。みるみるうちに目頭が熱くなる。自分の妄想で泣くなんて、だいぶ滑稽だ。
「置いてっちゃってごめんねっ……」
「……ううん、俺が役立たずだったから、ナマエちゃんを幸せにできなかった」
「そんなことないよ。ずっと前の私もきっと、佐一君と少しでも一緒に居られて幸せだったよ」
ずずっと、二人分の鼻を啜る音が重なって、しんと静まり返った寝室に響き渡る。うるさくて笑ってしまった。大人二人で、なんでこんな変な話を泣きながらしているのだろう。
「今の私も佐一君と一緒に居られて幸せだよ」
「……うん」
さっきからずっと情けない表情をしている顔を両手で挟んだ。
「だからそんな顔しないで、佐一さん」
「……えっ?」
「うん?」
「いや、今……えっ?」
両頬を挟まれたまま、驚いたように私の顔をまじまじと見る佐一君がおかしい。むにむにと頬を捏ねれば、やっと佐一君が笑みを零した。もっと笑って、と頬っぺたを引っ張れば「痛い痛い」と今度は口を開けて笑った。佐一君が笑っていると安心する。一緒に居られて、持て余すほどに幸せだった。前世とか本当にあるのか分からないし、あったとしても俄かに信じ難いけど、生まれ変わってまた佐一君と出会ったというのなら、これ以上ロマンチックで嬉しい話はないのかもしれない。だって、死でさえ私達を分かつことができないなんて、結構凄いことなんじゃない?白熊 無断転載禁止
「俺も幸せ」
ずっと前の私も、きっと大好きだった笑顔が言った。
