熱砂の策謀家

アズール「ふふ……。しかし、その意思の固さこそが、今回のスカラビア騒動の真実を白状したようなもの。あとは仕上げです。砂に潜った犯人の尻尾を捕まえるとしましょうか」

「………あとは“コレ”の外し方も聞かないと」

そっと右手首のバングルに触れる。

グリム「コレ?カリムから貰った奴じゃねーか。外しちまうのか?」

「ええ。これのせいで私、彼らが見えなくなったんだから」

グリム・監督生「ええ!?」

ユウとグリム君がかなり驚いた声を上げる。

アズール「やはり、そのバングルですか」

「えぇ、恐らく。私が見えなかったり、聞こえなくなったりしたのは…これを付けてからよ」

グリム「じゃ、じゃあ…それをあげたカリムが犯人じゃねーか!」

「いいえ。カリム君は私にこれを“渡した”だけ…選んだのは“彼”よ」

監督生「彼?」

ユウがキョトンとした顔をする。

___ここへ来た時から、彼女に似合うと思っていた___

つまり、ここへ来るときから、私にこれをつけようとしていたんだろう。
抜け目ないわね、あの子…。

蛇に魅入られるとはこのことだわ、本当に恐ろしい。

けど、だからこそ__彼を止めないと。

フロイド「んじゃ、外してみよ~」

「あ、いやこれは…痛っ!?」

言葉を続けようとする前に、フロイド君が無遠慮に私のバングルを掴んで、引っ張る。というか、腕を引っ張ってる。

ジェイド「フロイド、乱暴にしてはいけませんよ」

フロイド「だって~こっちの方が早ぇじゃん……でも抜けないね~」

アズール「力任せに引っ張って外れるなら、エリーゼさんも苦労しませんよ。恐らく魔法道具の一種でしょう」

そっとアズール君がバングルに触れ、魔法を当てる。だが、マジカルペンから放たれた光が掻き消された。

アズール「…とても強力な魔法道具ですね。我々の力では外れないでしょう」

「…やっぱり本人を問い詰めるしかないのかしら」

アズール「……素直に外してくれるとも思えませんが…」

監督生「じゃあ、どうすれば・・・」

こんな時に彼らに協力を仰げれば…て、無理よね。

「………ごめんなさい、少し外の空気吸ってくるわね」

皆に断りを入れて、空き部屋を出る。

__スカラビア寮 噴水前

庭に出て噴水の縁に座る。アズール君達が着たお陰か、寮生達が見回る事も無くなり、普通に外に出れた。

はぁ、と溜息を吐き、空に浮かぶ満月を見上げる。


「……どうやって外せば」

ふと、月を見上げていると……何かこちらに近付いてくるのが分かる。
パタパタと羽根を動かす…‥鳥?

「……紙の鳥?」

紙のようなもので造られた鳥だった。精霊…じゃにわよね、今見えないし。此方まで来た鳥を掌で受け取める。羽根も嘴も全て紙で出来てる。
玩具か何かかしら?

【息災かえ?エリーゼ‥いやロゼッタよ】

「……‥え」

見知った声で話す紙の鳥に目を丸くする。この口調と、この声は間違いない。

「シュナ」

【直接は出向けないゆえ、代わりにその鳥を飛ばさせてもらったぞ】

「魔法道具なの?」

【否、魔術系じゃ…紙に魔力を込めて、鳥に形を作り替えた。 じゃが、少量しか魔力込めてないから片道しか持たない。其方たちの言葉でいう電話の代わり、じゃな】

ふと、掌のその鳥は、右手首のバングルを紙の嘴でツンツンと小突く。

【面倒なもんつけられたものじゃな…。学生の魔法じゃ跳ね返すのは無理じゃ。術者自体に印を解いて貰わなければならぬ。】

「これって・・・呪術道具なの?」

【そうじゃ・・・精霊たちの動きを止め、捕縛するための物だろう】

「それって禁忌じゃ」

【其方の言う通り……鳥の目線だからよく見えぬが…‥恐らく“鉄薔薇の腕輪”という呪術道具で間違いないじゃろう。 奴らは鉄を嫌うものじゃから。その腕輪も、宝飾品の宝石も、全て鉄が原石じゃぞ】

彼らを捕縛するための呪術道具…?でもつけているの私だから、意味ないんじゃ?

【本来妖精を捕らえる物じゃが…… 加護を受けとるお主からすれば、その加護を奪うものという事じゃ。 それのお蔭で、奴らはお主に近付きたくとも近づけないのじゃろう。腕輪を相手につけさせ、最初に魔力を込めた奴が術者の資格とされる。ロゼッタよ、誰が魔力を注いだのか…目星ついておるじゃろ?】

「…ええ」

【なら、その術者に魔力を抜いてもらうしかない。それが出来ない場合は___自力で壊すしかないぞ】

「壊せるの?」

【知らぬ。やった事無いからのぉ】

なんて無責任な

【術にかかったのはお主。用心しなかったお主じゃ。いつも奴らが助けてくれるとも限らぬ。今回はいい機会じゃろう】

「そ、それは……そうだけど……どうやって」

【うーん、分からぬ】

うーんと言った割には返答が早い。とりあえず創造してみろ、とか軽く言われるけど…創造で壊れるならとっくに壊れてる。

「私、なんかに・・・できるのかしら」

ユウやグリム君にあんなに励まして貰ったのに、アズール君も大丈夫だと言ってくれたのに、やっぱり不安。

【無くなったのに、まだそこにいるの?】

「加護を失った私なんて…‥ここにいる資格、無い」

ポツリと、シュナにまで漏らしてしまった弱音。本当に嫌になる…あの夢を見てからずっとこうだ。何で、あんな夢を見てしまったの。何で、幼い私が出てきたの…。思い出したくなかったのに……そのまま記憶の奥底に沈んでいてくれればよかったのに。

【……お主は“まだ”怯えているのか?あのカラスは学園に不必要な奴を居すわらせる程、大馬鹿じゃない。そんな馬鹿なら、あいつだってすぐにお主を追い出したはずじゃ】

「……」

優しく頭を撫でたり、気にかけてくれる。私のことを一番に考えて今まで育ててくれた。
だけど、本当に必要がなくなれば、捨てられる。

“また”、孤独になるのが怖い。

「…慣れちゃったの、この生活に__だから1人が怖い」

【周りの奴等はお主をすぐ見捨てる奴等なのか?】

「…え」

【必要ないだの、言われたのか?】

「………違うわ」

【じゃあ不安がる必要はないはずじゃ】

確かに・・・そうだけど・・・そうだけど

【貴方は一生孤独でいなさい】

「……アリアドネは、私にそう言った。昔はもっと優しくて、不幸にだからとか、孤独でいろとか言わなかった。私が‥加護を持って生まれたから・・・・私は・・・必要ない」

【お主…愛されている自覚がないのじゃな。まぁ、そんな環境に長年いたんじゃ、仕方がないのぉ】

「…っ」

【わっちも1人は怖い。1人だと、変なことを考える……自分が本当に必要となのか、役立てているか…そんな事ばかり考えておった。わっちのしたことは、謝っても謝っても、ゆるされないことじゃ。じゃが、こんな穢れたわっちにも…好んで側いるものがおる。 その時に改めて、わっちは1人じゃないって思えた】

「・・・」

【お主だって、自分が一人じゃないと思える奴が、 側にいるじゃろ?】

紙鳥が寮の方を向いた。振り返ると、寮の中から、ユウやグリム君やフロイド君の声が聞こえる。

【あの声が聞こえる限り、お主は1人じゃない】

「…っ、でも……結局私は何も出来ていない。ただの役立たずのまま、この世界にいる。そんな私に…これを壊す事だって出来る訳が…」

【ただの役立たず…と自分を貶す割には、お主は多くの奴を助けてきた】

助けた?私が…?俯いた視線を紙の鳥の方へ送る。

【言葉は凶器。じゃが、人によっては救済でもある】

「……救済?」

【お主が影へ入り、“彼”の手を掴んだことで・・・救われた奴はいる筈】

影……オーバーブロットの事?

【お主がいたお陰で、 赤の坊やは、自分と、親と、友と向き合える事が出来た】

……これは、リドル君のこと。

【お主が手を差し伸べたお陰で、獅子の王子は、認めれている事に気付き、前を向くことが出来た】

獅子の王子…レオナさん

【お主が向き合ってくれたお蔭で、人魚の彼は、過去の自分を見つめ直すことが出来た】

人魚の彼……アズール君だ。

「……私が、私だけが救ったんじゃない。ただ、言葉をかけた、だけ」

【赤の他人の為に言葉をかけ、向き合い、戦う事が出来るのは…十分強い者の証じゃ。それなのに、“だけ”とか“なんか”とか…貶すという事は、 助けられた彼等を貶していると同じことになるぞ】

その言葉に、顔を上げ、首を振った。だけど、紙の鳥はジッと私を見つめる。

【お主自身の価値を、そこで終わらせるものじゃない。呪いを生み出したのは誰にしても、 その呪いを解いたのは__少なからず、お主の言葉だ】

紙の羽根で飛び上がり、私の頭に乗った。

【見出してみるが良い、自分自身を。加護の力には創造が大事じゃ。よく覚えておくようにな】

よしよしと紙の羽根で私の頭を撫でてくれる…撫で方がお母様と似ている。

すると、寮の方からグリム君の声が近付いてきた。その声と同時に、頭が軽くなる。

【自分の過去という籠の中で、息をひそめる必要はない】

「!」

【お主はただ、行きたい場所に行けば良い、願えばいい。お主はもう…自由じゃ】

バタバタと足音が近付いてくる。

バサリと大きく羽根を広げる紙の鳥…。だけど、その紙が徐々に破れ始めた。

「っ!?し、シュナ!』

【おっと時間切れじゃ。やはり数分しか持たないのぉ】

「ま、待って…!私はまだ…何も!」

【もう籠から出て、飛び立つだけじゃ。創造しろ、全てを。お主が持ちゆる全ての知識で、経験で、それが全て・・・・“魔法”へと繋がる】

グリム「エリーゼ-!」

グリム君の姿が見えたと同時に、紙が全てバラバラに破け、風に流されていった。

【検討を祈ってる、私の可愛い天使】

風に流されて、シュナのそんな声が聞こえてきたがした。

そっと風に流されかけていた紙屑の1つを手に取る。

グリム「エリーゼ~!探したんだゾ!」

監督生「見つかってよかった~」

フロイド「あ、アザラシちゃん、みっけた?」

ジェイド「エリーさん、もう夜も遅いんです。そろそろお部屋に戻らないと、風邪をひいてしまいます」

アズール「砂漠の夜は寒いですからね…ん?どうしたんですか?」

「…………」

【見出してみるが良い、自分自身を】

私に、それができるのかしら……。

私“なんか”に…………いや‥‥…違う。

私だから、やらないと。

「…ごめんなさい、探させちゃって」

グリム「別にいいけどよー…ふわぁ~もう眠いんだぞ」

ん!と短い腕を伸ばし、ピョンピョンと跳ねるグリム君。そんな彼をそっと抱っこする。

監督生「ちょっとグリム」

アズール「本当に大丈夫なんですか?」

「‥何とかね」

アズール「何とかって…!」

「……やるべきことは、やるわ」

私の顔色を見て、どこか驚いた様子のアズール君。けど、私の言葉にふっと笑みを浮かべる。

アズール(何があったかはわかりませんが…憑き物が落ちた顔をしていますね)

フロイド「てか、アザラシちゃん、抱っこズリィ~」

「…フロイド君は無理よ」

フロイド「じゃあ、俺がロゼッタ抱っこする~」

「え…きゃっ!?」

グリム「ギャー!?高いんだゾー!?」

監督生「え、エリーゼさん大丈夫ですか!?」

ジェイド「はぁ…やれやれ。フロイド、あまりいじめてはいけませんよ」

アズール「そんなに高く上げ過ぎたら…あ」

フロイド君に抱え上げられ、目線の位置が大分高くなる。その結果、私は天上に体当たりする形となった。
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