短編
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永倉先生を追って、半ば強引にこの金塊争奪戦に参加したのが少し前。最初は先生たちと牛山さんしか居なかったのに、気づけばだいぶ大所帯になっていた。特に、キラウシさんと門倉さんが加わってからはとても賑やかになって、こんな血で血を洗う争いの中で不謹慎かもしれないが、毎日がとても楽しかった。いつも何かしら言い合いをしていて、それを見たり、時に参加したりするのが私は好きだった。今だって花札をしながら「尻の穴のぞき野郎」「出稼ぎ労働者」と言葉の応酬をしているのが面白くてたまらない。そうこうしているうちに、今日もキラウシさんが圧勝して終わったようだ。
「ナマエも花札やるか?」
「やりたいです!」
床で札を混ぜるキラウシさんを見ていたら、ふと、その特徴的な鉢巻に目が行った。アイヌ語ではマタンプシ、と言うんだったっけ。
「キラウシさんのマタンプシ、とても素敵ですね」
藍色の生地に、白で縁取られた真紅のアイヌ紋様が刺繍してある。今まで気づかなかったけれど、額の真ん中、紋様の中心の縁取りには白い糸の代わりに黄、紫、桃、緑と色とりどりの糸が使われている。意匠が凝らされていて、とても可愛くて素敵だ。
「姉が作ったんだ」
キラウシさんが嬉しそうに言うのでこちらも嬉しくなってしまう。お姉さんがいるのか。年上だけど、どことなく愛嬌があって可愛いというか、甘やかしたくなる雰囲気を持っているのは、弟という属性のせいなのかと少し納得してしまった。
「あれなんだろ?女が刺繍した鉢巻を男に渡すのがアイヌ流の求愛なんだろ」
わざとらしい笑みと共に、門倉さんが横から口を出してきた。
「姉ちゃんに作ってもらった鉢巻してるってことは、そういう相手が居ないってことだろ」
「うるせぇジジイ!」
「なんだ図星か!」
ははは!と門倉さんが笑い飛ばした。そうなのか。家族を養うために金がいると言っていたから、てっきり結婚しているのかと思っていた。お姉さんがいることも知らなかったし、キラウシさんのことはまだまだ知らないことばかりだ。
「ナマエは兄弟いるのか?」
「上に兄と姉がいます」
「俺は──」
「門倉には聞いてない」
「聞けよ。ひどいよなぁ、ナマエちゃん」
キラウシさんにぶった斬られた門倉さんがさも当然のように肩を抱いてきたので、反射的に投げ飛ばしてしまった。綺麗な一本が決まって、無様に門倉さんが花札と共に床に転がる。看守部長だったのに受け身も取れないのか、門倉さん。
「いいぞナマエ!もっとやれっ!」
「痛ててて……お前らひどくねぇかっ?!」
「門倉さんがいやらしい触り方するから!」
「肩抱いただけだろ!」
だとしてもなんか嫌だったんだ。こう……ぞわぞわが全身に巡る感じが。なんでだろうと一瞬考え、一つの答えに辿り着いた。
「尻の穴のぞく人に触られるのはちょっと……」
ハハハ!とキラウシさんが大口を開けて無邪気に笑った。「仕事だったんだよ!」と、門倉さんが立ちあがろうとしたが花札で滑ってまた転がった。あれ、門倉さんの手と額に付いてるの、五光だ。腹の上には猪鹿蝶も揃っている。門倉さんは変なところで引きがいい。
「つうか尻の穴って……すぐ手も足も出るし、ナマエちゃんもっとお淑やかにならないと、嫁の貰い手なくなっちゃうよ?」
「奥さんに逃げられた門倉さんには言われたくないですぅ」
「そういう可愛げのないとこだぞ!」
行き遅れても知らないからな!と続けられたことにムカっと来て、床に伸びたままの門倉さんに掴みかかろうとしたが「それは大丈夫だろ」というキラウシさんの落ち着いた声に手が止まった。どういう意味だと、ほぼ同時に私と門倉さんが声の主、キラウシさんを見た。さっきまであんなに笑っていたはずのキラウシさんは、キョトンとした顔をしていた。白熊 無断転載禁止
「俺のところに来ればいい」
一瞬、シンと部屋が静まった。
「ちゃんと養えるのか貧乏人!」
門倉さんの言葉を皮切りに、また部屋が騒がしくなる。さっきまで私もその喧騒の中心にいたのに、キラウシさんの言葉に思考が停止してその中に入れないでいた。えっと、つまり、嫁に来いってこと?いや、貰い手がいないなら来てもいい、ってこと?貰い手いないけど。刺繍は苦手だし、さっきだって門倉さんを投げ飛ばしたのに?尻の穴って言ったのに?
危険だから家に帰れと言う永倉先生に向かって「覚悟はできています!何が起きても構いません!」と啖呵を切ってこの金塊争奪戦に参加したけど、まさかこんなことまで起きるなんて思っていなかった。キラウシさんのことは好きだ。結婚……はまだ想像できないけれど、この先ずっと三人で居られたら人生とても楽しいと思う。あれ?私、門倉さんもいる想定で考えているな?いや、落ち着け。ただの社交辞令だ。真に受けたらいけない。こんなことで浮ついていたら、修行が足りないと永倉先生に怒られてしまう。
「俺は認めないからな」
「門倉はどの立場で言ってるんだ」
「父親だよ!お前なんかに娘をやれるか!」
「ナマエは門倉の娘じゃないだろ」
相変わらずの会話に笑ってしまう。やっぱり、私はこの人たちの掛け合いが好きだ。
「そもそも嫁に行けないとか言ったのは門倉さんじゃないですか」
「あのなぁ、父親心ってのはフクザツなんだよ……!」
「だから、門倉の娘じゃないだろ」
わいわいと騒がしく夜が更けていく。まさか、全てが終わった後にキラウシさんとアメリカで一緒になって、そこに門倉さんも居て、この先ずっと騒がしい未来が待っているなんて、この時は知る由もなかった。
「ナマエも花札やるか?」
「やりたいです!」
床で札を混ぜるキラウシさんを見ていたら、ふと、その特徴的な鉢巻に目が行った。アイヌ語ではマタンプシ、と言うんだったっけ。
「キラウシさんのマタンプシ、とても素敵ですね」
藍色の生地に、白で縁取られた真紅のアイヌ紋様が刺繍してある。今まで気づかなかったけれど、額の真ん中、紋様の中心の縁取りには白い糸の代わりに黄、紫、桃、緑と色とりどりの糸が使われている。意匠が凝らされていて、とても可愛くて素敵だ。
「姉が作ったんだ」
キラウシさんが嬉しそうに言うのでこちらも嬉しくなってしまう。お姉さんがいるのか。年上だけど、どことなく愛嬌があって可愛いというか、甘やかしたくなる雰囲気を持っているのは、弟という属性のせいなのかと少し納得してしまった。
「あれなんだろ?女が刺繍した鉢巻を男に渡すのがアイヌ流の求愛なんだろ」
わざとらしい笑みと共に、門倉さんが横から口を出してきた。
「姉ちゃんに作ってもらった鉢巻してるってことは、そういう相手が居ないってことだろ」
「うるせぇジジイ!」
「なんだ図星か!」
ははは!と門倉さんが笑い飛ばした。そうなのか。家族を養うために金がいると言っていたから、てっきり結婚しているのかと思っていた。お姉さんがいることも知らなかったし、キラウシさんのことはまだまだ知らないことばかりだ。
「ナマエは兄弟いるのか?」
「上に兄と姉がいます」
「俺は──」
「門倉には聞いてない」
「聞けよ。ひどいよなぁ、ナマエちゃん」
キラウシさんにぶった斬られた門倉さんがさも当然のように肩を抱いてきたので、反射的に投げ飛ばしてしまった。綺麗な一本が決まって、無様に門倉さんが花札と共に床に転がる。看守部長だったのに受け身も取れないのか、門倉さん。
「いいぞナマエ!もっとやれっ!」
「痛ててて……お前らひどくねぇかっ?!」
「門倉さんがいやらしい触り方するから!」
「肩抱いただけだろ!」
だとしてもなんか嫌だったんだ。こう……ぞわぞわが全身に巡る感じが。なんでだろうと一瞬考え、一つの答えに辿り着いた。
「尻の穴のぞく人に触られるのはちょっと……」
ハハハ!とキラウシさんが大口を開けて無邪気に笑った。「仕事だったんだよ!」と、門倉さんが立ちあがろうとしたが花札で滑ってまた転がった。あれ、門倉さんの手と額に付いてるの、五光だ。腹の上には猪鹿蝶も揃っている。門倉さんは変なところで引きがいい。
「つうか尻の穴って……すぐ手も足も出るし、ナマエちゃんもっとお淑やかにならないと、嫁の貰い手なくなっちゃうよ?」
「奥さんに逃げられた門倉さんには言われたくないですぅ」
「そういう可愛げのないとこだぞ!」
行き遅れても知らないからな!と続けられたことにムカっと来て、床に伸びたままの門倉さんに掴みかかろうとしたが「それは大丈夫だろ」というキラウシさんの落ち着いた声に手が止まった。どういう意味だと、ほぼ同時に私と門倉さんが声の主、キラウシさんを見た。さっきまであんなに笑っていたはずのキラウシさんは、キョトンとした顔をしていた。白熊 無断転載禁止
「俺のところに来ればいい」
一瞬、シンと部屋が静まった。
「ちゃんと養えるのか貧乏人!」
門倉さんの言葉を皮切りに、また部屋が騒がしくなる。さっきまで私もその喧騒の中心にいたのに、キラウシさんの言葉に思考が停止してその中に入れないでいた。えっと、つまり、嫁に来いってこと?いや、貰い手がいないなら来てもいい、ってこと?貰い手いないけど。刺繍は苦手だし、さっきだって門倉さんを投げ飛ばしたのに?尻の穴って言ったのに?
危険だから家に帰れと言う永倉先生に向かって「覚悟はできています!何が起きても構いません!」と啖呵を切ってこの金塊争奪戦に参加したけど、まさかこんなことまで起きるなんて思っていなかった。キラウシさんのことは好きだ。結婚……はまだ想像できないけれど、この先ずっと三人で居られたら人生とても楽しいと思う。あれ?私、門倉さんもいる想定で考えているな?いや、落ち着け。ただの社交辞令だ。真に受けたらいけない。こんなことで浮ついていたら、修行が足りないと永倉先生に怒られてしまう。
「俺は認めないからな」
「門倉はどの立場で言ってるんだ」
「父親だよ!お前なんかに娘をやれるか!」
「ナマエは門倉の娘じゃないだろ」
相変わらずの会話に笑ってしまう。やっぱり、私はこの人たちの掛け合いが好きだ。
「そもそも嫁に行けないとか言ったのは門倉さんじゃないですか」
「あのなぁ、父親心ってのはフクザツなんだよ……!」
「だから、門倉の娘じゃないだろ」
わいわいと騒がしく夜が更けていく。まさか、全てが終わった後にキラウシさんとアメリカで一緒になって、そこに門倉さんも居て、この先ずっと騒がしい未来が待っているなんて、この時は知る由もなかった。
