桜庭愛理勘違いされます

蘭「いいんですか?ジャック・ザ・リッパーの5人目の犠牲者になっても!?」

アドラー「みなさんが守ってくれるんでしょ?ホームズさんの代わりに…」

蘭「あ…」

柔らかく微笑んだアドラーさんに蘭ちゃんは何も言えなかった

私は本物のアドラーさんの性格を知らないけど、肝が据わっているところも有希子さんらしい…

アドラー「あら?そういえば貴方…どこかで…」

「?私ですか?」

アドラーさんが私をジッと見ているとコンコンとノックが響く

「アイリーン?いる?」

「(!!この声…、まさか…)」

「あ、はーい!」

アドラーさんは元気に返事をすると扉に向かう
そしてドアを開けた先にいたのは予想通りの人物で必死に涙を堪える

「……お母さん…」

現実世界では無くなった母、桜庭文恵がいた

コナン「!?」

蘭「愛理姉のお母さん!?」

「…あら?お客さんがいたの?邪魔しちゃった?」

アドラー「いえ!大丈夫です!この子たちはホームズさんの使い、お花を届けにきてくれたんです」

「へぇ、あのホームズさんのね…。初めまして。小さな探偵さんたち。私はローズよ。よろしくね」

そうしてお母さん似の女性、ローズさんは微笑んだ

こんなキャラクター、実話にもホームズの小説にもいなかった。

アドラー「あ!誰かに似てると思ったらリリーちゃんにそっくりなんだわ!」

「え?あ」

そうしてアドラーさんは私の手を引いてローズさんの前に引っ張っていく

アドラー「ほら!小さい頃のリリーちゃんにそっくり!」

ローズ「本当!リリーにそっくりだわ!」

2人は興奮したように私を見て言い合う

ローズ「あの人似の髪も、綺麗な瞳も…」

そうしてローズさんは私の髪に触れ、目元にもそっと触れる

「っ…」

あの日、事故に遭ったその人が言葉を話して、動いて、私に触れている
そしてその手からは温もりを感じることができる

お母さんとは似て非なる存在なのにどうしようもなく嬉しくて、涙が出そうになるが必死に耐えた

赤井「…リリーさんとは?」

ローズ「私の娘よ!もう12歳だから今日は1人で家にいるの。あの子、オペラとかにはあまり興味ないみたいで…。でも、銃とかには興味があるみたいでシュンに子供でも扱える銃をねだったりしてるのよ。女の子なのに物騒よね」

そうしてローズさんは苦笑した

アドラー「まあまあ、あの子はお父さんに憧れてるんですから仕方ないですよ」

ローズ「まあ、それもそうね。将来はきっと立派な警察になるわ!あの子が大人になる頃には女性でも警察になれるといいけど…」

この頃、まだ世界では女性警察官は存在していない

一番早くてあと3年程、ロンドンで女性警察官が採用されるのはあと約50年後の話であり、まだまだ先だ

アドラー「リリーちゃんなら実力で上の人を頷かせることだってできます!もしかしたら初の女性警官になるかもしれませんよ?」

ローズ「ふふっ、そうかもね」

ローズさんは我が子の姿を想像しているのかその表情はとても柔らかい
そんな顔を見てここの世界の私は平和に生活しているのだ…と勝手に安心していた

赤井「愛理のご両親は実に立派な人たちなんだな」

小さく私に向かって呟いた言葉に私も声を顰めて笑う
さっきまでの涙はどこかへ消えていた

「ふふっ。お母さんとお父さんは私にとって永遠の憧れだから」

ローズ「それでこの子たちが来たのは本当に花を届けるためだけ?それにしては大人数だけど…」

蘭「あ、モリアーティ教授がアイリーン・アドラーさんにジャック・ザ・リッパーを差し向けたので、私たちは公演の中止をお願いしに…」

ローズ「!そういうことだったのね。アイリーンのことだから貴方たちが守ってくれるから大丈夫!なんて言ったんでしょ?」

諸星「すげぇ、合ってる…」

ローズさんの的を射た言葉に諸星くんは感嘆の声を漏らす

ローズ「そういうことならシュンにも来てもらいましょ」

「!シュンさんって…」

ローズ「私の夫で現役警察官。今日は確か非番だったから呼べば来てくれるはずだし…。まあ、今から呼んだら到着は運が良くて開演時間ギリギリだろうけど、いないよりかはマシなはずだしね」

1888年なら電話は普及しつつある
呼び出すことは恐らく不可能ではない

ローズ「子供だけじゃなくてプロもいたほうが安心でしょ?それにあの人にもこの子…えっと、名前を聞いてもいい?」

「桜庭愛理、です」

お母さんの顔をした人に敬語は慣れないが敬語で答える

ローズ「愛理ちゃんを見せてあげたいしね」

そうしてローズさんは微笑んだ

ローズさんはあの後、シュンさんに電話をかけるために外へ、私たちはアイリーンさんの口利きで舞台袖に来ていた

滝沢「ここに来てすごい味方がついたな」

江守「これがあの声が言っていたお助けキャラなのかな?」

諸星「かもな」

「(いいえ、それはないはず…)」

諸星くんたちとは違い、私はあの人たちはお助けキャラだと思っていなかった。手を貸してくれることになったのは私がいたからだし・・・
私がいなければここまで発展することはなかった気がした

ならば彼らはお助けキャラではない

「(それにあのアコーディオンの人…)」

あの人の歌がずっと引っかかっている

”ジャック・ザ・リッパーにィ気を付けろぉ~、夜道でオマエを待ってるぞぉ~、死にたくなけりゃどーするかあ~、オマエも血まみれになるこったぁ~”


「(死にたくないなら血まみれに…。自分たちを赤く染め上げるってこと?)んー!分からない!」

諸星「!?どうしたんだよ、愛理さん」

滝沢「いきなり大きい声出して」

私のいきなりの大きな声に皆が反応してこちらを向く

「あ、ああ、ごめんね。少し考え事してたんだけど、纏まらなくて頭抱えていただけだから気にしないで」

私がそういえば諸星くんたちはふーんと言って3人でまた話し始めた

赤井「…もしかしてあの歌のことか?」

「!パパも引っかかる?最後の死にたくないなら血まみれになれってところが引っかかるんだけど考えがまとまらなくて…。血まみれってことは私たち自身が赤く染まるってことだけど、その必要性が今の段階ではないし、相手の返り血で血まみれになるとしても私たちはそんな武器は持ってないし…」

赤井「そうだな…。まだピースが揃っていない可能性もある。もう少し進めば分かるんじゃないか」

「……そうだね」

ローズ「お待たせー!」

そんなことを話しているとローズさんが戻ってきた

蘭「あ、どうでしたか?そのシュンさんっていう人は…」

ローズ「こっちに来てくれるとは言ってくれたけど、やっぱり時間はかかるみたいで着くのは公演始まって少し経ってからになりそうって…」

灰原「なら、それまでは私たちが守るしかないわね」

コナン「ああ。そうだな。もうすぐ開演時間だし、このまま舞台裏で見させてもらおうぜ」

新一君の言葉に皆が頷いた

そして時間は流れ、ついに舞台が始まった

オペラ劇場にアドラーさんの声が響き渡る
伸びのあるソプラノの歌声は芯があり、透明感があってとても綺麗だ

ローズ「いつ聞いてもアイリーンの歌はいいわね」

蘭「ローズさんは歌わないんですか?」

ローズ「私はもう現役を引退したからね。もう舞台に立つことはないわ」

そういいながらローズさんはアドラーさんを優しく、でもどこか懐かしむような眼差しで見つめていた
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