グロリアスマスカレード~紅蓮の花と救いの鐘~

ーー鐘楼最上階

秘密の扉を開けたら、そこには大きな鐘がある

風が靡いた

空は暗く…地上は赤い…

だけどここは、とても静かだった
 



マレウス「やっと到着したな」

静かな空間にマレウスの声が響く

マレウスは表情ひとつ変えず、鐘を見つめる

マレウス「ここが、鐘楼のーー最上階だ」

ロゼッタも鐘を見上げた

月を反射し、青白く光る大鐘…これを鳴らせば、目的は達成される

イデアが言う「ゲームクリア」というもの

マレウス「だが、その前にーー」

マレウスはある人物を探す

マレウス「この宴の主催者に、挨拶をしなければ」






「ふん…」

遠くから低い声と足音が聞こえてきた
 
「とうとうここまでたどり着くとは。お前たちのような悪党ほどしぶとく世間にのさばる。嘆かわしいことだよ」

ロロだ。ロロはゆっくりとやってくる

そして嫌がった顔でマレウスたちを視界に入れた

いつものようにハンカチで口を隠すところを、抱きかかえたロゼッタの頭で隠した。ついでにロゼッタの頭にキスをする

マレウス「ロゼッタ…!?なぜ、そんなところにいるのだ!?」

マレウスはロロに抱きかかえられているロゼッタに驚く

マレウス「大講堂にいないと思えば、ロロに…」
 
マレウスはロロを睨んだ。そして、「ロゼッタに触るな…!」と怪訝な顔つきになる

ロロはそんな彼など気にもとめず、マレウスたちを見つめた

ロロ「ひとり変わったのが増えているようだが」

ロロはロゼッタをギロリと睨んだ

魔法士が増えた以上、“誰だろうが”恨まざるを得なかった

マレウス「いい夜だったようだな。フランムよ」

マレウスはロロを見つめる

マレウス「勝手に押しかけてしまったか?僕たちを地下に落としたのはてっきり手違いかと思ったが」

ロロ「招かれざる客ではあるが、構いはしない。無礼な客人であろうとわたしは丁寧にもてなそう」

ロロが流暢にそう言えば、床下から紅蓮の花が溢れ出てきた。どうやら、マレウスたちの魔力を辿ってやってきてしまったようだ

ロロ「んっふふ…紅蓮の花に怯え、逃げ惑う卿らの姿は実に滑稽だよ」

ロロの不吉な笑い声が響いた

ロロ「この美しい花をなぜ恐れる?そんなにも魔法が大切か?」

ロロの質問に対し、「当たり前です!!」とアズールが反論する

しかし、アズールの意見にロロは苛立ちを感じていた

ロロ「魔法は悪だ。人を誘惑する、危険な力だ!」

突如、ロロが怒鳴り散らした

ロロ「悪しき力に魅了され、依存し、享楽にふける貴様ら魔法士のなんと酷いことか…お前たちは怪物だ」

ロロはそう言い張った

ロロ「私は違うぞ。魔法を失うことなど少しも怖くない!」

ロロが魔法を怖がらないわけは知っている

日記を読み、ロロの目的を知った

ロロは世界中の魔法士から魔力を消し去り、最後は自分の魔法を永遠に消すつもりだった

マレウス「だが、フランムよ。どのような理由があろうとお前の思い通りにはさせない」

ーーここまでに散っていった者のため、

ーー学園で待つ者のため、

ーー茨の谷のためーー

マレウス「そして個人的にも、僕はお前に非常に強い恨みがあるからな」

マレウスは根に持つことがあった。やるべきことはただひとつ

マレウス「紅蓮の花を消し、全てを正そう。その救いの鐘の力でな!」

ロロはフッ、と自慢げに口角をあげた

ロロ「来たまえ。お前たちを供物に、美しい紅蓮の花を咲かせてやろう!」

ロロは意気天を衝くと、小さな鐘がついた杖のようなものを掲げ、魔法を充満させた。そして、抱えていたロゼッタをマレウスたちが触れぬよう紅蓮の花の絨毯の上に寝かせた

ロロは魔法を放ち、乱闘を繰り返した。紅蓮の花を恐れていないのでロロは無敵状態だった

マレウスたちも魔法を放つが、紅蓮の花が後ろに迫ってきているため、魔力を奪われないよう気を散らしてしまう

ロゼッタが皆には見えないように精霊を呼び出し、紅蓮の花を必死に追い払った。

ロロ「ははは、口ほどにもないな!」

ロロはそんなマレウスたちを見て、嘲笑った

ロロ「皆が羨望するナイトレイブンカレッジの生徒も、誰もが畏怖するマレウス・ドラコニアも、この程度か!」

ロロはハッハッハ!と笑った

マレウス「くっ…大口を叩くだけの力はあるようだな」

マレウスはロロの魔法に膝をつく

隣にいたアズールは「さすがノーブルベルカレッジの生徒会長というところでしょうか」とロロを見上げた

マレウス、アズール、イデアの疲労がどんどん溜まっていく

マレウス「なにか…奴の意表を突くような一撃が浴びせられれば、活路が開けるのだが…」

マレウスは考え込んだ

そっと…そっとイデアが前に出る

ロロ「んっふふ…紅蓮の花を恐れ、逃げ回るお前たちの、なんと無様なことか。理解できただろう。これが魔法などという悪の力に願った者の末路なのだよ…」

ロロの眉が少しばかりか下がった

ロロ「足りなければ恨む。満たされれば謝る。そうして永遠に安らぐことはない」

ロロの瞳の奥には今まで見てきた魔法士の記憶があった。ロロは震える

ロロ「醜いな…ああ、実に醜い…」






イデア「はあーーーーー」

そんな中、どことなくイデアの長いため息が響いた

イデア「あのさ、さっきから黙って聞いてれば“魔法は悪”だの“魔法士は悪党”だの散々ディスってくれますけど…それってなんていうか八つ当たり?」

イデアはどうでも良さそうに呟く

ロロ「…なに?」とロロの眉間の皺が濃くなる

イデア「だって、ロロ氏が恨んでいるのは自分でしょ?

目の前で苦しむ『弟』を助けられなかったり弱くて役立たずな…自分自身」

イデアの言葉にピクリ、とロロの眉が動く

ロゼッタは遠くからロロのことを見つめた。

ロゼッタ「(イデアさんの言葉…あの件のことがあるから、説得力があるわね。)」

ロロの日記を読んだからこそ、話せるのだ。

ロロ「き、貴様…なにを…」

ロロの額に冷や汗が流れる。イデアは構わず、ロロの弟のことを暴露した

イデア「ロロ氏の『弟』さんは幼いうちに魔法が発現した、強い力を持つ子どもだった」

ロロ「なぜ…お前がそれを知っている…!?」

ロロは焦りながらも怒鳴った

イデアは暖炉に隠されていた日記のことをロロに話した

ロロの表情が冷める

イデア「こ、これは拙者の想像だけどさ…君の弟さん、かなり魔法に熱中したんじゃない?それも…正しい指導者がいないまま」

イデアの推測にロロは目を見開く。どうやら当たっていたようだ

イデア「出たよ、幼少期に魔力を持った魔法士が一番恐れるべきケース…」

イデアは続ける

イデア「ブロットが溜まるほどの力はなくても、子どもが魔法を使用するときは慎重にならなきゃいけない。どんな魔法も、使い方を誤れば危険なものになる。だから…」

イデアはロロを見つめた。ロロはその続きを嫌がった。

ーーあとは日記のとおり

イデア「2人で魔法を使っていたある日…制御できなくなった魔力が、使用者である弟の身を襲った」

そのときのロロはまだ幼く、魔法を使えなかった

目の前で苦しむ弟に何もできなかった

イデア「そのまま…」

ロロは青ざめる

ロロ「やめろ…ッ!」

ロロの記憶がフラッシュバックして返ってくる

ーー魔法に喜ぶ弟

ーー兄であるロロを楽しませるため、もっとーーもっとーー

ーー『助けてお兄さま!!』

紅蓮の炎がロロの脳のなかで燃え広がった

ロロ「ううっ…」とロロが頭を抱えて、苦しそうに唸った

ロゼッタ「!」

ロゼッタはそんなロロに駆け寄ろうとしたが、イデアに止められる

ロロ「違う…違うっ!なにもできなかったのは私じゃない!」

ロロは床に膝を崩し、頭を手で押さえて、呟き…叫んだ

ロロ「悪いのは私ではない…悪いのは周りにいた魔法士どもだ!力を持ちながらあの子を救えなかった!!」

ロロは悲しみ嘆いた

魔法士たちはロロの弟に何もしなかった

ロロはそのことがあって魔法士を心の底から恨んだ

ーーそして現在、

アズール「ーー自分も、弟を失った原因である魔力を手に入れ、恨んでいた魔法士と同じになってしまった」

アズールはロロを見つめる

アズール「魔法士でありながら、魔法士を憎む…その苦悩の末に、こんな区行に走ったと」

アズールの言葉にイデアは続けた

イデア「“紅蓮の花で、魔力を消し去ろう。もう二度と弟のように可哀想な人間を出さないために…それが私の使命だ”でしたっけ?日記に書いてあったけどさぁ…馬鹿馬鹿しい。冗談もきつすぎて草も生えませんわ」と呆れ混じりにロロを罵った

ロロ「うるさい!!!貴様に何が分かる!」

ロロの怒鳴り声が耳にキーン、と響く

イデア「ひひっ。残念ながら…分かりたくなくても分かっちゃうんですよね」

ロロとイデアは似ていた

弟がいたこと…そしてその弟を目の前で失ったことも

イデアはロロの苦しみをわかってしまう

イデア「どれだけ後悔したか、どれだけ憎んだか、簡単に想像がつくんだ。悩んで悩んで、それで大切なものが戻らないなら全部滅茶苦茶にしようって思うのも…」
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