熱砂の策謀家

ジャミル君が部屋を出て…どのくらい眠っていたのか、扉が開いた音で目が覚めた。部屋に放り込まれた黒い毛玉と1人の少女…グリム君とユウだ。

涙目でズルズルと身体を引き摺っている。ハッと時計を見ると、もう1時間以上たっていた……しまった、私だけ休み過ぎた。慌ててベッドから起き上がり、グリム君を抱える。

グリム「う、うう……疲れた……もう一歩も歩けねぇんだゾ」

監督生「もう‥無理」

「…ごめんなさいね、1人で休んじゃって」

グリム「あ!エリーゼ!心臓大丈夫か!?」

監督生「薬飲みましたか!?」

疲れたと言っていたのに私の顔を見た途端、すぐに心配してくれた。
……あぁ、そうだ。もう2人にこういう心配をかける必要もないのね。

「……ユウ、グリム君、私ね……精霊が見えなくなっちゃったの」

グリム「………ん!?ど、どういう事だ!?」

監督生「え!?(学園長が加護は消えることはないって言ってたのに・・・)」

「……‥……そういう意味よ。ノームやウィンディーネも呼べない。普通の人になったの。」

ユウとグリム君は眠そうな目をカッと開いて私に詰め寄ってきたので、ゆっくりと説明する。

「…でもユウとグリム君に迷惑に・・・邪魔にならないようにサポートするから」

だから安心して、と続けようとしたが肉球が押し当てられ、言葉を止める。驚いてグリム君を見たら…彼は怒っていた。

グリム「何で、そんな大事な事言わねーんだゾ!!!」

「気づいたのが、今日だったの」

監督生「私…エリーゼさんを邪魔だって思ったこと1回もありません!!・・・私がこの世界に飛ばされて不安だった時、エリーゼさんはたくさん声をかけてくれた。そんな人を邪魔だなんて思うはずないでしょ!!」

グリム「監督生の言う通りなんだゾ!精霊なんか、関係ないゾ!!!オレ様はエリーゼだから、側にいたいんだゾ!!!お前や他の奴が邪魔者だって言っても、オレ様ぜーーったい、エリーゼの事離さないんだゾ!!」

ウルウルとした目から涙を流すユウとグリム君。

目を点にして彼女らの言葉を聞いてると「返事!」と聞こえてきた。

「・・・は、はい」

思わず敬語になり、返事を返した。グリム君は涙を拭きとり、フンッと鼻を鳴らす。

グリム「わかったならいいんだゾ」

監督生「早くここから出て、オンボロ寮でパーティーしましょう!」

「………そうね。ごちそう沢山作ってあげる」

ユウとグリム君のお蔭で少し…いやかなり冷静になれた。

無くなってしまった物は、もう仕方がない。なら、今やるべきことをする…出来てもいない事をグチグチいう物じゃない。

「…グリム君、スプーン貸して。今日は私が掘るわ、ユウとグリム君は少しでも休まないと」

グリム・監督生「「だ、だけど…」」」

「私は少し寝たから、ほら、脱出する時寝不足で動けなかったら辛いでしょ?」

グリム君のポンポンと頭を撫でて、ベッドへ運ぶ。少し唸っていたけど、シーツに包まれると、疲労や寝不足からすぐに眠ってしまった。ユウもベッドに寝かせ、子守唄を歌うとすぐに眠ってしまった。

穴が開いたら起こし上げよう。

「・・よし」

スプーンを片手に、小さな穴が開いている床にスプーンを突き立てた。

30分……いや、1時間くらいたっただろうか?漸く…私でもギリギリ通れるくらいの穴が開いた。ユウは私よりも小柄だから通れるはず

「っ…ふぅ、ユウ、グリム君、起きて。穴が開いたわよ」

グリム「ふがっ!?…ほ、ほんとか!?」

監督生「‥本当だ」

グリム君は起きて早々、私が開けた大きな穴を見て目を輝かせる。

グリム「おぉ!デカイ穴だゾ!」

「そんなに大きくはないけれど…ギリギリ通れるくらいにはなったわね」

グリム「頭が通ればだいたいの穴は通れるって相場が決まってるんだゾ!」

監督生「肩が相場だよ、グリム」

スプーンを地面に置き、スカラビア寮の制服から元の服に着替える。

グリム「オレ様が先に出てオマエらを引っ張ってやる。よぉし、脱出作戦開始なんだゾ!」

そして、グリム君とユウが穴を通り、下へ降りる。最後に何も忘れていないか確認し、私も穴を通った。

グリム「ふぅ………やっと部屋の外に出られたんだゾ」

監督生「うっ、絞り出されるパスタの気持ちがわかった気がする……」

グリム「さ、今のうちにオンボロ寮へ戻るんだゾ。音立てないように……」

___グゥウウウという地響きの音が響いた。

そして、廊下の角の方から此方へ向かってくる足音と…
「何だ、地響きのような音は!?」という声が…

グリム「ふな"っ!?し、しまったんだゾ。穴掘りを頑張りすぎたせいで腹が減って……」

「最悪のタイミングね」

グリム「あわわ……や、やべえんだゾ」

寮生「お前たち、そこでなにをしている!」

グリム「ふぎゃっ、見つかっちまった!」

監督生「まぁ、見つかるよね、そりゃ」

寮生A「鍵はしっかり閉めたはずなのにどうやって外へ」

寮生B「あーっ!壁に穴が……!!なんて往生際の悪い奴らだ」

寮生C「脱走者だ!追えーーー!」

初日と同じパターン。笛の音と共にスカラビア寮生が追いかけてくる。

グリム「捕まったらまた牢獄生活へ逆戻りなんだゾ!逃げろっ」

慌てて逃げるが、どれだけ逃げても、湧いてくる寮生達。

グリム「とりあえず適当な部屋に入ってやりすごすんだゾ!」

「っ…ならそこに!」

適当にあった部屋のノブを回し、飛び込む。そして扉を閉め、外の様子を聞く。

寮生A「どこへ行った?手分けして見つけ出せ!」

寮生B「出てこい、ドブネズミどもめ!」

目の前まで来た寮生達の声にビビリつつ、足音が遠ざかって行った。
ホッと息を吐き、座り込む。

「『っはぁぁ~~~~』」

何とか撒けたようだ……彼らいつ寝ているの?あの特訓の後、バタバタと走り回れる何て……。

「このままじゃ…見つかるのは時間の問題ね・・」

グリム「くそ~何とか逃げ切る方法は…にしても、ここは何の部屋だ?
真っ暗で何も見えねぇんだゾ」

監督生「…どこかに電気が…」

壁沿いに伝おうとしたが、足に固い物が当たった。そっと手に取ってみると金色に輝くコイン……ん?金貨?

「‥ここって、まさか……」

グリム「ン?なんかフサフサしたもんが顔に……ふひゃひゃ!」

監督生「…何で笑ってるの?」

グリム「くすぐってぇ!」

その時、窓から差し込んだ月明りによって部屋の全貌が明らかになる。

…やっぱり宝物庫だったか。
ということは…グリム君をくすぐっているフサフサした物は……。

カリム君のお気に入り、魔法の絨毯だ。絨毯は何故かグリム君とじゃれついているグリム君も正体に気付き「どわ~……」と大声を出しそうになったが、さっと彼の口を手で覆った。

グリム「……びっくりした!大声出しちまうところだったじゃねーか!」

「…ここ宝物庫みたいね」

グリム「鍵一つかけてねぇのかよ……そうだ!オマエがいれば、見張りを振り切って外に出られるかも!」

絨毯「?」

グリム「やい、絨毯。オマエをここから出してやる。だからオレ様達を寮の外まで連れて行くんだゾ!」

「つ、通じてるの?」

疑問に思っていたが絨毯は嬉しそうにピョンピョンと跳ねている。………こ、言葉は関係ないのかしら?そして魔法の絨毯は私達が乗りやすいように膝位まで下がってくれた。ユウとグリム君は早速乗り込み、私もその後に続く。

グリム「エリーゼ、高ぇ所は大丈夫か?」

「こんな時に怖がっていられないわ」

グリム「よし、スカラビアにオサラバだ!」

「…あ、安全に浮かんでね」

よしよしと絨毯を撫でると絨毯は嬉しそうにフリッジを揺らし、窓から飛び立った。

__スカラビア寮 上空

ビューッと砂漠の夜の冷たい風が頬を撫でる。

…おいていかれないと思っていても、高い所が苦手なのは変わらない。

グリム「ヒャッホーウ!!!やったー!!脱出成功なんだゾ!オレ様達は自由なんだゾ~!!」

監督生「グ、グリム、そんな大声出すと……て、もうバレた」

ユウはバレるよ、と言いたかったのだろうが…既に下の方からスカラビア寮生達の声が聞こえる。

監督生「ねぇ、操縦分かるの?」

グリム「操縦?えーっと、カリムは隅っこについているフサを掴んで引っ張っていたような……」

「そ、そんな乱暴にしたら……」

グリム君がいきなりフリッジを握りしめた。すると、絨毯はビクリと震え、私達を乗せたまま一回転した。

「「うわぁああ!!?」」

絨毯の方もいきなり握られたからか、驚いて凄い方向を飛んだり、低空飛行、上空飛行を繰り返す…うっ、酔いそう。

グリム「コラッ!言うこときくんだゾ!」

監督生「ちょ、無理矢理引っ張ったら、また……」

絨毯「~~~~~!!!!!!」

グリム「ぎゃーーー!目が回る~~~~!!!!止まれ、止まるんだゾ~~~!!」

「い、いやぁああ!!!!」

寮生達の頭上を抜け、廊下を抜け、談話室を抜ける。

気持ち悪さから口を手で覆って、チラリと前方を見ると___鏡が置いてある。

あの鏡は鏡舎へつなぐ鏡……え、ちょっと待って

グリム「うわぁ~~~~鏡にぶつかる!!」

監督生「ちょ、まっ…止まってぇえ!!!!」

「嘘でしょ~!!」
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