熱砂の策謀家

俯いていたジャミル君が私の顔を、差し出された手を見る。

「私と一緒に、みいだしてみない?」

ジャミル【!・・・ 一緒、に…?】

「だから、戻りましょう。カリム君や皆が待ってる」

ジャミル君が此方をジッと見て、そして頷いた。

おそるおそる、私の差し出された手に彼の手が伸びる___その時だ。

バチッとという赤い電と共に、周囲の財宝が全て黒い影に変わった。

そして、ジャミル君が座っていた玉座が黒い蛇に変わり、ジャミル君に噛みつきそうになった。

「っ…ジャミル君!!」

ジャミル【っ!?】

ドンッと彼を突き飛ばし、ジャミル君に噛みつきそうになった蛇は私の首に噛みついた。

ジャミル【エリーゼ!!!?】

「っ…いっ!?」

さっき、ジャミル君の髪と化していた蛇にも噛みつかれた。
あれも中々痛かったけど___今噛まれている痛みと比べものにならないぐらい軽いものだった

「っぅ…熱い…!」

噛まれた部分がジワジワと熱くなる。まるでマグマを体に注がれている様に、熱く、とても痛い。

ジャミル【やめろ!!エリーゼに手を出すな!!】

その蛇に近付こうとするジャミル君は黒い蛇と化した財宝を払いのけ、噛まれる私に近付く。すると、その蛇たちが1つの塊となり、大きな影と貸してジャミル君を飲み込む。

「っ…ジャ、ミル…く…ぐっ!!」

ジャミル【っ!?ぐっ…!?】

影から晴れた時、ジャミル君は…黒い砂時計の中に閉じ込められていた。

ジャミル【エリーゼ!クソ!出せ!!ここから出せ!!!】

ガラスをドンドンと叩いて、此方に向かおうとするジャミル君。
だけど、そのガラスが割れる事はない。

すると、彼の上からポタポタと垂れる砂…‥ではなく、黒い影。

それが、下にいるジャミル君の元へ注がれている。

あれが満杯になってしまえば__ジャミル君が取り込まれてしまう。

「っ…ど、いて!」

私は噛んでくる蛇を蹴り上げ、距離を取った。蹴られた蛇は、また私に噛みつこうと構えてくる。

「っ…ジャミル君!!」

砂時計の下にいるジャミル君に溜まる影、もう膝上まできている。

痛む首を抑え、砂時計に近付こうとした時、目の前にいた蛇が火を吐いた。咄嗟に避けるけれど、違う黒い蛇たちに囲まれる。

このままじゃ、何も出来ない__変わらないと。

でもどうすれば、誰を呼び出す?どうすれば、この状況を変えられる?

炎だから、ウィンディーネ?それとも砂嵐だからノーム?火には火で対抗してサラマンダー?

駄目だ、痛みで考えがまとまらない。熱くて仕方がない。

こんな事している暇はないのに……助けないといけないのに。

___カリム「…ジャミルを頼む」

___グリム「また…起きなかったら許さないんだゾ!!」

そうだ、頼むと言われた。戻らないと…許さないと言われたんだ。

考えなきゃ、この場で何をすべきか__何を生まれさせるべきか。

どうやったら、あの影を戻すことができるのか___……

!?不死鳥!!ウィンディーネの言葉を思い出す。

不死鳥……炎の中で復活し、その灰の中から再生する……火の鳥。

この影を全て燃やして…“灰”へ還す。

見た事は無いし、本当にいるのか分からない。

けど…………。魔法は創造で成り立つ___

なら、この灰色の中に、“不死の鳥”を創造すればいい。

暗い影を照らし、悍ましい影を燃やし、全てを灰へと流すように。

ジャミル【っ……エリーゼ…!】

もう胸まで影が上っているジャミル君。

熱がジンジンと痛む、首が痛い。

本当はこのまま意識を遠のいてしまいたい。___だけど、やらなきゃ。

___炎を灰へ、闇を光へ…全て返還させるの。

救わないといけないから、帰らないといけないから

___だから。

「……………お願いだから、きて」

その時、ジャミル君が閉じ込められていた砂時計がパキッと割れた。

ドサァという音と共に流れ出てくるジャミル君と……黒い影だった筈の灰の塊。

「ジャミル君!」

ジャミル【っ……これは、灰?】

倒れ込むジャミル君に駆け寄り、彼の背を撫でる。すると、フワリと温かい熱がすぐ隣に感じた。

___【呼んだのはお前か】

「!」

低い男性の声が聞こえたので、そちらを振り返ると…そこに金と赤の翼をもつ大きな鷲。その羽根には赤い炎を纏わせている。

ジャミル【っ!?……これは、不死鳥?】

「!…し、知ってるの?」

ジャミル【知ってるも何も…熱砂の国の守り神だ! だが、伝説上の生物で…創造神だとも言われている】

熱砂の国の守護神・・・・お母様に聞いたことがあるのを思い出した

よかった・・・・本当にいた

不死鳥【懐かしい匂いだ。はるか昔にそなたの様な匂いをする若者を見た。創造神たる我を呼び出し、我の力に斯いた、若者と同じ……】

不死鳥は私達から目の前にいる黒い蛇に目を向ける。

すると、蛇が影を集め、大きな蛇へと形へ変えた。

不死鳥【悍ましいものの塊だな。 邪気が溜まり、自我を持ち始めている__ あれを灰に戻すのか】
 
「できますか?」

不死鳥【主が我を創造したように、我も創造すればあれを換えることくらいはできる。 だが…お前の創造で映し出された我だけじゃ駄目だ。水の精にしたように、主自身も創造しろ】

バサリと大きな羽根を広げ、飛び上がる。
火の粉が灰色の空間に飛び散り、頬に当たったけど…不思議と熱くはなかった。

不死鳥の火の粉に蛇がジリジリと後ずさる。

ジャミル【エリーゼ、お前は…】

「大丈夫よ」

驚くジャミル君にさっきのように手を伸ばす。

__大丈夫、カリム君とも出来た。

__きっとジャミル君とも通じ合える。

「きっと帰れるわ。だから貴方も創造して」

ジャミル【……】

伸ばされた私の手に、自分自身の手を重ねる。

「“陽が闇を打ち消すように」

私が唱えると、彼も瞳を閉じて、重ねた手を握ってくる。

ジャミル【…輪廻の灯が巡る様に__】

握られたその手を強く握りしめた。

ジャミル・エリーゼ『【闇を清め灰に還るように”】』

此方に襲いかかろうとした大きく黒い巨蛇が不死鳥の炎に飲まれていく。
声にならないような叫びが灰色の空間に響き、蛇と共に周囲も炎に飲まれる。あの蛇を燃やしている炎なのに…暖かくて、とても心地よく感じる。

__パキッと、灰色の世界に亀裂が走った。

「ふふっ…帰ったら、カリム君に殴られないといけないわね」

ジャミル「…はぁ、俺が殴りたいくらいだ」

溜息を吐き、呆れ顔を浮かべるジャミル君。すっかり顔から毒気が抜けている気がする。私は彼の手をぎゅっと握った。

「おかえりなさい、ジャミル君」

ジャミル「…………あぁ、ただいま。エリーゼ」

ジャミル君が私に笑みをかける。

__________パキパキッと灰色の世界が砕けた。

***

カリム「ッ…ジャミル!!エリーゼ!!」

ジェイド「カリムさん!それ以上行っては危険です!!」

突然現れた炎の渦により、2人の姿が見えなくなった。
カリムは何度も炎の渦の中、2人の名を呼び、駆け寄ろうとする。
そのたびにジェイドが止める。

ウィンディーネ『これってサラマンダーの力?』

ノーム『それはない、あやつはまだガキじゃ』

ウィンディーネ『そうよね…(ロゼッタ‥あなたまさか)』

グリム「っ…エリーゼ~!返事するんだゾ~!!」

監督生「エリーゼさん!!」

フロイド「ちょっと、小エビちゃんもアザラシちゃんもラッコちゃんも危ないから」

カリム同様に渦に駆け寄ろうとする監督生とグリムを止めるフロイド。
そしてジッと渦を見るアズール。

ウィンディーネ『あら?泣かないのね』

アズール「泣く必要はありません。彼女は戻ってくると言ったんですから」

フンと息を吐き、アズールはそう言う。その言葉に目を丸くするウィンディーネ。

アズール「……何ですか、その顔は……て、ジェイド、フロイド!」

ニヤニヤしている双子に怒鳴るアズール。

ガヤガヤと騒いでいたその時___炎の渦が炎から灰へ変わった。

グリム「ぶばっ!?」

カリム「っ!?な、何だ!?目が…しみる!?」

監督生「これは…灰?」

炎の渦から灰の渦へ変わり、目や口に入りそうになるので顔を腕で覆う。

そんな灰の渦は、スカラビアの窓から抜け、外へ吹きだされてく。

そしてその中心にいる赤い炎__それに包まれる2人の姿があった。

***

「…‥…ありがとうございました」

不死鳥【…うむ。久しく楽しめた。あの灰も、我が戻して、炎へ換えてやろう】

バサリと炎をまとった翼を羽ばたかせ、宙に浮かぶ。

不死鳥【人間は言葉に表すのが得意ではない。言葉は年を越える程に、強くなる…だが反面脆くもなりうるからな。なるべく早く、言葉・形にした方がいいだろう】

そういい、彼は灰と共にスカラビア寮の空を羽ばたき、灰と共に消えた。

腕の中で眠るジャミル君を、そっと地面に寝かせる。そんな彼の頬をペロリと舐めるサラマンダー。

グリム「エリーゼ~!!」

「グリム君…わっ!?」

胸に突撃したグリム君を受け止め、よしよしと頭を撫でる。

カリム「エリーゼ!!ジャミル!!」

「きゃっ!」

グリム君の次に飛び込んできたのはカリム君。
隣で眠るジャミル君に寄り掛からないように上半身で支える…ちょっと、折れちゃいそう

フロイド「ちょっとラッコちゃん、エリーゼが潰れちゃうって」

ジェイド「小さいグリム君なら兎も角、エリーゼさんより体格が大きいカリムさんが抱き着いたら、エリーゼさんの骨格が折れてしまいますよ」

監督生「・・物騒」

ジェイド君とフロイド君によりカリム君は移動して、ホッとする。

ふと、頭に重みを感じた…と思えば、ウィンディーネだった。
カリム君の頭にはノームが乗っかっている。

アズール「気分はどうですか?」

「…私は大丈夫」

監督生「エリーゼさん、心臓痛くありませんか?薬いりますか?」

「ううん、大丈夫」

私から離れたカリム君はジャミル君の顔を覗き込む。
ジャミル君はさっきとは違い、穏やかな顔をして、眠っていた。

カリム「ジャミル…ジャミル!!」

目尻に涙をため、ジャミル君の名を呼んでいる。
片手でグリム君を抱え、そっと彼の頭を撫でる。

「ジャミル君、起きて」

カリム「ジャミル!!しっかりしろ!!」

私達が呼び掛けていると…「うっ…」とジャミル君から声が漏れた。

そして、ジャミル君はその目をゆっくり開けた。

ジャミル「う……ここは……」

アズール「良かった。なんとか正気を取り戻したようですね」

監督生「よかった」

グリム「ふな"ぁ……、しばらくあのバケモノの夢見そーなんだゾ」

上体を起こし、キョトンとした顔を浮かべるジャミル君。
だけど、今までの人と違って全部分からないという訳じゃなさそうね。

オーバーブロットしたという自覚はあるんだわ。

ふと、隣からすすり泣く声が聞こえたと思いチラリと向くと…カリム君が涙をポロポロと流していた。

カリム「じゃ、じゃびる……うぁあああぅうぉぁあああ!!!!!!!」

物凄い号泣して、声を上げるカリム君。涙声と鼻声で言葉になっていない……。

フロイド「ラッコちゃん、全然言葉喋れてねーじゃん」

ジェイド「おやおや。1発殴ってやると言っていたのもすっかり忘れていますね」

カリム「い、生きててよかった……いぎででよがっだ……」

ジャミル「……お前はどうしてそう……はぁ~~~」

カリム君の泣きざまを見て、深いため息をこぼすジャミル君。
それも気にせず、泣き続けるカリム君。

カリム「オレ、オレ……うっ、お前がどんな気持ちで過ごしてきたか知らなかった。ず、ずっと……我慢させてたことも、ぜんぜん、知らなぐで……」

アズール「その結果が、この手酷い裏切りですよ」

フロイド「そーだよ。ウミヘビくんは内心ず~っとラッコちゃんのことバカにしながら生きてきたんだよ」

グリム「オマエら、オレ様より空気読まねぇんだゾ!」

監督生「…確かに、エースと同じ位に」

ユウのその言葉に私は苦笑いするしかなかった
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