スケアリー・モンスターズ

オクタヴィネルのスタンプラリー会場として選んだ魔法薬学室。
会場として使っているのはその薬品庫であり、内装はマッドサイエンティストがいてもおかしくない雰囲気だった。

長方形の水槽、発光する緑色の液体が滴る袋。
棚にはジャック・オ・ランタンがこれでもかと並べられており、本来のハロウィーンらしい不気味さを醸し出している。

フロイド「いらっしゃーい。どお?オクタヴィネルのハロウィーンは」

カリム「なんつーか……すげー不気味だ!」

ジャック「小せえ子どもなんか、泣き出しちまいそうだな……」

ロゼッタ「夜、来たら怖そうね」

寮服姿で出迎えたフロイドの言葉に、カリムがストレートに言った。
ジャックも室内の不気味さを見てそんな感想を言った。

フロイド「でしょー?でも褒めんのはアズールとジェイドの仮装を見てからにしてよ」

フロイドがそう言った直後、仮装に着替えたアズールとジェイドが登場する。

ジェイド「ふふふ……僕たちの仮装のテーマは……“マミー”です」

アズール「もしかすると『ミイラ男』と言ったほうが伝わりやすいかもしれませんね」

アズールとジェイドの仮装は、身体に包帯を巻いただけの普通のマミーと違っていた。
裾の長いシャツを中心に、その先には包帯のように白い帯がいくつも垂れている。
帽子も細い布を巻き、リボンと骨の飾りまでついていた。

ジェイド「せっかく今年は、アズールと僕がハロウィーンの運営委員になったので……人魚とは正反対の、干からびたマミーの仮装をしたいと決めていました」

フロイド「マミーの仮装なんて海じゃぜってーできねぇし。オレも大賛成」

アズール「しかし、ただ身体に包帯を巻き付けるだけでは面白くない。そこで、従来のマミーの古臭いイメージを覆すスタイリッシュなコーディネイトを目指しました」

ジェイド「飾り付けのテーマは……“マッドな研究者のラボ”!」

ジェイドの言ったテーマに、全員は室内を見渡してなるほどと納得の表情を浮かべる。

アズール「後ろの水槽は『培養槽』をイメージ。夜になるとライトアップされます。中に恐ろしげなマネキンを入れればより雰囲気が出ると思いまして」

カリム「うわ~。随分本格的に揃えてきたな」

商家の息子であるカリムは、オクタヴィネルが使っている衣装もセットもかなりいいものだと一目見てわかったようで、感心したように言った。

アズール「さすが大富豪のご子息、カリムさん。目の付けどころがいい。衣装も、水槽も、全て一流の業者に仕上げていただきました。なにせ僕たち、モストロ・ラウンジのハロウィーンメニューも考えなければならなくて……みなさんと違って、とっても多忙なものですから」

イデア「ドヤア……」

わざとらしく言うアズールにため息を吐くイデアの横で、カリムはきょとんと首を傾げる。

カリム「……あれっ?でもさ、会場設営と衣装の予算はどの寮も同じ金額できまってなかったっけ」

学園長「はい。限られた予算の中でやりくりするのも学園生活ならではの楽しいですからね。ポケットマネーを使っていないか、予算をオーバーしていないか、怪しいお金の動きはないか……会計係のジェイド・リーチくんにしっかり見張ってもらっています!」

それを聞いた直後、全員の頭に『横領』の文字が浮かんだのは仕方ない展開だった。

カリム「だよな。それなのに外部の業者なんか使って大丈夫だったのか?」

ジェイド「おや。もしかして僕の不正を疑っておいでで?」

カリム「あっ。違う違う。そういう意味じゃなくてさ。オレ、自腹で色々派手にしようとしたらダメって言われたから。お前はどうやったんだろうと思って」

ジェイド「ふふふ、気になりますか?」

カリムの質問は、全員が聞きたかったものだ。
正直、ジェイドなら上手く誤魔化している可能性もあったため、ここではっきりさせるにはいい機会だ。

アズール「オクタヴィネルを含めて、予算をオーバーした寮は1つもありませんでした。なぜなら、僕たちのオクタヴィネルのハロウィーンのこだわりは……徹底した『コスト最適化』ですから」

カリム「コスト最適化……?」

さらに首を傾げたカリムに、アズールはすぐさま説明する。

アズール「衣装は生地の色と種類を限定し、同色の布を大量購入することで1人あたりの単価を抑えています。さらに切りっぱなし加工を多用することで縫製の工数も大幅にカットしました。
 水槽を特注した業者とは、モストロ・ラウンジのメンテナンスを長期契約することで格安で商談成立。水槽の照明は寮内で使っていた古い照明の流用です」

ジェイド「いらなくなった設備を使うのは『ポケットマネー』ではありませんよね?お金をかけるところと、かける必要のないところをハッキリわけたんです」

アズール「僕たちの寮は、設営と衣装に割り振られた予算を1マドル残らず使い切りました。余った各寮の予算は最終日のパーティー代としてプールされます。どうせなら全て使い尽さないともったいないでしょう?」

2人の説明を聞いて、ケイトたちは一斉に苦笑いを浮かべた。

ケイト「水槽発注にかこつけて、ハロウィーンに関係ないラウンジの長期メンテ代も値切ってるトコ、さすがすぎ」

デュース「僕ら、予算内に収めることしか考えてませんでしたね」

ヴィル「予算をぴったり使うためにわざわざ計算なんて普通はしないわよ」

アズール「つまり、僕たちオクタヴィネルのハロウィーンは『最もリッチ』と言うことです」

カリム「さすがオクタヴィネル。しっかりしてんなー!」

さすがオクタヴィネル。
こういう予算のやりくりは本当にエゲつないほどうまい。

他の運営委員が予算を使い尽くすだけでなく、上手くラウンジのメンテ代さえ格安にしていることに感心を通り越して呆れてしまう。
そんな中でも、カリムは通常運転で褒めていた。

学園長「この本格的なセットとかっこいい衣装を揃えながらラウンジも同時進行で準備するなんて……その手腕、知略に優れたオクタヴィネルならでは!感服です!さあ次はスカラビア寮のセットを見に行きましょう。たしか、購買部でしたね」

ロゼッタ「はい、そうです」

次の寮はどんなテーマをしているのか、どことなくウキウキしているクロウリーと共に購買部へと向かった。
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