熱砂の策謀家

___あぁ、本当に最近嫌な事ばかり思い出す。
 
___忘れていたい記憶だったのに…。

「…私も裏切りを受けた事がありますよ。大事な人に」

カリム「え…」

「義理の姉に‥海に突き落とされたの」

その言葉にカリム先輩はえっ!?と声を上げる。

フロイド「それって前話してくれたやつ?」

ジェイド「みたいですね…突き落としたのは、貴方の姉だったんですか」

「当時の私は今のカリム君みたいに、信じたくないと言い張っていましたけど……‥姉は、疲れていたの。私に対して……今のジャミル君みたいに」

カリム「……悲しく、ないのか…?」

「………」

__ブクブクッ

「…当時は悲しかった…。それこそ見ないフリをしていたから…。カリム君は今とても悲しいんでしょうけれど」

カリム「っ……」

…ここでシュナが言っていたことが役に立つのね。
今のカリム君、この間までの私とそっくり…‥。他人からはこうも情けなく見えるのね……。

「貴方は俺なんかのせいで…とか言ってるけど、貴方の言葉のお蔭で救われた寮生達だっているはずよ。ジャミル君にとって貴方は悩みの種でしょうけど………彼にとっても、貴方は必要な存在だった…と思うわ」

カリム「そ、そんな事…」

「例えそう思わなかったとしても…ほんの些細な言葉や行動で人は救えるの」

私も誰かに言われたの…と言い、俯く、カリム君の頬を掴み、顔を上げさせた。

「貴方はどうしたいの」

カリム「…俺?」

「私と姉の輪廻は、交わることはもうない。だから私はあの時の姉を殴る事も、謝る事も、また謝って貰う事も出来ないの。けど、貴方は違う。貴方はまだ……彼とやり直せる縁がある」

カリム「……」

「彼を殴るなり、許すなり、好きにすればいいの。それがあなたの自由なんだから。貴方がどうしたいか、どうするべきか……考えて」

監督生「(身に染みる言葉だ・・いつもエリーゼさんは生徒に適切な言葉をかけてくれる)」

カリム君は私の目をジッと見つめ、そっと私の手を自身の手と重ねた。

カリム「…俺は…………っ、アイツを殴って"裏切り者!"って言ってやらないと」

「…………それがあなたのするべきことなのね。自分のやりたいようにやりなさい。」

彼の頬から手を離す。

グリム「1発じゃ足らねぇんだゾ!さらにオアシスまで10往復行進させてやるんだゾ!」

アズール「ええ。それに、早くジャミルさんを正気に戻さなければ、彼自身の命も危ない。彼の魔力が尽きる前に戻らなければ」

フロイド「だからさー、どうやって戻るの?早歩き?」

グリム「そんなのんびりしてたらオレ様の鼻が凍っちまうんだゾ!!」

ジェイド「川でもあれば泳いで戻れたのですが……周辺の川はどこも干上がっているようですね」

そこらの砂地には河があったのか、くぼみができている。けれど、干上がっていて、水など一滴も無い。

カリム「川?水が欲しいのか?」

アズール「ええ。フロイドとジェイドが本来の姿に戻れば箒以上に速度が出るはずです。しかし、乾いた川を元に戻すなんて僕らには不可能……」

カリム「オレ、できるぞ」

「「「ええぇえ!!?」」」

監督生「…あ、そうか…先輩のユニーク魔法なら」

カリム「あぁ!俺のユニーク魔法【枯れない恵み】なら、少しの魔力で水を作り出せるんだ!川が作れば、寮に戻れるんだな?」

アズール「な、なんですかそのユニーク魔法!?凄すぎませんか!?」

カリム「あっはっは!普段は水道があるから全然役に立たない魔法なんだけどな」

アズール「あっはっはじゃないですよ!まだ治水環境が整っていない国などでは英雄モノの魔法じゃありませんか!そんなの、そんなの……____商売になりすぎる!!!!」

監督生「そこ今気にする所じゃないです」

ジェイド「下世話なアズールは置いておいて……カリムさん。では、お願いできますか」

カリム「川を作ればいいんだな。わかった、任せておけ」

カリム君が呪文を唱えると、灰色の空から雨が勢いよく降ってきて、枯れていた大地に水が溜まり、川になる。

グリム「すげえ……みるみる川が水で満たされていくんだゾ!」

フロイド「すげーけど……寮まで届くの?これ」

監督生「ちょっと無理かも」

確かに水は満たされている・・・けど、寮へ続くにはもっと多くの水がいる。雨が降っているのはこの地域だけ、とても寮へ続いているとは思えない。

流れが…足りない。

カリム「っ…もっと水を作り出せば!」

ジェイド「カリムさん!貴方が無理をし過ぎたら、それこそオーバーブロットしてしまいます!」

少量の魔法でも水が作れると言っても使いすぎればそれこそ終わりだ。

…ウィンディーネがいてくれたら、水を運んでくれるのに…。

__【自力で壊すしかない】___


頭の中でシュナの言葉が浮かんだ。どうやって壊すの……。

ぎゅっと銀の腕輪を掴む。

カリム「っ…はぁ」

カリム君が息を吐くと、雨は止まってしまった。

グリム「クソ~頑張るんだゾ!カリム!」

アズール「長時間の使用は、やはりかなり答えるようですね」

カリム「ま、だだ…!ジャミルの所に早く…!」

___役に立たなきゃ

___今、何も出来なかったら……私はまた…………。

【お前の力は人を不幸にする】

【貴方は一生孤独でいなさい】

「っ………くっ」


【自分の過去という籠の中で、息をひそめる必要はない】

「!」

私は爪を立てていた手を緩めた。

【もう籠から出て、飛び立つだけじゃ。創造しろ、全てを。お主が持ちゆる全ての知識で、経験で、それが全て・・・・“魔法”へと繋がる】


私が、今まで生きてきて、経験してきたこと、今まで身につけてきた知識___それは全部“1つに繋がる”。

人との出会いも___精霊たちとの出会いも___全ては___繋がる。

魔法は単純に見えて複雑。感情によって制御されるのではなく、自らの魔力と対話するの。

耳を澄ませて創造するの・・・ないなら造るの

_____人から吐き出される魔力すらも、“彼ら”が現れる事を___全て、創造するのよ。

__ピキッ____

「”我が刃は崩れ落ちぬ 水流をつかさどるは我が使命 海のものよ我が声にこたえよ”』

___パキパキッ、ピキッ

アズール「!?これは」

カリム「!?…な、波が…」

カリム君が作り出した川に、波が出来る。その波は一つに交わり……大きな渦へ変化する。

「…おいで、“ウィンディーネ”」

私がそう呟いたと同時に……パキンッ、と腕輪が壊れた。

パキンッ、と腕輪が壊れたと同時に、久しく見ていなかった‟彼女”が現れた。

ウィンディーネ『よくやったわね』

「あ・・・」

ウィンディーネ『鉄薔薇の腕輪をつけられるなんて!!!! 私はノームやサラマンダーも心配したのよ!?』

「ごめんね」

久しく会ってなかったウィンディーネ…やっぱりかなり心配させていた様子。

・・・でも暢気に感動している暇はない。

「あ、あのさ、お叱りは後で受けるから・・・・」

ウィンディーネ『あ、後でいいってどういうことかしら!!』

「ごめんね、時間がないの」

割と失礼だと思うが、このままじゃカリム君が作ってくれた水も凍ってしまうし、ジャミル君も危うい。あとで何十時間でも説教させてあげるから、今は急いでほしい。

ジェイド「…四大精霊のウィンディーネにこうもあっさりと」

カリム「え!?よ、四大精霊!?」

アズール「…彼女、段々荒っぽくなってきていませんか?」

フロイド「まぁ、いいんじゃない?時間ねぇーの事実だし」

グリム「こいつも極端なんだゾ」

監督生「それだけ心配だったってことですよね」

「カリム君」

カリム「!な、なんだ」

不満そうな顔をするウィンディーネを肩に乗せつつ、驚いているカリム君を呼ぶ。本当は色々と説明したいけど…時間がないから割愛させてもらう。

ウィディーネ『あら、可愛い坊やだこと。貴方からも愛しい子と似た匂いがする…まぁ、あなたほどじゃないけど』

「ウィンディーネ、カリム君に水の魔力を注いであげて欲しいの」

ウィンディーネ『この枯れた大地を潤わせるのね』

今この状況ではカリム君の“オアシス・メーカー”が頼り…だけど、彼の魔力が底を尽きてしまえば、もう打つ手も無いし、状態が悪化する。

水の精霊であるウィンディーネが彼に水の魔力を注ぎ込めば、自分自身の魔力を使わずとも、魔法が使える。同じ水属性の魔法を持つカリム君とは、魔力の波長もあうし、中で喧嘩する事はない…筈。

「できそう?」

私がそう聞くと、彼女は「うーん」と悩みだす。

…やっぱりそう簡単には駄目かな。

ウィンディーネ『あなた、熱砂の国の子?』

カリム「あ、あぁ…そうだけど」

ウィンディーネ『砂の地を持つあそこは、地の精霊の加護が強いから、直接魔力注ぎ込むのはできないわ』

あぁ、そうか…水と地は相性が悪い・・・ノームとウィンディーネが喧嘩するように。

グリム「えぇー!?折角呼んだのに、できねぇーんじゃ意味ねーぞ!」

ウィンディーネ『これは、精霊間の決まり事・・・・でも』

ウィンディーネは水の塊を指から放し、塊を頭上へ浮かばせる。
そして私の方へ来て、髪の一束を掴んだ。

ウィンディーネ『愛し子を通してなら…‥出来るかも』

「…私を通して?」

カリム「ど、どういう事だ?」

ウィンディーネ『愛し子が私の魔力を受け止めて、坊やに注ぎ込むの、お互いの波長が合わないと出来ないから、簡単にはいかないわ』

私が彼らに協力を頼むように、全てを“創造”させないといけない。

今のウィンディーネの言い方だと、私とカリム君の2人で、それをしないといけない。

つまり、お互いの景色が違えば、魔力を注ぐことも、吐き出す事も出来ない…。

出来る出来ないか…今悩んでも仕方がない。

「カリム君、やりましょう」

私は彼の手を掴んだ。
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