夕焼けの草原のタマ―シュナ・ムイナ

キファジ「それにしてもレオナ様がご学友を連れてこられるとは…このキファジ、少々驚いております。レオナ様がナイトレイブンカレッジの生徒たちと親交を深めているとは思いもしませんでした。」

ヴィル「親交を深めている…ねえ。アタシたち、そんなにレオナと仲良しだったかしら?」

カリム「もちろん!レオナはオレ達の友達だぜ!」

リリア「くふふ、カリムはああ言っておるぞ」

ヴィル「あら、そう。だったらそういうことにしておくわ。」

カリム「よーし!着替えも終わったし、キャッチ・ザ・テイルの練習を始めよう。」

ロゼッタ「カリム君、ここでは無理よ」

レオナ「お前…このホテルの中で、取っ組み合いの練習を始めるつもりか?」

私とレオナさんは同じことをカリム君に告げた。

レオナ「練習場所はきちんと押さえてある。競技場を使える時間になるまで少し待ってろ。」

キファジ「皆様。練習時間までの間、暁光の都を刊行するのはいかがでしょう。」

グリム「おっ!それがいいんだゾ。うまいもんも食えそうだ」

カリム「え?でもジャックが大変なときに遊ぶのは悪いよ。」

キファジ「カリム様。『ハクナ・マタタ』でございますよ」

カリム「ハク・・・なんだ、それ?」

ロゼッタ「ハクナ・マタタ。深刻に考えることを戒めた、言葉よ。」

レオナ「ハクナ・マタタ!ああ!なんていい響きなんだろうな。」

キファジ「またひねくれたことを。大事なことです。皆様がここで心配されても、ジャック様の容体が好転するわけではありません。せっかくの旅行を台無しにしては、ジャック様も責任を感じてしまうでしょう。皆さまは旅行を満喫し、ジャック様に土産話をお伝えする方が良いかと。」

ヴィル「そうね。ジャックのことは医者に任せるべきだわ。」

グリム「そうだ、そうだ!オレ様、腹が減った!!」

リリア「うむ、決まりじゃな」

キファジ「それでは私が、暁光の都の観光ガイドをさせていただきます。」

カリム「そうか。ありがとうな、キファジ」

グリム「それじゃあ、美味いもんを食いに出発だ!!!」

私達は、観光に出発した

ヴィル「快晴で観光日和ね。いい天気でよかったわ」

レオナ「お前らにとってはそうなんだろうが、こっちじゃ雨降りがいい天気だ。」

ヴィル「雨が少ないの?」

ロゼッタ「1年の降水量はそれほど少なくはありませんが、雨季にまとまって降るので、乾季にはほとんど降らないんです。乾季の間は、国中の人々が雨を待ち望んでいるんですよ。」

レオナ「だから雨乞いのタマ―シュナ・ムイナは盛大に行われる。」

カリム「あ!あそこに噴水があるぜ!」

ヴィル「涼しげでいいわね」

レオナ「コイツは、つい最近できたものだ。水道整備が進んでいない夕焼けの草原だが、暁光の都だけはインフラが整っている。この噴水は、その象徴みたいなもんだ。上下水道の整備は、公衆衛生の要だからな。」

カリム「へえー!噴水の真ん中にある像は何なんだ?」

レオナ「…」

レオナさんは少し黙って、言った

レオナ「ライオンの子供の誕生を祝福しているヒヒだ。」

キファジ「あれはグレート・セブン、百獣の王の時代の逸話に由来しております。」

ロゼッタ「そのころは、王の後継者が生まれた際には、国を挙げて盛大な式典をしたそうです。その式典風景をイメージして造られたのがこの像なんです。」

キファジ「像のヒヒは国で一番の呪術師で、抱え上げている赤子は、誕生した王の息子。噴水の周りの様々な動物たちは、王の誕生を祝福しています。」

ヴィル「なるほどね。」

キファジ「この噴水は、5年前、ファレナ様にお子様が誕生したことを記念して作られました。完成した時には盛大な式典が開かれましたが、レオナ様はいらっしゃいませんでした。」

5年前…レオナさんが王様になれないとわかった日

複雑な表情で見ていたのがレオナさんにわかってしまったのか私の頭を乱暴に撫でるとレオナさんは言った。

レオナ「そうだったか?覚えてないな。噴水なんか眺めても退屈だろう。さっさと移動するぞ。」
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