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43
「不死身の杉元……ハラキリショ~オオゥ!!」
山田座長の大きな声がテント内に響く中、杉元さんが両手を上げて観客からの声援を一身に受け止めた。いつもはシャツを着こんでいるから、襷掛けをされた袖から剥き出しの腕が見えているのが新鮮だ。早速、差し出された古傷だらけの左腕に、手はず通りに水瓶の水をダバダバと掛け始めた。
「ハアァ冷たいッ冷たい冷たいッ」
ノリノリで大声を出す杉元さんに、「水が冷たいっていう情報は伝えなくて良いですから」と山田座長が呆れ顔で言っていたことを思い出した。結局言ってしまっているけれど、観客はクスクスと笑いながらも杉元さんに注目しているので、これはこれで演出として良いんじゃないだろうか。
「斬るよぉ?斬るよぉ?」
杉元さんがびしょ濡れの左腕に刀をじりじりと近づけていく。ドンコドンコと体に響く太鼓の音が不安感と緊張感を誘い、固唾を飲んで杉元さんに注目している観客たちの様子がひしひしと伝わってくる。刃が腕に触れるまであと数センチ。唐紅の染料が仕込まれた偽物だと分かっているのに手汗がじわじわとにじみ出てきて、思わず私も水瓶を持つ手に力が入った。じれったいほどにゆっくりと刃が近づいて行き、ついに皮膚へとたどり着いた──と見せかけて、寸前で杉元さんが刀を離し「うぇへへ~い」と挑発するような表情で上半身を回した。はああ……と張りつめていた空気が緩み、観客から一斉にため息が漏れた。もう皆さん、完全に杉元さんの芸にのめり込んでいる。
その後も「斬るよぉ?斬るよぉ?」ともったいぶりながら刃を腕に当てようとしては「ふぇ~い」と離し、杉元さんが観客を手玉に取っていく。いつからか「早く斬れ!斬れー!」と元気な野次が飛んでくるまでに観客たちは前のめりで杉元さんの芸に集中していた。
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「いよしッ斬ります!!」
観客との一体感が最高潮に高まって、そろそろ頃合いだと感じたのか、杉元さんが声高らかに宣言した。「怖いから痛いって言わないで」と山田座長に言われていたので、観客とは違った意味でドキドキしながら見守っていると、皮膚に当てた刃をゆっくりと引いた瞬間に「痛だだッ」と杉元さんが演技とは思えないような痛がり方をした。ドクッと溢れ出た血に、観客がわあ……とどよめき引いている。さっきの自然な演技もそうだけれど、腕から流れる液体は本物の血にしか見えないから無理もない。照明のせいなのか、こんなに近くても練習の時よりも濃く、水よりももったりとしていて偽物には見えない。
というか、これ、本物なのでは?
「す、杉元さん、もしかして……」
「い、いや……」
否定しつつも、焦りが顔に出てしまっている。しかし観客からしたら迫真の演技に見えているのか、皆静まり返りながら見守っている。ちらっと、杉元さんが助けを求めるように視線を向けた舞台袖では、何故か柄から外された丸裸の刀身を持った月島軍曹と鯉登少尉がこちらを見ていた。
「真剣かよッ」
杉元さんのささやくような声に、ドバッと冷や汗が噴き出した。どういう訳か、月島軍曹と鯉登少尉が……いや、月島軍曹はこんな質の悪い悪戯はしないだろう。多分、鯉登少尉がハラキリ芸用の刀身と、自分の軍刀か何かの刀身を入れ替えたのだろう。一体何をしているんですか、本当に。今から刀を取り換えに行けば良いだろうか?いや、大勢の観客に見られている中そんな不自然なことはできない。どうする、どうすれば、と考えを巡らせているうちに、杉元さんが躊躇うことなく真剣でザッと右のふくらはぎを斬りつけた。
「いっ……」
痛みを想像してキュッと心臓が縮み上がり、水瓶を抱きしめて震えを抑え込んだ。ダラダラと流れ出る鮮血に、ひゃあっと観客が悲鳴を上げている。腕と足から流れ出た血で、下に敷いていたゴザも血塗れだ。鉄臭い血の匂いが下から蒸発するようにムワッと上がって来て、呼吸が浅くなっていく。切れた足を観客へと見せつけてから、ついに杉元さんが汚れたゴザに膝をついて、帯を解きハラキリの準備をし始めた。
懐紙で刃を持ち、切先を腹に向けた状態で、ふぅーっと杉元さんが長く深い息を吐いた。本当に、このまま続行するつもりなのだろうか。いくら不死身の杉元とは言え、真剣でハラキリをして生き延びられるわけがない。
「す、杉元さん、これ以上はっ……!」
「ねぇ、ナマエさん」
肩を掴んで止めさせようとすれば、薄っすらと汗をかいた杉元さんが私を見上げてきた。その瞳はなんだか小樽で二階堂の腸を持っていた時のような力強さがあった。でも、あの時とは違う。今度は本当に、杉元さん自身の腸が出てきてしまうかもしれないと思うとゾッとした。
「ナマエさんなら、綺麗に縫い合わせてくれるよね」
「ま、待ってください、何をっ……!」
覚悟を決めた杉元さんが唇を噛んで剣先がつぷりと肌に触れた時、視界の端で何かが動いた。
「えっ、あの……どなた、ですか?」
杉元さんに気を取られていて、すぐ近くに来るまで気づかなかった。見覚えのない三人のロシア人が外套のポケットに手を突っ込みながら、私たちの前に佇んでいた。山田一座にこんな人たちは居なかった、と思う。それにこんな演出の話も聞いていない。急に現れた三人に観客たちもざわめき始めている。なんの挨拶もなく、おもむろにポケットから出された手に握られていたのは拳銃で、そのことに気づいた時には跪いていたはずの杉元さんの体の後ろに隠されていた。規則的な太鼓の音と、耳をつんざくような悲鳴に紛れてドスッと何かが落ちる音がした。下を見れば、拳銃と切り落とされた手と指がバラバラになって転がっていた。
「わっ……?!」白熊 無断転載禁止
状況を理解できる前に突き飛ばされて、抱えていた水をひっかぶりながら尻餅をついている間に銃声とともに杉元さんが私から離れていった。ゴロゴロと、落とした水瓶が血溜まりへと向かって転がっていく。何が起きているのか全く分からない。でも、一つ言えることは、私がとてつもない足手まといだということだった。早く舞台袖に、となるべく相手を刺激しないようにゆっくりと起き上がり、足を蹴り出そうとした瞬間、杉元さんを撃っていたロシア人の灰色の瞳が私を捉えた。
「その人に……!銃口を向けるなァッッ!!」
ビリビリと鼓膜を揺らす咆哮と共に杉元さんが大きく振りかぶり、投げつけた刀がざっくりと力強く男の胸を貫いた。
「ナマエさんっ、ナマエさん、大丈夫?!怪我は?!ごめん俺さっき強く突き飛ばしちゃったから……!」
「私は大丈夫です!それより杉元さん、血が!!早く止血しないと!」
オオオオ!と少尉殿の軽業に負けないほどの歓声の中お互いに駆け寄って無事を確認し合っていると、「全員でご挨拶!その隙に遺体を回収だ!」と舞台袖から山田座長たちがわらわらと飛び出してきた。逃げ出した最後の一人は月島軍曹が捕らえたらしく、舞台裏へと引き摺られていくのが見えた。
「あっ……?!ご、ごめん、これちょっと汚れてるけど……!」
どさくさに紛れて私たちも早く裏へと引っ込もうとした時、杉元さんが急に目を見開いたと思ったら、手早く襷を解き羽織っていた着物を肩にかけてきた。ぎゅっと前を合わされ、蓑虫のような状態のままひょいっと横抱きにされて、浮遊感に驚いているうちに杉元さんが舞台袖へと駆け出した。
「杉元さんっ?!歩けます!私は大丈夫ですから!」
「いや、えっと……」
私が腕が出せない状態なので落ちないようにしてくれているのかもしれないけれど、むき出しの胸板に強く体をくっつけられて心臓がどんどんうるさくなっていく。身じろぎしたらさらに強く抱き寄せられて、肺から強制的に空気が抜けていくのを感じた。多分一緒に少し魂も出て行ってしまったと思う。杉元さんが真っ赤になりながら、もごもごと口を動かしているが良く聞き取れない。
「えっ、なんて?」
前にもこんな状況があった気がすると思いながら聞き返せば、「ふ、服が……」とかろうじて聞こえてきて、自分がびしょ濡れだったことを思い出した。肌に纏わりつく布の感覚に、私もようやく自分の状況を理解した。
「ご、ごめんなさい!私、すごく見苦しいものを……!」
「ぜっ、全然、見苦しくなんて!むしろもっと──」
スパァン!と私を抱えながら器用に自身の頬を力強く叩いた杉元さんに驚いて、ビクッと体が跳ねた。
「なんで?!」
「なんでもない!ごめんねッ?!」
「いえ、私こそすみません!」
自分の熱で水が蒸発してもおかしくないくらいに体温が上がっている。二人して茹蛸のようになりながら更衣室にしていた一角へと戻り、手早く着替えを済ませた。胸元から腰まで衣装が肌に張り付いて、体の線がくっきりと浮かび上がっていた。こんな醜態を晒していたのだと思うと恥ずかしくて情けなくてしょうがなかった。もうお嫁に行けない。行くつもりもないくせに、そんなことが頭を過った。
「ちょっと良いか……どうしたんだその顔」
「なんでもねぇよ」
いつもの軍服に外套姿の月島軍曹が私たちに声を掛けに来た。右頬が赤く腫れ上がっている杉元さんと一緒に後をついて行けば、そこには先ほどハラキリショーに乱入してきたロシア人が縛られ、床に座らせられていた。谷垣、鯉登少尉、山田座長、フミエ先生がその男の周りを囲むようにして揃っていた。
「本当は山田座長を狙うつもりだったようだ。『ハラキリ芸を演じる男が山田座長』だというのが唯一の依頼主からの情報で……それが今日にかぎって杉元がハラキリ芸をやっていたというわけだ」
「依頼主とは?」
「ロシア政府の人間だと言っている」
「なんで座長がロシア政府から殺し屋を送られるんだ?」
杉元さんの質問に、月島軍曹が山田座長へと視線を向けた。
「スパイ……ですね?」
「……その通り。私は元陸軍将校です」
「えっ?」白熊 無断転載禁止
まさかの事実に、私たちの視線が一斉に山田座長へと集まった。ヤマダ曲馬団座長として日露戦争前から何年もロシアを回って巡業し、裏では諜報活動で得たロシア各地の情報を日本陸軍の特務機関に報告してきたのだが、ついにロシア政府に正体がバレてしまったのだろうと、山田座長が語った。確かに、ここには子供たちも多くいるし、諜報活動の隠れ蓑にするにはうってつけに思えた。でも、何も知らずに巻き込まれている少女団の子供達や長吉君を思うと少し複雑な気持ちになってしまう。
「……ったく三流スパイだよあんたは」
それまで一歩引いて静かに話を聞いていたフミエ先生が口を開いた。紫煙を燻らせながらロシア人へと近づき、パァンパァンと二発鉛玉を頭に撃ち込んだ。
「三つともテントの下に埋めときな。明日の朝にはアタシ達も立ち去ってここは元の空き地さね」
まるで買い出しを頼むような気軽さで言いながら、フーッと煙を吐き出し去っていったフミエ先生の凄みに圧倒されて、指一本さえ動かせなかった。私たちに踊りを教えてくれていた時とはまるで違う雰囲気に、隣の谷垣も動揺している。一切の躊躇いもなく、流れるような無駄のない所作だった。撃ち慣れている。二人で大勢を欺き、数々の死線を潜り抜けてきたのだろう。一週間ほど近くにいた私たちも全く気づいていなかった。
「……このことはくれぐれもご内密に」
フミエ先生の指示通り、名も知らないロシア人三人をテントの下へと埋めて、私たちの樺太公演は幕を下ろした。白熊 無断転載禁止
「みんな元気でね。ゲンジロちゃん、ナマエちゃん、アタイのことも少女団のことも忘れないでね」
「うん!!」
「絶対忘れません。紅子先輩も、みんなのことも」
ボロボロと男泣きしている谷垣の隣で、紅子先輩とぎゅっと手を握り合った。紅子先輩は、この豊原で養子に貰われるらしい。少女団は皆孤児で、大きくなったら卒業してその土地のどこかの家の子となり、曲馬団はまた次の巡業地へと移動していくのだと言う。まだこんなに小さいのにと思わずにはいられないけれど、フミエ先生に数年かけて育てられた子たちなのだからきっと私が思っているよりもずっと逞しいのだろう。現に紅子先輩には練習時にも、自由時間にも沢山お世話になった。特に、少女団のお荷物だと泣いていた谷垣を精神的に支えてくれたのは、紅子先輩に他ならない。私たちにできることは、どうか紅子先輩や少女団の子たちが皆、あたたかな光に満ちた人生を歩んでいけることを祈ることくらいだろう。
「紅子先輩、お元気で」
どうか、どうか、幸せになってほしい。最後に一度ぎゅっと手を握り合って、目じりに滲んだ涙を拭った。
「樺太新聞に公演の記事が掲載されているぞ」
「ホントか?!俺のことは?なんて書いてある?」
隣から月島軍曹と杉元さんのやりとりが聞こえてきて、私も記事が気になって二人に近づいた。
「あ~……あったぞ……二行書いてある。『大トリは不痔身の杉元ハラキリショーだった』」
「誤字ッ!!ちきしょーッ!!」
子供のようにゴロゴロと地面に転がる杉元さんに思わず苦笑いがこぼれた。月島軍曹から新聞を渡されれば、そこには「彗星のように現れたヤマダ曲馬団の王子」「ご婦人方を魅了」「麗しい」「まるで貴公子」などなど、鯉登少尉について延々と褒めちぎっている文章が目に入ってきた。さすが軽業の天才だ。でも杉元さんのハラキリショーについても、暴漢から愛する少女を守る演出が素晴らしく、暴漢たちは本当に死んでいるようにしか見えなかった、ということも書いてある。愛するって、観客席からはそんな風に見えていたのだろうか。文字だけでも少し顔が熱くなってしまった。私ももう少女と言う年齢でもないし……それに演出でも手品でもなく本当にあの男たちは死んでしまったのだが、大好評だったのは良いことだと思うことにした。これで少しでも、アシリパさんや白石さんたちの耳に入れば良いのだけれど。記念に記事を切り抜いても良いか月島軍曹に確認してから、切り抜きを手帳の中に挟んだ。
「──世界がキミの軽業にひれ伏すだろう!!何でも手に入る!!鯉登くん頼む!!ヤマダ一座に残ってくれ!!」
鯉登少尉を引き止めようと山田座長が必死の説得をしているのが聞こえてきた。次はアメリカへと巡業に行くらしい。そのためにも少尉殿のチカラが必要だと説得を試みているようだった。
「それはできない」
「なぜ?」
「鶴見中尉殿に叱られてしまう……!!」
どこから取り出したのか、二枚の鶴見中尉の写真を人差し指と中指で挟んで少尉殿が毅然と返事をした。はぁっとため息をついてがっくりと肩を落とした山田座長に、月島軍曹が歩み寄った。
「我々はある男たちを追っています。ひとりはアムール川流域の少数民族で構成されるパルチザンの男だ。おそらく樺太島の北にいる仲間と合流するつもりなのではと予想している。何か情報はありませんか?」
「パルチザン……」
月島軍曹の質問に、山田座長が少し考えた後にひとつ心当たりがあると返してきた。
「ここ豊原から北へ530キロ……国境を超えたロシア領の港町に樺太で最大と言われる『アレクサンドロフスカヤ監獄』があるのですが……」
その監獄には帝政ロシアに対する解放運動で捕まった極東の少数民族たちが数年前に大勢懲役囚として移送されたらしい。キロランケさんの目的地は多分、そこなのだろう。有益な情報に感謝し、団員たちに別れを告げて私達は豊原の街へと移動し始めた。
「あっ、少尉殿」
「……悪かったと思っている」
「まだ何も言ってませんよ」
「昨日の刀の話だろう」
眉を少し下げ、口をへの字にして、珍しく素直に少尉殿が反省の意を示してきた。悪いことをした自覚はちゃんとあるらしい。月島軍曹から聞いた話によると、鶴見中尉の写真を出しに杉元さんが軽業芸を妨害しようとしたと勘違いした仕返しで、ハラキリ芸用の刀身を軍刀の物と交換してしまったらしい。幸い軍刀で出来た傷はどれも浅く、きっと杉元さんならすぐに治ってしまうだろう。でも物事には限度というものがある。
「私ではなく、杉元さんに謝ってくださいね」
「だが、刀身を入れ替えたお陰であのロシア人たちに対抗することができた」
「まあ……そうですけど……」
「ナマエさんが無事で良かった」
結果論としてはそうなのだけれど、得意げに言われてしまうと何だか釈然としない。でも何も反論できず、口を噤んだ。
「ところであの衣装はどうしたんだ?」
「少女団のですか?洗濯してお返しました」
「買い取らないのか?」
「買い取る?あっ、汚してしまったから買い取った方が良かったですかね……」
ハラキリショーで付着してしまった血は少量だったので落とせたのだけれど、気分がいい物ではないだろう。それに、私のは他の曲馬団の女性たちも着られるけれど、月島軍曹と谷垣のは置いてきても多分着る人が居ない。返しても迷惑だったかもしれないと後悔していると「いや、そういうことではなく」と少尉殿が少し視線を外し、またこちらを見てきた。
「……似合っていたから」
その言葉がくすぐったくて、咄嗟に視線を少尉殿の斜め上へと外した。冬らしく灰色の雲に覆われた空や遠くの景色を意味もなく見つめる時間が過ぎていく。社交辞令だと思うには、あまりにも真っ直ぐすぎる瞳と声色だった。
「ほら、鯉登少尉早く行きますよ。今日は色々買い物もしなければいけませんから」
パンパン、と手を叩く乾いた音と月島軍曹の声が前方から聞こえてきた。いつの間にか開いてしまっていた距離を埋めるために二人で少し足早に歩き出した。
「ナマエさんは何を食べたい?」
「えっ?」
「ナマエさんが食べたい物を食べる約束だっただろう」
そういえばそういう話をしていたっけ。もうずっと前のことのようだった。何が食べたかったんだっけ、と考えてすぐにほかほかと湯気が立ち込める物が頭に浮かんだ。
「えっと、その……白米が食べたいです」
「月島ァ!昼は白米だ!ナマエさんが食べたいと言っている!!」
「少尉殿!声が大きいです!!」
ズンズンと大股で進んでいく少尉殿にかぁあっと顔が熱くなった。これでは私が白米を食べたいことが豊原中に響き渡ってしまう。
「やったね谷垣ニシパ!」
「白米か、俺もちょうど食べたかったんだよな」
「貴様はその辺の草でも食っていろ」
「早く買い物を済ますためにも二人一組に分かれましょうか」
白米という魔法の言葉に釣られ、未だかつてないほどに迅速に役割分担が決められた後、私たちは浮き足だった心と共に豊原の街へと繰り出した。
2025.03.12
