桜庭愛理 推理します

『That saved a wretch like me.』

愛理は目を閉じた。

静かに、かつ感情をこめて歌うその姿は、ひどく魅力的だった。その場にいた全ての人間が、瞬きをやめたのではないかというほどだ。

『I once was lost but now am found,
Was blind but now I see.』

観客のある者は目を閉じ、ある者は薄く微笑み、ある者は小さく体を揺らし、ある者は涙した。

皆一様に、彼女の歌声に感動していた。

『'Twas grace that taught my heart to fear,
And grace my fears relieved,』

コナンらも例外ではない。

彼らは、実は愛理の歌を聞くのはこれが初めてである。

『How precious did that grace appear,
The hour I first believed.』

彼女曰く、その理由は、

「そんなに上手じゃないし…聞かれるのが恥ずかしいから。」

だそうだ。

『How precious did that grace appear,
The hour I first believed.』

愛理の口から流れる声は、観客達にとっていつまでも聞いていたいものだった。

だが、数分後、彼女の歌は終了した。

「…Thank you.」

ドレスの裾を両手で持ち上げ、軽く膝を曲げて腰を落とす。彼女が姿勢を戻した頃に、ようやく、拍手が巻き起こった。

観客全員、固まっていたのだ。あまりに感動して。

拍手は鳴り止まず、全員が立ち上がり、スタンディングオベーションとなった。時々口笛も聞こえる。

「今の曲は、[Amazing grace]という曲です。結婚式などで有名ですよね。神に感謝する賛美歌で、私はこの曲が大好きなんです。皆さんも是非、日本語訳など調べて見てください。」

Amazing grace.驚くべき優美さ。

そのタイトル通り、美しく歌い上げた彼女は、また微笑んだ。

「それでは皆さん、私はそろそろ失礼します。本当にありがとうございました。…またいつか、どこかで」

もう一度お辞儀をして、舞台裏へと歩いていく。そんな愛理を、盛大な拍手が見送った。

舞台裏に入り、愛理はため息をついた。

「ふう…、皆が聞いてると思うと緊張した…」

彼女も、案外普通の女の子である。

愛理が舞台裏スタッフに挨拶を終え、ロビーまで出て来ると、そこにはコナンらの姿があった。

「おまたせしました」

園子「愛理姉!びっくりしたわよ!」

「私の方こそ驚いたわ。どうして知ってたの?」

コナン「愛理おねーちゃん、たまにこういうパーティーとか出てるの?」

「いいえ。今日が初めてよ。」

小五郎「にしても、歌うまいんだな」

園子「本当よね!感動しちゃったわよ!ガキンチョもそう思うでしょ!」

コナン「うん、愛理ねーちゃんの歌、すごくよかった!」

「ありがとうございます。会場へ向かいましょう、あと少しで始まりますし」

園子「そうね!」

一行は話しながら歩き出す。

「あ、園子ちゃん、このドレスありがとね」

園子「いいのよ!やっぱり、すごく似合ってるわ。さすが工藤くんね…」

「あ、新一君ってこのドレスをどこまで決めたの?」

気になっていたことを尋ねる。コナンがぎょっとした顔になるが、園子は既に口を開いていた。

園子「あぁ、えっとね…愛理姉は足長いから、それが際立つような細身のドレスがいい。あと、全体的にシンプルなほうが愛理姉の魅力が目立つだろ、ってそのくらいかな?」

愛理がコナンのほうを見るが、彼は勢い良く顔を逸らした。彼の顔は真っ赤だ。

園子「詳しいデザインは、うちのデザイナーに任せたわ。雰囲気は私と蘭、和葉ちゃんで口出ししたけどね」

「そうだったのね」

小五郎「しかし、本当によく似合ってるぞ」

「ありがとうございます。」

エレベーターを降り、レセプションパーティーの会場に向かう。彼女らが入った時、ちょうど照明が落とされた。

辺りが暗くなり、司会者が前に立とうとしている中で、愛理はしゃがんでコナンに話しかけた。

愛理「…で、案を出した張本人としては、どう?」

コナン「!…」

にやっと笑いつつ、小さく呟く。するとコナンは、愛理の耳に顔を近づけた。

コナン「…俺の思った通りだ、愛理姉 似合ってる」

愛理「ふふっ・・ありがとう」
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