短編
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疲れた。
私は一体何のために、こんなに心身をすり減らしているのだろうか。しかし元はと言えば全て私が悪い。仕事でミスにミスを重ね、スケジュール管理もままならず、さらに追い打ちをかけるようにトラブルが発生して納期を逃してしまった。方々に頭を下げて再調整した納期でもギリギリで、この一週間残業続きで身も心もズタボロな状態だった。家で毎日顔は合わせていたけれど、菊田さんとも碌に会話ができていないし、分担していた家事もほぼ全て任せっきりになってしまって本当に申し訳なかった。菊田さんだって忙しいのに。社会に出たてならまだしも、それなりに経験もある良い歳をした大人なのに。本当に情けなくて、先に眠りについていた菊田さんの穏やかな寝息を聞きながら、毎晩夜中にこっそり泣いていた。
そんな日々も漸く今日で終わった。残業はしてしまったが、なんとか納期に間に合って、私は今やっと心休まる自宅に帰宅した。リビングのドアを開ければ、部屋着兼パジャマ姿の菊田さんがソファーに座ってテレビを観ていた。洋画だった。時間的に毎週金曜日のあの映画枠だろう。
「おつかれ、ナマエ」
「ただいま、菊田さん」
たったこれだけの会話でツンと鼻が痛んだ。泣きそうになったのを隠すように、そそくさと洗面所に行って手を洗いに行った。一回座ってしまったら多分もう立ち上がれない。このままシャワーを浴びようと、ポイポイ服を洗濯機の中に脱ぎ捨てた。今日はもうそんな元気はないけれど、明日はゆっくり湯舟に浸かりたいな。有古君からもらった登別土産の入浴剤があったはずだ。私も温泉行きたい。菊田さんと一緒に箱根か、熱海か、少し遠いが草津や別府も良い。でも疲れた。旅行なんて暫く行けそうにない。そんなことを考えていたせいで、体を洗ったか分からなくなってしまった。念のためボディソープのポンプを押して、泡を体に滑らせてみる。あ、さっきこの動作したな。2回目だ。まあ洗ってなかったより良いか。その後もボーっと、半分放心状態で顔を洗って、最後にシャワーから出た。
ぱしぱしと手のひらで適当にクリームを顔に塗りたくっていく。本当なら化粧水も乳液もつけて、最後にクリームで蓋をしたいところだけれど、今の私にはそんな余裕は1ミリもなかった。一日くらいちゃんとしなくたって大丈夫なはず──と、一週間前の私も思っていた。明日からちゃんとしよう。適当に髪の毛を乾かしてリビングに戻れば、もう映画が終わっていた。アナウンサーが活舌良くニュースを読み上げている音が耳に届いてくるけど、内容が全く頭に入ってこない。まるで知らない言語を聞いているようだった。はぁっと息を吐き出しながら菊田さんの隣に座って重い頭を預ければ、優しい瞳がこちらを向いて、大きな手のひらが私の頭を撫でてきた。
「ぎゅってしてほしい……」
いつもだったら絶対に言えないことが、するっと口をついた。睡眠不足とストレスで頭が全然回らない。恥ずかしいけれど、今はただただ、菊田さんに甘えたかった。
「おいで」
そんな私をからかうこともせずに、菊田さんが目尻を下げて嬉しそうに両手を広げた。すかさずその広い胸に飛び込めば、私の要望通りにぎゅっと抱きしめられた。ありがとう。大好き。寂しかった。疲れた。上手く出来なくてごめんなさい。心が決壊して、色んな感情が一遍に襲ってくる。それをやり過ごすために菊田さんの胸に頭をぐりぐりと擦りつければ、もっとぎゅうぎゅうに腕の中に閉じ込められた。菊田さんはいつだって大人で、余裕で、私を受け止めてくれる。対する私は、いつだっていっぱいいっぱいで、本当に情けない。
「頑張ったな、ナマエ。えらいぞ」
「うぅっ……待って、そんな、泣いちゃうっ……」
「マジかよ、そんなに?」
効果は抜群だ。心身ともに疲弊しきったところに、菊田さんの優しさと包容力が染み渡る。干上がった地面に水をかけたときのように、ぐんぐん吸収して私の体を満たしていく。
仕事が上手くいかなかったダメージも大きかったけれど、菊田さんとの時間が取れなかったのがかなり精神的に効いた気がする。ご飯を一緒に食べたり、ボーっとテレビを観たり、夜同じ時間に眠ったり……何か特別なことをしなくても、一緒の時間を過ごすことが、私にとってどれだけ重要だったか。この一週間で痛いほど分かった。
「きくたさん……」
顔を上げて、目の前の菊田さんの首筋に鼻先を埋めた。私と同じボディソープと、菊田さんの匂いが混ざった香りに安心する。もっと欲しくて、膝に乗り上げてすうっと深く吸い込めば、菊田さんがふふっと笑ったのが分かった。ついでにこっそりと唇を寄せてみた。
「ナマエ」
バレたのだろうか。顔を上げれば、ちゅっと可愛らしいキスが唇に落とされた。もっとして、と目で訴えれば、全てを理解したようにふっと菊田さんの目元が緩んだ。角度を変えて、触れるだけのキスが顔中に降ってくる。メイクしてたって酷い顔色だったのに、すっぴんの今なんて目も当てられないはずだ。一週間もスキンケアをサボってしまったし。それなのに、菊田さんは私のことを愛おしそうに見つめて、唇を寄せてくる。一週間分の疲れが、菊田さんによって徐々に取り除かれていく。
「え……?」
また唇同士が重なりそうになって、私は当たり前のようにそうなるつもりだったのに、ギリギリの所で菊田さんが止まった。なんで。意地悪しないで。我慢できずに迎えに行けば、その分後ろに下がられてまたお預けをされる。
「もう、菊田さん」白熊 無断転載禁止
「そんな物欲しそうな顔するなよ」
「だって……」
欲しいんだもん。しょうがないでしょ。隙をついて菊田さんの唇を奪った。今度こそ逃したくなくて、勢いをつけすぎてちょっと痛かった。ごめんなさい、と小さく呟いたら顔に掛かっていた髪を耳にかけられた。
「……疲れてるんじゃないのか」
「疲れてるけど、菊田さんといちゃいちゃしたい」
子供っぽいと思われてもいい。今日はもうドロドロに甘やかしてほしかった。
「菊田さんは別腹だから」
「まあ確かに」
別腹だよなぁ、とするりとお臍の下あたりを撫でられて、ぶわわっと一気に顔に火がついた。
「はっ、えぇっ?!」
「ん?そう言う意味で言ったんじゃないのか?」
「そっ……」
「さっきから誘われてるのかと思ってたんだが」
おじさんめ。「なんだ違うのか」と少し目蓋を伏せて恥ずかしそうに笑う菊田さんが可愛いくて憎たらしい。でも下心が完全にゼロだったかと聞かれたら多分、ゼロではなかった。正直、疲れとストレスで悶々とした塊が、体の奥でずっと燻ってるのは感じていた。もしかしたらそれを発散したくて、無意識のうちに行動に現れていたのかもしれない。
それをしっかりと認識してしまった今、もう戻れなかった。もっと、ちゃんと、触れて欲しい。それでも言葉にするのはまだ恥ずかしくて、私の髪を撫でていた菊田さんの左手を絡めとった。大きくて、厚くて、私のとは全然違う。人差し指の第一関節から親指の付け根まで、ゴツゴツとした手の甲を、絡めた親指でするすると優しく何度も撫でていく。いつもの私たちの合図に、菊田さんが目を細めた。
「違く、ないです……」
俯きがちに本音をしぼり出せば、右頬がすっぽりと菊田さんの手のひらで包まれた。膨らむ期待に急かされるように顔を上げたら、すぐに口が塞がれた。さっきよりも触れ合う時間が長い。息継ぎで僅かに開いた隙間から、菊田さんの舌が強引に入り込んで来た。逃げるつもりなんてなかった舌は簡単に捉えられた。二人分の舌がみっちりと口内に収まっているせいで、菊田さんが動く度に敏感な上顎が擦られて、ぞわぞわと鳥肌が立ってくぐもった声が漏れ出てしまう。息継ぎまで食べられるような熱い口付けに、どんどん力が抜けていく。
「ふっ……ん、ぁっ……」
ちゃんと受け止めたいのに、口内を蹂躙されるあまりの刺激に逃げ腰になってしまう。でも菊田さんがそれを許してくれない。右手は繋がれたまま、いつの間にか頭の後ろをがっちりと固定されて、触れられている箇所がジンジンと熱を持って疼いている。聞こえてくるのはお互いの息遣いといやらしい水音だけだ。幸せで、気持ち良くて、もうこのまま死んでも良い。嘘、もっと一緒に居たい。もっと頂戴。ふわふわとした頭で熱く蠢く舌に絡ませに行けば、繋がれた菊田さんの手にグッと力が入ったのが分かった。そんな些細なことにも興奮した。
「んっ……」
最後にちゅっとわざとらしい音を立てながら、菊田さんが離れていった。可愛らしい音なのに、酷くいやらしく聞こえて体がふるりと震えた。浅い呼吸を繰り返して、必死に体に酸素を巡らせる。無意識に菊田さんの胸元を握りしめていたせいで、服がしわくちゃになっていた。キスだけでこんなことになって恥ずかしい。
菊田さんの親指が私の唇を拭った。先ほど私を労わってくれた時とは全く違う、熱を孕んだ瞳に気づいて心臓が大きく跳ねる。
「頑張ったご褒美、あげないとな」
「っ……?!」
恥ずかしさと嬉しさでぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて、堪らずにまた菊田さんの胸に飛び込んだ。
私は一体何のために、こんなに心身をすり減らしているのだろうか。しかし元はと言えば全て私が悪い。仕事でミスにミスを重ね、スケジュール管理もままならず、さらに追い打ちをかけるようにトラブルが発生して納期を逃してしまった。方々に頭を下げて再調整した納期でもギリギリで、この一週間残業続きで身も心もズタボロな状態だった。家で毎日顔は合わせていたけれど、菊田さんとも碌に会話ができていないし、分担していた家事もほぼ全て任せっきりになってしまって本当に申し訳なかった。菊田さんだって忙しいのに。社会に出たてならまだしも、それなりに経験もある良い歳をした大人なのに。本当に情けなくて、先に眠りについていた菊田さんの穏やかな寝息を聞きながら、毎晩夜中にこっそり泣いていた。
そんな日々も漸く今日で終わった。残業はしてしまったが、なんとか納期に間に合って、私は今やっと心休まる自宅に帰宅した。リビングのドアを開ければ、部屋着兼パジャマ姿の菊田さんがソファーに座ってテレビを観ていた。洋画だった。時間的に毎週金曜日のあの映画枠だろう。
「おつかれ、ナマエ」
「ただいま、菊田さん」
たったこれだけの会話でツンと鼻が痛んだ。泣きそうになったのを隠すように、そそくさと洗面所に行って手を洗いに行った。一回座ってしまったら多分もう立ち上がれない。このままシャワーを浴びようと、ポイポイ服を洗濯機の中に脱ぎ捨てた。今日はもうそんな元気はないけれど、明日はゆっくり湯舟に浸かりたいな。有古君からもらった登別土産の入浴剤があったはずだ。私も温泉行きたい。菊田さんと一緒に箱根か、熱海か、少し遠いが草津や別府も良い。でも疲れた。旅行なんて暫く行けそうにない。そんなことを考えていたせいで、体を洗ったか分からなくなってしまった。念のためボディソープのポンプを押して、泡を体に滑らせてみる。あ、さっきこの動作したな。2回目だ。まあ洗ってなかったより良いか。その後もボーっと、半分放心状態で顔を洗って、最後にシャワーから出た。
ぱしぱしと手のひらで適当にクリームを顔に塗りたくっていく。本当なら化粧水も乳液もつけて、最後にクリームで蓋をしたいところだけれど、今の私にはそんな余裕は1ミリもなかった。一日くらいちゃんとしなくたって大丈夫なはず──と、一週間前の私も思っていた。明日からちゃんとしよう。適当に髪の毛を乾かしてリビングに戻れば、もう映画が終わっていた。アナウンサーが活舌良くニュースを読み上げている音が耳に届いてくるけど、内容が全く頭に入ってこない。まるで知らない言語を聞いているようだった。はぁっと息を吐き出しながら菊田さんの隣に座って重い頭を預ければ、優しい瞳がこちらを向いて、大きな手のひらが私の頭を撫でてきた。
「ぎゅってしてほしい……」
いつもだったら絶対に言えないことが、するっと口をついた。睡眠不足とストレスで頭が全然回らない。恥ずかしいけれど、今はただただ、菊田さんに甘えたかった。
「おいで」
そんな私をからかうこともせずに、菊田さんが目尻を下げて嬉しそうに両手を広げた。すかさずその広い胸に飛び込めば、私の要望通りにぎゅっと抱きしめられた。ありがとう。大好き。寂しかった。疲れた。上手く出来なくてごめんなさい。心が決壊して、色んな感情が一遍に襲ってくる。それをやり過ごすために菊田さんの胸に頭をぐりぐりと擦りつければ、もっとぎゅうぎゅうに腕の中に閉じ込められた。菊田さんはいつだって大人で、余裕で、私を受け止めてくれる。対する私は、いつだっていっぱいいっぱいで、本当に情けない。
「頑張ったな、ナマエ。えらいぞ」
「うぅっ……待って、そんな、泣いちゃうっ……」
「マジかよ、そんなに?」
効果は抜群だ。心身ともに疲弊しきったところに、菊田さんの優しさと包容力が染み渡る。干上がった地面に水をかけたときのように、ぐんぐん吸収して私の体を満たしていく。
仕事が上手くいかなかったダメージも大きかったけれど、菊田さんとの時間が取れなかったのがかなり精神的に効いた気がする。ご飯を一緒に食べたり、ボーっとテレビを観たり、夜同じ時間に眠ったり……何か特別なことをしなくても、一緒の時間を過ごすことが、私にとってどれだけ重要だったか。この一週間で痛いほど分かった。
「きくたさん……」
顔を上げて、目の前の菊田さんの首筋に鼻先を埋めた。私と同じボディソープと、菊田さんの匂いが混ざった香りに安心する。もっと欲しくて、膝に乗り上げてすうっと深く吸い込めば、菊田さんがふふっと笑ったのが分かった。ついでにこっそりと唇を寄せてみた。
「ナマエ」
バレたのだろうか。顔を上げれば、ちゅっと可愛らしいキスが唇に落とされた。もっとして、と目で訴えれば、全てを理解したようにふっと菊田さんの目元が緩んだ。角度を変えて、触れるだけのキスが顔中に降ってくる。メイクしてたって酷い顔色だったのに、すっぴんの今なんて目も当てられないはずだ。一週間もスキンケアをサボってしまったし。それなのに、菊田さんは私のことを愛おしそうに見つめて、唇を寄せてくる。一週間分の疲れが、菊田さんによって徐々に取り除かれていく。
「え……?」
また唇同士が重なりそうになって、私は当たり前のようにそうなるつもりだったのに、ギリギリの所で菊田さんが止まった。なんで。意地悪しないで。我慢できずに迎えに行けば、その分後ろに下がられてまたお預けをされる。
「もう、菊田さん」白熊 無断転載禁止
「そんな物欲しそうな顔するなよ」
「だって……」
欲しいんだもん。しょうがないでしょ。隙をついて菊田さんの唇を奪った。今度こそ逃したくなくて、勢いをつけすぎてちょっと痛かった。ごめんなさい、と小さく呟いたら顔に掛かっていた髪を耳にかけられた。
「……疲れてるんじゃないのか」
「疲れてるけど、菊田さんといちゃいちゃしたい」
子供っぽいと思われてもいい。今日はもうドロドロに甘やかしてほしかった。
「菊田さんは別腹だから」
「まあ確かに」
別腹だよなぁ、とするりとお臍の下あたりを撫でられて、ぶわわっと一気に顔に火がついた。
「はっ、えぇっ?!」
「ん?そう言う意味で言ったんじゃないのか?」
「そっ……」
「さっきから誘われてるのかと思ってたんだが」
おじさんめ。「なんだ違うのか」と少し目蓋を伏せて恥ずかしそうに笑う菊田さんが可愛いくて憎たらしい。でも下心が完全にゼロだったかと聞かれたら多分、ゼロではなかった。正直、疲れとストレスで悶々とした塊が、体の奥でずっと燻ってるのは感じていた。もしかしたらそれを発散したくて、無意識のうちに行動に現れていたのかもしれない。
それをしっかりと認識してしまった今、もう戻れなかった。もっと、ちゃんと、触れて欲しい。それでも言葉にするのはまだ恥ずかしくて、私の髪を撫でていた菊田さんの左手を絡めとった。大きくて、厚くて、私のとは全然違う。人差し指の第一関節から親指の付け根まで、ゴツゴツとした手の甲を、絡めた親指でするすると優しく何度も撫でていく。いつもの私たちの合図に、菊田さんが目を細めた。
「違く、ないです……」
俯きがちに本音をしぼり出せば、右頬がすっぽりと菊田さんの手のひらで包まれた。膨らむ期待に急かされるように顔を上げたら、すぐに口が塞がれた。さっきよりも触れ合う時間が長い。息継ぎで僅かに開いた隙間から、菊田さんの舌が強引に入り込んで来た。逃げるつもりなんてなかった舌は簡単に捉えられた。二人分の舌がみっちりと口内に収まっているせいで、菊田さんが動く度に敏感な上顎が擦られて、ぞわぞわと鳥肌が立ってくぐもった声が漏れ出てしまう。息継ぎまで食べられるような熱い口付けに、どんどん力が抜けていく。
「ふっ……ん、ぁっ……」
ちゃんと受け止めたいのに、口内を蹂躙されるあまりの刺激に逃げ腰になってしまう。でも菊田さんがそれを許してくれない。右手は繋がれたまま、いつの間にか頭の後ろをがっちりと固定されて、触れられている箇所がジンジンと熱を持って疼いている。聞こえてくるのはお互いの息遣いといやらしい水音だけだ。幸せで、気持ち良くて、もうこのまま死んでも良い。嘘、もっと一緒に居たい。もっと頂戴。ふわふわとした頭で熱く蠢く舌に絡ませに行けば、繋がれた菊田さんの手にグッと力が入ったのが分かった。そんな些細なことにも興奮した。
「んっ……」
最後にちゅっとわざとらしい音を立てながら、菊田さんが離れていった。可愛らしい音なのに、酷くいやらしく聞こえて体がふるりと震えた。浅い呼吸を繰り返して、必死に体に酸素を巡らせる。無意識に菊田さんの胸元を握りしめていたせいで、服がしわくちゃになっていた。キスだけでこんなことになって恥ずかしい。
菊田さんの親指が私の唇を拭った。先ほど私を労わってくれた時とは全く違う、熱を孕んだ瞳に気づいて心臓が大きく跳ねる。
「頑張ったご褒美、あげないとな」
「っ……?!」
恥ずかしさと嬉しさでぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて、堪らずにまた菊田さんの胸に飛び込んだ。
