熱砂の策謀家

私の言葉にキョトンとした顔を浮かべたが、次の瞬間、満足そうな顔になるグリム君。それを見て、私は走り出した。

ジャミル【っ‥・クソクソクソ!!!!消えろ、エリーゼ!!消えろカリム!!! 全員、全員、俺の前から消えろぉお!!!!!】


何発も火の魔法を此方に向けて発射させるが、そのたびに後ろから放たれた、ウィンディーネとアズール君の合体魔法、ノームとカリム君の合体魔法がぶつかり、爆風となり消える。

立ち込める土煙の中、ジャミル君の前まで来れた。

だけど、彼の髪から伸びる蛇が、後ろの影が、私をそれ以上近づけさせてくれない。拒み方も段々パワーアップしてる…

サラマンダー『ヴァ~ッ!!』

焔を吐き出し、蛇を遠ざけてくれるサラマンダー。

背後からの攻撃で魔人は抑えられているけど、ジャミル君自身には防衛魔法がはられているのか、それを通してくれない。


……影が、濃い。そして、悍ましい。あの影にジャミル君は囚われている


リドル君や、レオナさん、アズール君の時のように__。

「ジャミル君、帰りましょう!…貴方だって、本当は帰りたがっている!」

ジャミル【黙れ、俺に命令するな!!俺はもう自由だ!!親の命令も、アジームの命令も、何も聞かなくていい!!!この力があれば、俺は無敵だ!!俺は1番になれる!!!】

嘆くようにジャミル君がそう叫ぶ。すると、魔人の顔のひび割れが、広がった。そして、ボタボタッと黒いインクが地に落ちる。

途端に___ヴォオオオと叫び出す魔人。今までの化身と違うと本能的に感じた。

「っ!!」

慌てて、その場からよける。すると、その黒いインクが動き、巨大な蛇の形になり、私を襲う。

グリム「ふな‟ぁ~!!!」

サラマンダーが炎を吐き出す前に、後ろにいたグリム君が蒼い炎を吐き出した。

「グ、グリム君!」

グリム「早くやっつけるんだゾ!」

そうしたいのは山々だけど…。もう強行突破しかないわね。

「サラマンダー、無茶するわよ」

サラマンダー『わかった~』

ジャミル【俺に近付くな、俺に命令するな、俺を縛るな…‼俺だって、俺だって___っ!!】

徐々に影が濃くなり、魔人の動きが活発化してきた。

このままジャミル君を野放しにしたら、彼は、本当に壊れてしまう。

そんなこと絶対にさせない。

影や魔人無視して、走り出す。当然、目の前に飛んでくる蛇たち。

それをどける前に、背後からカリム君の魔法とグリム君の魔法がその蛇を打ち消してくれた。

カリム「ジャミル!!!頼む!正気に戻ってくれ!!」

グリム「ふな~!!これでも喰らうんだぞ!!!」

背後の彼らの声を聴いて、私は飛び上がった。そして、ジャミル君に抱き着いた。

「…ジャミル、君…………う‟っ!?」

背後から小さい蛇が私を噛んで来た。痛い、血が出てる

ジャミル【俺に触るな、俺に触るな!!! 俺から離れろ!!!!】

「い、やよ!!」

ジャミル【お前だって、俺を“みない”くせに!!!皆そうだ…カリムの方へ行く!!!どうせ、お前だって……お前だって__!!!!!】

親や皆、か……。この子は、ずっと譲って生きていたんだ、カリム君に。

あの子が全部悪いという訳でもない___ただ、彼らの“縛り”がそうさせた。

【見出してみるが良い、自分自身を。】

何か、少しだけ似ている。

この子も、自分の価値を決めてしまったんだ、私と同じで…。
その立ち位置で止まっている。

でも、それだけじゃ駄目だってことを、私は教わった。

蛇に噛まれたところが痛む、けれど…私は化身の根元を掴んだ。

「ッぅ…!!」

今までにないほどの痛み。まるで骨まで溶かしてしまう程、熱い……けれど、それでも離すわけにはいかない。

サラマンダー『ヴァ!!!』

サラマンダーがその根元に炎を浴びせる…が、一度離れても、すぐ再生させてしまう。今までだったら、強い衝撃で根元から外れてくれたのに……。

やっぱり、今回の化身、おかしい。強さが…今までより上がっている?

「っぅ……!」

血の気が失せるのを感じる。駄目よ、ここで意識を手放したら___私は何も変わらない。ただ、自分を貶す私に戻るだけ。そんなの___嫌。

「ジャミル君、貴方は……“カリム君”になりたいんじゃないでしょう?」

ジャミル【!!】

「……あの天真爛漫さには、怒れることもあると思う。けど、カリム君は……一度でも、貴方を貶したり、低く見たり、その権力を豪語したりしたこと・・・ある?」

ジャミル【……っぅ】

背後で必死に化身を止めているカリム君。口々に「ジャミル」と名を呼び「助ける」だったり「もとに戻って」と言っている。

「……貴方の親がどうだったか、分からない……でも、カリム君は…従者のジャミルではなく、ありのままの“ジャミル”という貴方を・・・否定した事、ある?』

ジャミル【……っ!】

私の首や腕に噛みついていた、彼の髪の蛇がゆるりと歯を立てるのを辞めた。そして、心なしか、化身の動きが鈍くなる。

「大人が何を言っても……子供である私達が逆らえなくても、私から見れば、あなたはジャミル君で・・・彼はカリム君なの」

反抗的に爪を立てていた彼の手が、私に背に回り、ぎゅっと服を掴んだ。

「……今、そこから出してあげるから」

ギュッと根元を掴み、力を込めた。

「カリム君!!!!私達ごと、化身に攻撃して!!!!!」

後ろにいるカリム君に声を張り上げた。彼は驚いた様に声を上げたが…頷いて、杖を振るった。

カリム「ジャミル!!俺はまだ__お前に言いたい事がある。だから、戻って来てくれ!!!!」

そして、杖の先端を此方に向ける。先から光の玉が集まり、その球はサラマンダーが吐き出した炎と混ざり、根本に当たった。

それと同時に影とジャミル先輩を引きはがす。

「……ジャミル君…!……もう、大丈夫よ……だから、戻ってきて」

ジャミル【!!!………これで、一番に___自由になれる、って】

哀しい声を出すジャミル君。私はポンポンと彼の背を撫でて上げる。

「…貴方はもう“自由”よ」

ジャミル【___俺は……………っ】

その言葉に目を見開き、涙を流したジャミル君。

そしてそっと瞳を閉じ、私の胸もとに倒れ込んで来た。

そんな彼を抱きしめ、私も意識を飛ばした。
33/42ページ
スキ