熱砂の策謀家
フロイド「え~?ラッコちゃんってそんなの気にするの?」
グリム「ラッコ?」
ラッコって…カリム君の事?
ジェイド「カリムさんのことですよ。フロイドは海の生き物になぞらえたあだ名をつけるのが好きなんです」
「どうしてラッコとアザラシなの?」
ジェイド「グリムくんのことも、丸々として愛らしいシルエットに親しみを込めて“アザラシちゃん”と呼んでいるそうですよ」
グリム「“丸々として”が余計なんだゾ!」
監督生「確かに似てるかも」
グリム「おぉい!」
フロイド「ラッコちゃんは、いつも太鼓叩きながらニコニコしてるからラッコに似てるでしょ」
「……太鼓叩きながらニコニコ…確かにラッコは貝を叩いてるけど」
カリム君ががラッコか…なんか可愛い。案外似合っているかも。
アズール「そうですね。彼はいつも朗らかで、成績が悪かったくらいで情緒不安定になるタイプには思えません」
監督生「じゃあ、どうして・・・」
アズール「問題解決のためにも、カリムさんのことをもっと知る必要がありそうだ」
チラリとアズール君は目線をジェイド君に。
アズール「ジェイド。少し__彼と“お話し”してきてもらえませんか?」
ジェイド「かしこまりました」
監督生「“お話し”…‥……きょ、脅迫は犯罪ですよ」
アズール「しませんよ、そんな非道な真似、僕らがするとでも?」
監督生「割と」
アズール「……素直になり過ぎるのは頂けませんよ」
では行きましょうか、というアズール先輩の言葉を筆頭に部屋から出た。
「…ジェイド君はこっちにこなくていいの?」
フロイド「んー?ラッコちゃんの事はジェイドに任せておけばいいから、俺達はウミヘビ君のところいこー」
監督生「‥…で、ジャミル先輩の部屋って」
アズール「分かりませんから、片っ端から扉を叩きましょう」
「それはちょっと迷惑なんじゃない?」
遠慮なしに扉をノックしている。こんな夜中に失礼じゃないかしら…と思いつつ、手近にあった部屋をそっとノックした。
「ま…こんなすぐ見つかるはずg」
(ガチャッ)
ジャミル「何か用…て、エリーゼ?」
「嘘・・」
ジャミル「どうした?何かあったのか?」
「え、えっと」
アズール「ジャミルさん、こんな夜中に失礼します」
ジャミル「!…アズール、それにフロイドまで…何の用だ」
私の時は随分と優しく聞いてくれていたのに、2人に対しては警戒心バリバリだ。まぁ、昼間の事があるし当然かも。
アズール「先ほどカリムさんにご案内頂いた宝物庫で、見たことないボードゲームを見つけまして……」
彼の手には宝物庫で置きっぱなしになっていた木の板だ。それを見て、ジャミル君は目を細める。
アズール「カリムさんにルールを説明していただいたのですが、どうも要領を得ない」
フロイド「この穴のあいた木の板と宝石で遊ぶゲームどうやって遊ぶの?」
ジャミル「ああ、“マンカラ”か……熱砂の国ではポピュラーなゲームだよ」
アズール「ボードゲーム部の僕としては、ぜひ遊んでみたくて。一局手合わせ願えませんか?」
フロイド「オレもオレも~。ウミヘビくんと遊びた~い。あはっ」
グリム「勝負とあっちゃ、グリム様も参加しねぇわけにはいかねぇんまゾ!」
監督生「…その、夜分遅くですいません…その、お願いできますか?」
ジャミル「…………カリムも寝たし、まあいいか。わかったよ。この人数じゃ俺の部屋は狭い。談話室に行こう」
そして、ジャミル君と共に談話室へ向かった。
_______________スカラビア寮 談話室
フロイド「やった~~~今回はオレの勝ち!これで3勝!」
ジャミル「集中力が高い時のフロイドは、やっぱり勝負強いな」
グリム「ふぎゃー!また負けた!アズール、容赦ねぇんだゾ!」
アズール「これで僕は5勝0敗。まあボードゲーム部として当然の結果です」
ジャミル「エリーゼは呑み込みが早いな」
「そうかしら?(幼いころ、熱砂の国に住んでてお母様とよくやってたなんて、口が裂けても言えない)」
グリム「ぐぬぬ、監督生にも勝てないんだゾ~」
監督生「グリムはちゃんと入る様に計算しないと…て、無理だね」
計画立てるとか嫌いだからな、グリム君…。何を~というグリム君の頭を撫でる。
アズール「ジャミルさんは2勝3敗、ですか」
ジャミル「ん?……ああ、久しぶりだから腕が鈍ったかな。昔はよくカリムに"勝つまでやる"って毎日何時間も付き合わされてたっけ。…こういうの弱いくせにな」
アズール「なるほど。ふむ。それでですか」
ジャミル「なにが"なるほど"なんだ?変なヤツだな」
アズール「いえ、こちらの話です。カリムさんとは幼い頃から一緒に育ったのですね」
ジャミル「それこそ物心つく前からだな……。そういえば、君達オクタヴィネルの3人も幼馴染だったか?」
フロイド「そうらしいね~」
グリム「らしい、って。なんで他人ごとみたいに言うんだゾ?」
フロイド「オレたちエレメンタリースクール入ってからずっと一緒のクラスだったらしいけど、オレ、アズールを認識したのミドルスクール入る直前だしー」
「……え、じゃあ認知したのは12歳の時って事?」
フロイド「そうー。だからあんま幼なじみっぽい思い出とかないっていうか」
監督生「………興味にムラがあり過ぎるでしょう。良かったんですか、アズール先輩」
アズール「僕、それはそれは大人しいタイプだったので。目立たない生徒だったんですよ」
グリム「別の意味で目立ってそうだったけどな。主に横幅が……むがんごご!」
アズール「グリムさん、それは内密にと何度も言いましたよね……!!」
過去のアズール君を話そうとしたグリム君の口をアズール君は塞ぐ。
「そんなに気にしなくても‥昔のアズール君も好きよ、私」
アズール「…‥あなたがそうでも、僕的には黒歴史なんです」
眼鏡を押し上げるアズール君。うーん、まだまだ時間が必要かしら?
ジャミル「それなのに、今は君が寮長?随分と不思議な関係だな」
フロイド「そお?今はアズールの言うこと聞いているのが面白いからそうしてるだけ」
アズール「ジェイドもフロイドも、僕に服従している気はないんでしょう。彼らにとっては、そういう"ごっこ遊び"なんですよ」
ジャミル「ますますよく分からない関係だ」
好き好んで主従関係のごっこ遊びするのね…
アズール「僕がリーダーとして間違った……あるいは、つまらない選択をした時は__2人はあっさり僕から離れ、寮長の座を奪うはずです」
監督生「面倒臭いですね」
グリム「監督生!余計な事言うんじゃねー!」
グリム君が慌てて短い腕を伸ばし、ユウの口を塞ぐ。
アズール「まあ、挑まれても負ける気はしませんが」
フロイド「オレらも挑む予定はないけどねー、今とことは」
「今のところは・・・ね」
フロイド君とジェイド君は自分達の好奇心で動くのか。
ジャミル「あくまで君達は対等な関係、なんだな」
フロイド「今は面白いから一緒にいて、つまんなくなったら一緒にいなくなるってだけ」
「…と、特殊な友情なのね」
本人を目の前に言うとか、恐ろしい子ね…。
そう呟いたらお前が言うなってグリム君から言われた。
フロイド「つーか、副寮長は寮長の家来じゃないし。フツーじゃん」
フロイドがそう言うとジャミル君は少し考える仕草をして、俯いた。
ジャミル「……普通、ね。生まれた時からアジーム家の従者の俺には、やっぱりよくわからない。主人は主人、従者は従者だ。おそらく、一生な」
アズール「……」
ジャミル君は、アルアジームとかバイパーとか、色々と縛りがあるのね。
子供に背負わせていい責任じゃないでしょうに………。
「………対等にはなれないの?」
ジャミル「…俺とカリムが、か?…あり得ないな。言っただろ?従者は従者、主人は主人だ」
そう言い、マンカラを弄るジャミル君の顔は…何でもないような顔をして、どこか寂しく見えた。
「ジャミル君は自分がバイパー家じゃなかったらとか、カリム君がアジーム家じゃなかったらとか、考えた事ある?」
ジャミル「!………それを聞いてどうするんだ?」
「単純に気になっただけだから……答えたくないなら答えなくて大丈夫よ」
私の言葉が癪に障ったのか、眉をひそめてこちらを見ている。
グリム「お、おい、エリーゼ」
監督生「え」
フロイド「アザラシちゃん、小エビちゃん。ちょっとこっちおいで~」
何か言おうとしたユウとグリム君をフロイド君が回収してくれる。
私は目の前のマンカラに手を伸ばす。
「今度は私とやりましょう」
ジャミル「………あぁ」
ジャミル君の前にマンカラを置き、手を伸ばす。彼は何か言いたそうだが、私の言葉に従い、対戦をしてくれた。その間、アズール君は私達と少し距離をとってくれる。有り難い配慮ね。
「私、…昔は人の顔色ばかり窺ってたの……疲れない?」
ジャミル「…疲れたり何て」
「あ、やっぱり窺ってたのね?」
ジャミル「!…当然だ、従者何だから」
早くこの会話を終わりたそうにしているジャミル君。カチカチと手の中で握る宝石が音を立てている。
グリム「ラッコ?」
ラッコって…カリム君の事?
ジェイド「カリムさんのことですよ。フロイドは海の生き物になぞらえたあだ名をつけるのが好きなんです」
「どうしてラッコとアザラシなの?」
ジェイド「グリムくんのことも、丸々として愛らしいシルエットに親しみを込めて“アザラシちゃん”と呼んでいるそうですよ」
グリム「“丸々として”が余計なんだゾ!」
監督生「確かに似てるかも」
グリム「おぉい!」
フロイド「ラッコちゃんは、いつも太鼓叩きながらニコニコしてるからラッコに似てるでしょ」
「……太鼓叩きながらニコニコ…確かにラッコは貝を叩いてるけど」
カリム君ががラッコか…なんか可愛い。案外似合っているかも。
アズール「そうですね。彼はいつも朗らかで、成績が悪かったくらいで情緒不安定になるタイプには思えません」
監督生「じゃあ、どうして・・・」
アズール「問題解決のためにも、カリムさんのことをもっと知る必要がありそうだ」
チラリとアズール君は目線をジェイド君に。
アズール「ジェイド。少し__彼と“お話し”してきてもらえませんか?」
ジェイド「かしこまりました」
監督生「“お話し”…‥……きょ、脅迫は犯罪ですよ」
アズール「しませんよ、そんな非道な真似、僕らがするとでも?」
監督生「割と」
アズール「……素直になり過ぎるのは頂けませんよ」
では行きましょうか、というアズール先輩の言葉を筆頭に部屋から出た。
「…ジェイド君はこっちにこなくていいの?」
フロイド「んー?ラッコちゃんの事はジェイドに任せておけばいいから、俺達はウミヘビ君のところいこー」
監督生「‥…で、ジャミル先輩の部屋って」
アズール「分かりませんから、片っ端から扉を叩きましょう」
「それはちょっと迷惑なんじゃない?」
遠慮なしに扉をノックしている。こんな夜中に失礼じゃないかしら…と思いつつ、手近にあった部屋をそっとノックした。
「ま…こんなすぐ見つかるはずg」
(ガチャッ)
ジャミル「何か用…て、エリーゼ?」
「嘘・・」
ジャミル「どうした?何かあったのか?」
「え、えっと」
アズール「ジャミルさん、こんな夜中に失礼します」
ジャミル「!…アズール、それにフロイドまで…何の用だ」
私の時は随分と優しく聞いてくれていたのに、2人に対しては警戒心バリバリだ。まぁ、昼間の事があるし当然かも。
アズール「先ほどカリムさんにご案内頂いた宝物庫で、見たことないボードゲームを見つけまして……」
彼の手には宝物庫で置きっぱなしになっていた木の板だ。それを見て、ジャミル君は目を細める。
アズール「カリムさんにルールを説明していただいたのですが、どうも要領を得ない」
フロイド「この穴のあいた木の板と宝石で遊ぶゲームどうやって遊ぶの?」
ジャミル「ああ、“マンカラ”か……熱砂の国ではポピュラーなゲームだよ」
アズール「ボードゲーム部の僕としては、ぜひ遊んでみたくて。一局手合わせ願えませんか?」
フロイド「オレもオレも~。ウミヘビくんと遊びた~い。あはっ」
グリム「勝負とあっちゃ、グリム様も参加しねぇわけにはいかねぇんまゾ!」
監督生「…その、夜分遅くですいません…その、お願いできますか?」
ジャミル「…………カリムも寝たし、まあいいか。わかったよ。この人数じゃ俺の部屋は狭い。談話室に行こう」
そして、ジャミル君と共に談話室へ向かった。
_______________スカラビア寮 談話室
フロイド「やった~~~今回はオレの勝ち!これで3勝!」
ジャミル「集中力が高い時のフロイドは、やっぱり勝負強いな」
グリム「ふぎゃー!また負けた!アズール、容赦ねぇんだゾ!」
アズール「これで僕は5勝0敗。まあボードゲーム部として当然の結果です」
ジャミル「エリーゼは呑み込みが早いな」
「そうかしら?(幼いころ、熱砂の国に住んでてお母様とよくやってたなんて、口が裂けても言えない)」
グリム「ぐぬぬ、監督生にも勝てないんだゾ~」
監督生「グリムはちゃんと入る様に計算しないと…て、無理だね」
計画立てるとか嫌いだからな、グリム君…。何を~というグリム君の頭を撫でる。
アズール「ジャミルさんは2勝3敗、ですか」
ジャミル「ん?……ああ、久しぶりだから腕が鈍ったかな。昔はよくカリムに"勝つまでやる"って毎日何時間も付き合わされてたっけ。…こういうの弱いくせにな」
アズール「なるほど。ふむ。それでですか」
ジャミル「なにが"なるほど"なんだ?変なヤツだな」
アズール「いえ、こちらの話です。カリムさんとは幼い頃から一緒に育ったのですね」
ジャミル「それこそ物心つく前からだな……。そういえば、君達オクタヴィネルの3人も幼馴染だったか?」
フロイド「そうらしいね~」
グリム「らしい、って。なんで他人ごとみたいに言うんだゾ?」
フロイド「オレたちエレメンタリースクール入ってからずっと一緒のクラスだったらしいけど、オレ、アズールを認識したのミドルスクール入る直前だしー」
「……え、じゃあ認知したのは12歳の時って事?」
フロイド「そうー。だからあんま幼なじみっぽい思い出とかないっていうか」
監督生「………興味にムラがあり過ぎるでしょう。良かったんですか、アズール先輩」
アズール「僕、それはそれは大人しいタイプだったので。目立たない生徒だったんですよ」
グリム「別の意味で目立ってそうだったけどな。主に横幅が……むがんごご!」
アズール「グリムさん、それは内密にと何度も言いましたよね……!!」
過去のアズール君を話そうとしたグリム君の口をアズール君は塞ぐ。
「そんなに気にしなくても‥昔のアズール君も好きよ、私」
アズール「…‥あなたがそうでも、僕的には黒歴史なんです」
眼鏡を押し上げるアズール君。うーん、まだまだ時間が必要かしら?
ジャミル「それなのに、今は君が寮長?随分と不思議な関係だな」
フロイド「そお?今はアズールの言うこと聞いているのが面白いからそうしてるだけ」
アズール「ジェイドもフロイドも、僕に服従している気はないんでしょう。彼らにとっては、そういう"ごっこ遊び"なんですよ」
ジャミル「ますますよく分からない関係だ」
好き好んで主従関係のごっこ遊びするのね…
アズール「僕がリーダーとして間違った……あるいは、つまらない選択をした時は__2人はあっさり僕から離れ、寮長の座を奪うはずです」
監督生「面倒臭いですね」
グリム「監督生!余計な事言うんじゃねー!」
グリム君が慌てて短い腕を伸ばし、ユウの口を塞ぐ。
アズール「まあ、挑まれても負ける気はしませんが」
フロイド「オレらも挑む予定はないけどねー、今とことは」
「今のところは・・・ね」
フロイド君とジェイド君は自分達の好奇心で動くのか。
ジャミル「あくまで君達は対等な関係、なんだな」
フロイド「今は面白いから一緒にいて、つまんなくなったら一緒にいなくなるってだけ」
「…と、特殊な友情なのね」
本人を目の前に言うとか、恐ろしい子ね…。
そう呟いたらお前が言うなってグリム君から言われた。
フロイド「つーか、副寮長は寮長の家来じゃないし。フツーじゃん」
フロイドがそう言うとジャミル君は少し考える仕草をして、俯いた。
ジャミル「……普通、ね。生まれた時からアジーム家の従者の俺には、やっぱりよくわからない。主人は主人、従者は従者だ。おそらく、一生な」
アズール「……」
ジャミル君は、アルアジームとかバイパーとか、色々と縛りがあるのね。
子供に背負わせていい責任じゃないでしょうに………。
「………対等にはなれないの?」
ジャミル「…俺とカリムが、か?…あり得ないな。言っただろ?従者は従者、主人は主人だ」
そう言い、マンカラを弄るジャミル君の顔は…何でもないような顔をして、どこか寂しく見えた。
「ジャミル君は自分がバイパー家じゃなかったらとか、カリム君がアジーム家じゃなかったらとか、考えた事ある?」
ジャミル「!………それを聞いてどうするんだ?」
「単純に気になっただけだから……答えたくないなら答えなくて大丈夫よ」
私の言葉が癪に障ったのか、眉をひそめてこちらを見ている。
グリム「お、おい、エリーゼ」
監督生「え」
フロイド「アザラシちゃん、小エビちゃん。ちょっとこっちおいで~」
何か言おうとしたユウとグリム君をフロイド君が回収してくれる。
私は目の前のマンカラに手を伸ばす。
「今度は私とやりましょう」
ジャミル「………あぁ」
ジャミル君の前にマンカラを置き、手を伸ばす。彼は何か言いたそうだが、私の言葉に従い、対戦をしてくれた。その間、アズール君は私達と少し距離をとってくれる。有り難い配慮ね。
「私、…昔は人の顔色ばかり窺ってたの……疲れない?」
ジャミル「…疲れたり何て」
「あ、やっぱり窺ってたのね?」
ジャミル「!…当然だ、従者何だから」
早くこの会話を終わりたそうにしているジャミル君。カチカチと手の中で握る宝石が音を立てている。