夕焼けの草原のタマ―シュナ・ムイナ

レオナ「これでレインツリー・マーケットでの買い物は一通り終わったか。」

ヴィル「ねえ‥ずっと気になってたんだけど、レインツリー・マーケットのあちこちに兵隊が立っているわね。」

レオナ「ああ。アイツらは市内を巡回している警備兵だ。」

キファジ「暁光の都の中心は、王城の兵たちによって治安が維持されています。なんといっても王都ですから。」

レオナ「ただ、いくら治安が維持されてるといっても夜に1人で出歩くのはオススメしない。」

ヴィル「気を付けるわ」

カリム「夕焼けの草原って獣人族ばかりなのかと思ってたけど、そうでもないんだな。」

ロゼッタ「人口の半分以上は獣人族だけど、全員ってわけじゃないわ。それに地域によって偏りもあるの。」

キファジ「獣人族は種族の種類も多く、夕焼けの草原の中で小さな集落を作って暮らしている種族もいます。ちなみに私は鳥の獣人族ですが、数は多くはありません。王都にもごくわずかしか存在しておりませんよ。獣人族は文化や慣習も様々ですから、それをまとめる王家は大変です。今、国政を任されているファレナ様も苦労されているご様子。」

レオナ「馬鹿正直にやって面倒ごとを増やしているだけだろうが。」

ロゼッタ「ふふっ。」

グリム「ロゼッタ、なんで笑ってるんだ?」

ロゼッタ「最近レオナさんが公務に関わるようになって助かっているってファレナ様がおっしゃっていたのを思い出したの。」

私達のやり取りは小声で行われていたので、耳のいいレオナさん以外には聞こえなかっただろう。

レオナ「俺が国にいない方が、兄貴はやりやすいだろうさ。俺が返らないのは国のため。つまり去年までのタマ―シュナ・ムイナに出なかったのも国のためってことだ。これでも俺なりに気を遣ってるんだよ。」

キファジ「嘆かわしい…ファレナ様の心中を思うと心が痛みます。ああ。どうしてこんなに捻くれた性格になってしまったのか…」

レオナ「さあな。どっかの捻くれた性格の侍従が昔から厳しくしてたせいじゃねえか?」

キファジ「私のチェスで負けて大泣きするようなかわいい子どもがこんな憎まれ口をたたくようになるとは…なるほど。確かに私が厳しくしすぎたかもしれませんな」

レオナ「うるせえ奴だな。いつまでついてくるんだ、キファジ?」

キファジ「私は国賓であるカリム様をアテンドしているのです。」

カリム「なんだか悪いなぁ。オレのことは気にせず、キファジも気楽にしてくれよ」

キファジ「いえ、そういうわけには参りません」

レオナさんは大きく舌打ちをした

ロゼッタ「レオナさん、舌打ちは嫌よ」

私が優しく声をかけると、少し怒りの症状が和らいだ

レオナ「アイツが同行するのは想定外だ。やり辛くて仕方ない。何とかして、どこかに追っ払ってやる。」

グリム「さ~て、次は何を食おうかなー。」

レオナ「屋台巡りはここまでだ。そろそろエレファントレガシーに行く時間だからな。」

ヴィル「ようやくね。待ちくたびれたわ。」

キファジ「あちらにチャーターバスを用意しています。」

移動した先には運転手さんが笑顔で待ち構えていた。

「お待ちしていましたぜ。わしのバスに乗って下せぇ」

リリア「ほう。なかなか立派なバスじゃな」

ヴィル「これならゆったり座って、のんびりとしたバス旅ができそう」

レオナ「全員乗ったな。出発するぞ」

全員が乗ったところでゆっくりとバスは出発した。

リリア「暁光の都には車がたくさん走っておるのう」

ロゼッタ「市内には道路網が整備されていますから。」

レオナ「舗装されていない道も多いが」

キファジ「住人の主な交通手段はタクシーとバス、それとバイクタクシーです。」

レオナ「だが市街地を離れればサバンナ地帯。整備されていないオフロードだ。かなり揺れるから覚悟しろよ。」

リリア「快適安全なバス旅行…というわけにはいかなそうじゃな。」

レオナ「ああ。道が悪いから、パンクしやすい。おまけに土煙も激しく、エンジントラブルもしょっちゅう起きる」

カリム「あ!サバンナに入るみたいだぜ!」

その瞬間、大きな音がして車内が揺れた

タイヤがパンクして、エンジンが壊れてしまったみたい…

レオナ「言ったそばからこれかよ…」

リリア「フラグ回収が早すぎるぞ!」

「わ、わしのバスが…これは修理できなさそうだ…このまんまスクラップかもしれねえ。明日は大口の予約が入っているというのに…どうすりゃええんじゃ?これがないと稼ぎがなくなっちまう。家族が生活できん…」

カリム「えッ?大変じゃないか。そうだ!オレが新しいバスを買ってやるよ」

「な、なんですと!?」

「「「バスを!?」」

リリア「カリムよ。そう安易に他人を助けてはならん。ついさっき会ったばかりの者じゃぞ。」

グリム「カリムにとっちゃバスなんて大したことない買い物なんじゃねーか?」

ヴィル「そういう問題じゃないでしょ」

「そ、その通りだ…見ず知らずの学生さんからバスを買ってもらうなんて、とんでもない」

ロゼッタ「ですが・・・家族は大切になさらないと」

レオナ「ロゼッタ…?(アイツ…まさか)」

「ロゼッタ…様?」

彼の話を聞いていたら、なんだか放っておけない

ロゼッタ「明日の予約…楽しみにしている人がたくさんいらっしゃると思いますよ。すぐに新しいバスを買って送ります。」

カリム「ロゼッタ、俺が買うよ」

ロゼッタ「それじゃあ、私達で1台ずつ買いましょう。故障しても大丈夫なように」

カリム「それいいな!オレも新しバスを買って、すぐ送るよ!」

「ううっ…す、すまない。情けないがこれも家族のため‥・恥を忍んで厚意に甘えさせていただきます。しかし、バスの代金は必ず耳をそろえてお返ししますので!どうかお名前を教えてください!」

カリム「カリムだけど…別に気にすんなって!困った人を助けるのは当然のことだ。だろ?ロゼッタ!」

ロゼッタ「ええ。」

ヴィル「ヴィル「本当にバスを買ってあげちゃうのね。信用できる人かもわからないっていうのに」

リリア「やれやれ。なんともカリム、ロゼッタらしいのう」

レオナ「まあ、キファジがチャーターしたってことは、素性は確かな奴だろう。ロゼッタはともかくカリムがそこまで気にして行動したかはかなり怪しいが。」

キファジ「まさかバスが故障するとは…仕方ありません。すぐに別の車を手配します」

レオナさんは何かを考えるようなそぶりをしている

レオナ「待てキファジ。別の車を手配するより手っ取り早い方法がある。俺について来い。お前ら、少しばかり歩いてもらうぞ。目的地は王宮だ」
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