熱砂の策謀家
カリムSIDE
ウィンディーネの言っていることは、何となくだが…理解はできた。
だけど、魔法の合体業とはわけが違う。
加護を持つエリーゼと魔法を持つ俺、互いに創造する景色を、強さを、全て同じにしないといけない。
そんな事、今までやった事も無いし…何より、ジャミルなんかより凄くない俺に、出来るのか?
__ジャミル【____もううんざりだ!!】
あいつをあんな風にしてしまった俺が___そんな事、出来るのか…?
折角止まった涙が、また零れそうになる。あぁ、こんなんだからジャミルにも嫌われるんだ。
「カリム君、やりましょう」
カリム「!?」
ガタガタ震えていた俺の手を、エリーゼが掴んだ。その瞬間、震えが止まった。
カリム「…エリーゼ」
「難しいけど、迷ったら時間の無駄よ。実践あるのみ」
簡単に言ってのけるエリーゼ。__無理だ、こんな事出来るわけがない。
俺は…何も出来ない。
だからジャミルにも嫌われる。
こんな事になっちまった。
俺なんかに___そんな凄い事が出来る訳が__。
「カリム君」
冷たい頬に、エリーゼの温かい手が触れた。ズキリと痛んでいた胸の痛みが徐々に和らいでいく。
「ジャミル君を助けて、殴って、“裏切り者”と罵るんでしょう?」
カリム「っ……」
「大丈夫、貴方ならできる」
ジッと、俺とは対照的な蒼の瞳を俺に向けてくる。
俺は俺自身、カリムとして___ジャミルに向き合わないと。
そうじゃないと___俺達はきっと何も変わらない。
俺は、エリーゼの手を強く握った。
カリム「あぁ、そうだな!」
二コリとエリーゼが笑ってくれた。もう頭もいたくない、胸も痛くない、震えは無い。
お前が側にいてくれるから___。
両手をぎゅっと繋ぎ、俺達は砂に膝を付け、額を合わせる。
__創造しろ、ウィンディーネが言ったように。
俺達の意思を、声を、感情を、創造を___全て。
この枯れた大地に、恵みを与える大きな力を注ぐように、
その力を__波に乗せて、運ぶように、海峡みたいに__俺達とジャミルがいるところに、繋ぐように__。
俺のユニーク魔法【枯れない恵み】は、砂の大地に恵みを与える。
この時代には不必要かもしれない……けど、それでも求めて俺は祈る。
___強く、強く、繋げる。
“ジャミル”のもとに、潤いが届くように__
カリム「‥‥…エリーゼ…一緒に、唱えてくれ」
その言葉の意味は説明しない。だけど、エリーゼは分かってくれたのか、ぎゅっと握る力を強める。
カリム「“熱砂の憩い、終わらぬ宴___」
「歌え、踊れ……____」
互いの手を強く握り、離れないようにした。そして、俺達は同時に顔をあげ、頭上に浮かぶ水の塊を見つめた。
カリム・エリーゼ「【枯れない恵み】」
俺達がそう唱えたと同時に、ウィンディーネの頭上の塊が大きく膨れ上がった。
ウィンディーネ『よくやったわね』
彼女はそれを指の腹で受け止め、灰色の空の中心に向かって投げ捨てた。
すると__ザァーッ
先ほどより強く、滝を思い出すような強い雫が、空から落ちてきた。
***
グリム「グぇ?!痛っ!?け、けど…さっきより強ぇー雨だぞ!!」
監督生「凄い」
アズール「!…あっという間に、深い川が…!」
ウィンディーネとカリム君の魔力がうまく調和し、激しい雨が降り出す。
先ほどの雨もバケツをひっくり返したようで強かったが…それ以上だ。
カリム「やったな、エリーゼ!」
「ええ!」
グリム「これで寮へ戻れるんだゾ!」
アズール「ジェイド、フロイド」
「「はーい/はい」」
ジェイド君とフロイド君は人魚の姿になり、川に飛び込んだ。
ジェイド「ではフロイド。川が凍る前にいきましょう。アズール、監督生サン、グリムくんは僕の背中に掴まって」
フロイド「エリーゼとラッコちゃんはオレの背中ね~」
彼らに言われるまま、私達は背に掴まる
グリム「あれ?でもアズールは人魚なんだろ?自分で速く泳げるんじゃねーのか?」
ジェイド「アズールは人魚になっても泳ぐのが速くありませんから」
アズール「それは尾びれ形状差のせいです!」
監督生「ま、まぁまぁ」
ジェイド君に怒鳴り込むアズール君をユウが宥める。
アズール「さあ、スカラビア寮へ向けて出発しますよ!」
__スカラビア寮
寮まで続いた川のお蔭で私達は無事戻る事が出来た。
ジェイド君、フロイド君も変身薬を飲み、人間に戻る。
ジャミル君の高笑いが談話室から聞こえてくる。
カリム「…っ、ジャミル」
「…行きましょう」
アズール「えぇ、もう時間がありません。余り長引けば、彼の命が危ういです」
私達は談話室へ急いだ。
___スカラビア寮 談話室
以前来た時と違い、空気が淀んでいて、赤い雷のようなものが空気上に漂っている。
そして、談話室には多くの寮生が料理を運んだり、楽器を吹いたりしている。
___まるで宴ね。
そして、その中心にいる男…ジャミル先輩は高笑いをし、寮生達に指示を出していた。
ジャミル【食料も飲み物も、全部持ってこい!今日は宴だ。
阿呆な王が消え、真の実力者が王になった記念日だからな!】
寮生「仰せの通りに、ご主人様……」
寮生「ジャミル様こそスカラビアの王にふさわしい……」
寮生「ジャミル様万歳!」
ジャミル【ははは、そうだろう。もっと言え。俺を褒め称えるがいい】
機嫌よく笑みを浮かべるジャミル君、その笑みはとても邪悪なものに染まっていた。…あれが隠されていた彼の本心……魔力によって暴走した、彼の壊れた心。
レオナさんと同じように、彼は…1番になりたかったんだろう。
アズール「では、行きますか」
監督生「………え?行くって」
アズール「褒め讃えろと、申せなので…我々もあれに参加しましょう」
…スタスタと談話室の中へ入るアズール君。上機嫌で笑うジャミル君はその事に気付かない。
アズール「貴方様は、とてもハンサムで……」
ジャミル【ほう?】
グリム「色黒で、背が高くて……」
ジャミル【それで?】
ジェイド「目が吊り上がっていて、とても賢そうです」
ジャミル【それから?】
フロイド「肩がイカッてて……」
カリム「見るからに強そうなかんじだな!」
「ユニーク魔法も素晴らしい」
監督生「…え、えっと…す、素敵です‥?」
ジャミル君はかなり機嫌がよさそうだ。
ジャミル【ふん、なかなかの褒め言葉じゃないか……って、お前達は!?】
談話室内に入ってきていた私達の存在にようやく気づいてくれた。
ジャミル【この短時間でどうやってここまで戻ってきた!?】
カリム「乾いた川に水を満たして泳いで帰ってきた!」
フロイド「思ったより遠くて、かなり疲れた~」
ジャミル【なんだと!?】
驚くジャミル君だったが、川や水を満たすというカリム君の発言に気付いて、冷静な顔を浮かべた。
ジャミル【フン、お前の魔法にも使い道があって良かったじゃないか。
植木の水やりか、お遊戯くらいにしか役に立たない くだらない魔法だと思っていたのに】
アズール「カリムさんの力を侮っていたようですね」
ウィンディーネ『タコの坊やと違って面倒くさそうに見えるわ」
アズール「僕が面倒くさいは、余計ですよ。ウィンディーネさん」
「ウィンディーネ、あんまり言っちゃ…」
ジャミル【な!?】
余裕そうな顔を浮かべていたジャミル君だが、ウィンディーネがいる事と、私が会話できていることに驚いている。
ジャミル【ば、バカな…腕輪で封じた筈……っ?!は、外れているだと!?】
「ああ、あの腕輪、壊しちゃったわ。ごめんなさいね」
ジャミル【こ、壊した!? な、何故…そんな馬鹿な!!】
どうして、と吐き捨てるジャミル君。……まぁ、私も出来るとは思ってなかったのだけれど。
ウィンディーネ『フフフ、予想外みたいね。愛し子の創造の力も侮っていたようね』
ジャミル【っ…おのれ…駒の分際で…!】
本当に悔しがっている様子ね
カリム「ジャミル……。お前がオレをどう思ってたか、よくわかった」
ジャミル君が私の事で驚く中、カリム君は前に出て、ジャミル君を見据える。
カリム「間違いなく、お前は卑怯な裏切り者だ!」
ジャミル【馬鹿め。 疑いもせず信じるほうが悪いんだろ?】
カリム「正々堂々、オレと勝負しろ。そしてオレから奪った寮長の座……返してもらうぜ」
カリム君が杖を構え、ジャミル君と対峙する。彼はカリム君の言葉に更に嫌悪感を表した。
ジャミル【奪っただと?ハッ……どの口が!!俺からなにもかも奪ったのは、お前のほうだ! 思い知るがいい。この俺の本当の力を!!】
大きな影が彼の背後に現われた。先ほど、私達を投げ飛ばした顔のない紅の魔人。
ジャミル【パワー……絶大なるパワーだ!!!】
…心なしか、その瓶からあふれる影の量が量が多いし濃い。
そして、ピリピリと感じる感覚。
ウィンディーネ『…タコの坊やの時より強いわね』
『それだけ呪いが強いのじゃ』
聞き覚えのある声がまた聞こえてきた。ハッとしてそちらを向いたら、カリム君の頭に乗っかるノーム。
ノーム『厄介なことに巻き込まれたな、愛しい子』
サラマンダー『心配した』
また聞き覚えのある声が…今度は肩からした。
グリム「あー!子分2号!」
カリム「あ!ロ…‥トカゲ!」
「・・・サラマンダーです」
…何だろう心なしか大きくなっているような‥。
と、悠長な事を考えていた時、魔人の大きな手が私に向かって伸びた。
後ろに下がろうとすると…肩にいたサラマンダーが業炎な炎を魔人の手に吐き出す。
近距離にいる私でさえも熱く感じる
ジャミル【チッ…エリーゼ、やはりお前は厄介だ。手に入れられないのならば…お前はつぶしてやる】
アズール「…最初の狙いは貴方のようですね」
ウィンディーネ『そうなるのは自然の流れね』
ノーム『小童共は適当に魔力をぶつけよ。愛し子のやり方は、分かっておるじゃろ』
ノームの言葉でアズール君は溜息を吐き、「勿論」と呟く。
アズール「…エリーゼさん」
「……心配しなくても戻ってくるわ。フォローを、お願いね」
アズール「……貴方が言うなら、そうなんでしょう。フロイド、ジェイド…分かっていますね」
フロイド「まぁ‥・前と一緒なら…エリーゼをウミヘビ君の邪魔するんでしょ?」
ジェイド「そして、エリーゼさんが、あの影を引き離すんでしたね」
監督生「エリーゼさん!!まだ聞いてませんよ!」
「え、何を?」
グリム「無茶するって事だよー!」
「…‥…あ、無茶するわね」
グリム「いうの遅いんだゾ!」
ペシッとグリム君にパンチをされた。…肉球の感覚が頬に残る。
カリム「お前への攻撃を防げばいいんだな!」
「ええ、お願いね」
カリム「…俺は難しい事分からないけど、エリーゼは信じる。だから…ジャミルを頼む」
ガーネットの瞳がジッと私を見る。彼の瞳は、私と真反対の色をしている‥けど、とても綺麗。
「ええ、必ず…カリム君がジャミル君を殴る為に」
カリム「…うん」
カリム君は杖をトンと叩く、すると杖の先端から葉っぱの突風が現れ、ジャミル君に放たれた。それを片手でいなしたジャミル君だが、その隙をついてアズール君が氷の魔法をくらわせる。
「…サラマンダー、君も力を貸して」
サラマンダー『契約?』
「ええ」
サラマンダー『わかった~』
そして、私は宙に浮かぶノームとウィンディーネを見た。
「2人とも、お願い」
ウィンディーネ『わかったわ。私、タコの坊やと組んであげる』
ノーム『わしはこの子と組むか』
ノームはカリム君の方に乗ったまま言った
ウィンディーネ『こんなとき、熱砂の国の不死鳥がいれば、灰に戻してくれるのに』
ノーム『あやつほど気まぐれな鳥は見た事ない。諦めた方がいい』
ウィンディーネ『それもそうね。タコの坊や、うまく合わせてね』
ノーム『小僧、わしについてこれるかの?』
アズール「…またお願いが極端ですね」
カリム「よく分からないけど、分かった!」
アズール君は水、カリム君は草の魔法をそれぞれ吐き出す。
水と水の精霊、草と大地の精霊。
相性はいいため、それぞれの攻撃が重なり、巨大な合体魔法に成りあがる。
そして、彼らが築いてくれた大きな隙を逃さず、攻撃するグリム君達。
紅の魔人が一歩ひき、ジャミル君が腕を交差し、目を瞑った。
今…と思い走り出そうとした時、グリム君が私の方を向いた。
グリム「また…起きなかったら許さないんだゾ!!」
監督生「絶対帰ってきてください!!」
凄く止めたそうに、だけど私を送り出してくれる小さな体
私はそんな彼らにふっと笑みを浮かべる。
「…いってきます」
ウィンディーネの言っていることは、何となくだが…理解はできた。
だけど、魔法の合体業とはわけが違う。
加護を持つエリーゼと魔法を持つ俺、互いに創造する景色を、強さを、全て同じにしないといけない。
そんな事、今までやった事も無いし…何より、ジャミルなんかより凄くない俺に、出来るのか?
__ジャミル【____もううんざりだ!!】
あいつをあんな風にしてしまった俺が___そんな事、出来るのか…?
折角止まった涙が、また零れそうになる。あぁ、こんなんだからジャミルにも嫌われるんだ。
「カリム君、やりましょう」
カリム「!?」
ガタガタ震えていた俺の手を、エリーゼが掴んだ。その瞬間、震えが止まった。
カリム「…エリーゼ」
「難しいけど、迷ったら時間の無駄よ。実践あるのみ」
簡単に言ってのけるエリーゼ。__無理だ、こんな事出来るわけがない。
俺は…何も出来ない。
だからジャミルにも嫌われる。
こんな事になっちまった。
俺なんかに___そんな凄い事が出来る訳が__。
「カリム君」
冷たい頬に、エリーゼの温かい手が触れた。ズキリと痛んでいた胸の痛みが徐々に和らいでいく。
「ジャミル君を助けて、殴って、“裏切り者”と罵るんでしょう?」
カリム「っ……」
「大丈夫、貴方ならできる」
ジッと、俺とは対照的な蒼の瞳を俺に向けてくる。
俺は俺自身、カリムとして___ジャミルに向き合わないと。
そうじゃないと___俺達はきっと何も変わらない。
俺は、エリーゼの手を強く握った。
カリム「あぁ、そうだな!」
二コリとエリーゼが笑ってくれた。もう頭もいたくない、胸も痛くない、震えは無い。
お前が側にいてくれるから___。
両手をぎゅっと繋ぎ、俺達は砂に膝を付け、額を合わせる。
__創造しろ、ウィンディーネが言ったように。
俺達の意思を、声を、感情を、創造を___全て。
この枯れた大地に、恵みを与える大きな力を注ぐように、
その力を__波に乗せて、運ぶように、海峡みたいに__俺達とジャミルがいるところに、繋ぐように__。
俺のユニーク魔法【枯れない恵み】は、砂の大地に恵みを与える。
この時代には不必要かもしれない……けど、それでも求めて俺は祈る。
___強く、強く、繋げる。
“ジャミル”のもとに、潤いが届くように__
カリム「‥‥…エリーゼ…一緒に、唱えてくれ」
その言葉の意味は説明しない。だけど、エリーゼは分かってくれたのか、ぎゅっと握る力を強める。
カリム「“熱砂の憩い、終わらぬ宴___」
「歌え、踊れ……____」
互いの手を強く握り、離れないようにした。そして、俺達は同時に顔をあげ、頭上に浮かぶ水の塊を見つめた。
カリム・エリーゼ「【枯れない恵み】」
俺達がそう唱えたと同時に、ウィンディーネの頭上の塊が大きく膨れ上がった。
ウィンディーネ『よくやったわね』
彼女はそれを指の腹で受け止め、灰色の空の中心に向かって投げ捨てた。
すると__ザァーッ
先ほどより強く、滝を思い出すような強い雫が、空から落ちてきた。
***
グリム「グぇ?!痛っ!?け、けど…さっきより強ぇー雨だぞ!!」
監督生「凄い」
アズール「!…あっという間に、深い川が…!」
ウィンディーネとカリム君の魔力がうまく調和し、激しい雨が降り出す。
先ほどの雨もバケツをひっくり返したようで強かったが…それ以上だ。
カリム「やったな、エリーゼ!」
「ええ!」
グリム「これで寮へ戻れるんだゾ!」
アズール「ジェイド、フロイド」
「「はーい/はい」」
ジェイド君とフロイド君は人魚の姿になり、川に飛び込んだ。
ジェイド「ではフロイド。川が凍る前にいきましょう。アズール、監督生サン、グリムくんは僕の背中に掴まって」
フロイド「エリーゼとラッコちゃんはオレの背中ね~」
彼らに言われるまま、私達は背に掴まる
グリム「あれ?でもアズールは人魚なんだろ?自分で速く泳げるんじゃねーのか?」
ジェイド「アズールは人魚になっても泳ぐのが速くありませんから」
アズール「それは尾びれ形状差のせいです!」
監督生「ま、まぁまぁ」
ジェイド君に怒鳴り込むアズール君をユウが宥める。
アズール「さあ、スカラビア寮へ向けて出発しますよ!」
__スカラビア寮
寮まで続いた川のお蔭で私達は無事戻る事が出来た。
ジェイド君、フロイド君も変身薬を飲み、人間に戻る。
ジャミル君の高笑いが談話室から聞こえてくる。
カリム「…っ、ジャミル」
「…行きましょう」
アズール「えぇ、もう時間がありません。余り長引けば、彼の命が危ういです」
私達は談話室へ急いだ。
___スカラビア寮 談話室
以前来た時と違い、空気が淀んでいて、赤い雷のようなものが空気上に漂っている。
そして、談話室には多くの寮生が料理を運んだり、楽器を吹いたりしている。
___まるで宴ね。
そして、その中心にいる男…ジャミル先輩は高笑いをし、寮生達に指示を出していた。
ジャミル【食料も飲み物も、全部持ってこい!今日は宴だ。
阿呆な王が消え、真の実力者が王になった記念日だからな!】
寮生「仰せの通りに、ご主人様……」
寮生「ジャミル様こそスカラビアの王にふさわしい……」
寮生「ジャミル様万歳!」
ジャミル【ははは、そうだろう。もっと言え。俺を褒め称えるがいい】
機嫌よく笑みを浮かべるジャミル君、その笑みはとても邪悪なものに染まっていた。…あれが隠されていた彼の本心……魔力によって暴走した、彼の壊れた心。
レオナさんと同じように、彼は…1番になりたかったんだろう。
アズール「では、行きますか」
監督生「………え?行くって」
アズール「褒め讃えろと、申せなので…我々もあれに参加しましょう」
…スタスタと談話室の中へ入るアズール君。上機嫌で笑うジャミル君はその事に気付かない。
アズール「貴方様は、とてもハンサムで……」
ジャミル【ほう?】
グリム「色黒で、背が高くて……」
ジャミル【それで?】
ジェイド「目が吊り上がっていて、とても賢そうです」
ジャミル【それから?】
フロイド「肩がイカッてて……」
カリム「見るからに強そうなかんじだな!」
「ユニーク魔法も素晴らしい」
監督生「…え、えっと…す、素敵です‥?」
ジャミル君はかなり機嫌がよさそうだ。
ジャミル【ふん、なかなかの褒め言葉じゃないか……って、お前達は!?】
談話室内に入ってきていた私達の存在にようやく気づいてくれた。
ジャミル【この短時間でどうやってここまで戻ってきた!?】
カリム「乾いた川に水を満たして泳いで帰ってきた!」
フロイド「思ったより遠くて、かなり疲れた~」
ジャミル【なんだと!?】
驚くジャミル君だったが、川や水を満たすというカリム君の発言に気付いて、冷静な顔を浮かべた。
ジャミル【フン、お前の魔法にも使い道があって良かったじゃないか。
植木の水やりか、お遊戯くらいにしか役に立たない くだらない魔法だと思っていたのに】
アズール「カリムさんの力を侮っていたようですね」
ウィンディーネ『タコの坊やと違って面倒くさそうに見えるわ」
アズール「僕が面倒くさいは、余計ですよ。ウィンディーネさん」
「ウィンディーネ、あんまり言っちゃ…」
ジャミル【な!?】
余裕そうな顔を浮かべていたジャミル君だが、ウィンディーネがいる事と、私が会話できていることに驚いている。
ジャミル【ば、バカな…腕輪で封じた筈……っ?!は、外れているだと!?】
「ああ、あの腕輪、壊しちゃったわ。ごめんなさいね」
ジャミル【こ、壊した!? な、何故…そんな馬鹿な!!】
どうして、と吐き捨てるジャミル君。……まぁ、私も出来るとは思ってなかったのだけれど。
ウィンディーネ『フフフ、予想外みたいね。愛し子の創造の力も侮っていたようね』
ジャミル【っ…おのれ…駒の分際で…!】
本当に悔しがっている様子ね
カリム「ジャミル……。お前がオレをどう思ってたか、よくわかった」
ジャミル君が私の事で驚く中、カリム君は前に出て、ジャミル君を見据える。
カリム「間違いなく、お前は卑怯な裏切り者だ!」
ジャミル【馬鹿め。 疑いもせず信じるほうが悪いんだろ?】
カリム「正々堂々、オレと勝負しろ。そしてオレから奪った寮長の座……返してもらうぜ」
カリム君が杖を構え、ジャミル君と対峙する。彼はカリム君の言葉に更に嫌悪感を表した。
ジャミル【奪っただと?ハッ……どの口が!!俺からなにもかも奪ったのは、お前のほうだ! 思い知るがいい。この俺の本当の力を!!】
大きな影が彼の背後に現われた。先ほど、私達を投げ飛ばした顔のない紅の魔人。
ジャミル【パワー……絶大なるパワーだ!!!】
…心なしか、その瓶からあふれる影の量が量が多いし濃い。
そして、ピリピリと感じる感覚。
ウィンディーネ『…タコの坊やの時より強いわね』
『それだけ呪いが強いのじゃ』
聞き覚えのある声がまた聞こえてきた。ハッとしてそちらを向いたら、カリム君の頭に乗っかるノーム。
ノーム『厄介なことに巻き込まれたな、愛しい子』
サラマンダー『心配した』
また聞き覚えのある声が…今度は肩からした。
グリム「あー!子分2号!」
カリム「あ!ロ…‥トカゲ!」
「・・・サラマンダーです」
…何だろう心なしか大きくなっているような‥。
と、悠長な事を考えていた時、魔人の大きな手が私に向かって伸びた。
後ろに下がろうとすると…肩にいたサラマンダーが業炎な炎を魔人の手に吐き出す。
近距離にいる私でさえも熱く感じる
ジャミル【チッ…エリーゼ、やはりお前は厄介だ。手に入れられないのならば…お前はつぶしてやる】
アズール「…最初の狙いは貴方のようですね」
ウィンディーネ『そうなるのは自然の流れね』
ノーム『小童共は適当に魔力をぶつけよ。愛し子のやり方は、分かっておるじゃろ』
ノームの言葉でアズール君は溜息を吐き、「勿論」と呟く。
アズール「…エリーゼさん」
「……心配しなくても戻ってくるわ。フォローを、お願いね」
アズール「……貴方が言うなら、そうなんでしょう。フロイド、ジェイド…分かっていますね」
フロイド「まぁ‥・前と一緒なら…エリーゼをウミヘビ君の邪魔するんでしょ?」
ジェイド「そして、エリーゼさんが、あの影を引き離すんでしたね」
監督生「エリーゼさん!!まだ聞いてませんよ!」
「え、何を?」
グリム「無茶するって事だよー!」
「…‥…あ、無茶するわね」
グリム「いうの遅いんだゾ!」
ペシッとグリム君にパンチをされた。…肉球の感覚が頬に残る。
カリム「お前への攻撃を防げばいいんだな!」
「ええ、お願いね」
カリム「…俺は難しい事分からないけど、エリーゼは信じる。だから…ジャミルを頼む」
ガーネットの瞳がジッと私を見る。彼の瞳は、私と真反対の色をしている‥けど、とても綺麗。
「ええ、必ず…カリム君がジャミル君を殴る為に」
カリム「…うん」
カリム君は杖をトンと叩く、すると杖の先端から葉っぱの突風が現れ、ジャミル君に放たれた。それを片手でいなしたジャミル君だが、その隙をついてアズール君が氷の魔法をくらわせる。
「…サラマンダー、君も力を貸して」
サラマンダー『契約?』
「ええ」
サラマンダー『わかった~』
そして、私は宙に浮かぶノームとウィンディーネを見た。
「2人とも、お願い」
ウィンディーネ『わかったわ。私、タコの坊やと組んであげる』
ノーム『わしはこの子と組むか』
ノームはカリム君の方に乗ったまま言った
ウィンディーネ『こんなとき、熱砂の国の不死鳥がいれば、灰に戻してくれるのに』
ノーム『あやつほど気まぐれな鳥は見た事ない。諦めた方がいい』
ウィンディーネ『それもそうね。タコの坊や、うまく合わせてね』
ノーム『小僧、わしについてこれるかの?』
アズール「…またお願いが極端ですね」
カリム「よく分からないけど、分かった!」
アズール君は水、カリム君は草の魔法をそれぞれ吐き出す。
水と水の精霊、草と大地の精霊。
相性はいいため、それぞれの攻撃が重なり、巨大な合体魔法に成りあがる。
そして、彼らが築いてくれた大きな隙を逃さず、攻撃するグリム君達。
紅の魔人が一歩ひき、ジャミル君が腕を交差し、目を瞑った。
今…と思い走り出そうとした時、グリム君が私の方を向いた。
グリム「また…起きなかったら許さないんだゾ!!」
監督生「絶対帰ってきてください!!」
凄く止めたそうに、だけど私を送り出してくれる小さな体
私はそんな彼らにふっと笑みを浮かべる。
「…いってきます」