グロリアスマスカレード~紅蓮の花と救いの鐘~

ロゼッタはセベクとシルバーと別れると、鐘楼の階段をとにかく登りまくった

「はぁ・・・」

ロロにここを紹介してもらった時もそうだったが、あまりの階段の多さに肺が痛くなりつつあった

でもロゼッタはあの時のように諦める気もない

マレウス、アズール、イデアの所へいち早く向かいたかったのだ




ロゼッタ「っ…」

紅蓮の花が道を塞ごうとも、ロゼッタは動じなかった

魔法を使い、箒で塵を掃くように紅蓮の花をどこかへやる

ロゼッタ「はあ…!はあ!」

そして、鐘楼の真ん中に到達した瞬間、パァンッ!と銃弾が鳴り響いた

ロゼッタ「きゃっ!」

ロゼッタは驚いて、尻餅をついてしまう

アズール「なんですかこのお祭り騒ぎは!?」

アズールの驚く声が聞こえた。その隣でイデアがニヤつく。

イデア「音と花火の出どころなら、アレだよ」

イデアは階段の下を指差し・・・

イデア「えっ?あれ?生徒ちゃん?」

そこにはちょうど、尻餅をついていたロゼッタがいた。プルプルと震えている。

どうやらこの大きな音の正体は水色のハンカチだった。

花の街のカラクリおもちゃのようだが、後で聞くに、イデアが改造したもののようだ。そのハンカチからこのどんちゃんさわき騒ぎな音が出ている。

イデア「てか、危ないよ。それ紅蓮の花ホイホイだから」

ロゼッタの後ろには紅蓮の花が迫っていた

どうやらこのハンカチの魔力に誘われているようだった

イデアはロゼッタの手首を掴み、自分のところへ引き寄せた
イデアのお腹にロゼッタの頬がぶつかる

イデア「バッドタイミングでしたな生徒ちゃん」

イデアはひひひっ、と不気味に笑った。ロゼッタは涙目になってイデアを見上げた

イデア「でもスゴいでしょ~?アレのおかげで拙者たちの安置を確保できるんだから~」

イデアは誉めて誉めて~とロゼッタを見つめた

しかしロゼッタこと、生徒ちゃんは、あの音でビビってしまったため口と体も震える一方だった

イデア「ん?」

そんなロゼッタに気づいたイデアは顔を覗いた

イデア「って、拙者、なに数時間前に会った子とイチャイチャしてるでござるか!?」

距離の近さに気づいたイデアは離れようともがいた

けれどロゼッタは引っ付く
 
ロゼッタ「イ…デアさ」

そんな呟きに、ざわっ、とイデアの胸が揺れ動く

イデア「まって…いや、まさか…」

イデアはそっと…そっと…ロゼッタを抱きしめた

イデア「このフィット感…この香り…う、嘘嘘嘘!?マジで!?」

イデアはギョエっ!?と驚く。抱きしめたときの感覚…
そしてクンクン、とロゼッタの髪の匂いをかけば、尚更わかった

アズール「どうしたんですか?イデアさん?」

イデア「いや、何もない」

しかしイデアは、スンッ、と真顔に戻った。問い掛けたアズールはきょとんとなる。

イデアはロゼッタを肩に背負った。ロゼッタはおとなしくなる

そんなロゼッタをマレウスがまじまじと見ていた「やはり、どこか見覚えがあるような…」

イデア「よっし、行きますか」

イデアはマレウスから逃げるように早急に歩き出す

アズール「いや、待ってください!あなたさっきまで疲れ切っていたでしょう!?何でその人を抱えるんですか!?」

アズールが青ざめた顔で突っ込んだ

イデアは「人ー?そんなもの抱えてませんがー?」となぜか誤魔化す

アズール「いや、誤魔化しきれませんよ」

イデア「っていうか、今はそれどころじゃないでしょ。はやいとこ行きましょうよ」

イデアの急かしに、アズールが「まあ、そうですけど…でも…」と物言いたそうだった

アズールが先に進み、そのあとにマレウス、イデア&ロゼッタと続く

ロゼッタはイデアの服を引っ張りながら「イデアさん…私のこと」
 
イデア「いや、面白そうだからロゼッタ氏のこと2人にはバラさないよ?」
 
イデアの言葉にガーン、となるロゼッタ

イデア「だってこの3人のなかでロゼッタ氏の正体を知っているのは拙者だけっしょ?こんなの優越感しかないっすわ〜」

イデアは普段学園ではできないことに喜んでいた

イデアに担がられ中のロゼッタ

マレウスたちは鐘楼の最上階へと向かう

すると、最上階にいたはずのガーゴイルが階段のすぐ隣にいた
「どうしてここに置いてあるんだ?」とマレウスが驚く

アズール「似ているだけで、最上階にあったものとは別のガーゴイルなのでは?」

アズールは情理を尽くしてそう判断した。しかし、マレウスは言い切る。

マレウス「左右で10度ほど角度が異なる翼と、頭部に刻まれた趣を感じる1センチほどの傷。僕が見間違えるはずがない」

アズール「見間違えてほしかった些細な特徴ばかりで、気持ち悪いですね…」

ガーゴイルに対するマレウスの熱意に、アズールが呆気にとられている

イデアが「オタクって客観的に見るとこんな感じなんですな…」と言ってしまうほど、今のマレウスはガーゴイルに夢中だった

ロゼッタもガーゴイルを見たくて、降ろしてほしいとイデアに合図を送る

イデア「いやいや、そんなのいいじゃないですか」

イデアはロゼッタを降ろす気はなかった…とそんなことをしていると

「おいらたちのことをそんなふうに思ってくれているなんて…嬉しいったらないね!」

どこからか陽気な声が聞こえる。

誰の声なのか…

すると「んんーっ!」と声を出して、動いてくる石像が…

「なっ…」

「ガッ、ガ…ッ!」

「ガ、ガーゴイルが…」

「「「喋った!!??」」」

全員びっくり仰天

あの石像のガーゴイルが動くなんて

ガーゴイルは落ち着いた声で話す

「そりゃ喋るさ。おいらは魔法士養成学校である、ノーブルベルカレッジのガーゴイルなんだから」

ナイトレイブンカレッジの肖像画が喋るように、ノーブルベルカレッジのガーゴイルもどうやら喋るようだ

このガーゴイルはずっと学園に見守っているらしい

アズール「やっぱり最初にガーゴイルを見たときに、動いたと思ったのは勘違いじゃなかった…」

アズールは嬉しそうに「ほらね!」とマレウスたちを見る

そういえば最初、ここへ来た際にアズールは動いたような…と皆んなにいじられていたら

アズール「2人とも、僕の言った通りだったでしょう!」

アズールの喜びにイデアのテンションが低くなる「ソウダネー」

けれど、マレウスは違う…動かない

「おや?君のツノ、なんだか親しみがわいちゃうな。おいらたち、良い友だちになれそうじゃないかい?」

「…」

マレウスはまだ動かないまま

それを気にしていないガーゴイルはマレウスの体をツンツンした

「なあなあ、おいらと友だちになろう!」

そんなガーゴイルの行動にアズールたちが冷や汗をかく

が、ロゼッタはそんなマレウスを見て、クスリと笑い、ほっこりしていた
 
ロゼッタ「(よかったですね、マレウスさん)」

イデア「ほっこりする要素あったかロゼッタ氏!?」

「おーい。聞いてる?」

マレウスはしばらくして「ハッ!!!」と目を覚ます

マレウス「すまない…感動のあまり意識が飛んでいた」

マレウスの珍行動に「喜びすぎて失神していたってこと!?」とイデアはめちゃくちゃ驚く

「予想を超える喜びようだった!」とアズールもビックリ

マレウス「初めまして、でよいか?ガーゴイルよ。僕の名前はマレウス・ドラコニアだ。茨の谷を治める一族の者であり、今回はナイトレイブンカレッジの生徒としてここに来ている」

言葉をかろやかに流す舌。忘れてはならない笑顔。マレウスの自己紹介は完璧だった。交流会では満点

マレウス「お前とこうして話せたこと、大変嬉しく思っている。よければ握手を…」

「おお、マレウスか。よろしくな!」

マレウスは「うっ!!!」と胸を押さえた

「あれは“ちょっと待って無理…”と喜びのあまりもだえ苦しむオタクの図ですな」とイデアに解説されている

名前呼びされたことが嬉しかったようだ

「ナイトレイブンカレッジってことは、うちの生徒じゃないのか。どうして君たちはこんなところに?」

ガーゴイルの質問にマレウスの声が詰まった

マレウス「実は…」

「そ、そんなことがあったなんて…」

マレウスから話に聞いたガーゴイルは驚いていた。どうやら、紅蓮の花が街を覆っていることは知っていたよう

ガーゴイルにも魔力が備わっているからだ。だからこうして話すことができる

「ロロ…お前さん、なんだってそんなことしたんだ…」

ガーゴイルはロロのことを知っていた

ロロが毎日決まった時間に鐘を鳴らしていたこと

毎日鐘を綺麗に拭いていたこと

雨が降った際にはガーゴイルたちの苔をむしり、綺麗にしたこと…

「あれが嘘だったとは思えない」

ロゼッタは考え込んだ

丁寧に街のことを紹介してくれたロロ…彼が悪い人だとは思わなかった

マレウス「どのような理由があったとしても、奴のやったことが許されるわけではない」

マレウスは堂々と言った

リドルたちと約束したことは変わらない

鐘を鳴らす…その目的は変わらなかった

次に、ガーゴイルは鐘の下までの道を教えてくれると言った

かつて、正しき判事と優しき鐘撞き男が勉強をしたと言われるところを…

「さあ、秘密の扉はこっちに…ん?」

しかし、行手を阻む、紅蓮の花が現れる

ガーゴイルは叫んだ

「ま、魔力を吸われたら、おいらは動けないただのガーゴイルになっちまう…!お願いだ!助けてくれ!」

ガーゴイルにそうお願いされたマレウスはいいところを見せようと膨大な魔力を…

しかし、アズールとイデアに止められる

アズール「魔力で鐘楼を壊される前に、早く…そして穏便に紅蓮の花を追い払いましょう!」

アズールはマジカルペンを構えた。ロゼッタもそれに続く

「仕方ないですなー」とイデアに降ろしてもらえた







「4人ともすごい…あの花をあっという間にやっつけちまった!」

マレウスはガーゴイルに褒められて嬉しそうだった

ロゼッタは照れ臭そうに笑っているところをイデアがまた抱き上げる。

ロゼッタ「イデアさん、私のことを抱っこしなくても大丈じょうb「いや、拙者のやる気を上げる為なんで」

「さあ、最上階に続く扉はここにあるよ。天井を見てごらん」

ガーゴイルに言われた通り、マレウスたちは天井を見上げた。トラップドアではなく、板がかすかにズレている秘密の入り口…

「この隠し戸を開けたら、木箱を使って登ればいい。そしたらすぐに、救いの鐘のある最上階だよ」

ガーゴイルは「さあ、木箱を…」とマレウスたちに木箱を渡した

ーー次の瞬間、木箱の後ろに隠れていた紅蓮の花が暴走した

「ふ、ふらふらする…魔力を吸い取られる…!」

ロゼッタはそれに気づき、イデアから降りようとジタバタする

しかし、イデアはロゼッタを抱きしめ、取り押さえた

イデア「駄目だよ…ロゼッタ氏。今度こそ、君を守るから。」

イデアは必死な顔でそう言った

ガーゴイルの蝕む紅蓮の花

ガーゴイルは見るも無惨に花に食われていった

ーー「どうか鐘を鳴らしてくれ」

それがガーゴイルが残した最後の言葉だったんだった

ロゼッタには目で「ロロを頼んだ」と託す「お嬢さん」と呼んで…

ロゼッタは大きく目を見開いた。そして悲しさを胸に閉じ込めた

ロゼッタ「(必ず、鐘を鳴らして見せます。どうか…待っていてください)」

マレウス「ガーゴイル、諦めるな。気を確かに持て!」

マレウスは必死に紅蓮の花がむしった

しかし、間に合わなかった

ガーゴイルは静かにそこに眠ってしまう

マレウス「ガーゴイル!!!」

マレウスは叫んだ。そして膝を崩す

マレウス「そんな…僕は“また”守れなかったのか…!」

またーーそれは“彼女”のことだった

彼女もまたマレウスを守って朽ちていった1人…

マレウス「…少しだけ待っていてくれ、ガーゴイルよ。すぐに救いの鐘を鳴らして、お前も、他の仲間のガーゴイルも、ロゼッタも全て元に戻してやる」

マレウスは天井を仰いだ。そして、マレウスは最後に彼女の面影を思い出していた

ロロに…紅蓮の花に囚われるロゼッタを…

マレウス「そのためにも…僕はロロ・フランムを、必ずこの手で討つ!」

マレウスの決意はもう揺るがなくなった

ガーゴイルとの短い夢のような時間と…1人の女性の手によって


その女性は今もなお、マレウスを守っていた

ロゼッタは小さな拳を握り、自分のことを助けようとしてくれていたマレウスに、“ありがとう、マレウスさん…”とそっと呟いた
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