王子様と秘密のお嬢様 番外編
―――あの日から数週間が経過した。
あの日レオナさんが買ってくれたネックレスは、今日も私の首元に着けられている。お風呂と寝るとき以外は、肌身離さず着けている。
今日も光に透かして美しい青色を堪能してから、寮母としても仕事をこなす。
…そして、午前中の作業が終わった
大きな問題も無く作業が終わったことに安堵のため息を吐きながら使った道具を片付け、レオナさんのもとへ向かった。
お昼ご飯のサンドイッチを購入して植物園に向かうと、いつものお気に入りの場所でレオナさんが寝転がっていた。隣に腰を下ろして声をかけると、既に起きていたらしいレオナさんも身体を起こす。ん、と手を伸ばしてきたのでレオナさんの分のサンドイッチを渡す。それに大きく口を開けてかぶりつくのを見てから、私も食べ始める。今日も購買のサンドイッチは美味しい。
ちびちびちと食べていると、レオナさんは私の事をジッと見つめていることに気付いた。どうしたのだろうと首を傾げながら見つめ返すと、何故か顔を少し顔をしかめられた…。
「…えっと、どうかしたの…??」
「……お前、最近何か変わったことは無いか??体調とか」
「体調??特に変わったことは無いし、今日も私は元気だよ??」
「…チッ、自覚無しかよ…」
「??????」
ぼそりとレオナさんが何か言った気がするけど、よく聞こえなかった。何と言ったのか聞いてみたけど、はぐらかされてしまう。っていうか、どうして体調の事なんか聞いたんだろう??見ての通り、いつもと変わらないはずなんだけど……??
理由が分からずに首を傾げていると、再び声をかけられた。
「どうしたの??」
「前に一緒に行ったパワーストーンの店、明日また行かないか??」
「え、あのお店?・・・・行きたいけど、良いの?」
「構わねえ。……気になることもあるしな」
「??」
「何でもねえ。とにかく、明日ちゃんと予定空けておけよ。」
「うん!!」
勢いよく何度も頷くと、それに対してふはっ、と笑われ、「良い子だ」と頬にキスされた…。真っ赤な顔になった私を更に笑い、食事が終わったのとほぼ同時に抱き枕にされた…。暖かな陽気とレオナさんの体温が心地良くて、私は珍しくあっという間に夢の世界に旅立ってしまった…。
……だから、寝息を立てる私の事を、レオナさんが眉間にしわを寄せて見つめ、慈しむ様に頬を撫でていたことなどこれっぽっちも知らなかった……。
翌日。
私とレオナさんは昨日約束した通り、あのパワーストーンのお店にやって来ていた。
前と同じようにレオナさんは壁に寄りかかって私の様子を見ているらしい。その眼差しが少しだけ険しいような気がしたけど、あまり気にしないでパワーストーンたちを見て回ることにした。
今日もこのお店のパワーストーンたちは綺麗で、キラキラとしている。透明なのも、青色も緑色も一つとして同じ輝きは無い。何度見ても楽しいな、と思いながら店内を歩いていると、自然とブレスレットのコーナーに来ていた。また何か着けてみようかなと思って見回していると………一つのブレスレットに視線がくぎ付けになった。
引き寄せられるようにそのブレスレットを手に取る。何故か、目が離せなくなった。他にも素敵な、それこそ一番好きなラピスラズリのブレスレットだってあったのに、そのパワーストーンから目が離せない。
こんなこと初めてで、戸惑っていると、あの時と同じように褐色の腕がそのブレスレットを持っていってしまう。レオナさんなら、私がこのブレスレットから目が離せない理由が分かるのではないだろうかと思って、口を開きかけた時だった。
「フローライト…。やっぱりな…」
「え…??」
「買ってくる。少し待ってろ」
妙に真剣な表情でそう言うと、レオナさんは困惑する私を置いて、フローライトのブレスレットと、細かいクリスタルがたくさん入ったものを購入する。少しだけお姉さんと会話をして、何か説明書のようなものも受け取って、私の所に戻って来る。そして購入したブレスレットを左手首に装着させ、そのまま手を取ってお店の出口へ。ますます困惑しながら何となく振り向いた先で、お姉さんが少し心配そうにしながらも「またおいでください」と笑っていたのが印象的だった。
「あ、あのレオナさん…??」
「しばらくそのブレスレットずっと着けてろ。風呂以外は、寝ている時でも必ずだ」
「え…??ど、どうして…??」
「……本当に気付いてないのかよ…」
足を止めて舌打ちをしたレオナさんは、私の方を振り向く。フローライトのブレスレットをした手をそっと持ち上げて、口を開く。
「フローライトは、イライラした気持ちやネガティブな感情を癒す効果があると言われている。お前、このフローライトから目が離せなくなっていなかったか??大好きっつーラピスラズリが気にならないくらい」
「確かに…そうだったかも」
「それはな、呼ばれたんだよ」
「え」
「無意識に、自覚すらせず溜め込んでいた負の感情に反応して、このフローライトがロゼッタを呼んだんだよ」
目を見開く。
フローライトのヒーリング効果は知っていた。だけど、自分にはそれほど関係の無い効果だと思っていた。負の感情をそんなに溜め込んでいるとは思っていなかったから。
思ったことをそのままレオナさんに伝えたら、そう思っていたことが一番まずいのだと言う。自覚をしないまま溜めに溜め込んだ負の感情が何かをきっかけに爆発したら??結果など火を見るよりも明らかだ。
「昨日のロゼッタは、普段より顔色も悪いし表情もあまり動かねえし、飯を食うのは遅ぇし、何より俺の抱き枕にされて数分も経たないうちに眠っただろう。いつもならもっと喋って、なかなか眠ろうとしないくせにな。恐らく、爆発する寸前まで行ってたぞ。あれは時間をかけて溜まっていたもんだ。気付かなかったか?」
「全く…。仕事でちょっと疲れているだけだと思ったから…」
「ちょっとどころじゃねえよ。じゃなきゃ、フローライトがロゼッタを呼ぶわけ無いんだ。気付いていたか??今日好んで見ていたパワーストーンが、全てフローライト関係のものだって」
「え…」
「やっぱり気付いていなかったか…。自分自身がこれっぽちも自覚が無かろうと、無意識のうちに求めていたんだよ、このフローライトをな。そしてその呼びかけに、こいつが応えた」
「……そんなことが、あるの??」
「さぁな。だが、実際にロゼッタは呼ばれていた。それが事実だ」
レオナさんの口から紡がれる事実に、私はただただ驚くしか出来なかった。確かに、最近ちょっと疲れやすいなー、なかなか眠れないなーなんて感じることはあった。だけど、少しすれば大丈夫だろうって思ってた。気にするほどの事でもないと…。
だから、レオナさんに昨日の私の様子を知らされて本当に驚いた。自分では本当に自覚が無かったのだ。爆発する寸前まで、負の感情が溜まっていただなんて…。レオナさんが険しい表情をしていたのは、私の無自覚の体調不良に気が付いたから…??
「…あ、だからレオナさん、昨日突然あのお店にまた行こうって言ったの??」
「…まぁな。ロゼッタの心身の状態を確認するためと、後は単純に喜ぶだろうと思ってな。結果は悪い意味で予想通りだったがな…」
「う…ご、ごめんなさい……」
「分かったら俺が言った通りこれは肌身離さず着けていろ。それでもしフローライトがくすんだり黒ずんだりしたら、このクリスタルの上に乗せて月光浴をさせて休ませろ。そしてまた着けろ」
「もしかして、それを店員のお姉さんに聞いてたの?」
「ああ。ああいった店をやっているからだろうな、お前がラピスラズリじゃなくフローライトばかり見ていることを心配していた」
レオナさんだけでなく、店員のお姉さんにまで心配をかけてしまうなんて……。自覚無いって怖いな…。
申し訳なさから俯いていると、頭上でふっと笑う気配がした。それから取られていた手をくいと引かれ、私はレオナさんの胸にぽすっとダイブする。そのままギュッと抱き締められて、ボッと顔が熱くなる。
「さっさとフローライトにロゼッタの中の悪いもんなんか食わせちまえ。辛気臭い顔なんかこれっぽっちも似合わねえんだよ」
「あ、う。ど、努力するね…」
「…で、負の感情が綺麗さっぱりフローライトに食われたら―――」
レオナさんはそこで一度言葉を切ると、私の頬をその大きな手で包んで自分のほうを向かせる。慈しみであふれたエメラルドの双眼が、ゆっくりと近付いてくる。そして、彼の唇が私のそれに触れる直前で……、
「今度はお前が俺を呼べ。お前を俺で満たしてやる」
ニヤリと笑いながらそう言う彼に、私は恥ずかしくなりながらも頷き、唇を合わせた。彼とのキスを見ていたのは、大好きな彼から贈られたネックレスとブレスレットだけ・・・。
その翌日、言われた通り着けたまま眠って朝を迎えたらフローライトが真っ黒に濁っていました…。それをレオナさんに見せたら絶句され、レオナさんのお部屋でこれでもかという程癒されました
あの日レオナさんが買ってくれたネックレスは、今日も私の首元に着けられている。お風呂と寝るとき以外は、肌身離さず着けている。
今日も光に透かして美しい青色を堪能してから、寮母としても仕事をこなす。
…そして、午前中の作業が終わった
大きな問題も無く作業が終わったことに安堵のため息を吐きながら使った道具を片付け、レオナさんのもとへ向かった。
お昼ご飯のサンドイッチを購入して植物園に向かうと、いつものお気に入りの場所でレオナさんが寝転がっていた。隣に腰を下ろして声をかけると、既に起きていたらしいレオナさんも身体を起こす。ん、と手を伸ばしてきたのでレオナさんの分のサンドイッチを渡す。それに大きく口を開けてかぶりつくのを見てから、私も食べ始める。今日も購買のサンドイッチは美味しい。
ちびちびちと食べていると、レオナさんは私の事をジッと見つめていることに気付いた。どうしたのだろうと首を傾げながら見つめ返すと、何故か顔を少し顔をしかめられた…。
「…えっと、どうかしたの…??」
「……お前、最近何か変わったことは無いか??体調とか」
「体調??特に変わったことは無いし、今日も私は元気だよ??」
「…チッ、自覚無しかよ…」
「??????」
ぼそりとレオナさんが何か言った気がするけど、よく聞こえなかった。何と言ったのか聞いてみたけど、はぐらかされてしまう。っていうか、どうして体調の事なんか聞いたんだろう??見ての通り、いつもと変わらないはずなんだけど……??
理由が分からずに首を傾げていると、再び声をかけられた。
「どうしたの??」
「前に一緒に行ったパワーストーンの店、明日また行かないか??」
「え、あのお店?・・・・行きたいけど、良いの?」
「構わねえ。……気になることもあるしな」
「??」
「何でもねえ。とにかく、明日ちゃんと予定空けておけよ。」
「うん!!」
勢いよく何度も頷くと、それに対してふはっ、と笑われ、「良い子だ」と頬にキスされた…。真っ赤な顔になった私を更に笑い、食事が終わったのとほぼ同時に抱き枕にされた…。暖かな陽気とレオナさんの体温が心地良くて、私は珍しくあっという間に夢の世界に旅立ってしまった…。
……だから、寝息を立てる私の事を、レオナさんが眉間にしわを寄せて見つめ、慈しむ様に頬を撫でていたことなどこれっぽっちも知らなかった……。
翌日。
私とレオナさんは昨日約束した通り、あのパワーストーンのお店にやって来ていた。
前と同じようにレオナさんは壁に寄りかかって私の様子を見ているらしい。その眼差しが少しだけ険しいような気がしたけど、あまり気にしないでパワーストーンたちを見て回ることにした。
今日もこのお店のパワーストーンたちは綺麗で、キラキラとしている。透明なのも、青色も緑色も一つとして同じ輝きは無い。何度見ても楽しいな、と思いながら店内を歩いていると、自然とブレスレットのコーナーに来ていた。また何か着けてみようかなと思って見回していると………一つのブレスレットに視線がくぎ付けになった。
引き寄せられるようにそのブレスレットを手に取る。何故か、目が離せなくなった。他にも素敵な、それこそ一番好きなラピスラズリのブレスレットだってあったのに、そのパワーストーンから目が離せない。
こんなこと初めてで、戸惑っていると、あの時と同じように褐色の腕がそのブレスレットを持っていってしまう。レオナさんなら、私がこのブレスレットから目が離せない理由が分かるのではないだろうかと思って、口を開きかけた時だった。
「フローライト…。やっぱりな…」
「え…??」
「買ってくる。少し待ってろ」
妙に真剣な表情でそう言うと、レオナさんは困惑する私を置いて、フローライトのブレスレットと、細かいクリスタルがたくさん入ったものを購入する。少しだけお姉さんと会話をして、何か説明書のようなものも受け取って、私の所に戻って来る。そして購入したブレスレットを左手首に装着させ、そのまま手を取ってお店の出口へ。ますます困惑しながら何となく振り向いた先で、お姉さんが少し心配そうにしながらも「またおいでください」と笑っていたのが印象的だった。
「あ、あのレオナさん…??」
「しばらくそのブレスレットずっと着けてろ。風呂以外は、寝ている時でも必ずだ」
「え…??ど、どうして…??」
「……本当に気付いてないのかよ…」
足を止めて舌打ちをしたレオナさんは、私の方を振り向く。フローライトのブレスレットをした手をそっと持ち上げて、口を開く。
「フローライトは、イライラした気持ちやネガティブな感情を癒す効果があると言われている。お前、このフローライトから目が離せなくなっていなかったか??大好きっつーラピスラズリが気にならないくらい」
「確かに…そうだったかも」
「それはな、呼ばれたんだよ」
「え」
「無意識に、自覚すらせず溜め込んでいた負の感情に反応して、このフローライトがロゼッタを呼んだんだよ」
目を見開く。
フローライトのヒーリング効果は知っていた。だけど、自分にはそれほど関係の無い効果だと思っていた。負の感情をそんなに溜め込んでいるとは思っていなかったから。
思ったことをそのままレオナさんに伝えたら、そう思っていたことが一番まずいのだと言う。自覚をしないまま溜めに溜め込んだ負の感情が何かをきっかけに爆発したら??結果など火を見るよりも明らかだ。
「昨日のロゼッタは、普段より顔色も悪いし表情もあまり動かねえし、飯を食うのは遅ぇし、何より俺の抱き枕にされて数分も経たないうちに眠っただろう。いつもならもっと喋って、なかなか眠ろうとしないくせにな。恐らく、爆発する寸前まで行ってたぞ。あれは時間をかけて溜まっていたもんだ。気付かなかったか?」
「全く…。仕事でちょっと疲れているだけだと思ったから…」
「ちょっとどころじゃねえよ。じゃなきゃ、フローライトがロゼッタを呼ぶわけ無いんだ。気付いていたか??今日好んで見ていたパワーストーンが、全てフローライト関係のものだって」
「え…」
「やっぱり気付いていなかったか…。自分自身がこれっぽちも自覚が無かろうと、無意識のうちに求めていたんだよ、このフローライトをな。そしてその呼びかけに、こいつが応えた」
「……そんなことが、あるの??」
「さぁな。だが、実際にロゼッタは呼ばれていた。それが事実だ」
レオナさんの口から紡がれる事実に、私はただただ驚くしか出来なかった。確かに、最近ちょっと疲れやすいなー、なかなか眠れないなーなんて感じることはあった。だけど、少しすれば大丈夫だろうって思ってた。気にするほどの事でもないと…。
だから、レオナさんに昨日の私の様子を知らされて本当に驚いた。自分では本当に自覚が無かったのだ。爆発する寸前まで、負の感情が溜まっていただなんて…。レオナさんが険しい表情をしていたのは、私の無自覚の体調不良に気が付いたから…??
「…あ、だからレオナさん、昨日突然あのお店にまた行こうって言ったの??」
「…まぁな。ロゼッタの心身の状態を確認するためと、後は単純に喜ぶだろうと思ってな。結果は悪い意味で予想通りだったがな…」
「う…ご、ごめんなさい……」
「分かったら俺が言った通りこれは肌身離さず着けていろ。それでもしフローライトがくすんだり黒ずんだりしたら、このクリスタルの上に乗せて月光浴をさせて休ませろ。そしてまた着けろ」
「もしかして、それを店員のお姉さんに聞いてたの?」
「ああ。ああいった店をやっているからだろうな、お前がラピスラズリじゃなくフローライトばかり見ていることを心配していた」
レオナさんだけでなく、店員のお姉さんにまで心配をかけてしまうなんて……。自覚無いって怖いな…。
申し訳なさから俯いていると、頭上でふっと笑う気配がした。それから取られていた手をくいと引かれ、私はレオナさんの胸にぽすっとダイブする。そのままギュッと抱き締められて、ボッと顔が熱くなる。
「さっさとフローライトにロゼッタの中の悪いもんなんか食わせちまえ。辛気臭い顔なんかこれっぽっちも似合わねえんだよ」
「あ、う。ど、努力するね…」
「…で、負の感情が綺麗さっぱりフローライトに食われたら―――」
レオナさんはそこで一度言葉を切ると、私の頬をその大きな手で包んで自分のほうを向かせる。慈しみであふれたエメラルドの双眼が、ゆっくりと近付いてくる。そして、彼の唇が私のそれに触れる直前で……、
「今度はお前が俺を呼べ。お前を俺で満たしてやる」
ニヤリと笑いながらそう言う彼に、私は恥ずかしくなりながらも頷き、唇を合わせた。彼とのキスを見ていたのは、大好きな彼から贈られたネックレスとブレスレットだけ・・・。
その翌日、言われた通り着けたまま眠って朝を迎えたらフローライトが真っ黒に濁っていました…。それをレオナさんに見せたら絶句され、レオナさんのお部屋でこれでもかという程癒されました