熱砂の策謀家

目を覚ますと、そこは灰色の世界。辺り一面、砂嵐がふぶいている。

レオナさんのときとにているけれど___その時より強い砂嵐だ。

「っ…ジャミル君!!」

砂嵐の中、彼を呼ぶ。けれど、彼は答えてくれない。

【ジャミル~!遊ぼうぜ!】

幼い男の子の声が聞こえた。すると、砂嵐が少し緩くなり、灰色の空間に、違う場面が現れる。

屋敷の中だ……その廊下であろう場所に、どこかカリム君に似ている男の子とジャミル君に似ている男の子がいた。

【今日こそはボードゲームでお前に勝ってやるからな】

【またかよ、カリム。何回やっても俺の勝ちに決まってる。俺、別の遊びしたいんだけど……】

やっぱり、ジャミル君とカリム君だ。本当に幼い頃から一緒だったんのね‥‥…。だけど、今と違って、ジャミル君が少しカリム君に反抗的というか…素のままで喋っている気がする…。

すると、ジャミル君の側に大人の男女が寄ってきた。どこかジャミル君と面影がある。その内、女の方がジャミル君の頭を叩いた。

【コラ! ジャミル! カリム様になんて口の聞き方をするの!】

【痛っ!?】

【カリム様、いつもうちのバカ息子と遊んでくださりありがとうございます】

【使用人にも分け隔てなく接してくださる優しさ、ご主人様のご教育の賜物ですわ】

自分達に都合がいいように、カリム君にセリフを吐く。
そして、それを見て、幼いジャミル君は叩かれた頭を抑え、不満そうにしている。

____物心ついて最初の記憶は____カリムや、カリムの両親に

____ペコペコと頭を下げる両親の姿。___俺は、その姿を見るのが

____大嫌いだった。

‥‥子供に背負わせていい責任じゃない。

親の立場だから…従者の息子だから___ジャミル君の気持ちを押し殺させたっていうの。

すると、カリム君がいなくなった廊下に場面が変わり、ジャミル君の両親がジャミル君に何かを言っている。

【…いいか。ジャミル勝負はいつでも2回勝って3回負けなさい。決してカリム様に勝ち越すんじゃない】

【お前が賢い子だってことはよく分かってる。お母さんたちの立場……理解してくれるわね?】

【………分かったよ】

__カリムの親は、俺の親よりずっと偉い____だから……

____カリムも、俺より"偉い"。__だから、勉強も、運動も、遊びも_

___絶対にカリムを追い抜いてはいけない__俺は、カリムに合わせてなんでも___"出来ないふり"をした

…………あまりにも理不尽よ。従者だから?カリム君が主人だから?

それだけで……この子の意思も押し殺していい物なの?

これは……気付かなかったカリム君も悪い。

けど__それ以上に悪いのは、そうさせた“大人”だ。

また場面が変わった、賞状を持つカリム君と、ジャミル君だ。

【ジャミル! 見ろよ。オレ、祭りのダンス大会で一等取ったんだ!】

場面が変わる。マンカラをしている2人だ。

【あっはっは!やった~今回のマンカラの5本勝負は、3勝2敗で、オレの勝ち!」

場面が変わる…今度はスカラビア寮の談話室。
2人はもう幼くはなく、今と変わらない年のようだ。

【ジャミルが勉強に付き合ってくれた魔法史のテスト、オレ75点とれたぜ!え? ジャミルは70点?そっかー。元気出せよ】


その発言の数々、…カリム君は悪くない。だって事情を知らないんだから。……けど、無知で純粋ってこんなにも恐ろしいのね。

___お前が俺に勝ってるんじゃない____俺がお前に勝ちを譲ってやってるんだ

_____能天気な顔しやがって___気付け、鈍感野郎


徐々に口調が荒くなるジャミル君。やっぱり、こっちが彼の素なんだろう。

【オレがスカラビア寮長に…? なんかよくわかんねーけど…どーんと任せとけ!!】

寮長に就任されたカリム君はそう言う。

……本当に、コネ…だったのかしら………この寮長の取り組みは。

すると、また、場面が変わった。今度は__学園長室?

ジャミル先輩と…お義父様の2人だけだ。

【学園長。何故カリムを寮長に?】

ジャミル君はカリム君の寮長に就任した事の違和感をお義父様に伝えている。それは……まぁ、当然だわ。

と、いうことは___この寮長の選択は、お義父様が仕組んだ…?

【魔法の実力もない。なによりまだ2年生です。 俺達はあいつのミスのフォローで手一杯な状態です】

【ナイトレイブンカレッジにおいて、2年生で寮長になることは、なんら不思議ではありません】

【しかし……】

お義父様の言葉に反論しようとしたが、その前にお義父様が口を開く。

【バイパーくん。教育を充実させるには、なにかと"かかる"んです。アジームくんのご実家からは、多大なるご支援をいただいてましてねぇ……。私も承認せざるを得ない立場なんです

 賢い君なら、それがどういうことか……わかってくれますよね?】

……これは大人の事情よ。

ジャミル君の親は、自分達の保身のため、ジャミル君の気持ちを押し殺させた。

そしてお義父様は、学園の為……カリム君を寮長にした。

全ては__彼がアジーム家の長男だから。

でも………それでも、私が大人だとしても___この事実を肯定したくはない。

お義父様には後で説教しなくちゃいけないわね


____……_大人はみな同じセリフを言う

____「君ならわかってくれるだろう」って?

___なら、誰が俺をわかってくれる?

【これからも 助け合っていこうな、ジャミル!】

____やめろ。

【ジャミルだけは 絶対にオレを裏切ったりしない】

____もう、やめてくれ!!

灰色の世界に、悲痛な彼の叫びが響いた。砂嵐が徐々に弱まり、私は走り出す。

ふと…気付いた。金貨が大量に落ちてる。

灰色の世界なのに、何も無いのに………いや、金貨だけじゃない。
大量の宝の山。スカラビア寮の宝物庫みたいに沢山ある。

金貨を手に取ると___‟ジャミルは凄いな“というカリム先輩の声が聞こえた気がした。

そして、それと同時に大人の声で“カリム様は凄いです”と聞こえる。

……‥あぁ、そうか。この宝の山は………人から褒められたいというジャミル君の‟欲望”。

努力している所を認めて欲しい、けどカリム君の従者だから___認められることはない。そんな彼のやるせない思いが、この宝の山を作り出しているのね。

__カリム、お前がいるだけで俺は…

___俺は、____ずっとお前に譲って生きていかなくちゃならない!


その宝の山の中。
蛇の顔をモチーフにした玉座の上に、一人寂しく座り込むジャミル君を見つけた。

彼の周りには…金貨が大量にある。

けれど、その金貨たちが…徐々に砂に変わり、消えていっている。


ジャミル【…俺は、俺だって__一番になりたいのに】

ちょっと、レオナさんと似ている。

努力をしても第二王子だから認められないあの人と…

努力を行っても、全てカリム君の為に押し殺すジャミル君。

私は、そっと彼に近付いた。踏みつけられた金貨が音を立てて、彼の足元に転がっていく。フードを被っている今のジャミル君の表情が分からない。

ジャミル【………俺はカリムに遠慮しないといけない】

「……」

ジャミル【全部、カリムを追い越せた。ダンスも、マンカラも、テストも……俺が本気になれば、寮長の座だって夢じゃない】
 
フードに隠れて彼の顔が見えないけど…泣いているように見える。

「私…幼いころの親を亡くして、お義父様の義理の娘として育てられてきた。だから、主人と従者っていう関係はよくわからない……けど、見ていて分かったことがあるの」

否定することなく、ジッと黙るジャミル君

「大人って自分勝手ね」

ジャミル【あぁ、そうだよ!!自分勝手だ!!】

私の言葉に賛同するように声を上げ、顔を上げる。

ジャミル【カリムもカリムで、悪意なくやってるからイライラする!!!
自覚があった方がまだマシだ!!!!!! 父さんも…母さんも、他の奴等も……皆、カリムばっかり褒め称える!

俺の方が凄いのに、俺の方がもっと出来るのに………!!俺の方が…努力しているのに……っ】

積もり積もったジャミル君の憎悪、苦痛、それらを肌で感じる。

「…ジャミル君」

私が口を開く前に【でも…】と続けた。

ジャミル【あいつには…‥俺とは違う“人の上に立つ才能”があった。俺が欲しくて、欲しくて、仕方がないものを、持っていた。だから___俺は、カリムの全部を、否定できない……っ】

「…そうね、カリム君はそういう才能あると思う。無自覚で天然で、バカっぽいかもしれないけど・・・」

ジャミル【ぽいんじゃなくて、馬鹿なんだよ!】

「…貴方はは自分の価値を、自分自身で見切りつけてしまったのね」

ジャミル【つけたくもなるだろ。周りがそう望むんだから】

また顔を俯かせてしまった………私はジャミル君に近付く。

「ジャミル君には話したけど、私は自分でもいらないって思ってました。
それは……自分の価値を否定され続けたから。私がここにいれるのは、お義父様の慈悲、それこそコネみたいなものよ。精霊達がいないと、私は何も出来ない…只の人間の女。

いつか見捨てられるんじゃないか…必要じゃなくなるんじゃないかって、そう想像するのがとても怖くて……。だから腕輪付けらた時は、焦ったわ』

ジャミル【…心臓の痛みがなくなってよかったじゃないか】

「そうね……でも、あの痛みを感じるたびに、私はまだ無能じゃないって、まだ必要とされるって思えたの」

ジャミル【痛みに縋る何て、それこそ愚かだ】

「…でもね、ある人に言われたの。私自身の価値をそこで終わらせるべきじゃないって…自分を見出してみろって」

こんな私の言葉で、少しでも救われた人がいる。

だからこそ、私がそこで止まっちゃ駄目、諦めちゃ駄目なの。

「私が自分の価値を、これから見出せるか…ちゃんと出来るか、そんな事分からない。だけど、やらないといけないから…そうじゃないと前に進めないから、だから……」

玉座に座り、俯くジャミル君に手を差し出す。

「貴方も決めないで」

ジャミル【!】

「自分の価値を、存在を…そこで終わらせちゃ駄目よ」

ジャミル【……っ、だが……どうせ俺には】

「カリム君は貴方と“対等”に生きたいはずですよ。だからあなたを必死に助けていた。今も、きっと呼び掛けてる」
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