熱砂の策謀家

ジャミル「君たちはハーツラビュルやサバナクロー……更にはオクタヴィネルの問題までを解決に導いた優秀な生徒と寮母だと噂で聞いてる」

監督生「え、いや…解決に導いたというか巻き込まれただけというか……。」

グリム「へへ~ん。そうだゾ。アイツらはみんなオレ様たちの活躍に感謝すべきなんだゾ!」

「オクタヴィネル寮の件はグリム君やエース君達のせいじゃないかしら?」

監督生「エリーゼさんもっと言ってやってください」

すると、ジャミル君が私の両手をガシッと握りしめた。

「…え?」

ジャミル「だから、頼む。どうかスカラビアの力にもなってくれないか」

「『えぇっ?』」

ジャミル君の出した言葉に私とユウとグリム君は声を上げる。

ジャミル「食堂でたまたま出会ったのも、運命の巡り合わせだ。
きっと君らはダイヤのように輝く解決策をもたらしてくれるに違いない!」

「え、いや…そ、そんなに期待されても……ね、ねぇ、ユウ、グリム君」

グリム「お、おう…確かにオレ様は優秀だけど、それとこれとは話が別なんだゾ!」

監督生「そ、そうですね」

グリム君は私の肩に乗り、小声で耳打ちしてきた。

グリム「……おい、エリーゼ。他寮のトラブルに首を突っ込むのはやめとけよ!オレ様、もう面倒ごとはこりごりなんだゾ」

グリム君のいう事は確かだ。

寮母としては解決してあげたいけど、そもそも今日偶々出会った私達に寮の問題を解決できるか分からない。勝手に期待されて、出来なかった時、何言われるか分かった物じゃない。

ここは断ろう。

私は未だに手を握り続けるジャミル君の方を見た。

「…あ、あのジャミル君。その…申し訳ないんだけど……」

その御話はお断りするわね__と言葉を続けようとしたとき、

ジャミル君が言葉を重ねてきた。

ジャミル「君は……」

ジャミル君は手の力を強め、ジッと私の目を見た。私も思わず彼の目をジッと見てしまう。

ジャミル「__俺たちを助けてくれるよな?」

___頭がボーッとした。
意識がハッキリしなくなって、私はぼんやりとした意識の中、

「わかりました」

と、勝手に受け答えをしてしまった。

監督生「断るんじゃ無かったんですか!?」

「……え?」

ジャミル「ああ……!引き受けてくれるのか。嬉しいよ、エリーゼ」

ジャミル「そうと決まれば、ぜひ3人とも賓客としてスカラビアに留まって欲しい」

ジャミル君は私から手を放し、パンパンと手を叩いた。
その音と共に寮の中から寮生たちが現れる。

寮生「お呼びでしょうか、副寮長」

ジャミル「お前たち、客人を部屋へ案内しろ」

寮生「はっ!」

「え…え、ちょっと!?」

ジャミル君に言われるがまま、寮の中へ再び案内される私とユウ。
グリム君も尻尾を掴まれて、逃げられる様子が無い。

「あ、あのジャミル君…わ、私達は…!」

ジャミル「夜は冷える。しっかり身体を温めないと、な」

そういうとジャミル君は私に上着をかけてくれた。
あ、そういえばさっき用意してくれるって言ってくれていた…じゃない!

「そ、そうじゃなくて…」

ジャミル「ではな、エリーゼ、監督生、グリム。おやすみ」

そういうジャミル君は、私達に微笑んだ。

けど___今までで一番、歪んだ笑みに見えた気がした。

___________スカラビア寮 空き室

スカラビア寮生たちにより、私達は空き部屋に案内された。
簡易的なベッドとクローゼット、あとシャワー室がある…シンプルな部屋。


寮生「それでは、ゆっくりとお休みください」

そういうと、寮生は一礼し、扉を閉めた。

グリム「も~~っ!!やめとけって言ったのに!エリーゼ、なんでそう厄介事に首を突っ込むんだゾ!スカラビアの問題なんだ。自分達の問題は自分でカタをつけろってんだ!」

「ご、ごめんね…断ろうとしたんだけど、勝手に口が……」

グリム「ったく。オメーはお人好しなところがあるからな~。たまに急に怖い時もあるけど……」

「…流されたという訳じゃなくて……本当に気が付いたら引き受けていた」

寮に来てからこういう事が起きる。
サラマンダーとかもいなくなっちゃう……あ。

「サラマンダー大丈夫かしら?」

監督生「サラマンダーの心配はひとまず置いておきましょう。」

グリム「とにかく、オレ様はもう面倒事に巻き込まれるのはまっぴらゴメンなんだゾ。今のうちにこっそり抜け出して、オンボロ寮に戻ろうぜ」

監督生「…‥引き受けちゃったけども、そうだね」

罪悪感がともなうが、これ以上ここに留まるつもりもない。
ユウとグリム君が珍しく意見が一致し、扉をそーっと開ける。廊下には人の姿は無い。

グリム「よし、まずは学園につながる鏡のところへ……」

(ピーッ!!!)

扉を開けた途端に響く笛の様な音。

思わず耳を塞ぐ私達。

グリム「にゃ、にゃんだぁ!?この音は!?」

監督生「うるさっ」

キーンとした耳から手を放すと、廊下の角からゾロゾロと寮生たちが現れた。

寮生「お前たち!勝手に寮外へ出ようとするとは何事だ!」

寮生「この冬休みの間は、誰であろうと寮長の許しなしに寮を出ることは許されない!」

寮生「ひっとらえろ!」

寮生たち「「「追え、追え!待てーー!!」」」

と、掛け声とともに大勢の寮生たちが此方を追いかけてきた。

監督生「え、ええ!?」

グリム「なにぃ~っ!?」

「逃げるわよ!!」

私は、グリム君を抱え、走りだす。ユウもそのあとをついてくる
背後から笛の音と、魔法が放たれた音がする。

「きゃっあ!」

足に氷の魔法が直撃しそうになったが、間一髪で避ける。

監督生「グ、グリム!!未来の大魔法士!助けて!」

グリム「オ、オレ様が天才でも、この数は無理なんだゾ~!!!」

必死で逃げるが、ここは彼らの領域。あっという間に囲まれて、捕まってしまった…まるで囚人みたいね

寮生「大人しくお縄につけ、灰色のドブネズミめ!」

グリム「オレ様は灰色だけどドブネズミじゃねぇ!」

寮生「ええい、暴れるな!早く部屋に戻るんだ!」

監督生「わ、分かりました!分かりましたから!い、痛いですって!」

グリム君は尻尾を掴まれ、ユウと私は2人係で押さえつけられ、結局空き部屋の前に戻る事になった。

寮生「さっさと部屋に入れ!手こずらせやがって」

「押さないで頂戴」

グリム「いででで!首根っこ掴んで引きずるんじゃねぇんだゾ!」

乱暴に部屋に放り込まれた。そして、カチッと扉の鍵が締まる音が聞こえた。

寮生「見張り担当者がこいつらの部屋の鍵を閉め忘れていたようだな」

寮生「まったく……今度は忘れずに鍵をかけておけ!もし逃げ出したヤツがいたなんて寮長に知られたら俺達がどんなに間に合わされるか……」

寮生「そうだな……」

寮生「次逃げ出そうとしたら、タダじゃおかないからな」

そして、扉の前から足音が遠ざかっていく。ドアノブを引いてみたが…一向に開かない。

グリム「こら~!!出せ!!出すんだゾ~!!」

「…閉じ込められた?」

グリム「ドアがびくともしねぇ。鍵をかけられちまったんだゾ」

監督生「囚人って、こんな気分なのかな?」

グリム「感心してる場合じゃないゾ!これじゃあ本当に囚人だゾ!!
朝になったらジャミルに文句言ってやる!」
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