熱砂の策謀家

フロイドSIDE

アズールやジェイドがラッコちゃんをみてるから、オレはウミヘビ君から目逸らさないようにしてくれって言われたけど…

何かエリーゼと喋ってる。エリーゼも何か楽しそうだし…。

…‥…何か、面白くねー。

そっと2人に近付き、会話に聞き耳立ててると…ウミヘビ君が、エリーゼにラッコちゃんの事好きなのかとか聞いてる。

好きって言うエリーゼに吃驚してるけど…あれ、絶対そういう意味じゃねぇーんだよな。

あ、ウミヘビ君が( ゚д゚)顔してる……うわ、ウケる。

トド先輩とかアピールしてるけど、全然気づいてないし、靡かないんだよなぁ、エリーゼって。

学園町の娘で、精霊から好かれる体質…あ、今はないんだっけ。

それだけでも集まる奴はいっぱいいるけど…‥。

『絶対にやり遂げて見せます!アズール君をあのままにはしておけません。私が化身を弱らせるので、アズール君から化身がはがれるよう攻撃してほしいんです!お願いします!』

アズールを助けた時、エリーゼが俺等に言った。あんなちっけー体で、本当にアズールを元に戻してくれた。

…俺等がやった事も、忘れたとか言っていたけど……本音は分からない。

だって、マジで死にかけたんだから。恨み言言われる覚悟してたのに……。

『そんなに気にしないで。今こうして生きてるから』

……あれはマジで忘れてた顔だったなー。ジェイドと一緒になってあんな風に笑ったの久々だったかも。

面白ぇ玩具だったのに___玩具には見えなくなっちゃった。

アズールも素直になれないだけで、本気でエリーゼの事お姉ちゃんみてえに思ってるし、ジェイドだって気に入っていると思う。

「ウミヘビくん~エリーゼ~。何サボってるの~」

2人が俺にビックリしてる。アザラシちゃんと同じ蒼い目で見つめてくるエリーゼ。でも、アザラシちゃんとは違って、ずっと見たくなる…ずっと俺だけを映して欲しい。座るロゼッタに抱き着いた。

「…お、重いよ」

フロイド「え~いいじゃん。俺も構って~弟でしょ~」

「か、構ってって…うっ」

ジャミル「フロイド、エリーゼが潰れるぞ」

フロイド「え~じゃあ持ってく」

え、と2人が声を出す前に、エリーゼを抱え上げた。持っていた教科書、地面に落ちたけど……ま、スカラビア寮のだし、いっか。

ジャミル「っ…お、おい!フロイド!!」

ウミヘビ君が立ち上がり、俺を止めようとするが、ヒラリと躱す。
……ハハ、マジ、ウケるわ。

さっきラッコちゃんとエリーゼがくっ付いてた時も、凄ぇ顔してた。

……嫉妬してる顔だ。

フロイド「…ウミヘビ君さ~エリーゼは駄目だよ~」

ジャミル「は、はぁ?」

フロイド「俺が気に入ってんだから、エリーゼはあーげない♪」

ウミヘビ君は何か言おうとしたけど、その前に俺はエリーゼを抱えて逃げた。あー、嫉妬するウミヘビ君、面白ぇな~

__大食堂

午前の運動を終え、昼食の時間になり、学園の大食堂へ。

アズール「僕達のような育ち盛りに一番大切なもの。それは……そう、食事です!必要な栄養素を過不足なく。かつ腹八分目に摂取することが午後のパフォーマンスに影響を与えます」

ジェイド「調理は食物に関する知識や、健全な食生活を得るためにも非常に重要です」

カリム「オレもたまには料理してみようかな?自分で作れれば、毒の心配もしなくていいし……」

ジャミル「やめとけ。また怪我をするぞ」

「…またって事は怪我したことあるのね」

「あぁ、何度も」というジャミル君の顔から苦悩が伝わる。
…それを処理してきたのは貴方なのね。

フロイド「んじゃ、ラッコちゃんは鍋かき混ぜる係してよ」

ジェイド「スープを焦がさないよう、しっかり見張っててくださいね」

カリム「おう、わかった。任せとけ!」

ジェイド「さあ、みなさん。美味しい昼食を作りましょう」

渡されたお玉を片手にスープを回すカリム君。そして、それぞれ作業をする。ジャミル君はカリム君を見ていたが、アズール君にガードされているせいか、近づける様子はない。

ジェイド「エリーゼさんは本当に手際がいいですね」

「料理は得意だから」

グリム「エリーゼの料理は絶品なんだゾー!」

監督生「そうだね」

ジェイド「エリーゼさんが考えた新作のメニューはどれもモストロ・ラウンジで高評価ですよ。メニュー作りに関しては貴方に一任してもいいかもしれませんね」

「…あ、そうだ。メニューを決めかねてたわよね」

ジェイド「えぇ、彩がある料理が少ないので、新しく作ろうかと」

「だったら1つ考えたのがあるけど…聞く?」

ジェイド「それは、ぜひ」

丁度野菜を切り終わったので、焼く作業を寮生の人に任せ、ジェイド君に近付いた。


ジェイドSIDE

エリーゼさんに新メニューについて聞く中、周囲に目配りをしてみる。
まぁ、アズールとフロイドの反応は分かります。

多少気に喰わなそうにしていますが…仕事上の話なので、関わっては来ないでしょう。

が、約2名…

カリム「……はぁ」

ジャミル「…っ」

お玉を片手に鍋を混ぜつつ、此方を見て、溜息を吐くカリムさんと、
寮生達やカリムさんを見張りつつ、此方を険しい顔で見つめるジャミルさん。

その視線の先には僕ら…というか、エリーゼさんが映し出されている。

「…なんだけど…、聞いてる?」

ジェイド「えぇ、聞いていますよ。僕が植物園で育てているシモフリシイタケを使ったメニューですね」

「ええ。お肉と同じ位ボリュームはあるけど、アッサリしていて、健康にもいいから。ご飯ものとセットしたり、ツナ代わりにサラダに混ぜてもいいんじゃないかしら」

彼女はごく真面目に新メニューについて話して下さっていますが……周りの視線が鋭いですね。

「問題はシモフリシイタケの量産よね」

ジェイド「……そうですね」

暢気に新メニューについて考えているエリーゼさん。

ついこの間まで、僕らに殺されかけていた…のに、何でこんなに笑えているのやら。まぁ、ご本人はそれを忘れていましたけど…。

この華奢な体で、あそこで僕を睨むアズールを、オーバーブロットの闇から救い出してくれた。

今回だって、精霊が見えなくなったことから、かなり辛い思いをされている筈なのに…。

『やるべきことはやるわ』
 
ジェイド「何故、ここまで前を向けるのか…心底疑問ですね」

「え?何が?」

ジェイド「いいえ、こちらの話ですよ」

キョトンとした彼女の頭をウィンディーネがしていた様によしよしと撫でる。ガタリ、と音が複数したので、音の方を見ると、

お玉を落としたカリムさんと包丁を叩き落としたジャミルさん。そして、僕の片割れと、カリムさんを見張るアズール。

本当に色々と惹かれている人がいるのに、なぜ気付かないのやら…。まぁ、この鈍感さからこの学園で守られているんでしょうけど。

ジェイド「エリーゼさん、いつでも頼って頂いていいですからね」

「え、何の話?」

アズールやフロイドのような感情かは…分かりかねませんが……
貴方の事は気にいっているんですよ。その蒼い瞳に僕だけが映ると、とても心地いいですから。

…まぁ、恐らく自覚はしない方が僕の為でもあるんですが…ね。

****

昼食を済ませた後、食休めをとった後、占星術の授業に入った。

アズール「スカラビアのみなさんは占星術や古代呪文語が得意な方が多いのですね」

カリム「砂漠の魔術師は"先読み"を得意としていたから、そういう魂の資質を持った生徒が集まりやすいらしい。オレはどっちも得意じゃないけどな。あっはっは!」

アズール「砂漠の魔術師は、自然のエネルギーが必要とされる占いを人工的な装置を用いて成功させたと聞きます」

監督生「へぇ、そうなんですか‥」

アズール「占星術が他の魔術に比べて体系化が早かったのは……先進的な考えを持つ彼の功績も大きかったのではないでしょうか」

カリム「へぇ~。やっぱグレート・セブンってすごいぜ!」

「そうね」

チラリとジャミル君を見ると…何か、大分苛々している。

これは、そろそろかな…。

アズール「おや、もうすぐ3時だ。もう少し勉強したら休憩しましょう」

ジェイド「なら、お茶の準備をしてきましょうか?」

アズール「いえ、僕が準備しましょう。一番課題が進んでいますので」

ジャミル「なら、俺も手伝おう」

アズール「それは助かります。では、行きましょうか、ジャミルさん」

そして、2人は談話室から出て行った。出て行く直前、アズール君と目が合い、彼は頷いた。


「…ジェイド君」

ジェイド「えぇ、では皆さん、勉強の手を止めてください。ノートを閉まって、スマホをお手元に」

全員困惑しつつ、言う通りスマホを出した。……本当にこれでいいのかしら。

寮生達皆、指示を出し、アズール君のマジカメアカウントを開いている。そこから、2人の声が、聞こえてきた。

アズール[カリムさんも寮生からの信頼を取り戻せそうで良かったですね]

ジャミル[……それじゃあ、困るんだよ]

アズール[え?]

ジャミル[悪いが、君達をこれ以上スカラビアには置いておけない。海の底へ帰ってもらう]

寮生「…ジャ、ジャミル先輩?」

寮生「ど、どうしたんだ?」

カリム「…ジャミル?」

突然聞こえてきたジャミル君の低く、冷たい声。明らかにいつもと違うジャミル君に動揺する寮生とカリム君。

でも……きっと、“こっち”が彼にとっての“素”なのよね。

アズール[ジャミルさん、急にどうしたんですか?僕、なにか気に障ることでも……?]

ジャミル[本当にわからないのか?この俺も、悲しい顔を見ても?]

アズール[え……?]

ジャミル[__俺の目を見たな。馬鹿め]

アズール君の声が聞こえる前に…ジャミル君のフッと鼻で笑う声が聞こえた。
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