熱砂の策謀家
「…私、元ヤンキーだった子に自分を偽らなくていいって言ったの」
監督生「(!!デュースのことだ)」
ジャミル「はぁ…て、元ヤン?だ、誰の事だ?」
「その子は渋ってたけど、いい関係を構築できたし、別に偽られる必要も、顔色見られる必要もないはずよ?」
ジャミル「…」
ごめんなさい、デュース君。少しだけ話してるけど、名前出さないから許して。
ジャミル「…君がそうでも、俺は…」
「私はバイパー家で従者のジャミル君じゃなくて、ただのジャミル君に話してるの」
ジャミル「!」
カチッと宝石を置き、ゴールする。唖然とするジャミル君だが、ハッとしてボードを見た。
「王手、…私の勝ちね」
ジャミル「……」
「…次は“手を抜かない”ジャミル君と対戦したいわ」
ジャミル「!?……っ」
私の発言に驚いた様子でこちらを見た。何で…という顔だ。
「私はカリム君じゃないし、アジーム家でもない、生徒の生活を支えるただの寮母。少し肩の力、抜いてもいいのよ。」
ジャミル「っ…………俺は」
ジャミル君が何か言おうとした時、パタパタと足音が聞こえてきた。
カリム「おっ、なんだお前ら。まだ遊んでるのか?」
ジャミル「えっ!?」
そこにいたのはカリム君とジェイド君。どうやらお話とやらは終わったようだ。
カリム「ん?"マンカラ"か。懐かしいな。昔ジャミルと何時間も勝負したっけ」
ジャミル「お前、もう寝てたはずだろ?どうして……そもそも1人でフラフラと出歩くなといつも言ってるだろ。
もしまた誘拐されでもしたら……」
カリム「心配症だなジャミルは。大丈夫だよ。ジェイドも一緒だったし」
ジェイド「はい、ずっとカリムさんの傍にいましたよ」
ジェイド君の方を見るジャミル君の顔色が大きく変わった。
ジャミル「__!!」
ジェイド「カリムさんは本当に親切な方ですね。色々と丁寧に教えてくださって……」
意味深気なジェイド君の発言に、ジャミル君の眼光が強くなる。
ジャミル「……お前、カリムに何をした?」
ジェイド「何……とは?僕達はただ楽しくお話ししていただけですよ」
カリム「おう、宝物庫を案内してただけだぜ?」
ジャミル「___!?……っ」
カリム「あ、そうだ、ジャミル。ウチから持ってきた銀と青の絨毯があっただろ?あれ、どこにあるか知ってるか?オレじゃ見つけられなくてさ」
アハハと笑うカリム君、だがそんな彼の腕を掴むジャミル君。
ジャミル「戻ろう、カリム」
カリム「え?なんだよ、急に」
ジャミル「いいから、部屋に戻るぞ!」
カリム「うわっ!?わかった、わかったから引っ張るなって!悪いジェイド。絨毯はまた今度な!」
ジェイド「はい。……またいずれ、フフフ」
怪しい笑みを浮かべつつ、彼はジャミル君とカリム君を見送った。
どうして・・・あんなに焦っていたの?
アズール「では僕らも部屋に戻りましょうか」
グリム「結局何しにきたんだゾ」
アズール「何を言っているんですか、十分情報は集められましたよ」
私達はマンカラを片づけ、部屋に戻ろうとした…その時。
___ポタッン
【___って?___なら、誰が俺を_____る?】
「っ……‥?」
音と共に声が脳裏に入り込んできた。これは、オーバーブロットの時の声。そして、チクリと感じる痛み…以前より全然痛くはない。
「………あれ?」
フロイド「ん?エリーゼ?」
ジェイド「どうしました?」
立ち止まった私を心配して、顔を覗き込んでくるフロイド君達。
痛みはそんなにひどい物じゃない___
だけど、この“音”は…オーバーブロットするときの音だ
でも、声なんて聞いたことない
「………これは一体、何なの?」
監督生「エリーゼさん?」
「‥‥‥…!……何でもないわ。戻りましょう」
フロイド「本当に大丈夫~?俺が担いであげようか?」
「大丈夫よ。気持ちだけ受け取っておくわね」
フロイド君の申し出を丁重に断り、私は歩き出した。
_______________スカラビア寮 空き室
空き部屋に戻り、ジェイド君からお話の内容を聞く。
ジェイド「おそらく・・・カリムさんは誰かに魔法で洗脳され、操られています」
グリム「洗脳~~!?」
監督生「ひ、人の精神を‥という事ですか?でもそんなの出来るんですか?」
「ユウ。ラギー君みたいに身体を操る魔法とは別に、精神を乗っ取るタイプの催眠魔法も存在するのよ」
監督生「…‥それって、かなり難しい魔法じゃないんですか?」
ジェイド「そうです。身体を操るものよりかなり高度な技術と魔術を必要とするので、使用出来る魔法士はかなり限られていますが……」
フロイド「アズール並の魔力とテクがないとやれないよね」
アズール「僕でも人間のように自我が確立している生き物を操るのは、難しいと思いますよ」
グリム「でも、アズールみたいにスゴいヤツ、スカラビアにはいない気がするんだゾ。寮長カリムのユニーク魔法も、水が出るだけの大したことねーヤツだったし、副寮長ジャミルも成績は10段階のオール5って言ってたんだゾ」
「……それはどうかしら」
グリム「え?」
アズール「エリーゼさんの言う通り。能ある鷹は爪を隠すとも言います」
フロイド「で、誰がなんのためにラッコちゃんを洗脳してんの?」
ジェイド「残念ながら、それについては聞き出すことはできませんでした」
フロイド「ジェイドのユニーク魔法でもわかんなかったってこと?」
監督生「ジェイド先輩のユニーク魔法?」
グリム「そういえば、オレ様たちジェイドのユニーク魔法は見た事ねぇんだゾ。どんな魔法なんだ?」
ユウたちの言葉に彼はムッとして、フロイド君の方を睨む。
ジェイド「……フロイド。ユニーク魔法の内容を他人に明かすのは感心しないといつも言っているでしょう?」
彼のユニーク魔法はそんなに人に知られると不味いものなのかしら?
アズール「……ま、監督生さんたちには種明かしをしてもいいんじゃありませんか?魔法耐性がない人間は、たとえ真実を知っても防げるものではありませんから」
グリム「なんか若干バカにされてる気がするんだゾ…」
「ジェイド君。無理して言わなくても大丈夫だからね」
ジェイド「…はぁ。仕方ありませんね」
渋々と言う感じだけど、話してくれるみたい。
ジェイド「僕のユニーク魔法は、効果を知ればほとんどの相手に警戒されてしまうので、あまり明かしたくないのですが……。僕のユニーク魔法“かじりとる歯”は……一度だけ相手に真実をしゃべらせることが出来るんです」
グリム「ピャッ!?」
監督生「嘘がつけなくなるって事ですか?」
ジェイド「……とは言っても、同じ相手に使えるのは1回だけ。一度使ってしまうと、二度と同じ相手には使えません。それに、魔法耐性の強い方や、アズールのような用心深いタイプには効かないことがほとんどです」
「効果は強力だけど、その分デメリットが多いわね。」
ある意味、契約書を介さないと暴走してしまうアズール君の魔法と似てる。
ジェイド「もともと心のガードが緩い方、あるいは相手の心に隙ができた時にしか効果がない。かなり効果範囲が限定されたユニーク魔法です」
フロイド「めちゃくちゃ怯えているヤツとか、ギャーギャー泣いてるヤツとかにも効きやすいよねぇ」
ジェイド「ふふふ、そうですねぇ」
グリム「その笑顔、めちゃくちゃコエーんだゾ……」
監督生「…考え方もかなり怖いですね」
ジェイド「ともかく、カリムさんはもともと他人との距離感が近いタイプだったので、あっさり僕の魔法にかかってくれました。しかし……」
「しかし?「
ジェイド「…彼は、話してはくれませんでした」
~数分前・ジェイドとカリム~__宝物庫
ジェイド「____貴方は、催眠魔法を使える生徒の名前を知っていますか?」
カリム「____知ってる」
ジェイド「では、その名は……?」
カリム「それは、言えない」
ジェイド「え?」
カリム「絶対に他人に教えちゃいけないんだ。昔、約束したんだ。だから言えない」
ジェイド「!……そうですか。わかりました」
ジェイド「____と、いうわけです」
かなり失礼な事を言うけど、カリム君はそこまで意思が強そうに見えない。だけど…それでもなお、魔法に逆らってでも言いたくなかった存在。
【___あいつだけは、俺を裏切らないでくれたんだ】
【従者は従者、主人は主人だ】
「……あ」
全て、繋がった気がした。そうか、カリム君は……“あの人”を守りたかったのね。
と、いう事は・・・そっと右手のバングルに触れる。
アズール「はははっ!実に面白い。カリムさんの人情に、ジェイドのユニーク魔法が敗北したわけですね」
ジェイド「非常に悔しいですが、そういうことですね」
フロイド「ラッコちゃんって超口が軽そうなのに、意外~」
ジェイド「それほど大切な約束ということでしょう」
大切な約束。この学園で珍しい位、純粋で、良い子なカリム君。
そんな彼が、魔法をかけられてでも守りたかった人。
やっぱり、あの子をそんなに信頼しているのね。
監督生「(!!デュースのことだ)」
ジャミル「はぁ…て、元ヤン?だ、誰の事だ?」
「その子は渋ってたけど、いい関係を構築できたし、別に偽られる必要も、顔色見られる必要もないはずよ?」
ジャミル「…」
ごめんなさい、デュース君。少しだけ話してるけど、名前出さないから許して。
ジャミル「…君がそうでも、俺は…」
「私はバイパー家で従者のジャミル君じゃなくて、ただのジャミル君に話してるの」
ジャミル「!」
カチッと宝石を置き、ゴールする。唖然とするジャミル君だが、ハッとしてボードを見た。
「王手、…私の勝ちね」
ジャミル「……」
「…次は“手を抜かない”ジャミル君と対戦したいわ」
ジャミル「!?……っ」
私の発言に驚いた様子でこちらを見た。何で…という顔だ。
「私はカリム君じゃないし、アジーム家でもない、生徒の生活を支えるただの寮母。少し肩の力、抜いてもいいのよ。」
ジャミル「っ…………俺は」
ジャミル君が何か言おうとした時、パタパタと足音が聞こえてきた。
カリム「おっ、なんだお前ら。まだ遊んでるのか?」
ジャミル「えっ!?」
そこにいたのはカリム君とジェイド君。どうやらお話とやらは終わったようだ。
カリム「ん?"マンカラ"か。懐かしいな。昔ジャミルと何時間も勝負したっけ」
ジャミル「お前、もう寝てたはずだろ?どうして……そもそも1人でフラフラと出歩くなといつも言ってるだろ。
もしまた誘拐されでもしたら……」
カリム「心配症だなジャミルは。大丈夫だよ。ジェイドも一緒だったし」
ジェイド「はい、ずっとカリムさんの傍にいましたよ」
ジェイド君の方を見るジャミル君の顔色が大きく変わった。
ジャミル「__!!」
ジェイド「カリムさんは本当に親切な方ですね。色々と丁寧に教えてくださって……」
意味深気なジェイド君の発言に、ジャミル君の眼光が強くなる。
ジャミル「……お前、カリムに何をした?」
ジェイド「何……とは?僕達はただ楽しくお話ししていただけですよ」
カリム「おう、宝物庫を案内してただけだぜ?」
ジャミル「___!?……っ」
カリム「あ、そうだ、ジャミル。ウチから持ってきた銀と青の絨毯があっただろ?あれ、どこにあるか知ってるか?オレじゃ見つけられなくてさ」
アハハと笑うカリム君、だがそんな彼の腕を掴むジャミル君。
ジャミル「戻ろう、カリム」
カリム「え?なんだよ、急に」
ジャミル「いいから、部屋に戻るぞ!」
カリム「うわっ!?わかった、わかったから引っ張るなって!悪いジェイド。絨毯はまた今度な!」
ジェイド「はい。……またいずれ、フフフ」
怪しい笑みを浮かべつつ、彼はジャミル君とカリム君を見送った。
どうして・・・あんなに焦っていたの?
アズール「では僕らも部屋に戻りましょうか」
グリム「結局何しにきたんだゾ」
アズール「何を言っているんですか、十分情報は集められましたよ」
私達はマンカラを片づけ、部屋に戻ろうとした…その時。
___ポタッン
【___って?___なら、誰が俺を_____る?】
「っ……‥?」
音と共に声が脳裏に入り込んできた。これは、オーバーブロットの時の声。そして、チクリと感じる痛み…以前より全然痛くはない。
「………あれ?」
フロイド「ん?エリーゼ?」
ジェイド「どうしました?」
立ち止まった私を心配して、顔を覗き込んでくるフロイド君達。
痛みはそんなにひどい物じゃない___
だけど、この“音”は…オーバーブロットするときの音だ
でも、声なんて聞いたことない
「………これは一体、何なの?」
監督生「エリーゼさん?」
「‥‥‥…!……何でもないわ。戻りましょう」
フロイド「本当に大丈夫~?俺が担いであげようか?」
「大丈夫よ。気持ちだけ受け取っておくわね」
フロイド君の申し出を丁重に断り、私は歩き出した。
_______________スカラビア寮 空き室
空き部屋に戻り、ジェイド君からお話の内容を聞く。
ジェイド「おそらく・・・カリムさんは誰かに魔法で洗脳され、操られています」
グリム「洗脳~~!?」
監督生「ひ、人の精神を‥という事ですか?でもそんなの出来るんですか?」
「ユウ。ラギー君みたいに身体を操る魔法とは別に、精神を乗っ取るタイプの催眠魔法も存在するのよ」
監督生「…‥それって、かなり難しい魔法じゃないんですか?」
ジェイド「そうです。身体を操るものよりかなり高度な技術と魔術を必要とするので、使用出来る魔法士はかなり限られていますが……」
フロイド「アズール並の魔力とテクがないとやれないよね」
アズール「僕でも人間のように自我が確立している生き物を操るのは、難しいと思いますよ」
グリム「でも、アズールみたいにスゴいヤツ、スカラビアにはいない気がするんだゾ。寮長カリムのユニーク魔法も、水が出るだけの大したことねーヤツだったし、副寮長ジャミルも成績は10段階のオール5って言ってたんだゾ」
「……それはどうかしら」
グリム「え?」
アズール「エリーゼさんの言う通り。能ある鷹は爪を隠すとも言います」
フロイド「で、誰がなんのためにラッコちゃんを洗脳してんの?」
ジェイド「残念ながら、それについては聞き出すことはできませんでした」
フロイド「ジェイドのユニーク魔法でもわかんなかったってこと?」
監督生「ジェイド先輩のユニーク魔法?」
グリム「そういえば、オレ様たちジェイドのユニーク魔法は見た事ねぇんだゾ。どんな魔法なんだ?」
ユウたちの言葉に彼はムッとして、フロイド君の方を睨む。
ジェイド「……フロイド。ユニーク魔法の内容を他人に明かすのは感心しないといつも言っているでしょう?」
彼のユニーク魔法はそんなに人に知られると不味いものなのかしら?
アズール「……ま、監督生さんたちには種明かしをしてもいいんじゃありませんか?魔法耐性がない人間は、たとえ真実を知っても防げるものではありませんから」
グリム「なんか若干バカにされてる気がするんだゾ…」
「ジェイド君。無理して言わなくても大丈夫だからね」
ジェイド「…はぁ。仕方ありませんね」
渋々と言う感じだけど、話してくれるみたい。
ジェイド「僕のユニーク魔法は、効果を知ればほとんどの相手に警戒されてしまうので、あまり明かしたくないのですが……。僕のユニーク魔法“かじりとる歯”は……一度だけ相手に真実をしゃべらせることが出来るんです」
グリム「ピャッ!?」
監督生「嘘がつけなくなるって事ですか?」
ジェイド「……とは言っても、同じ相手に使えるのは1回だけ。一度使ってしまうと、二度と同じ相手には使えません。それに、魔法耐性の強い方や、アズールのような用心深いタイプには効かないことがほとんどです」
「効果は強力だけど、その分デメリットが多いわね。」
ある意味、契約書を介さないと暴走してしまうアズール君の魔法と似てる。
ジェイド「もともと心のガードが緩い方、あるいは相手の心に隙ができた時にしか効果がない。かなり効果範囲が限定されたユニーク魔法です」
フロイド「めちゃくちゃ怯えているヤツとか、ギャーギャー泣いてるヤツとかにも効きやすいよねぇ」
ジェイド「ふふふ、そうですねぇ」
グリム「その笑顔、めちゃくちゃコエーんだゾ……」
監督生「…考え方もかなり怖いですね」
ジェイド「ともかく、カリムさんはもともと他人との距離感が近いタイプだったので、あっさり僕の魔法にかかってくれました。しかし……」
「しかし?「
ジェイド「…彼は、話してはくれませんでした」
~数分前・ジェイドとカリム~__宝物庫
ジェイド「____貴方は、催眠魔法を使える生徒の名前を知っていますか?」
カリム「____知ってる」
ジェイド「では、その名は……?」
カリム「それは、言えない」
ジェイド「え?」
カリム「絶対に他人に教えちゃいけないんだ。昔、約束したんだ。だから言えない」
ジェイド「!……そうですか。わかりました」
ジェイド「____と、いうわけです」
かなり失礼な事を言うけど、カリム君はそこまで意思が強そうに見えない。だけど…それでもなお、魔法に逆らってでも言いたくなかった存在。
【___あいつだけは、俺を裏切らないでくれたんだ】
【従者は従者、主人は主人だ】
「……あ」
全て、繋がった気がした。そうか、カリム君は……“あの人”を守りたかったのね。
と、いう事は・・・そっと右手のバングルに触れる。
アズール「はははっ!実に面白い。カリムさんの人情に、ジェイドのユニーク魔法が敗北したわけですね」
ジェイド「非常に悔しいですが、そういうことですね」
フロイド「ラッコちゃんって超口が軽そうなのに、意外~」
ジェイド「それほど大切な約束ということでしょう」
大切な約束。この学園で珍しい位、純粋で、良い子なカリム君。
そんな彼が、魔法をかけられてでも守りたかった人。
やっぱり、あの子をそんなに信頼しているのね。