王子様と秘密のお嬢様 番外編
寝苦しい、寝苦しい夜だった。
今までに見たことのないほどの悪い夢、自分を残して世界が歪んでいく感覚。
羽毛布団はいつもよりもずっと重く体にのしかかって、息苦しくて。
早く、一秒でも早く夜が明けほしい、とぼうっと祈ることしかできない。
(はやく、起きないと……)
気持ちが、悪い。
ひどい乗り物酔いを患ったときみたいに目が回った。
風邪でも引いたかしら…そんなことを思っていると
「ロゼッターーー!オレ様腹が減ったんだゾーーーーっ!」
ドアの向こう
グリム君の元気な声とさらに元気な腹の虫の声が聞こえた。
ああ、そうだ。今日はオンボロ寮で寝泊まりしているんだった。
「朝からそんなに大きな声出さないでよ。ロゼッタさんに迷惑でしょ。」
ドンドン扉を叩くグリム君のため扉を開けようと、重たい体を動かす。
(…え………?)
瞼を上げても目の前が明るくならない。いくら手をばたつかせても重い布団は体の上から退いてくれない。
「ロゼッタ?どうしたんだゾー?」
「もしかして、発作が起きたんじゃ!?」
「ロゼッタ!起っきるんだゾーーーッ!」
グリム君の声とともに、ドアが思い切り開く
「ふ……ふな"ぁっ!?」
「え!?」
「おはよう…………って、えっ!?グリム君………!?」
グリム君がいるであろう方向に目を向けた。
そこに、いたのは。
「グリム君……どうしてそんなに大きくなってるの?」
いつもの数十倍は大きくなったグリム君だった。
「違うんだゾ!おかしいのはロゼッタの方なんだゾ……!」
グリム君が微妙にプルプルと震えるでっかい肉球をゆっくり、慎重に近づけてくる。
ぐりんと大きく、きらきら光るブルーの瞳が困惑と心配をいっぱいに浮かべてこっちを覗いてきた。
「ロゼッタ!……なんでそんなにちっちゃくなっちまってるんだゾ……!?」
「…………ええええぇぇぇっ!?」
「ユウっ!ちょっと、速い……速すぎるわ!!」
「安静にしててください!今、学園長のところまで連れていきますから!!」
あの後、ベッドから慎重に持ち上げられた私は、ユウの手に乗せられて、猛スピードで校舎を駆け抜けていた。
こんなに早く走って、誰かとぶつからないだろうか…と思ったとき
「ぶな"っ"」
「うわっ!」
「あ"ぁ……?草食動物と毛玉じゃねえか、この俺にぶつかってくるたぁいい度胸だな?」
ああ、やっぱり
「ロゼッタ?」
そして、ユウの手に乗っている私を見つけた
「レオナ!ロゼッタを元に戻す方法知らねえか!?」
グリム君の喚き声を華麗にスルーするレオナさんは私をユウの手から引きはがし、自分の手の中に乗せて、私の頭を撫でる。
「ふは、随分と食いでのなさそうな身体になっちまったなァロゼッタ?」
「仔猫じゃないですよ・・・」
「ほれ」
「くすぐったいよ!・・・ゴロゴロ」
首のあたりを優しくなでてくれるレオナさん。気持ちよくなって、喉がゴロゴロとなった。
「レオナ先輩、何か方法を……」
「はあ…ロゼッタ、昨日の行動全部吐け」
「えっ!レオナ、助けてくれるんだゾ!?」
「俺だって番がいつまでもこんな姿じゃつまんねえんだよ。で、何があった?」
私の目をまっすぐ見ながら問いかけてくるレオナさんに、昨日会ったことを話した。
「えぇ、っと……昨日は…」
いつも通りに朝起きて、ユウたちと朝食を取って、一・二時限目の魔法史の授業をお手伝いした。
三時限目の錬金術でぎりぎりまで課題に粘った生徒がいたから、四時限目の体力育成のお手伝いに遅刻して、運動場を五周。
その後、レオナさんと一緒に昼食をとった。
午後の魔法薬学で言い表せないような色の薬を飲まされたんだった‥‥
「確かデュース君とグリム君が作った『疲れを取る』薬だって・・・私にいつもお世話になってるからあげるといわれたの。」
「あれ……何回か爆発してましたけど」
「そうだったの!?」
ユウから初めてその情報を聞かされた。
「あー、大方あの馬鹿どもが変な失敗やらかしたんだな。むしろそれしかあり得ねえだろうが」
「どうすればいいのかな・・・」
「おい毛玉、もともと作るはずだった薬の効果は?」
「んと……確か三時間くらいって聞いたんだゾ!」
「だったら明日の昼ぐらいには効果も切れんだろ、ほっとけ。……よし、じゃあ行くぞ」
「きゃっ」
髪筋をなぞるように動いていた指先が、首の方に移る。
楽しげに揺らぐ切れ長なふたつのエメラルドに射すくめられ、背筋にぞわっと鳥肌がたった。
ぽいっ、そんな効果音が付きそうなほど軽々と体が宙を舞う。次に感じた地面は、レオナさんの、
「肩の……上!?」
「怖けりゃ俺の髪にでも捕まっとけ、立つぞ」
「レーオーナー!ロゼッタに何するんだゾ!!まさか喰う気じゃねえだろうな!?」
「きゃあああああっ!お、降ろして!レオナさん!」
「はっ。おとなしくしてろ。」
ぎゃいぎゃいと騒いで足元に絡みつくグリム君を振り払い、レオナさんはうっとうしげに頭を振る。
ふわふわの髪を必死に掴んで縋る私を振り落とさぬように、なんて気遣いが動きに滲んでいるあたり優しいひとなのだ、と。
「元に戻るまで俺が面倒を見てやるっつってんだ。お前ら、こいつの容体が急変したら面倒見切れんのか?」
「んぐぐ…それは……」
「無理‥ですね‥」
「心配しなくても取って食ったりしねえよ。おら、もう行け。授業始まんぞ」
「ふなっ!?またクルーウェルの野郎に怒られちまうんだゾ!じゃあな!ロゼッタ!」
「クルーウェル先生にロゼッタさんの状況をお伝えしておきますね!」
「えぇ……」
とんでもない勢いで踵を返し、校舎の方にすっ飛んでいくグリム君とユウの背中を見送る。
クク、と喉を鳴らして笑うレオナさんの声が近い。しかも、元の身長でいた時よりもずっと視線が高くて、落ち着かないというか。三つ編みの先にしがみつく腕に一層の力を込めた。
「……さあて、仔猫ちゃん?」
「その呼び方、や!ところで、レオナさん授業は……?」
「(や!って可愛すぎんだろ…)」
すたすたとレオナさんが歩きだす。といってもその歩みはさほど早いものではなく、落っことさないよう先輩なりに配慮してくれていることを実感して頬が緩んだ。
最近は授業にも積極的に参加してくれているみたいで嬉しいな。
「うええっ!?レオナさん、なんスかその肩の……肩の、ちっちゃいロゼッタちゃんはあ!?」
「ん……ラギーか。ちっこくなっても可愛いもんだろ?俺の番は」
「は!?ちょっ、ロゼッタちゃん!説明してください!」
バタン!
騒々しい音とともに息を切らしたラギー君が教室に飛び込んでくる。
私とレオナさんの姿が見えないと探してくれていたらしい。
「探させちゃってごめんなさいね」
「いやそんな姿になった君が何言ってんスか!しかもレオナさんに拾われたって……いつ喰われたっておかしくないっスよ、こう…パクっと?」
指先でひょいとつまみ上げてぱくり、と口に運ぶジェスチャー。
「レオナさんはそんなことしないわよ。」
「ったりめえだろ、番に対してそんなマネしねぇよ。おらラギー、テメエも授業遅れたくなきゃとっとと失せとけ」
「・・・なかなか元の姿に戻りませんね」
「お前、薬が効きにくい体質でもあんのか?」
「そんなことないと思いますけど…」
結局、私は元の姿に戻ることなく、1日を過ごした。
「元に戻ったら、クロウリーかクルーウェルに見てもらえ」
「わかった」
サバナクロー寮寮長室、そのベッドサイドのテーブルの上。
同じベッドを使って寝ている間にレオナさんが踏みつぶしてしまわないように、とのことで何枚も積み上げられたハンカチやレオナさんの洋服の上に私はいる。
「…早く寝ろ」
「ふふ、はーい」
つっけんどんで、ぶっきらぼう。急造りの布団にくるまる私の方に背を向けたまま、レオナさんはふわりとしっぽを揺らす。
マジカルペンを一振り、ゆっくりと部屋の電気が消えていく。
そのあと、時間がたたないうちに、サイドテーブルの上からも落ち着いた寝息が聞こえてきた。
暗闇の中、レオナさんのどこかスパイシーな香りが染みついたなめらかな布地に顔をうずめていると、どうしようもなく愛しさがこみあげてくる。
粗野で乱暴なように見えて、実は誰よりも繊細な心遣いができるレオナさんが。
「すき、……れおな・・さ……」
一度つぶやいてしまえばもう止まらない。
疲れているだろうレオナさんを起こすわけにはいかない、そう分かっているのに。
昼、明るい間は意識もしていなかった感情が堰を切ったように口からまろびでていく。
彼の近くにいられるのなら、このままずっと小さい姿でいたいと思ってしまった。
彼らしい不器用な優しさを知っているのは私だけでいいと思ってしまった。
「好き、どうしようもないほど……好きで好きで、たまらないのっ…」
血を吐くような思いで、なかなか口に出せない恋情を囁いた、瞬間。
ふわっ、と頬に何かが触れた。
(レオナさんの……しっぽ……?)
強情にも背を向けたままのレオナさんの表情はこちらからは窺い知れない。
でも、慈しむように私の顔を撫でさするしっぽの動きはどこまでも柔らかくて。
(あたたかい……)
いつのまにか、私の意識は夢の中へ吸い込まれていった。
(ッッッぶねぇ………危うくマジで喰っちまうところだった…………)
その夜、かのレオナ・キングスカラーが頭を抱えて寝付けぬ夜を悶々と過ごしたことをロゼッタは知る由もない。
今までに見たことのないほどの悪い夢、自分を残して世界が歪んでいく感覚。
羽毛布団はいつもよりもずっと重く体にのしかかって、息苦しくて。
早く、一秒でも早く夜が明けほしい、とぼうっと祈ることしかできない。
(はやく、起きないと……)
気持ちが、悪い。
ひどい乗り物酔いを患ったときみたいに目が回った。
風邪でも引いたかしら…そんなことを思っていると
「ロゼッターーー!オレ様腹が減ったんだゾーーーーっ!」
ドアの向こう
グリム君の元気な声とさらに元気な腹の虫の声が聞こえた。
ああ、そうだ。今日はオンボロ寮で寝泊まりしているんだった。
「朝からそんなに大きな声出さないでよ。ロゼッタさんに迷惑でしょ。」
ドンドン扉を叩くグリム君のため扉を開けようと、重たい体を動かす。
(…え………?)
瞼を上げても目の前が明るくならない。いくら手をばたつかせても重い布団は体の上から退いてくれない。
「ロゼッタ?どうしたんだゾー?」
「もしかして、発作が起きたんじゃ!?」
「ロゼッタ!起っきるんだゾーーーッ!」
グリム君の声とともに、ドアが思い切り開く
「ふ……ふな"ぁっ!?」
「え!?」
「おはよう…………って、えっ!?グリム君………!?」
グリム君がいるであろう方向に目を向けた。
そこに、いたのは。
「グリム君……どうしてそんなに大きくなってるの?」
いつもの数十倍は大きくなったグリム君だった。
「違うんだゾ!おかしいのはロゼッタの方なんだゾ……!」
グリム君が微妙にプルプルと震えるでっかい肉球をゆっくり、慎重に近づけてくる。
ぐりんと大きく、きらきら光るブルーの瞳が困惑と心配をいっぱいに浮かべてこっちを覗いてきた。
「ロゼッタ!……なんでそんなにちっちゃくなっちまってるんだゾ……!?」
「…………ええええぇぇぇっ!?」
「ユウっ!ちょっと、速い……速すぎるわ!!」
「安静にしててください!今、学園長のところまで連れていきますから!!」
あの後、ベッドから慎重に持ち上げられた私は、ユウの手に乗せられて、猛スピードで校舎を駆け抜けていた。
こんなに早く走って、誰かとぶつからないだろうか…と思ったとき
「ぶな"っ"」
「うわっ!」
「あ"ぁ……?草食動物と毛玉じゃねえか、この俺にぶつかってくるたぁいい度胸だな?」
ああ、やっぱり
「ロゼッタ?」
そして、ユウの手に乗っている私を見つけた
「レオナ!ロゼッタを元に戻す方法知らねえか!?」
グリム君の喚き声を華麗にスルーするレオナさんは私をユウの手から引きはがし、自分の手の中に乗せて、私の頭を撫でる。
「ふは、随分と食いでのなさそうな身体になっちまったなァロゼッタ?」
「仔猫じゃないですよ・・・」
「ほれ」
「くすぐったいよ!・・・ゴロゴロ」
首のあたりを優しくなでてくれるレオナさん。気持ちよくなって、喉がゴロゴロとなった。
「レオナ先輩、何か方法を……」
「はあ…ロゼッタ、昨日の行動全部吐け」
「えっ!レオナ、助けてくれるんだゾ!?」
「俺だって番がいつまでもこんな姿じゃつまんねえんだよ。で、何があった?」
私の目をまっすぐ見ながら問いかけてくるレオナさんに、昨日会ったことを話した。
「えぇ、っと……昨日は…」
いつも通りに朝起きて、ユウたちと朝食を取って、一・二時限目の魔法史の授業をお手伝いした。
三時限目の錬金術でぎりぎりまで課題に粘った生徒がいたから、四時限目の体力育成のお手伝いに遅刻して、運動場を五周。
その後、レオナさんと一緒に昼食をとった。
午後の魔法薬学で言い表せないような色の薬を飲まされたんだった‥‥
「確かデュース君とグリム君が作った『疲れを取る』薬だって・・・私にいつもお世話になってるからあげるといわれたの。」
「あれ……何回か爆発してましたけど」
「そうだったの!?」
ユウから初めてその情報を聞かされた。
「あー、大方あの馬鹿どもが変な失敗やらかしたんだな。むしろそれしかあり得ねえだろうが」
「どうすればいいのかな・・・」
「おい毛玉、もともと作るはずだった薬の効果は?」
「んと……確か三時間くらいって聞いたんだゾ!」
「だったら明日の昼ぐらいには効果も切れんだろ、ほっとけ。……よし、じゃあ行くぞ」
「きゃっ」
髪筋をなぞるように動いていた指先が、首の方に移る。
楽しげに揺らぐ切れ長なふたつのエメラルドに射すくめられ、背筋にぞわっと鳥肌がたった。
ぽいっ、そんな効果音が付きそうなほど軽々と体が宙を舞う。次に感じた地面は、レオナさんの、
「肩の……上!?」
「怖けりゃ俺の髪にでも捕まっとけ、立つぞ」
「レーオーナー!ロゼッタに何するんだゾ!!まさか喰う気じゃねえだろうな!?」
「きゃあああああっ!お、降ろして!レオナさん!」
「はっ。おとなしくしてろ。」
ぎゃいぎゃいと騒いで足元に絡みつくグリム君を振り払い、レオナさんはうっとうしげに頭を振る。
ふわふわの髪を必死に掴んで縋る私を振り落とさぬように、なんて気遣いが動きに滲んでいるあたり優しいひとなのだ、と。
「元に戻るまで俺が面倒を見てやるっつってんだ。お前ら、こいつの容体が急変したら面倒見切れんのか?」
「んぐぐ…それは……」
「無理‥ですね‥」
「心配しなくても取って食ったりしねえよ。おら、もう行け。授業始まんぞ」
「ふなっ!?またクルーウェルの野郎に怒られちまうんだゾ!じゃあな!ロゼッタ!」
「クルーウェル先生にロゼッタさんの状況をお伝えしておきますね!」
「えぇ……」
とんでもない勢いで踵を返し、校舎の方にすっ飛んでいくグリム君とユウの背中を見送る。
クク、と喉を鳴らして笑うレオナさんの声が近い。しかも、元の身長でいた時よりもずっと視線が高くて、落ち着かないというか。三つ編みの先にしがみつく腕に一層の力を込めた。
「……さあて、仔猫ちゃん?」
「その呼び方、や!ところで、レオナさん授業は……?」
「(や!って可愛すぎんだろ…)」
すたすたとレオナさんが歩きだす。といってもその歩みはさほど早いものではなく、落っことさないよう先輩なりに配慮してくれていることを実感して頬が緩んだ。
最近は授業にも積極的に参加してくれているみたいで嬉しいな。
「うええっ!?レオナさん、なんスかその肩の……肩の、ちっちゃいロゼッタちゃんはあ!?」
「ん……ラギーか。ちっこくなっても可愛いもんだろ?俺の番は」
「は!?ちょっ、ロゼッタちゃん!説明してください!」
バタン!
騒々しい音とともに息を切らしたラギー君が教室に飛び込んでくる。
私とレオナさんの姿が見えないと探してくれていたらしい。
「探させちゃってごめんなさいね」
「いやそんな姿になった君が何言ってんスか!しかもレオナさんに拾われたって……いつ喰われたっておかしくないっスよ、こう…パクっと?」
指先でひょいとつまみ上げてぱくり、と口に運ぶジェスチャー。
「レオナさんはそんなことしないわよ。」
「ったりめえだろ、番に対してそんなマネしねぇよ。おらラギー、テメエも授業遅れたくなきゃとっとと失せとけ」
「・・・なかなか元の姿に戻りませんね」
「お前、薬が効きにくい体質でもあんのか?」
「そんなことないと思いますけど…」
結局、私は元の姿に戻ることなく、1日を過ごした。
「元に戻ったら、クロウリーかクルーウェルに見てもらえ」
「わかった」
サバナクロー寮寮長室、そのベッドサイドのテーブルの上。
同じベッドを使って寝ている間にレオナさんが踏みつぶしてしまわないように、とのことで何枚も積み上げられたハンカチやレオナさんの洋服の上に私はいる。
「…早く寝ろ」
「ふふ、はーい」
つっけんどんで、ぶっきらぼう。急造りの布団にくるまる私の方に背を向けたまま、レオナさんはふわりとしっぽを揺らす。
マジカルペンを一振り、ゆっくりと部屋の電気が消えていく。
そのあと、時間がたたないうちに、サイドテーブルの上からも落ち着いた寝息が聞こえてきた。
暗闇の中、レオナさんのどこかスパイシーな香りが染みついたなめらかな布地に顔をうずめていると、どうしようもなく愛しさがこみあげてくる。
粗野で乱暴なように見えて、実は誰よりも繊細な心遣いができるレオナさんが。
「すき、……れおな・・さ……」
一度つぶやいてしまえばもう止まらない。
疲れているだろうレオナさんを起こすわけにはいかない、そう分かっているのに。
昼、明るい間は意識もしていなかった感情が堰を切ったように口からまろびでていく。
彼の近くにいられるのなら、このままずっと小さい姿でいたいと思ってしまった。
彼らしい不器用な優しさを知っているのは私だけでいいと思ってしまった。
「好き、どうしようもないほど……好きで好きで、たまらないのっ…」
血を吐くような思いで、なかなか口に出せない恋情を囁いた、瞬間。
ふわっ、と頬に何かが触れた。
(レオナさんの……しっぽ……?)
強情にも背を向けたままのレオナさんの表情はこちらからは窺い知れない。
でも、慈しむように私の顔を撫でさするしっぽの動きはどこまでも柔らかくて。
(あたたかい……)
いつのまにか、私の意識は夢の中へ吸い込まれていった。
(ッッッぶねぇ………危うくマジで喰っちまうところだった…………)
その夜、かのレオナ・キングスカラーが頭を抱えて寝付けぬ夜を悶々と過ごしたことをロゼッタは知る由もない。