原作沿い
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※本編(谷垣救出後~北見写真館後)でカットしたパートの寄せ集めです。上から順に時系列になっています。
「白石さんたちと合流しに早く街に行かないと……今頃きっと心配しているはずです」
「銃も壊れたし修理に出さないと」
「銃身に水が入った状態で撃つとはな……軍隊で何を教わってきたのか」
こいつでも知っていることだぞ、と尾形さんに頭を掴まれぐらぐらと揺すられた。二日酔いで痛む頭にはあまりにも強すぎる刺激だ。すぐに振り払ったのに、未だに揺さぶられているような感じがする。頭が割れそうな不快感に口元を覆って呻いたら、ニヤニヤと随分と楽しそうな笑みを浮かべて尾形さんが私の顔を覗き込んできた。そんなに人が苦しんでいるのが嬉しいのだろうか。相変わらず趣味が悪い人だ。
「その最新式の小銃、俺が気球乗る時に第七師団から奪い取ったやつじゃん、返せよ」
「これは三八式歩兵銃だ」
この表尺を見ろ、と飛距離について尾形さんが説明し始める。見た目は三十年式とそう変わらないように見えるが、三八式から採用された尖頭弾を使用すれば、2400m先まで弾が届くらしい。
「だから何だよ」
「こいつならまだしも、お前が使っても豚に真珠ってことだ」
一々言い方が嫌味っぽいところは良くないと思う。それに私を巻き込まないで欲しい。バチバチと二人の間に火花が散っているのが見えるほどに険悪な空気の中、割れそうな頭でひっそりと思った。
***
「ナマエは杉元ニシパたちと家族なの?」
「えっ?いや……」
家族、ではないけれどそれくらい大切な人たちではある。この関係性に名前をつけるとしたら何になるのだろう。無難に仲間だろうか。
「違うならナマエも俺たちと家族になろうよ!」
「やめてくれ、これ以上複雑な家庭にしないでくれ」
谷垣が焦ったように口を挟んできたが、チカパシは構わず私の手を握って、とても嬉しそうに話し始めた。
「えっとね、インカラマッはおっぱい触っても怒らないお姉ちゃんで、でもお母さんが違くて、谷垣ニシパは隣に住んでる金玉のでっかい人!」
「きっ……?!」
「ナマエは何がいい?」
「やめなさい、チカパシ。ミョウジさんはダメだ」
どういうこと?何だかとても不適切に聞こえたことを整理してみれば、明らかに家族ではない人物の存在に気づいた。
「……あれ?でもそれだと谷垣は他人じゃないかな?」
「間違えた!じゃあナマエはおっぱいとお尻触らせてくれて、金玉のでっかい谷垣ニシパと──」
「チカパシ……頼むから!もう、もうやめてくれッ……!」
満面の笑みを浮かべた杉元さんと尾形さんに肩を組まれた谷垣が、泣きそうな声を上げた。
***
ゆさゆさと大きく体を揺らされて、意識が浮上した。
「……きろ、起きろナマエ。マンボウ獲りにいくぞ」
「んん……え……?なにを?」
「マンボウ。夏にしか獲れないんだ」
寝ぼけて聞き間違えたのかと思ったが、どうやら本当にあのマンボウらしい。本でしか見たことがない姿を、まだ半分夢の中の頭でぼんやりと思い浮かべた。アシリパさんが今度は杉元さんを揺さぶり始めた。
「マンボウ、おいしいの……?」
「肝が美味い」
杉元さんを容赦なく揺さぶりながら、アシリパさんがキラキラと輝く瞳で私を見つめてきた。その口元には少し涎が垂れている。そんなに美味しいなら私も食べてみたいと思って体を起こした。夏にしか食べられないのなら、この機を逃したら一生食べられないかもしれない。ふぁ、と抑えきれなかった欠伸をしながらまだ完全に開き切らない目を擦り、伸びをする。杉元さんは起きなかったらしく、「杉元はダメだ」とアシリパさんが一言残して、チセの外に向かっていった。
「……起きてるでしょ、杉元さん」
背中に向かって声を掛ければ、ビクッと肩が跳ねて杉元さんがゆっくりとこちらを振り向いた。いつも少しの物音や気配で起きる人が、あんなに揺さぶられて起きないはずはないだろうと思っていたけれど、やっぱり狸寝入りを決め込んでいたらしい。
「だってまだ寝てたいし……何、マンボウ獲りにいくって……」
「マンボウって食べれるんですね……私行ってくるので寝ててください」
うん、気をつけてね、と杉元さんが微睡みの中に戻っていったと思ったら、パチリとまた勢い良く目を開けた。
「あれっ、ナマエさん泳げる?」
「少しなら」
「本当に行くの?大丈夫?本当に?」
「もう、心配性ですね。大丈夫ですよ」
早く行かないと置いて行かれてしまう。こんな朝早くに完全に目が覚めてしまったのだ、もうこれはマンボウを食べるしかない。未だに心配そうな目を向けてくる杉元さんを置いて外に出ようと振り向いたら、壁際で座り込みながら寝ていたはずの尾形さんと目があった。
「わ!びっくりしたぁ……ごめんなさい、起こしちゃいました?」
特に返事もなくただジトっとした目で見つめ返された。多分起こしてしまったんだろう。
「尾形さんもマンボウ獲りに行きます?アンコウみたいに肝が美味しいらしいですよ」
「……行かない」
アンコウ鍋が好きだと言っていたから食いつくかと思ったのに、マンボウではダメだったらしい。ジトっとした目が私から移動したと思ったら「何だよ」とイラついた杉元さんの声が後ろから聞こえてきた。起き抜けだと言うのに二人とも元気だ。
「喧嘩しないでくださいね」
返事は期待していなかったので足早にチセを出た。「遅い!」と一言怒ったアシリパさんに謝って、昇ったばかりの朝日で煌めく海を一緒に目指した。
***
「俺たちで聞き込みしておくからさ、三人で先に温泉に入ってきなよ」
「すみません、じゃあお言葉に甘えて先に頂きますね」
「お、俺もっ……!」
歩き出そうとしたらチカパシがすくっと立ち上がった。頬が少し赤らんでいて鼻息が荒い。そんなに温泉が楽しみなのだろうか。私とインカラマッだけならまだしも、歳の近いアシリパさんもいるのに一緒に入るのはちょっと……と思っていたら、一斉に男性陣がチカパシに詰め寄った。
「オイ、子供だからって何でも許されると思うなよ」
「……お前はダメだろ」
「チカパシ、ここに座りなさい」
「今のは良くないぞ」
「ふっざけんなよ!お前が良いなら俺だって良いはずだッ!!」
戦争帰りの強面の男たちに囲まれ非難され、チカパシが泣きながら正座をして反省し始めた。
***
「あれぇ?ナマエちゃんどうしたのぉ?」
お化粧したんだ、綺麗だねぇ、と呟きながら酒瓶を持った白石さんが私を色んな角度から見てくる。デロデロに酔っ払っていて酒臭い。
「白石、見過ぎだ。失礼だろ」
「あ〜ん?お前らは今日一日中見てたかもしれねぇけどよ、俺は今見たばっかりなんだぜ?もっと見たって良いだろうが!」
「は、恥ずかしいからあんまり見ないで欲しいです……」
「はうっ……そうやって恥じらう姿も……いだだだだッ!もげるッ!死ぬッ!」
手加減しろよ!と杉元さんに捻り上げられていた白石さんが、怒りながらバキボキと関節を外して逃げ出して、突然ウッと青ざめたと思ったらおえーっと地面に這いつくばって胃の内容物を吐き出した。色々な関節があらぬ方向に曲がったままなので、絵面がとても酷いことになっている。酔いすぎて情緒が不安定なのか、突然えぐえぐと泣き始めた背中をゆっくりとさすった。
「白石さん、飲み過ぎですよ。そのお酒、こっちに渡してください。関節も戻さないと……できますか?」
「えっ、天使……?できないからちょっとその柔らかな雪に頬埋めても良い?」
「ナマエさんそこどいて、残りの関節全部外してやるから」
2024.09.07
