桜庭愛理迷います

紫掛かった雪の降る夕日空

場所は国立天文台 野辺山...45m電波望遠鏡の前で小五郎さんが中心となって、レール沿いの一本道の通路を歩いてくる人影が見えた

小五郎「御足労をおかけしてすみません。舟久保英三さん」

白い息を吐き、足を止めた舟久保さんに声を掛けた

そんな光景を一歩下がって私とコナン君と蘭ちゃん、そして由衣さんが見ている。「ああ、アンタか」と舟久保さんは顔を上げた

舟久保「どうしてこんな場所に?」

小五郎「あなたが捜していた鷲頭隆が見つかったからです」

舟久保「見つかった!?」

舟久保さんはその名前に、思わず一歩踏み出した

「あの白いザゼンソウ...。」と小五郎さんは視線をズラす

小五郎「真希さんのお墓に供えたのはあなたですね」

は.....?と舟久保さんは目を瞬かせる

だけどすぐに小五郎さんの視線に合わせて、後ろを困惑気味に振り返る。そこには高木刑事と美和子さんに連れられて来た大友さんの姿が

舟久保「彼が...?」

舟久保さんは怪訝に驚いた顔をしている大友さんを見やる

松田「あんた、左腕と右肩にアザがあるらしいな?」

一本道の端から松田と班長も合流した

すかさず、美和子さんと高木刑事が大友さんの上着を脱がす

佐藤「失礼します」

あの時に見た場所と同じ所にアザが2箇所ちゃんとある

由衣「ライフルを撃つ時の反動でつくアザですよね?右腕と左脇のも」

大友「いや、これは木を伐採したときに」

自身の右腕を見下ろす大友さん

高明「成程。晋の予譲、身に漆し、炭を呑むがごとし...」

観測棟の前に歩いて、顎に手をやりながら現れた高にぃ

蘭ちゃんは、ほっとした様に「諸伏警部!」と呼び掛けた

佐藤「もう退院されたんですか!?」

高明「ええ。」

高木「.....え、えっと、あの...晋の予譲...?」

蘭「あ、“史記”の刺客列伝に出てくる話です」

すぐに蘭ちゃんが解説に入る

蘭「晋の予譲って人が、体に漆を塗って外見を変え、炭を飲んで声を変え...正体がわからないようにして潜伏したっていう」

「つまり、大友隆さん」と小五郎さんが遮った。

小五郎「あなたもそうやって顔と名前を変えた」

微かに険しい顔付きになった大友さん

「違いますか?」とさらに詰め寄る

佐藤「長野県の狩猟免許の所有者に“鷲頭隆”の名がありました」

美和子さんの言葉に舟久保さんは眉を寄せる

舟久保「そんなことは知ってる。奴は狩猟免許を持ってたか…鷲頭...“隆”.....?」

名前が同名であると気付いた様子

小五郎「そうです。鷲頭隆は養子縁組をし、苗字を“大友”に変えたんです。戸籍を調べてそれがわかったんですよ」

舟久保さんは項垂れ、ワナワナと肩を震わせ出す

舟久保「お前が...!こんなに近くにッ!!」

舟久保さんが飛び出し、大友さんの胸ぐらに掴み掛る

舟久保「よくもノコノコと!!」

美和子さんと高木刑事が「落ち着いて!」と宥める

掴まれた大友さんは抵抗することなくうめき声を上げる

小五郎「大友さん。あなたは8年前 執行猶予付きの有罪判決を受けた。その3年の執行猶予が終わった後...姿を消し長野に戻ってきた、真希さんの墓があるあの山になー。」

舟久保さんは手を少し緩める、すると大友さんは口を開く

大友「執行猶予...。私がそんな判決を受けたせいで、真希さんは...いてもたってもいられなかった。彼女に詫びなきゃならないと思った、だが.....」

その勇気が無かった

大友「せめて彼女の墓前で詫びなきゃならない、そう思って」

白いザゼンソウや、土...焼かれた炭の粉を巻いた

蘭ちゃんも「それで花を」と納得した

毛利「顔と名前を変え、他の人と顔を合わせないよう命日よりも早くな」

舟久保「まさか、そのために...あの山に炭焼き小屋を構えたのか...!」

大友「っう、ぐ...!!」

高木「舟久保さん...」

また掴み上げ、睨む舟久保さんにコナン君が声を掛ける

コナン「“ブッパ”って名前をつけたのも、理由があるんだよね?」

大友「.....私のあだ名です。」

毛利「あだ名...?」

小五郎さん、気付いたわね

あの人が“ワニ”という呼びに疑問を抱かなかったこと.....

大友「御厨と私しか知らない、あだ名です...」

視線を逸らす大友さんに美和子さんは「なるほど」と頷く

佐藤「だから御厨は、この山にあなたがいると気づいた」

伊達「この山で待ってたんだな。御厨に殺される為に...」

由衣「そんな御厨を大和警部が見つけ、雪崩に遭った。」

大友「その雪崩を私も見ました」

十ヵ月前...

真希さんの墓前に向き合っていた時、背後で山頂から地鳴りが響いたという。音が収まったあと駆け寄るとそこには雪崩が起こった光景が見えた。そこには...巻き込まれた大和警部も.....

由衣「じゃあ、敢ちゃんを助けたのは...」

由衣さんは瞳を揺らし、俯く大友さんを見つめる

松田「その後、麓の公衆電話から救急車を呼んだ」

伊達「そして、指紋が出ないよう、細工したわけだ」

大友「...私は司法取引で御厨を売り執行猶予になった」

毛利「だからこれからも待つのか?」

小五郎さんが続ける中、舟久保さんは歯噛みをして震える。

小五郎「出所した御厨があなたを殺しに来るのを」

舟久保「許さない!!」

遮り、声色を震わせて呟いた

舟久保「俺はお前も御厨も絶対に許さない...!!」

「だが...」と舟久保さんは、胸ぐらを掴んだまま項垂れる

舟久保「だが、お前が奴に殺されることはもっと許さん!おまえを...お前を殺したかったのは俺だぁ!!この8年間...ずっと、ずっとだー!!」

大友さんを掴んだまま、次第に崩れていく

降りしきる雪が...道端のキンセンカやアヤメの花を埋める

舟久保「それが...それが俺の8年だ。お前の、お前の8年はどうなんだ...!? 真希を殺したあと、どう生きたんだッ.....!!どんなつもりで花を供えてた...!!」

まくし立てる舟久保さんの目尻からは涙が溢れていた

それが瞳に映った大友さんの頬にも滴り落ちる

舟久保「その8年間を...、教えてくれ.....!」

やがて地面を座り込んだ舟久保さんに大友さんは合わせる

膝をついて、深々と頭を下げた

大友「すみませんでした...。申し訳ありませんでした...!」

8年...長いなって言いたいけど、私は7年前に初めて研二にぃを救った

そこから、陣平にぃ、ヒロにぃ、伊達さん

「1年は…誤差…だよね」

松田「.....」

「..意志も覚悟もないと、ダメ」

小さく独り言を呟いたつもり

だったけど陣平にぃに肩を抱かれ、伊達さんには頭を撫でられた

越智「あ、いた。コナン君!蘭さん!愛理さん!」

観測棟から越智さんが手を振ってやって来た

越智「昨日あんなことがあってキャンプ場で観測できなかったから、レーザーで星を作ってみんなと観測できるように準備しといたよ」

にこやかにレーザー棟の屋上にあるドームを指差す

それが目に入った小五郎さんは向き合い発する

小五郎「その前にここで現場検証をしますー。」

越智さんは「え??」と目をぱちくりさせた

コナン君を最初にみんな歩き出した

「・・・」

観測棟の駐車場に隠れるように停まっている一台の車

「姫?」と陣平にぃに呼ばれたので足を進めた
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