スケアリー・モンスターズ

ジャミル「それぞれの寮が、寮生全員力を合わせてハロウィーンに取り組んでいる。お客さんたちに『あそこの寮はイマイチだった』なんて、言われたくはないだろう?」

フロイド「そーそー。これはメンツの問題だから……」

フロイド君がそう言った時だ。

「あいたっ!」

ドンッ!と音と共に可愛らしい声が出た。

フロイド「ん?」

グリム「女の子が体当たりしてきたんだゾ」

フロイド「うわ、ちっちぇー!小魚にくすぐられたのかと思った」

「ひっ!ごご、ご、ごめ……ごめ、なさ……っ!」

女の子はフロイド君を見て、怯えたように謝罪する。

ジャミル「フロイド。お前の背がでかすぎて子どもが怯えてるぞ」

エース「確かに。2倍ぐらい身長差のあるフロイド先輩に見下ろされたら、すげー迫力ありそうっす……」

監督生「もしこれがもっと小さい子だったら、確実に大泣きコースだ」

フロイド「えーマジで?ごめんごめん、しゃがめばいい?」

そう言って、フロイド君は女の子の目線に合わせるようにしゃがんだ。
顔が見えてほっとしたのか、女の子は安堵の表情を浮かべた。

フロイド「……んで小魚ちゃん。よそ見しながら歩いたら危ないよー?」

「ごめんなさい。でも、あの……見つからなくて……」

「何か探しているの?」

監督生「お母さんとはぐれちゃった?」

「ううん、そうじゃなくて……スランプラリーが終わったよって伝えるところを探してるんです」

「スタンプラリーの台紙の提出場所ってこと?」

監督生「それって、どこだったっけ……?」

フロイド「あ、それオレ知ってるわ。おいでよ。案内してあげる」

そう言って、フロイド君は女の子と手を繋いで歩き出す。


自分より小さい子相手だと優しいのね。
いつもの彼を知っている面々は、今の姿を見て内心驚きながらも後を追った。

フロイド君の後を追ってやってきた正門も、大小さまざまなジャック・オ・ランタンで飾られていた。

フロイド「ジェイド~」

ジェイド「おやフロイド、随分大勢でやって来ましたね」

フロイド「ん。このおチビちゃん、ジェイドを探してたよ」

ジェイド「僕をですか?」

フロイド君が女の子を前に出すと、ジェイド君は首を傾げる。

2人が目線を合わせるようにしゃがむと、女の子はもじもじしながら言う。

「はい。……スタンプ7つ、集めました!」

ジェイド「なるほど、スタンプラリーに参加してくださったのですね。では台紙を見せてもらえますか?」

女の子が取り出した台紙には、各寮のイメージカラーのスタンプが押されており、確かに7つある。

ジェイド「……素晴らしい!確かに、全てのスタンプが押されています。それでは合言葉を言っていただけますか?」

「はい!……トリック・オア・トリート!」

ジェイド「はい、確かに」

女の子の合言葉を聞いたジェイド君が笑顔で頷くと、それを聞いたグリム君が首を傾げる。

グリム「とりにくは、とりと?なんだソレ」

エース「トリック・オア・トリートな。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』って言ってんの」

グリム「おどしか……?」

ジャミル「違う。ハロウィーンを楽しむときの決まり文句だ」

「ハロウィーンにいたずらするゴーストは、お菓子をあげればいなくなる!って話、聞いたことないかしら?」

グリム「そういえばリリアがそんなこと言ってたような……」

エース「トリック・オア・トリートはその言い伝えの名残なんだってさ。仮装をして、トリック・オア・トリートと言いながら近所を回ると、お菓子をもらえるんだぜ」

グリム「なにっ!んなの最高の呪文じゃねーか!」

エース「そうそう。子どもんとき兄貴と一緒に近所を3周ぐらいしたな~」

監督生「容易に想像できるね、その光景」

ジャミル「ハロウィーンの伝承は種族や地域によって少しずつ内容が異なるんだが……不思議なことに『トリック・オア・トリート』という言葉はどの種族にも共通して存在しているんだ」

「だからスタンプラリーが終わった後の合言葉にしているの」

そんな会話をしていると、ジェイド君がキャンディーが入った袋を女の子に渡していた。

ジェイド「どうぞ。一生懸命スタンプを集めてくださったあなたにプレゼントです」

「わーい、お菓子だ。ありがとう!」

ジェイド「お家に帰って大人の人に確認してからお召しあがりくださいね。万が一、アレルギーがあるといけませんから。約束ですよ?」

「はーい!」

女の子は元気よく返事をすると、私たちのほうを見た。

「ありがとう、お兄ちゃんたち。また遊びに来てもいい?」

ジャミル「ああ。『ハロウィーンウィーク』はまだまだ始まったばかりだからな」

ジェイド「ぜひ、お友だちをたくさん連れていらしてください」

フロイド「好きにすりゃいーじゃん。バイバーイ」

「また会えるのを楽しみにしてるわ」

女の子は頷いて去っていく。
それを見ていた私たちは、ふと首を傾げた。

エース「……なんか先輩たち、子どもの相手慣れてません?」

監督生「ロゼッタさんとジャミル先輩はわかりますが、ジェイド先輩もフロイド先輩はちょっと意外でした」

フロイド「別に、普通じゃね?」

ジャミル「去年も同じようなことをやったからじゃないか?エースも監督生もいずれ慣れるだろう」

監督生「そうですね」

エース「ふーん……」

そして、エース君はぽつりと言い始める。

エース「実はオレちょっと『7日間も学外の人に気を使わないといけないの面倒じゃね?』って思ってたんすけど……1年のうちに1回ぐらいこういう行事があってもいいかもっすね。……だって、『ハロウィーンウィーク』の間は先生たちも宿題減らしてくれるし!」

監督生「最後で台無し……」

フロイド「ふふふ、そうですね。僕も、みなさまの笑顔がたくさん見られるハロウィーンが大好きです」

ジャミル「いちいち言うことが胡散臭いんだよ……」

エース君とジェイド君の言葉に、ユウとジャミル君は深いため息を吐いた。

グリム「なあなあ。そんなことより、オレ様腹減ったんだゾ」

「あ、そういえばもうお昼ね。」

エース「お、じゃあみんなで飯食いに行こうぞ!いいっすよね、先輩?」

ジャミル「……お前、俺たちに昼飯をたかるつもりだな?」

エース「え~人聞き悪いなあ。オレは尊敬する先輩たちと一緒に、楽しくご飯食べたいってだけですってえ!」

ジャミル「全く、調子のいいヤツ……」

監督生「ウチのエースが本当にすみません」

エース「お前はいつ俺の母さんになったんだよ!」

肩をすくめるジャミル君にユウがに謝罪すると、エース君はツッコんできたがユウは無視した。
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