熱砂の策謀家

グリム「空飛ぶって……箒みたいに絨毯が空を飛ぶってのか?」

カリム「話すより乗ってみた方が早い。もうすぐ日暮れだし、夜空の散歩と洒落込もうぜ!」

カリム君は慣れた様子で魔法の絨毯に乗り込む。そして、此方に手を差し伸べる。

カリム「さぁ、お前達も乗った、乗った!」

グリム「えぇ?コレ、本当に落ちたりとかしねぇのか?」

「気持ちは嬉しいけど…‥高い所は好きじゃなくて」

___【怖いよ…‥っ、おろして……っぅ】


幼い頃のトラウマはそう簡単に抜けはしない。
高い所はあまり行きたくはない。

カリム「高ぇ所怖いのか?大丈夫だって、オレがついているんだし、落ちたりしない!」

「あ、あの・・・そういうことじゃなくて」

いつの間にか、ユウとグリム君とサラマンダーはちゃっかりと乗り込んでいる…どうするか、迷っていると、カリム先輩は絨毯から降りて、私の前に立ち、手を差し出す。

カリム「俺を信じろよ」

「………」

ジッとカリム君の緋色の瞳を見つめる。おずおずと手を差し出し、カリム君のものと重ねる。

カリム「さぁ、行こうぜ!」

「きゃっ」

腰に手を回され、絨毯に乗り込む。少し震える私を気遣ってか、カリム君は私を引き寄せ、手を握りしめる。

カリム「大丈夫、俺に掴まって」

「・・・え、ええ」

カリム「そんじゃ、行くぞ!」

カリム君の声で、絨毯は物置の窓を抜け、上空へ飛び上がった。

_______________上空

グリム「う、うわーー!!本当に空を飛んでるんだゾ!高さで目が眩みそうだ!」

監督生「凄~い!!」

「っぅう…!!?」

カリム「どうだ、雲の上は別世界だろ?」

スカラビア寮の上空を飛ぶ絨毯。
雲の上を越えて、満月や星空が見える。視界を遮るものがないから綺麗だ。

グリム「最高なんだゾ~~!」

グリム君達は喜んでいるけど…正直、気が気じゃない。
震えが勝手に起きる。

綺麗だけど……どうしても脳裏にあの時の事が浮かぶ。

ルシファー家の人たちが私にしたように___また、高所から落とされる。そのことが脳裏を過る。

カリム「そんなに怖ぇのか?」

余りに震えている私を見て、カリム君は私の顔を覗き込む。

カリム「何で、高い所が怖いんだ?落ちたりしたのか?」

「…お義父様に出会う前、高い所から落とされそうになったことがあって……。それで………高い所にいったら、落ちちゃうんじゃないかって…身体が反応しちゃうの」

グリム「そんな理由で怖がってたのか!?オレ様は置いて行ったりしねぇーぞ!」

監督生「グリム、そういうことじゃないと思う(エリーゼさんは一体何を抱え込んでいるんだろう)」

どうしても身体が怖くなる。ユウもグリム君もカリム君も何も悪くないのに……。

「…ご、ごめんなさい。やっぱり、私・・・」

カリム「おいて行ったりしないさ」

「え…」

カリム「エリーゼがそうなったのは、それをした奴等のせいだ。だからお前が謝る必要はない。でも、そうか……う~ん」

カリム君は腕を組み、何か考え込む。そして、「よし!」と声を出した。何がよしなの…。すると、私を強く引き寄せ、絨毯のフリンジを掴んだ。

カリム「楽しめよ!楽しんだら、そんな怖い事一気に吹き飛ぶ!」

「え…そ、それってどういう…‥‥うわぁああ!!?」

絨毯が一気に急降下していった。いや、楽しむってそういう事!?

グリム「ふにゃぁ~!!!?」

監督生「いきなりすぎです!!」

「っ、ちょ、ちょっと待って!!」

ギュッと瞳を閉じて、浮遊感に耐える。

カリム「目を開いてみろ」

カリム君は私の手を握り、耳元でそう言った。

怖い気持ちは当然ある…だけど、カリム君の声に妙な安心感を感じ、目をそっと開く。

「っぅ………………わぁっ」

そして、声を上げる。

月明りに照らされる砂漠、そしてダイヤモンドのように輝く星々。

怖くて目を瞑って見ないようにしていたけど____とても美しい景色が広がっていた。

カリム「怖がるな、俺がいるから。エリーゼを置いて行ったりしない!」

「………カリム君」

カリム「どうだ?凄ぇ、綺麗だろ?」

満面の笑みをこちらに向けるカリム君。さっきまでの私だったら、怖がるだけしか出来なかったけど…。

___もう、誰も置いて行ったりしない。

「ええ、とっても綺麗…カリム君、ありがとうっ」

カリム「!…‥‥…あ、あぁ。気に入ってくれてよかったよ」

私の顔を見て、少し戸惑ったような顔を浮かべていたけども、変わらない笑みを浮かべてくれた。

高さが少しずつ慣れて、恐怖心が和らいでいく。……高い所って、こんなに綺麗だったのね。

カリム「空を自由に飛び回るのって、いいよな。本当に小さい悩みなんか全部どうでもよくなる」

ふと、カリム君は星空の方を見上げ、そう呟いた。

カリム「ジャミルにはいつも“お前は色々気にしなさすぎだ”って言われるけど、アイツも、もう少し気楽に生きればいいのにな…」

「…ジャミル君をとても信頼しているのね」

カリム「あぁ!あいつはいつも俺の側にいてくれた。___あいつだけは、俺を裏切らないでくれたんだ」

寂し気な顔を浮かべたカリム君に、あ…となる。
そうだった、お金持ちで、毒見が必要なほどのカリム君。その中で…ジャミル君だけは信じられたのね。

グリム「ふな゙っ!あっちの川の上、見たことない鳥が飛んでるんだゾ!」

監督生「白鳥…?いや、でも…砂漠だし」

カリム「ハハ、よし、見に行ってみるか!」

また急な急降下でビックリしたが、先ほどより恐怖は無い。

………私は、見ないようにしてきたんだわ。

お母様たちの事があって、ずっと___“何もかも”を。

「…‥カリム君」

カリム「ん?」

「……空、とっても綺麗ね」

真珠のように輝く大きな月を見上げた。

カリム君も同様に月を見上げて「だろ?」と笑いかけてくれた。そして、私達はカリム君と魔法の絨毯により、スカラビアの空を堪能した。

____スカラビア寮 物置

グリム「はぁ~~~!!本当に楽しかったんだゾ!」

監督生「あ、ありがとうございました!…楽しかったです」

「貴重な体験だったわ‥本当にありがとう」

カリム「喜んでもらえてよかった。なんだかんだあっという間に夕餉の時間だな」

グゥ~と腹の虫が鳴るグリム君のお腹。その音を聞いて、思わず笑ってしまった私とカリム君。

カリム「それじゃあ、談話室へ行くか!」

と、物置から出ようとした時、バーンと物置の扉が開いた。

ジャミル「カリム!やっと帰ってきたのか!」

カリム「おー、ジャミル!悪い、遅くなっちまって」

はぁ、と心底呆れた顔を浮かべるジャミル君と笑うカリム君。

ジャミル「すまない、カリムが強引じゃなかったか?」

監督生「い、いえ別に」

グリム「オレ様は楽しかったゾ~!エリーゼも高い所が怖くて、で最初は怖がってたけど、最後は一緒にはしゃいでたんだゾ!」

サラマンダー『楽しかった~』

ジャミル「!た、高い所が怖い!?ま、まさか高所恐怖症だったのか!?」

「そ、そこまでという訳じゃないけど…まぁ苦手かな?」

ガシッとジャミル君に肩を掴まれ、食い気味に聞かれる。
そ、そんなに必死にならなくてもいいのに…。

ジャミル「すまない!うちのバ…‥じゃなくて、寮長がとんでもない事を!」

「大丈夫よ‥楽しかったから」

今、バカって言い掛けなかった?

ジャミル「おい、カリム。高い所が苦手な人間を上空へ連れて行く奴があるか!」

カリム「うっ、そ、それは俺も思ったけど…最後は楽しんでくれたし!」

ジャミル「お前はまたいつも…」

「あ、あの!本当に気にしてないから!!」

ガミガミ怒り出すジャミル君を前に、私はカリム君を庇う。
彼も人前で怒るのに抵抗はあったのか、すっといつもの冷静な態度に戻る。

ジャミル「……だが、迷惑をかけた事に変わりはない。カリム、エリーゼに何かお詫びをしてやったらどうだ?」

カリム「おー、そうだな!流石ジャミル!エリーゼ、何が良い?何でも持って行っていいぞ!」

両腕バーンと広げられる。何でも持って行っていい?

チラッと周りを見ると黄金、宝石が……。
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