短編
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「自分、ミョウジさんのことがめちゃくちゃタイプっす」
食堂で昼飯を食べていたら、最近配属されてきた新人が急にとんでもないことを言い出して、隣の菊田さんが盛大に咽せた。ゲホッゴホッヴェッと割と本気で心配になる感じの咳を繰り返す菊田さんに「ちょっと気をつけてくださいよ」と超大型新人が紙ナプキンの入れ物ごと菊田さんの前に置いた。お前のせいだけどな。
「年上ですけど、可愛いっていうかなんかこう……守ってあげたいみたいな!もっと笑った顔が見たいっていうか!」
これが恋かぁあって感じで!と、目の前の新人が煌めきながらテンション高めに話し続ける。完全に恋する乙女の瞳をしている。
「ミョウジさんって、付き合ってる人とか……あっ!いや、大丈夫っす!自分、ハードルは高ければ高い方が燃えるんで!」
「──っていうことがあってさぁ!」
「まさか、話し相手の佐一君がハードルだとは思ってなかっただろうねぇ」
くしゃっとした笑顔でナマエちゃんが笑った。俺はナマエちゃんのこの笑顔が大好きだ。キュッと上がった口角、三日月に細められた目、下がった目尻に寄った笑い皺──見ているこっちも自然と笑顔になっていく、そんな不思議な力を持っている。ナマエちゃんが笑うところがもっと見たい。それが俺の恋の始まりだった気がする。そういえば、アイツも同じようなこと言ってたな。めちゃくちゃ分かる、と思うと同時にナマエちゃんは俺の奥さんなんだから手を出すなよと、複雑な気持ちになっていく。結局、話を全く聞かないままあの新人は早々に食べ終わって席を立ってしまったから、俺たちの関係を伝えられていない。
「その新人君ってすごいよね。まだ来て二週間も経ってないのに人脈が広すぎてびっくりしちゃった」
尾形さんとも飲みに行ってるらしいよ、とナマエちゃんが言うので耳を疑ってしまう。
「え?尾形ってあの尾形?」
「そう、あの尾形さん」
ナマエちゃんが髪の毛を撫で付ける仕草をした。同じフロアとはいえ別部署で、業務でもそんなに関わりはないはずなのに、なんで尾形なんかと知り合いなんだ。そもそもあの尾形と飲みに行く気が知れない。一体何話すんだよ。
「コミュ力お化けだよねぇ。私ほぼ話してないのにずっと笑ってた気がする」
思い出し笑いをしながら話すナマエちゃんを見てムッとした。ねぇ、俺の奥さんなのに、ほかの男に簡単に笑顔を向けないでよ。しかもアイツはナマエちゃんのこと狙ってるんだよ?
「妬いてるの?」
黙り込んでしまった俺にナマエちゃんがくっついてきた。可愛いなぁ、と髪をわしゃわしゃと撫でられてむず痒い。
「私は佐一君が一番だよ。カッコいいのにやきもち焼きで可愛いところも大好き」
はにかみながら、ナマエちゃんが俺の頬に軽いキスを落とした。ふにっとした感触と、ちゅっと可愛らしい音に心臓が跳ねる。
「高すぎるハードルだね、佐一君」
よせやぁい。鼻先をつつかれながらそんなことを言われたら、気持ち悪いほどににやけてしまう。ムズムズと嬉しさと愛おしさが湧き上がってきて、堪らなくなってナマエちゃんをギュッと抱きしめた。もっと近くに来て。膝の上を跨るよう誘導する。二人分の重量が一箇所に集まって、少しだけソファーが軋んだ。細い腰に腕を回せば、うんと密着度が上がって、満足度も上がった。
ナマエちゃんの綺麗で華奢な手が、俺の頬をするすると撫ぜた。見つめ合いながら手を重ねれば、すっぽりと覆われてしまう。俺よりもずっと小さくて、どこを触ってもふわふわすべすべしてて、本当に可愛い可愛い俺の奥さんだ。
白熊 無断転載禁止
眼前のふにふにとした柔らかい唇を奪えば、俺の大好きな笑顔が返ってきた。結婚してもう数年経つのに、年々愛おしさが増していく。こうやって触れ合うことができるのは、夫である俺の特権なのだと、安心感と優越感が込み上げてくる。
「はぁ……可愛過ぎてつらい」
「大袈裟だなぁ、佐一君は」
「小瓶とかに入れて常に持ち歩きたい」
それはちょっと、と苦笑いしたナマエちゃんの唇を塞いだ。割と本気だよ、俺は。白熊 無断転載禁止
*
「杉元さん、杉元さん!」
「うわっ、何だよ」
菊田さんと食堂で昼飯を食べていたら、あの新人が慌ただしく目の前の席に座った。ガシャっとトレーが雑に置かれて、味噌汁が少しこぼれたのが見えた。勿体ねぇな。
「尾形さんから聞いたんですけど、ミョウジさんと仲良いんですって?!詳しく聞かせてください!」
ゲホッゴホッと隣の菊田さんが咽せた。「ちょっと気をつけてくださいよ」と超大型新人が紙ナプキンの入れ物ごと菊田さんの前に置いた。デジャブがすごい。数日前と全く同じ光景だ。尾形の野郎、楽しんでやがるな。俺たちのことを知っていてわざわざ焚き付けている。本当に気に食わない奴だ。
「あっ、佐一君。一緒に良い?」
通りがかったナマエちゃんが言い終わるや否や「どうぞ!」とやたらと大きな声でハキハキと返事をした新人にカチンと来る。ご丁寧に椅子まで引いてあげている。お前場所変われよ、なんでナマエちゃんの隣なんだよ。
「ミョウジさん、今日も可愛いっすね!」
「えっ?あ、ありがとう……」
「マジで天使にしか見えないですよ、世界はミョウジさんが居るから今日も輝いて見えるんですね」
なんなんだコイツ。次から次へと出てくる歯の浮くようなセリフに唖然としてしまう。人妻を堂々と口説くな。流石に見過ごせなくて口を出そうとしたら、突然新人が俺に向き合った。
「てか名前で呼ぶほどミョウジさんと杉元さんって仲良いんですね」
意外でしたよ、と随分と失礼なことを言う新人に、やっと持ち直した菊田さんが口を挟んだ。
「まあ結婚してるからね」
「……誰が?」
「ミョウジと杉元」
ハアァ?!と今日一でかい声を出した新人に、食堂内の視線が集まる。尾形の野郎がニマニマと嫌な笑顔をこちらに向けているのが見えた。オイ、あとで覚えとけよ。
「じょ、冗談きついっすよぉ菊田さん、名字違うじゃないですか」
「あっ、私、旧姓のままで働いてるの」
本当は杉元ナマエなの、と少し気恥ずかしそうに笑ったナマエちゃんに、新人が分かりやすくダメージを受けていた。杉元ナマエ、良い響きだろ?
「結婚指輪は?!してないっすよね?!」
「一回失くしたからそれ以来記念日とかにしかつけてなくて」
結局ベッドの下から見つかったから良かったんだけどね。寝る前にハンドクリームを付けようとして外して、そのまま忘れて床に落ちてしまっていたらしい。「見つかって良かったぁ……!」とわんわん泣いていたナマエちゃんをふと思い出した。このことを知っているのは俺だけだ。お前の出る幕なんて、どこにもないんだよ。
「てかなんで菊田さんも杉元さんも早く言ってくれなかったんですか!とんだピエロじゃないっすか!」
「お前が話聞かなかったからだろ」
「えぇ?ちゃんと聞いてますよぉ」
どこがだよ、俺たち全員で同じことを思ったに違いない。ナマエちゃんは笑いを必死に堪えているのか、真一文字に結ばれた口元が不自然に動いている。
「で、誰がハードルだって?」
「それはマジですいません」
まあでも、と新人がお茶を一口飲んで呟いた。
「ミョウジさんが幸せならオッケーです」
グッと親指を立てながらドヤ顔で言ってきた新人に、ナマエちゃんが耐えきれずにくしゃっと笑った。
食堂で昼飯を食べていたら、最近配属されてきた新人が急にとんでもないことを言い出して、隣の菊田さんが盛大に咽せた。ゲホッゴホッヴェッと割と本気で心配になる感じの咳を繰り返す菊田さんに「ちょっと気をつけてくださいよ」と超大型新人が紙ナプキンの入れ物ごと菊田さんの前に置いた。お前のせいだけどな。
「年上ですけど、可愛いっていうかなんかこう……守ってあげたいみたいな!もっと笑った顔が見たいっていうか!」
これが恋かぁあって感じで!と、目の前の新人が煌めきながらテンション高めに話し続ける。完全に恋する乙女の瞳をしている。
「ミョウジさんって、付き合ってる人とか……あっ!いや、大丈夫っす!自分、ハードルは高ければ高い方が燃えるんで!」
「──っていうことがあってさぁ!」
「まさか、話し相手の佐一君がハードルだとは思ってなかっただろうねぇ」
くしゃっとした笑顔でナマエちゃんが笑った。俺はナマエちゃんのこの笑顔が大好きだ。キュッと上がった口角、三日月に細められた目、下がった目尻に寄った笑い皺──見ているこっちも自然と笑顔になっていく、そんな不思議な力を持っている。ナマエちゃんが笑うところがもっと見たい。それが俺の恋の始まりだった気がする。そういえば、アイツも同じようなこと言ってたな。めちゃくちゃ分かる、と思うと同時にナマエちゃんは俺の奥さんなんだから手を出すなよと、複雑な気持ちになっていく。結局、話を全く聞かないままあの新人は早々に食べ終わって席を立ってしまったから、俺たちの関係を伝えられていない。
「その新人君ってすごいよね。まだ来て二週間も経ってないのに人脈が広すぎてびっくりしちゃった」
尾形さんとも飲みに行ってるらしいよ、とナマエちゃんが言うので耳を疑ってしまう。
「え?尾形ってあの尾形?」
「そう、あの尾形さん」
ナマエちゃんが髪の毛を撫で付ける仕草をした。同じフロアとはいえ別部署で、業務でもそんなに関わりはないはずなのに、なんで尾形なんかと知り合いなんだ。そもそもあの尾形と飲みに行く気が知れない。一体何話すんだよ。
「コミュ力お化けだよねぇ。私ほぼ話してないのにずっと笑ってた気がする」
思い出し笑いをしながら話すナマエちゃんを見てムッとした。ねぇ、俺の奥さんなのに、ほかの男に簡単に笑顔を向けないでよ。しかもアイツはナマエちゃんのこと狙ってるんだよ?
「妬いてるの?」
黙り込んでしまった俺にナマエちゃんがくっついてきた。可愛いなぁ、と髪をわしゃわしゃと撫でられてむず痒い。
「私は佐一君が一番だよ。カッコいいのにやきもち焼きで可愛いところも大好き」
はにかみながら、ナマエちゃんが俺の頬に軽いキスを落とした。ふにっとした感触と、ちゅっと可愛らしい音に心臓が跳ねる。
「高すぎるハードルだね、佐一君」
よせやぁい。鼻先をつつかれながらそんなことを言われたら、気持ち悪いほどににやけてしまう。ムズムズと嬉しさと愛おしさが湧き上がってきて、堪らなくなってナマエちゃんをギュッと抱きしめた。もっと近くに来て。膝の上を跨るよう誘導する。二人分の重量が一箇所に集まって、少しだけソファーが軋んだ。細い腰に腕を回せば、うんと密着度が上がって、満足度も上がった。
ナマエちゃんの綺麗で華奢な手が、俺の頬をするすると撫ぜた。見つめ合いながら手を重ねれば、すっぽりと覆われてしまう。俺よりもずっと小さくて、どこを触ってもふわふわすべすべしてて、本当に可愛い可愛い俺の奥さんだ。
白熊 無断転載禁止
眼前のふにふにとした柔らかい唇を奪えば、俺の大好きな笑顔が返ってきた。結婚してもう数年経つのに、年々愛おしさが増していく。こうやって触れ合うことができるのは、夫である俺の特権なのだと、安心感と優越感が込み上げてくる。
「はぁ……可愛過ぎてつらい」
「大袈裟だなぁ、佐一君は」
「小瓶とかに入れて常に持ち歩きたい」
それはちょっと、と苦笑いしたナマエちゃんの唇を塞いだ。割と本気だよ、俺は。白熊 無断転載禁止
*
「杉元さん、杉元さん!」
「うわっ、何だよ」
菊田さんと食堂で昼飯を食べていたら、あの新人が慌ただしく目の前の席に座った。ガシャっとトレーが雑に置かれて、味噌汁が少しこぼれたのが見えた。勿体ねぇな。
「尾形さんから聞いたんですけど、ミョウジさんと仲良いんですって?!詳しく聞かせてください!」
ゲホッゴホッと隣の菊田さんが咽せた。「ちょっと気をつけてくださいよ」と超大型新人が紙ナプキンの入れ物ごと菊田さんの前に置いた。デジャブがすごい。数日前と全く同じ光景だ。尾形の野郎、楽しんでやがるな。俺たちのことを知っていてわざわざ焚き付けている。本当に気に食わない奴だ。
「あっ、佐一君。一緒に良い?」
通りがかったナマエちゃんが言い終わるや否や「どうぞ!」とやたらと大きな声でハキハキと返事をした新人にカチンと来る。ご丁寧に椅子まで引いてあげている。お前場所変われよ、なんでナマエちゃんの隣なんだよ。
「ミョウジさん、今日も可愛いっすね!」
「えっ?あ、ありがとう……」
「マジで天使にしか見えないですよ、世界はミョウジさんが居るから今日も輝いて見えるんですね」
なんなんだコイツ。次から次へと出てくる歯の浮くようなセリフに唖然としてしまう。人妻を堂々と口説くな。流石に見過ごせなくて口を出そうとしたら、突然新人が俺に向き合った。
「てか名前で呼ぶほどミョウジさんと杉元さんって仲良いんですね」
意外でしたよ、と随分と失礼なことを言う新人に、やっと持ち直した菊田さんが口を挟んだ。
「まあ結婚してるからね」
「……誰が?」
「ミョウジと杉元」
ハアァ?!と今日一でかい声を出した新人に、食堂内の視線が集まる。尾形の野郎がニマニマと嫌な笑顔をこちらに向けているのが見えた。オイ、あとで覚えとけよ。
「じょ、冗談きついっすよぉ菊田さん、名字違うじゃないですか」
「あっ、私、旧姓のままで働いてるの」
本当は杉元ナマエなの、と少し気恥ずかしそうに笑ったナマエちゃんに、新人が分かりやすくダメージを受けていた。杉元ナマエ、良い響きだろ?
「結婚指輪は?!してないっすよね?!」
「一回失くしたからそれ以来記念日とかにしかつけてなくて」
結局ベッドの下から見つかったから良かったんだけどね。寝る前にハンドクリームを付けようとして外して、そのまま忘れて床に落ちてしまっていたらしい。「見つかって良かったぁ……!」とわんわん泣いていたナマエちゃんをふと思い出した。このことを知っているのは俺だけだ。お前の出る幕なんて、どこにもないんだよ。
「てかなんで菊田さんも杉元さんも早く言ってくれなかったんですか!とんだピエロじゃないっすか!」
「お前が話聞かなかったからだろ」
「えぇ?ちゃんと聞いてますよぉ」
どこがだよ、俺たち全員で同じことを思ったに違いない。ナマエちゃんは笑いを必死に堪えているのか、真一文字に結ばれた口元が不自然に動いている。
「で、誰がハードルだって?」
「それはマジですいません」
まあでも、と新人がお茶を一口飲んで呟いた。
「ミョウジさんが幸せならオッケーです」
グッと親指を立てながらドヤ顔で言ってきた新人に、ナマエちゃんが耐えきれずにくしゃっと笑った。
