熱砂の策謀家

グリム「ほぁ~この寮、どこ見ても金ピカで豪華でオンボロ寮とは大違いなんだゾ」

カリム「そんなに驚くほどか?確かにオレが入学した時、とーちゃんが学園に少し寄付して寮を綺麗に改装させたって言ってたけど……」

監督生「…そ、それは何というか…凄い大金持ちですね」

グリム「オメー、もしかして、レオナと同じ王子様か!?」

カリム「アジーム家は王族じゃないから、オレは王子様じゃないぜ。親戚筋には王族もいるけどな」

グリム「あじーむ……?オマエの名前って、アルアジームじゃなかったか?」

カリム「熱砂の国の古い言葉で“アル”は“息子”を意味する。そんで、家を興じた祖先の名前を家名にして……以降生まれた男児は全員“その息子”って名乗ることがあるんだ」

「カリム君の場合だと…【アジーム】がご先祖様の名前になって、【アル】が息子という意味だから……」

カリム「そう。カリム・アルアジームは【アジームさんの家の息子カリムくん】って意味になるな」

グリム「ほへぇ……名前の由来なんて考えたこともなかったんだゾ」

カリム「馴染みがないからちょっと難しかったか? ま、カリムでいいって!いつか熱砂の国のオレんちにも遊びに来てくれ!めいっぱいもてなすぜ」

監督生「あ、ありがとうございます。先輩の家、お城みたいなんですかね?…アハハ、でもそこまで大きくは…」

カリム「あぁ。そうでもないぜ。召使いも100人くらいしかいないし」

「100?」

とんでもない数が聞こえた。え?100?私の家にもそんなにはいなかった・・・・はず

グリム「それだけいれば十分なんだゾ!オレ様だって子分は監督生とコイツしかいねぇのに」

監督生「私もその子もグリムの子分になった覚えないからね」

カリム「オレんち、オレの下にきょうだいが30人以上いる大家族だからさ。それくらい召使いがいてくれねぇと面倒みきれねぇんだよ」

「『さ、30人!?』」

カリム「うーん、40人だったかな。30人超えたくらいから数えるのやめちまった!顔と名前はみんな覚えてるんだけど。あっはっは!」

驚きすぎて、開いた口が塞がらないわ。サラマンダーに心配されちゃった。

カリム「ジャミルのとーちゃんとかーちゃんもオレんちの召使いで。だから、ジャミルにも小さい頃からずっとオレの世話係をしてもらってる」

監督生「……あ、成程。だから毒見とかを心配していたんですね」

昔からカリム君に仕えているのね……この超大嵐の人に仕えるのは、とても大変そう。数時間しか見てないのに、苦悩の文字が浮かぶ。

カリム「ジャミルはスゲー奴なんだ!頭もいいし、気も利くし、何より料理が上手い!」

「確かに…見事な手さばきだったわ。料理もおいしかったし」

グリム「おう!オレ様もコイツも満足だったゾ!な~!」

サラマンダー『うん』

グリム君に答えるように嬉しそうに鳴くサラマンダー。

カリム「だろ?じゃあ今日は夕食も食べて行けよ!なっ!」

「え…でも流石に迷惑じゃ…料理のはジャミル君達だし」

カリム「いつでも遊びに来いってジャミルも言っていたんだし、大丈夫だ!それに、エリーゼは料理が好きなんだろ?ジャミルも教えがいがあっていいと思うし!」

「え、ええ…それは嬉しいけど」

グリム「お、おう」

なんかもう、純粋通り越して、清らかね。

グリム「……なんかコイツとしゃべってると調子が狂うんだゾ」

監督生「言いたいことはわかる。」

「でも、カリム先輩は大丈夫よ」

グリム「何でだゾ?」

「サラマンダーがすぐに懐いていたし…ほら、よく見て」

先ほど談話室で見た精霊たちがカリム先輩の周りを飛んでいた。
流石2年生、その精霊は見えるのか、笑顔で手を振っている。

グリム「仲いいんだぞ」

「精霊は感情に鋭いってクルーウェル先生が言ってたでしょ?」

グリム「そういえば、クルーウェルがそんな事言ってたんだゾ…
成程、だからカリムは大丈夫って言ったのか」

納得という顔をするグリム君。

この学園で…あんなに祝福を貰っているのはまだ見た事がない。

レオナさんにはなぜか懐いている精霊が何人もいるけれど、本人は気づいていないし・・・

カリム君は本当に心が綺麗な人なんでしょうね…。

カリム「おーい、早く来いよ!今度は凄ぇいいところに案内してやるよー!」

こちらに手を振るカリム君。随分と距離が空いていたので、慌てて追いかけた。

______________スカラビア寮・物置

カリム「ここだ!さぁ、入ってくれ!」

態々扉を開けて、私達を部屋の中へ導いてくれる。
寮長で…しかも、大富豪さんにやらせちゃった…ジャミル君とかに怒られないかな。

が、そんな事を考えていたのが、吹っ飛んだ。・・・案内された部屋の中を見て。

「…っ!?こ、これは…!?」

監督生「嘘でしょ」

グリム「どひゃー!なんだここ!?ギラギラのお宝がいっぱいなんだゾ!」

先ほどの談話室くらいある大きな部屋には、その部屋を埋めるくらいの、黄金や宝たち。……さ、触るのが怖い。これ、全部本物!?

カリム「ここにあるものは全部、家を出る時にとーちゃんが持たせてくれたんだ。でも、寮の部屋に入りきらなくてなぁ~。こうして物置に全部置かせてもらってんだ」

監督生「こ、これ全部!?と、というか、これが物置!!?」

グリム「物置じゃなくて、もはや宝物庫なんだゾ!」

カリム「おお。難しい言葉知ってるな、グリム。偉いぞ!」

あれ?これ、私達がおかしいのかな?鍵もついてないし…

カリム「頬っぺたつまんでどうしたんだ?」

グリム「…エリーゼが壊れたんだゾ」

監督生「大丈夫ですか?」

「…ハッ!い、いけない」

ほっぺを摘まんで謎の笑みを浮かべていた私だが、正気に戻る。
大丈夫、私はおかしくない。

カリム君…いいえアジーム家の金銭感覚がおかしいのよ。

カリム「んで、このお宝の山の中でもオレが1番気に入ってるのが……………アレ?どこいった?」

キョロキョロと周りを探し、ザクザクと黄金の中に足を踏み入れるカリム君。

カリム「あぁ~…“アイツ”たまに1人で移動するんだよな」

「アイツ?」

カリム「ちょっと待っててくれ!おーい、どこいった~?」

困惑する私達を置いて、カリム君はその“アイツ”を探しに行った。
猫とかいるのかしら?……いる訳ないわよね、この宝物庫に。

カリム君がいないので、うっかり宝に当たらないように、隅へ移動する。

「‥……うわぁっ」

宝物の数に感嘆の声が出た。

グリム「ほぁ~……ごろごろでっかい宝石に、金ピカのコップ。
これだけあるんだし、どれか1つくらいいただいちまっても……ぐひひ……」

悪いことだけはすぐ思いつくんだから‥宝石に手を伸ばす彼を止めようと、ユウが手を伸ばして…引っ込める。

「…‥え?」

グリム君の背後にいたのは、絨毯だ。
でも、絨毯が立って、グリム君の頭を突いている…え?

目をこするが、それは夢ではない。

グリム「監督生、今オレ様は取り込み中なんだゾ!」

ツンツンと突いているのがユウだと思っているのか、グリム君は声を出す。いや、ユウじゃない…。

グリム「もー、しつこいな。なに……ってほぎゃ~~~!!!」

漸く動く絨毯に突かれている事に気が付き、叫び声を上げるグリム君。絨毯の方も叫ばれるとは思っていなかったのか、ビクッとして、私の背後に隠れる。

……逆よね。

私達が隠れるべきだと思うのだけど…‥と思いつつ、何だか可愛くなってよしよしと絨毯を撫でる。嬉しそうに動いているから…本当に意思があるんだ。

グリム「じ、絨毯が勝手に動いてる!ゴーストが取り憑いた呪いの絨毯だゾ!!」

カリム「おっ、そこにいたのか。いつもの場所で丸まっててくれよ」

絨毯「♪♪」

私とユウとグリム君が驚く中、カリム君は普通に近づいてくる。
カリム君を見るや、絨毯は私の背から出て、カリム君にすり寄る。
犬猫みたいに懐いている…ペットじゃないわよね。絨毯だし。

グリム「ソイツは一体なんなんだゾ!?」

監督生「…妖精とかですか?」

カリム「これは熱砂の国に伝わる伝説のお宝【魔法の絨毯】だ」

絨毯はこちらに寄ってきて、黄金色のフリンジを差し出してくる。

…‥握手なのかな?一応握ると、嬉しそうに身体?を揺らしたので、間違ってはいないみたいだ。

カリム「かつて砂漠の魔術師が仕えた王が愛した空飛ぶ絨毯。
ソイツはそのレプリカらしい。ウチに代々伝わる家宝なんだ」

絨毯「コクコク」

赤い生地で美しい刺繍がなされている。魔法道具以前に高級品ね……あ、触ってしまった。大丈夫だろうか。

もし、本物があったら国の制定遺産とされていたんでしょうね。
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