スケアリー・モンスターズ

見慣れたオンボロ寮は、ディアソムニア寮生によって飾り付けられていた。
真っ赤なランタン、朱塗りの門、雲や蓮、そして大口を開けた赤い龍。

その正面ではいつも通りのシルバーと、何故かドヤ顔をしているセベクがいた。

シルバー「お待ちしてました。マレウス様たちの仮装の支度が済むまで、少々お待ちください」

セベク「はーっはっは!よく来たな、人間ども!マレウス様率いるディアソムニアのハロウィーンを自ら讃えに来るとは、良い心がけだ!」

エペル「セベククン……いつも、元気だね」

ヴィル「マレウスはこのキュウリに礼儀を教えていないのかしら」

セベクの様子に苦笑するエペルと呆れるヴィルに、シルバーは頭を下げた。

シルバー「すみません。どうやらハロウィーンでいつも以上にはいしゃいでいるようです」

セベク「はしゃいでなどいない。事実を言ったまでだ!」

シルバーの言葉に、セベクはすぐさま否定した。

セベク「これからご登場されるマレウス様とリリア様のお姿を見れば、貴様らにも格の違いがわかろうというもの!」

マレウス「セベク、あまりみんなを困らせるな。当然のことを言われては、反応に困るだろう?」

セベク「はっ、若様。もう仮装がお済みですか」

背後から聞こえたマレウスの声に、セベクは佇いを直した。

セベク「……ごほん。みなの者、刮目せよ!これぞ我がディアソムニア寮長マレウス様がお考えになった……ハロウィーンの仮装である!!」

セベクの声と共に現れたマレウスとリリア。
2人の仮装は鮮やかな色彩の刺繍を施した黒い満州服。帽子には孔雀の羽根飾りがあしらわれ、西洋風の顔つきをしている彼らでもよく似合っていた。

マレウス「僕たちの仮装のテーマは“龍”だ」

リリア「どうじゃ。よく似合っとるじゃろう?」

マレウス「去年、ディアソムニアは伝統的なゴーストの仮装をしたが……今年初めて運営委員になってみて少し趣向を変えてみてはどうかと思ったんだ。ハロウィーンとしては意表をついた色彩豊かで、人の目を引く衣装に仕上げたつもりだ」

セベク「はい!はいっ!!大変よくお似合いでございます!若様に模していただけるなど……きっと今頃龍も泣いて喜んでおります!!」

エペル「龍じゃなくてセベククンが泣いてるよ……」

涙目で語るセベクにエペルはもう一度苦笑した。

マレウス「ありがとうセベク。そうだ。衣装に助言をくれたシェーンハイトにもお礼を言わねばな」

ヴィル「最初は『ドラゴンのマレウスが龍の仮装なんて似てるから意味がない』って言ったんだけど……『龍とドラゴンは全く違う生き物だ』って1時間力説されたわ。うんざりよ」

マレウス「龍は東に生息している生物。確かに角や尻尾、表皮などはドラゴンに似ているが……ドラゴンとは全く別の生き物だ。翼の有無はもちろん骨格を比べても違う種族であることがわかる。まずそもそも、龍とは厳密に区分すれば妖精ではなく……」

ヴィル「わかったってば。説明はもう十分!」

マレウスの龍談義にヴィルがストップをかけた。
それを見て、リリアは謝罪した。

リリア「すまんのう。マレウスはちいと凝り性なところがあるんじゃ」

カリム「なんか今の早口、イデアみたいだったな」

アズール「オタク特有の早口ってヤツですか」

カリム「え?なんでだ?楽しい気持ちが伝わってきていいと思うぜ!」

イデア「そういう悪気がないのが一番傷付くんだが……」

ヴィル「というか、マレウスの話について行ける人っているの?」

リリア「今のところ、マレウスの話についてこられるのは、ロゼッタだけじゃ。あやつもかなり博識じゃからのう」

カリム「さすがロゼッタ。」

ロゼッタ「そ、そんなことありません…」

リリアの言うとおり、マレウスとロゼッタは3時間ほど龍談義で結構盛り上がっていた。
途中、セベクが話を中断させなければ、半日は続いていたくらいの勢いだった。

マレウスのにおいをつけてきたロゼッタに対し、レオナは不機嫌だったらしい。

ジャック「……確かにカッコいいですけどゴーストの仮装じゃなくていいんすか?『ゴーストも怖がるゴースト』になりきるための衣装ですよね」

マレウス「なにを言う。これは龍『のゴースト』の仮装だ」

ジャック「え?」

マレウスの言葉にジャックが首を傾げると、クロウリーは説明した。

学園長「このスタンプラリーを始めた頃は、みなさんシーツを被ってゴーストを装う程度だったんですが……一部の生徒がこだわり始め、『ならばうちも!』とどの寮も競うように年々派手になっていきまして。今では『モンスターのゴースト』の仮装も珍しくなくなりました」

ヴィル「お客の期待に答え続けようとするのは長いショーを続けるうえで大切なことよ。生徒間の切磋琢磨により、ハロウィーンウィークはブラッシュアップされてきたの」

ロゼッタ「単純に言えば、見栄の張り合いってところね」

ジャック「なるほど。なんというか……うちの学園らしいな」

プライドが高く我の強い生徒ばかり集まるこの学園ならではの発展に、ジャックも納得の表情を浮かべた。

シルバー「オンボロ寮の飾り付けは、親……リリア先輩が昔旅をされたという国をイメージして作ったんだ」

リリア「うむ。わしはこれまでいろいろな国を旅してきたが……東方のとある国には龍の伝説がたくさん残っておってのう!なんでも龍が一族の守り神をすることもあったとか。マレウスが龍の仮装をしたいと言うたときにその話を思い出したんじゃ!」

エペル「真っ赤な龍が派手でかっこいい!!」

リリア「くふふ。そうじゃろうそうじゃろう」

やはり男の子の心くすぐる龍に、エペルとデュースは目を輝かせる。

リリア「ランタンも、雲も、龍も全て魔法で浮かせておる。炎も魔力で灯す予定じゃ。ゆらゆら揺れてたほうが、かっこいいしより本物っぽいじゃろう?」

ヴィル「簡単に言うけど……あのランタン、相当な数があるわよね?それを浮かせつつ火を灯し続けるだなんて……正直、他の寮では真似できないほどの魔力だわ。さすが、実践魔法が得意な生徒の多いディアソムニアのハロウィーンといったところね」

ヴィルの言葉に、リリアは誇らしそうに笑みを浮べた。

学園長「豊富な知識を取り入れ、熟練の魔法で実現する……実にディアソムニアらしい、『魔法士養成学校』のお手本とも言えるようなハロウィーンです!それでは次に行きましょう。次は……ハーツラビュル寮のみなさんが選んだ植物園が近いですね」

そうして運営委員一同は、植物園に移動した。
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