熱砂の策謀家

翌朝、久しぶりにぐっすり眠れた気がする

ジェイド「エリーゼさん、おはようございます」

ふと、隣を見ると、キッチリとモストロ・ラウンジの制服を着こなしたジェイド君がいた。

「…ジェイド君、おはようございます」

グリム「ふにゃ?オアシスまで行進か?」

監督生「もう‥無理」

私と一緒にユウとグリム君も起き上がる。ジェイド君の隣には、アズール君もいた。彼も制服を着こなしている。

アズール「行進しないために早起きしたんです。さぁ、行きますよ」

そう言うアズール君達が部屋を出る。それに慌ててついていった。

___スカラビア寮 カリムの部屋

やってきたのはカリム君の部屋

監督生「…寮長の部屋ってどこも広いな」

大きいベッドに、開放的な部屋…レオナさんの部屋に似ている。
まだ窓がある分、違うけど。

そして、未だ毛布にくるまり、眠っているこの部屋の主人を覗き込む。

「…カリム君、起きて」

カリム「うぅ……あと1時間」

「ふふっ。5分10分とか聞いたことあるけど、1時間は初めて」

ジェイド「カリムさん、おはようございます」

カリム「ジャミルか、おはよ……」

目をこすりつつ、起き上がるカリム君…まだ寝ぼけてるわね

ジェイド「いいえ、僕はジェイドです。そういえば少し名前の響きが似ていますね」

カリム「え……あれ?なんでお前達がここにいるんだ?」

ジェイド「目覚めの紅茶とお着替えの準備が出来ております。さ、起きてください」

カリム「え?え?なんだ?あれ?ジャミルは?」

アズール「心配しないで。お着替えの手伝い僕らでも出来ますよ」

監督生「カリム先輩、寝癖ついてますよ」

「寝癖治すからこっち向いてちょうだい」

カリム「て、監督生!?エリーゼも!?何で?!」

驚くカリム君の寝癖を直し、机に置いてあるターバンを手にかける。
動かないでね、とカリム君に念押しして、ターバンを巻いていく。

と、その時、ノック音が響き、部屋の扉が開いた。

ジャミル「カリム、そろそろ起きる時間……」

「おはようございます、ジャミル君」

ジャミル「なっ!?アズール、ジェイドそれにエリーゼ、グリムに監督生まで。何故お前達がカリムの部屋にいる!?」

私達の存在を見て、目を見開くほど驚いているジャミル君。

そうしている間にもターバンを巻いて完成する。

監督生「上手ですね、エリーゼさん」

「見よう見まねでやったけど、上手に巻けてよかったわ」

アズール「ああ、ジャミルさん!おはようございます。今日からはもう少しゆっくり眠っていてくださって大丈夫ですよ。これから休みが明けるまで毎日、僕らがカリムさんのお世話をしますので」

ジャミル「ハァ……!?」

アズール君の出した提案にまた驚くジャミル君。

アズール「昨夜、貴方とお話していて気がついたんです。この寮で今、誰よりも忙しく働いているのは……ジャミルさん。貴方だ!」

ジェイド「僕達は今、食客としてスカラビアにお世話になっている身ですから、なにかお手伝い出来ないかと考えまして」

グリム「名付けて"ジャミルお助け隊!"なんだゾ」

私達の言葉に「何言ってんの?」という顔を浮かべるジャミル君。呆れてるわね、この顔は…。

ジャミル「な、なにを馬鹿な……いや、そういうわけにはっ」

カリム「お、おお、おおお~!!」

ジャミル君の言葉が掻き消され、カリム君が急に呻き声を上げだした。
その呻き声、お義父様を思い出すな…。

カリム「それ、いいな!オレもジャミルの仕事が楽になる方法はないかとずっと思ってたんだよ」

ジェイド「従者を思いやるカリムさんのお気持ち。とても美しいですね。
アズールに爪の垢を煎じて飲んでいただきたいくらいですよ」

アズール「はっはっは。本当にお前は一言余計だな、ジェイド」

睨み合う2人の間に入り、まぁまぁと宥める。さらりと毒を出すジェイド君、怖いな…。

アズール「ここは僕らに任せて。ジャミルさんはのんびり寛いでください」

カリム「そうさせてもらえ、ジャミル!良かったな」

ジェイド「さあさあジャミルさん。お部屋に戻って二度寝でもなさってください」

ジャミル「ちょ、お、おい!」

ジェイド「エリーゼさん、ジャミルさんをお部屋まで」

カリム君の事を他の人に任し、私はジャミル君の背を押し、カリム君の部屋から出した。

ジャミル「なんなんだ一体……」

「カリム君もあぁ言ってるんだから…二度寝したらどう?」

ジッと私を見るジャミル君。真意を探っている目だ。

「とりあえず、部屋に戻らない?」

ジャミル「…客人を働かせておいて、俺だけ眠る訳にはいかない。朝食の支度だけでもする」

「え!?」

談話室の方へ歩き出すジャミル君の手を掴む…けど、力が強すぎて、引き摺られる。

「や、休んだ方がいいわ!!」

ジャミル「俺はカリムの従者だ。カリムは俺が作った飯じゃないと食べない」

「だとしても…ちょ、ちょっと…一旦止まって…きゃっ!?」

引き摺られ過ぎて、前に倒れ込み転びそうになる。・・・それを受け止めたのはジャミル君。

ジャミル「何をしているんだ」

「・・・・止まってくれる?」

ジャミル「………分かった」

「・・わかってくれたかしら?」

ジャミル「じゃあ、一緒に行こう」

ギュッと手を握られる。え?と呟く前にグイッと引っ張られた。

「ちょ、ジャミル君!?」

ジャミル「俺は俺の仕事をする。君は俺の見張りをすればいいだろう」

「私の願いは部屋に戻って休んでほしいだけ」

___スカラビア寮 談話室

フロイド「あー、そこの小魚ちゃん。それまだ仕上げの調味料かけてないから運ばないで」

寮生「し、失礼しました!」

寮生「オーブンに入れてた野菜、焼き上がりました」

フロイド「それはもう味付けされているからてきとーに机に運んで」

ジャミル「ちょ、朝食の準備が済んでいる、だと……!?」

結局手を握られつつ、ジャミル君に付いて行く形となった。

ジャミル「これは、君がやったのか、フロイド」

フロイド「ウミヘビくん、おはよ~。そ、オレとスカラビアの小魚ちゃん達が作ったんだ」

「…アズール君がジャミル君を助けてあげたいっていうから、フロイド君も協力してくれたのよ」

ジャミル「そんっ……、そんな、客人を働かせるわけには」

フロイド「別にオレら客ってわけでもなくね?合宿相手じゃん」

フロイド君の言葉にうっと、言葉が詰まるジャミル君。
だ、だが…と言葉を続ける。

ジャミル「カリムは俺が作ったものしか食べないんだ。毒の心配があって……」

フロイド「は~?なにそれ。オレより偏食かよ。つか毒とか入れねーし。
じゃあ、ウミヘビくんが毒見したら?そしたらラッコちゃんも食べれるだろうし」

ジャミル「それは…そうだが」

フロイド「つーか、なんでエリーゼと手握ってんの?」

「引っ張られちゃって…離してほしいんだけどな?」

ジャミル「?…あ、あぁ、すまない」

漸く気付いたのか、ジャミル君は手を放してくれた。

ジャミル「す、すまない、引き摺ってしまったな」

「無理に止めようとしたのは私だから…気にしないで」

困惑するジャミル君の元に、寮生達が料理を運んでいく。毒見をしてくれと頼んでいるようだ。流石に寮生達の事まで無下に出来ない為か、素直に毒見だけをしてくれた。

ジャミル「…そういえば、今日の朝のオアシスへの行進の準備は出来ているのか?いつも朝食は行進の後なのに……」

アズール「その件についてですが」

背後からアズール君の声が聞こえた。い、何時の間に…。

アズール「オクタヴィネルの寮長たる僕から、スカラビア寮長たるカリムさんへ改善案を提案しまして」

ジャミル「わっ、なんだ急に!」

アズール「長距離歩行という有酸素運動より……室内で適度な筋トレを行った方が持久力や筋力の改善には大きな効果があります。なによりスカラビアの砂漠は熱いですから熱中症も心配ですし」

確かに‥。この日射の中、朝食も食べずに行進したら、それこそ身体に悪い。倒れかけている生徒もいたしね。

フロイド「てかさー、庭にデカい噴水あるじゃん。体力つけたいなら泳いだ方がいいって。楽しいし」

「…あの噴水で泳ぐのね」

アズール「そうですね。これは実体験ですが、歩くより泳いだ方が脂肪燃焼効果も期待出来ます」

寮生「つまり……もうあの行進をしなくていい……?」

寮生「やりましたね、副寮長!」

アズール「なにより、朝食を抜くことは疲れやすさや集中力の欠如を招きやすいんです。食べ過ぎは禁物ですけどね」

行進しなくていいという事実に気付き、寮生たちは嬉しそうに騒ぐ。そこへカリム君が談話室へやってきた。

カリム「おはよう。おっ!もうメシの準備が出来ているのか」

グリム「うひょー!美味そうなんだゾ!」

監督生「グリム、まだ食べちゃダメだよ」

カリム君の登場にビクリとした寮生達だが、いつもの優しいカリム君だという事に気付くと、ホッと胸をなでおろし、「おはようございます」と挨拶をしていた。
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