桜庭愛理迷います

「彼ら撤収していくみたい」

帰ろうとしたとき背後から慌てたような声が聞こえてきた

「おまわりさん!早く早く!あっちの方から銃声みたいな音が何度も!」

真夜中でも人はいたようで、通報されていたようだ

「行こっか」

パパもライフルをしまったギターケースを背負い、冷静に歩き出した

コナン「ん」

コナン君が手を差し出してきたので、意図を察してその手を繋いだ

反対では、パパもコナン君と手を繋いでいる

コナン「今回は全然釣れなかったね、お父さん、お姉ちゃん」

通報した男性と警察とすれ違った瞬間、コナン君は子供っぽくそう言って私たちを見上げた

沖矢「まさかボウズとはな」

「次は逃がさないように、頑張ろうね」

夜釣りに来た家族を装って、その場から立ち去った







周囲に誰もいないことを確認し、キャメルさんの回収に向かう

潮の流れ、そしてキャメルさんの残った体力を考え、この辺りに上がってくるだろう場所を絞りながら向かうと、案の定力尽きて海岸にうちあがっている彼の姿があった

沖矢「無事か。キャメル」

パパが声をかけると、キャメルさんはホッとしたように破顔した

キャメル「あ…赤井しゃん……」

キャメルさんはずぶ濡れに加え、顔や体中に土や砂が付き、服も血まみれで満身創痍だった

沖矢「よく凌いだな」

「これ…どうぞ」

冷え切っているだろう彼に、途中自販機で買った温かいお茶を差し出す

キャメル「あ、ありがとう…」

それを受け取り、起き上がるキャメルさん

コナン「僕たちも帰ろう。みんな心配してるよ」

車に戻り、私達は工藤邸に戻ったのだった

コナン「(愛理姉、顔赤くねぇか?)」








赤井「アンドレ・キャメル。何かを成し遂げるには犠牲がつきものだ」

パパが無慈悲な言葉を目の前の男に告げた。

工藤邸に戻って早々、風呂に入って汚れを落とし、着替えてすっかり綺麗になったキャメルさんを待ち受けていたのはとある儀式

2度死んだ彼は、さすがにもう組織に顔バレするわけにはいかない

そのために、犠牲になるしかなかったのだ

有希子さんが持つバリカンが音を立て、キャメルさんの周囲には無数の髪の毛が散っていた

断髪式ならぬ、散髪式である

特徴的な真ん中分けの長髪が切り落とされ、短髪になったキャメルさんはまるで別人

その変わりようにFBIの面々は堪えていた笑いを抑えきれず、全員が吹き出した

有希子「あら、こっちの方が男前じゃない!まるで別人よ!」

キャメル「みんな笑ってますけど…」

ジェイムズ「しかし、よく無事だったな。背中を撃たれたんだろ?」

ジェイムズさんがキャメルさんを労い、心配そうに声をかけた

キャメル「コピー用紙ですよ。観光案内所にあったコピー用紙の束を2つ背中言貼り付けて、防弾チョッキの代わりにしたんです」

ジョディ「でも、キャメルの服、前も後ろも穴が開いて血塗れだけど…」

ジョディさんがボロボロになったキャメルさんが着ていた服を広げる

コナン「ああ、それ、血じゃなくて血糊だよ」

ジョディ「血糊?」

コナン君の言葉にジョディさんは驚いたように声を上げた

コナン「キャメルさんが博士の作った血が噴き出るハンチング帽を持ってたから。中に入ってる血糊を2つに分けて背中と胸に貼り付けたんだ!血糊を破裂させる仕掛けは水没して壊れちゃったけど」

ジョディ「え?背中の血糊は相手に撃たれて飛び散っただろうけど、胸は?」

赤井「俺が撃ったんだ。キャメルが背中を撃たれた直後にな。血糊を入れ盛り上がったところにペンライトを貼らせたから、狙いやすかったよ」

コナン「胸から血が出るタイミングはバッチリ!相手の弾がコピー用紙を貫通したと思ったくらいだから」

だからあの時、コナン君は焦ったような表情をしてたのね

でも確かに、作戦を知らなかったら、私もキャメルさんは死んだと思っていたかもしれない

ジェイムズ「しかし、こちらは捜査官が7人殺害され、マークたちが重傷を負わされたというのに、何の収穫もなく追い払うだけに留まったとは…」

キャメル「そういえば、ウォッカが言ってました」

キャメルさんの発言に注目が集まった

キャメル「ラムが大男だとか、女のような男だとか、老人とか義眼とか噂されてるけど、義眼以外はすべてラム本人が流したブラフだと。それと、ラムは顔を変えてふざけた名前を名乗っていると」

ふざけた名前…

今まで出会ったラム候補と言われる3人

黒田兵衛さんと若狭留美さん、脇田兼則さん。

黒田管理官は公安、若狭さんも只者ではないけれどラムではないと私の中で結論付けている

消去法でラムは脇田兼則さん…だと思っているけど…ふざけた名前…

有希子「すっかり朝になっちゃったわね」

有希子さんの言葉に、スマホを付けて時間を確認すると午前6時

完全に夜が明けてしまった

「私…もう帰っても大丈夫?」

赤井「ああ。助かったよ。」

パパはそう言いながら私の頭を撫でる。それがなんだか心地よくって…

赤井「愛理?」

赤井に頭を撫でられたまま寝てしまった愛理

赤井はすぐに愛理を姫抱きした

ジョディ「あら、寝ちゃったみたいね」

赤井「ああ。だが…」

ジョディ「何?」

コナン「もしかして愛理姉、熱ある?」

赤井「よくわかったな、坊や」

コナン「ずっと未来見てたし、顔も赤くなってたからさ」

有希子「愛理ちゃんが昔使ってた部屋で休ませましょ。こっちよ~」

赤井を案内するように歩いていく有希子

赤井とコナンはついていった

部屋のベッドに寝かせる赤井

愛理「…ん」

愛理から離れようとするが、愛理は無意識に赤井の服の袖をつかんでいた

有希子「あらぁ。私達は退散しましょ」

有希子はコナンを連れて部屋を出ていく

コナン「おいっ!…赤井さん、愛理姉のことよろしくね」

赤井「ああ」

赤井は袖をつかんでいた愛理の手をそっと離し、愛理が起きるまでソファで待っていた

愛理「…ん。パパ?」

赤井「起きたか。熱は…下がったみたいだな」

赤井は自身のおでこを愛理のおでこにくっつけて熱がないことを確認した

愛理「私が起きるまでずっと起きてたの?」

赤井「仮眠は取った」

愛理「そっか。ありがとう」

赤井「こちらのミスで無理をさせてしまったからな。降谷君達にも連絡しといたから、安心して休め」

愛理「うん」

赤井はそれだけ言うと部屋から出ていった

それを見送った愛理はもう一度ありがとうと言うともう一度眠った

愛理が再び起きたのは昼前

そのころには工藤邸に中居が迎えに来ていた

中居「ゼロが迎えに行くはずだったんだが、急遽いけなくなってさ。ごめんって謝ってたよ」

愛理「(あんなことがあったら組織に呼び出されて当然だよね)」

2人で家に帰り、しばらくすると玄関のドアが開く音がした

愛理「おかえり」

愛理の顔を見た途端、降谷は愛理を抱きしめた

降谷「ただいま。迎えに行けなくてごめん」

愛理「大丈夫。あんなことあったんだから」

降谷は抱きしめるのをやめ、愛理の顔を見つめる

降谷「あいつらに顔は見られてないな?」

愛理「うん。大丈夫だよ。能力を使いすぎて熱出しちゃったけど」

降谷「今日は何とか休みを取ったから、久しぶりにゆっくり過ごそうか」

愛理「うん」

その後はゆっくりとした時間を2人で満喫したのであった
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