熱砂の策謀家

ジャミルSIDE
寮生たちをまとめ、船に乗せていたクジャクや黄金のラクダの数を点検していた時、カリムの声が背後から聞こえた。アイツ、言った側から…と思い、振り返る。

そして___血の気が失せた。

カリム「ジャミル!!!!エリーゼが、エリーゼが!!」

監督生「エリーゼさん!!しっかりしてください!!」

ジャミル「っ!?」

しゃがみ込み、手で口を押えるエリーゼ。
だが、その手からは抑えきれない程の出血が砂に零れ落ちている。

それを見て、エースやデュースという男が慌てて駆け寄り、フロイド達も駆け寄っていた。

エース「エリーゼさん!まさか…心臓が!?」

デュース「薬を‼」

監督生「今出す!!」

グリム「で、でもこんな血吐いてるときに…飲ませた事ないんだゾ…っ!」

薬、前に言っていた心臓の薬か。
腕輪の効果がなくなり、精霊達が見えるようになったエリーゼだからこそ、痛みを感じたのか。

……やっぱり、無い方がいいじゃないか。

だって、お前…そんなに苦しそうじゃないか。

カリム「ジャミル!回復薬を!」

ジャミル「っ、分かっている!」

カリムに言われるまでもない。

いつもお前の用に何本、回復薬や解毒剤を持っていると思ってんだ…。

と、普段なら悪態をつくが、今はそんな事をする余裕もない。

俺は回復薬を片手に、エリーゼに近付く。

寮生に持ってきてもらった水をそっとエリーゼの口に注ぎ、顔を横に向けて、吐き出させる。
回復薬が入った瓶のふたを開け、そっとエリーゼの口に注ぎ、飲み込みやすい様に顔を斜めにする。

どんな毒も傷も消す、熱砂の国特有の最高級の回復薬だ。

…‥頼む、効いてくれ。だが、そんな俺達の願いは届かない。

「ッゲホ、カハッ!」

ジャミル「っ!?」

ゴクリとエリーゼの喉笛が動いた時、まるで拒否反応を起こす様に、吐き出し、更に吐血するエリーゼ。

ジャミル「っ…これじゃ効かない」

アズール「っ…ともかく、一度寮へ戻り、治療をしましょう」

カリム「そ、そうだな…ここだと暑いし、エリーゼの体にも……ジャミル?」

アズールの提案も、カリムの声も、今は聞き入れる事が出来なかった。

__いつもどうしていた?

いつもどうやってカリムが怪我をしたとき__毒で倒れた時、

俺はどう動いて、どういう考え方をしていた?

_____『私と一緒に、みいだしてみない?』___

何で…エリーゼなんだ。
罰を受けるなら、俺である筈だろ?

何で、エリーゼなんだよ…………精霊の力を借りた対価か?

それとも、灰色の世界で、俺を庇ってできた傷か?

……コイツは何も悪くはない。あそこから…俺を引っ張り出してくれただけじゃないか。

頼むから、これ以上俺から奪わないでくれ。

俺が望んだから?俺が暴走したから?

これが、俺への罰だっていうのか____?

__「ジャミル!!」

焦っていた俺の脳裏に、同じ位焦ったカリムの声が聞こえた。
その途端、パチンと頬をはたかれた。

ジャミル「っ!?」

カリム「しっかりしろ!お前らしくないぞ!!」

ジャミル「カ、カリム…」

カリム「落ち着け!!どうすればいいか、お前なら分かっているだろ!!」

ジャミル「っ……」

カリム「ジャミル!!いつも俺の事を見ていたなら、今のエリーゼをどうするべきか、お前ならわかるはずだ!!」

いつも能天気な面して、俺を見ているのに…今は違う。

___これは主人としての目だ。

主従関係何て、関係ないとか言っていた癖に……いつも能天気な阿呆面の癖に……。いや、だけど___今はこのお蔭で冷静になれた。

…そうだ、俺はジャミル・バイパー。

アルアジームを守るために生まれた。

カリムの命もずっと守ってきた。

__大切な女を守れない従者何て、意味がない。

俺はエリーゼの首の後ろと膝裏に手を回し、抱え上げる。

ジャミル「魔法の絨毯で寮まで運ぶ。絨毯の上で回復魔法をかけながら、寮へ着いて本格的な治療をする」

カリム「分かった!」

カリムが指笛を吹くと、船に乗せていた魔法の絨毯が飛んできた。

カリム「俺が運転する、ジャミルはエリーゼに回復魔法を!」

アズール「カリムさん、その絨毯は何人まで乗れますか?もし、乗れるなら、僕もお手伝いします」

カリム「最高で4人までだから、大丈夫だ。頼む!」

運転するカリムと共に俺とその肩にしがみつくグリム、アズールが絨毯に乗り込む。カリムはエリーゼを心配気に見るフロイドとジェイドを見た。

カリム「ジェイド、フロイド…寮生達を連れて帰るのを、任せていいか」

ジェイド「……はい、それしか出来る事はなさそうです」

フロイド「そのヒラメも俺達は乗れなさそうだし……エリーゼは心配だけど、しゃーない………カニちゃん達もいいよね」

エース「っ……悔しいけど、俺等が乗ったって意味ないっす」

デュース「エリーゼさんの事、お願いします」

監督生「寮のことは任せてください。エリーゼさんのことよろしくお願いします」

カリム「あぁ、分かった。寮生達を頼む!それじゃあ飛ぶぞ」

カリムはギュッと絨毯のフリッジを掴む。
すると、絨毯がビクリと反応し、浮かび上がり、スカラビア寮の方へ飛び上がる。

風の抵抗を抑えるために、カリムは風の魔法を使っている。
…普段考えつかない癖に、コイツも相当頭が回っているんだろう。

アズール「ジャミルさん、いきますよ」

ジャミル「分かってる」

俺達はマジカルペンを取り出し、回復魔法の詠唱を始めようとした。

___バチッ!

しかし、その前に何かによって魔法がはじき返された。

「「っ!?」」

グリム「な、何だゾ!?」

カリム「ど、どうした!?」

マジカルペンを向けた途端に、火花のようなものが飛び、弾かれる。

アズール「っ…ば、バカな」

ジャミル「っ…嘘、だ、もう一度…っ!」

今度は俺1人で回復魔法を行おうとした時、それも火花が飛び、弾かれた。

アズール「回復魔法が…弾かれた、だと!?」

ジャミル「っ!」

「っ…ふぅ…ぐっ」

グリム「ふな‟ぁ!エリーゼ~!!」

回復薬も、回復魔法も効かない…そして今はホリデー。
クルーウェル先生などの手も借りれない。

この絶望的な中、どうすれば__。

ジャミル「っ…」

暑い筈なのに、冷たい汗が流れた気がした。
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