王子様と秘密のお嬢様 番外編

これはロゼッタがアリア―ブナーリアのため熱砂の国に行く1週間前の話だ。

ラギー「レオナさん大変ッス!!」

植物園でひと眠りしようとした俺の元にいつもは来ない時間にラギーが慌てて飛んできた。

「…うるせぇぞラギー」

ラギー「いやだって騒ぎますって!レオナさんはロゼッタちゃんに会いたくないんスか」

「そうは言ってねぇだろ」

誰が番に会いたくねぇとか言うかよ。
居ねぇだろ。
すぐにでも嫁にしたいくらいなのに。

ラギー「会いたいんスね!じゃあ、行きましょ!というかレオナさんじゃないとダメっぽいんで!!」

言うなりラギーは俺を引っ張り早く早くと急かし始めた。
なんなんだ、ったく…。

アイツが手伝う今日最後の授業はここだ。と言っていたのを教室の前に立ち思い出した。

錬金術の授業だったってことは、誰かが何かやらかしてんだろ。

授業は既に終わっているのにここは誰も出してもらえてないのかかなりの人数が居た。

レオナ「おい、ロゼッタはどこだ」

ジャック「!レオナ先輩!!ロゼッタさんは先生のとこっす!」

ラギー「あれ、ジャックくんも最後ここの授業だったんスね」

ジャックの返答を聞くやいなやレオナはクルーウェルの所へ向かった。

どうやら屈んでいるらしく頭は見えない。

…が、この男だらけの中にしちゃ高すぎる声が聞こえる。

ロゼッタだろうかと考えるがこんなに高くはなかったはずだと記憶にあるロゼッタを思い出した。

レオナ「おい、来てやったぞ」

クルーウェル「待っていたぞキングスカラー。ほら、ライオンさんだ」

レオナ「あ"?」

「らいおんさん!」

普段のクルーウェルからは聞かないセリフに目線を下げればロゼッタと似た小さな少女が此方を見て瞳を輝かせていた。

しゃがみこみ匂いを嗅げばどうやらロゼッタ本人と同じ匂いがする。
充満してる薬の臭いに鼻がバカになったらしい。

レオナ「…おい、どういうことだ」

クルーウェル「グリム達が失敗した魔法薬がかかった」

レオナ「チッ。あの毛玉…!」

ギッと毛玉を見れば震え上がり、ジャックの足元へ逃げていった。

レオナ「効果は?」

クルーウェル「見ての通りだ。ただ、この薬は本来小さくなるのは体だけだ。…ロゼッタは、この薬に影響されやすく精神まで幼くなってしまったようだな。」

誰しもが聞きやすい薬と聞きにくい薬がある。今回ロゼッタは前者に当たるようだ。

レオナ「解毒薬は?」

クルーウェル「今回の薬は持って3日前後だろう。作れるには作れるが解毒薬がどう作用されるか判断しかねる。大人しく待っていた方が良いかもな。」

学園長「それと、まだ精霊の存在について認知していないようです。召喚することもできないようですから。精霊のことについては言わないようお願いします。」

「…そうかよ」

じっと視線をロゼッタに戻せば、きょとんと此方を見ていた。
ふと、その頬に涙の痕を見つけた。

「…泣いたのか」

ロゼッタ「ないてないよ!!」

クルーウェル「キングスカラーが来る少し前までな。ライオンさんに会いたいと聞かなくてな」

「…そうか」

ロゼッタの中に少しでも俺が居るということだろうか。
確認する術はないのにこんな状況になっても求められたことに尻尾が上機嫌に揺れる。

クルーウェル「…で、本題だが」

「あぁ。コイツの面倒を見ろってことだろ。いいぜ。…その代わり、」

学園長「私が面倒を見ます!」

監督生「学園長には無理ですよ。私がやります!」

クルーウェル「あぁ。学園長と仔犬を説得しておく。」

「わかってんじゃねえか」

話は済んだとばかりにロゼッタに手を差し出す。

「今日から3日間、お前の面倒は俺が見る。いいな」

ロゼッタ「?らいおんさんといっしょ?」

「…レオナ。レオナ・キングスカラーだ。好きに呼べ」

ロゼッタ「…れおな?」

「あぁ。ほら、行くぞ。ラギー!」

ラギー「ウィッス!ジャックくん、また」

ジャック「はい!!」

ロゼッタと手を繋ぎラギーに声をかければ此方に近寄ってくる。

「今日から3日間、預かることになった」

ラギー「了解ッス。で、どうするんスか」

「寮に連れて帰る。お前はロゼッタが着れる服を準備しろ」

財布を渡しながら伝えればいつものようにシシシッ!と笑い駆けて行った。

さて、寮に行くか。

歩幅に気をつけながら歩き始めると毛玉が猛スピードで突進してきた。
防衛魔法で弾いてやったが…

グリム「ロゼッタに何するんだゾ?!」

「うるせぇな。元に戻るまでサバナクロー寮で預かる。」

監督生「!ロゼッタさんは…」

「番に手荒なことはしねぇよ」

ず、と少し後ずさる草食動物を睨むように見たあとロゼッタを抱き上げて教室を後にした。

ロゼッタを連れて自室に戻ったあと、ラギーが買ってきた服に着替えさせた。

終始キャッキャ騒ぐコイツを相手したあと、とりあえず膝に乗せて自分のしたいことをする。すると何を思ったのかグイッと髪を引っ張られた。

「ッ?!なんすんだ」

ロゼッタ「れおな、わたしとあそぶの!それやぁ!!」

読んでいた本を閉じられ小さな我儘に笑みがこぼれる。
普段のアイツも少しは思っていたのだろうか。
相手をして欲しいと…。

「何がしたいんだよ」

ロゼッタ「ん〜…おえかき!おえかきしたい!!」

ぱぁっと表情を輝かせて言うロゼッタにそこらにあった紙とペンを与えた。

ロゼッタ「れおなはかんせいするまでみちゃダメ!」

「…なんでだよ」

ロゼッタ「ないしょなの!いいからみちゃダメ!!」

ぴょん、と膝から降り床に向かって何かを描き始めたロゼッタにその格好は姿勢が悪くなると思い、小さな机を引っ張り出してその上で描かせる。
それをベッドから見守るようにしていたが、今の時間ならいつもは寝ている。

「…ロゼッタ」

ロゼッタ「いまはやだのー!れおな、しーっ、だよ?」

振り向いてそう言うロゼッタが可愛いのだけはわかり、とりあえず彼女の元に行こうとベッドを降りるとまだ来ちゃダメだと騒ぎ始める。

「…耳が潰れそうだ」

ロゼッタ「もー、れおなじゃまぁ!」

「俺は寝たいんだよ。お前も来い」

無理やり抱きあげれば騒ぐかと思ったが思いのほか大人しい。
ベッドに寝転がりロゼッタを隣に寝かせる。

ロゼッタ「れおな、ねんねなの?」

「…あぁ、ねんねだな」

ロゼッタ「わたし・・ねむくない」

「子供はよく寝りゃ育つんだよ」

ロゼッタ「ねなくてもそだつもん!ひとりであそぶからはなして」

「…だめだ。大人しく寝とけ、絵描きならあとでもできる」

いつもするようにロゼッタを抱き込み、抜け出せないようにしてから瞼を閉じた。

ーー-
ラギー「レオナさん、ロゼッタちゃん~朝ッスよ〜!!」

「ん"…」

ラギー「ハイハイ、レオナさん起きた起きた!ロゼッタちゃんもお寝坊さんはダメッスよ〜」

ロゼッタ「………れぉ、な、」

ラギー「レオナさんはお寝坊さんッスからねぇ。ロゼッタちゃん代わりに起こしてくれないッスか?」

ロゼッタ「んん、ぉこす……」

耳に届くラギーの声に意識が浮上するもまだ寝ていたくて知らないフリ。
だが予想していなかったことが起きた。

ロゼッタ「、れおな、あさだって、おっきしなきゃ…」

ラギー「ほらレオナさん、ロゼッタちゃんが起こしてくれてるッスよ〜」

まだ眠たそうな声と共に体を揺すられて仕方なく目を開ければぽやぽやした顔のロゼッタと目が合う。

すり、と頬を撫でれば気持ちよさそうに瞼を閉じて同じように目を閉じた。

ラギー「ちょ、何2人で寝ようとしてんスか!朝練ッスよ!」

「…危ねぇとこにコイツ連れて行けねぇだろ」

ラギー「……そりゃそうッスけど、レオナさん居てくんないと、」

「……、見てるだけだからな」

ラギー「うぃッス」

ロゼッタを起こして朝飯を食った後、着替えて朝練に向かう。
人が多いのに慣れねぇのかベッタリくっつかれたまま離れようとしない。

ラギー「まぁ見てるだけって言ってたんで良いッスよ。ロゼッタちゃん見ててあげてください」

「ん」

朝練を開始したあと周りが自分を見なくなったことに安心したのか、少し離れるロゼッタに近くにいろと引き寄せ隣に居させる。

ロゼッタ「れおな」

「どうした」

ロゼッタ「れおなも、あれやる?」

「そうだな」

ロゼッタ「みたい!れおな、あれして!!」

キラキラした笑顔で此方を見るロゼッタにチェカに近いものを感じる。
だが、ロゼッタを置いて離れるなどできるわけがない。

「今はダメだ。お前が大きくなったら見せてやる」

ロゼッタ「やだ!いま!みせて!!」

「…はぁ。おい、」

近くにいた寮生を呼びつけロゼッタを押し付ける。

「いいな、何があってもコイツから離れんなよ」

ロゼッタ「わかった!!!」

寮生にもよく言い聞かせてラギーのチームに加わる。

ラギー「あれ、レオナさん良いんスか?」

「ロゼッタが見てぇって騒ぐんだよ。1回やりゃ十分だろ」

そう言って箒に乗り試合に参加した。

「!ヤベッ?!」

「!?、ロゼッタ!!」

寮生がどこに飛ばしてんのかディスクは真っ直ぐロゼッタの元に飛んだ。

間に合うか、此方を見て目を見開くロゼッタ。

急に心臓のあたりがゾワッと嫌な感じに襲われる。
咄嗟に動けるなんて思っちゃいねぇがあのままではぶつかってしまう。
あんなちいせぇ体に当たったらどうなるか分かったもんじゃない。
飛んできた寮生が咄嗟にロゼッタを抱き込んだのが見えた。

待て、間に合ってくれ──!

「レオナさん!?」

全速力で飛ばした箒と共に防御魔法を唱えようとした。

だが・・・・

小さな光が無数に集まり、ロゼッタに結界を築いたのだ。

まさか、精霊か?でも・・クロウリーは

『愛しい子を守らなきゃ』

『でも、僕たちの存在を知るのはまだ先だよ。だから隠したのに』

『危険な状態だったからいいの。』

『上級の精霊は呼べないけど、僕たちは愛しい子と契約してないから、助けれる。』

そういうことか・・・・クロウリーはとんだ勘違いをしてたってわけだ

精霊の力でギリギリでディスクは威力をなくし地面に落ちた。

安堵の息をつきバッと振り返れば寮生に抱えられたロゼッタが此方を見ていた。

「…ロゼッタ、なんともないな?」

ロゼッタ「…、ふぇっ、れおなぁ…れお、なっ…ひくっ」

「ん、頑張ったな。…お前も、ロゼッタを守ったこと感謝する」

「いえ、すみません。姐さんには怖い思いをさせてしまいました」

「いや、守ろうとしてくれただけ十分だ。俺はこのまま抜ける。指示はラギーに聞け」

言い残し彼女を抱き上げて俺はその場を離れた。

そのまま自室に戻りベッドに腰掛けるもロゼッタは未だ泣いたまま離れようとしない。服を強く握りしめたまま顔を埋め嗚咽を漏らしている。
背中をぽんぽんと擦り泣き止むのを待つ、が泣き止むのかこれ。

「…ロゼッタ」

ロゼッタ「うぅ、ひっ、れぉ、」

「ん。怖かったな。…近くに居なくて悪かった」

本当に、今のロゼッタにはトラウマになるかもしれないような出来事になってしまったかもしれない。

あの時、ロゼッタに願われたからと易々と離れた自分を呪いたい。

ロゼッタ「……れおな?」

「…泣き止んだか」

ロゼッタ「ん、れおなのほうがなきそうだよ?」

腕の中から此方を見上げ頬にぺち、と手を合わせられる。
吸い込まれそうなほど澄んだ碧眼に見つめられ、たじろぐ。

「…は、泣かねぇよ」

ロゼッタ「…いやだったら、ないていいんだよ?」

「…そうかよ」

「うん!おかあさまがいってたの!!がまんしなくていいのよ、って!!」

自慢げに話すロゼッタの頭をそっと撫でると嬉しそうに目を細めるから猫かと思う。

「そうか。……で、お前は今日何したい」

これ以上この話をしてるとなんだか今のロゼッタを離してやれそうになかった。

…いや、今も離すつもりは微塵もないが片時も離れずに傍に置いておきたくなる。話を変えて何とかロゼッタの気が違う方へ行って欲しい。

ロゼッタ「きょうはぁ…れおなについてく!」

「…は?」

ロゼッタ「れおな、きのうはわたしのしたいことやらせてくれたでしょ?だから、つぎはれおなのばんだよ!」

ニコニコと、何もしてないのに楽しいみたいな笑顔を見せるロゼッタ。

何したいか聞いてるのは俺なんだが…何を言うのか楽しみにしてる彼女はキラキラした眼差しを俺から外さない。

「…俺のしたいことすると1日寝てることになんぞ」

ロゼッタ「えぇ、それはつまんないよ!べつのことがいい!」

「…ねぇよ」

俺のしたいことを望むくせに寝るのはダメだなんて変わんねぇな。

一緒に居れれば嬉しいと言う癖にただ寝てるだけはつまらない。
たまに一緒に昼寝をすることもあるが大抵は膝枕をしてもらい寝る方が多い。

だが、今のロゼッタにそれは望めないだろう。…潰しそうだしな。

ロゼッタ「れおな、ここがっこうっていうんでしょ?」

「あぁ、そうだな。で?まさか授業受けたいだなんて言わねぇよな?」

ロゼッタ「…?れおな、しないの?」

「…しねぇ」

ロゼッタ「いかない?」

「ぐ、……いかねぇ」

ロゼッタ「どうして?」

心底不思議そうに此方を見上げるロゼッタに何と言うべきか考える。

「…お前、知らない奴がそこらに居て大丈夫か?」

ロゼッタ「…しらないやつ?」

「俺やラギー以外に、知らない人がたくさん居るが良いのか?」

ロゼッタ「……、れおながいるからだいじょうぶ!」

「…そうか」

なんでお前はこうも、真っ直ぐ俺を信頼してんだよ。そう思いながらも尻尾は素直に揺れるのが分かる。

「…明日な。今日は別のことする」

ロゼッタ「あした?あしたはがっこういくの?」

「あぁ。明日な。今日は違ぇ」

ロゼッタ「じゃあきょうはなにするの?」

今日は寮長会議があるからそれまでは植物園で時間を潰すか。
ラギーがしつこく言ってきたから覚えてはいたものの実際出るかと聞かれればまぁ引きずられていくのだろう。

「お前、花好きか」

「おはな?ん〜…すきだよ!わたしがおはなしするとゆらゆらするの。」

…やっぱり精霊の存在を知らねぇだけで、加護は受けてんだな。

「…植物園に行く」

ロゼッタ「おはなあるの?」

「あぁ。…嫌か?」

ロゼッタ「ううん!れおな、いっしょならなんでもいい!」

早く行こうと言わんばかりに手を引っ張るロゼッタの手をそっと引き抱えあげる。キャッキャと嬉しそうに笑うロゼッタを落とさないように植物園、いつもの場所に向かった。

ラギーが用意した昼飯を食べ、残りの時間は昼寝タイム。
例え寝過ごそうがラギーが起こしに来るだろうからロゼッタがどこかに行かないように抱き抱え寝た。

予想通りラギーが起こしに来た時、ロゼッタは眠そうに腕の中に居るも寮長会議があるから校舎に行くと知ると何故か嬉しそうにしてるモンだから意味がわからない。

ロゼッタ「れおな」

「ん」

ロゼッタ「…じふんであるくよ?」

「…迷子になっても良いならおろしてやる」

ラギー「レオナさん、ロゼッタちゃんが心配だからってちゃんと言ってやりましょうよ!」

「ハ、誰が言うかよ」

「そんなこと言ってるとロゼッタちゃん怖がるッスよ」

ロゼッタ「れおな?」

「…良いから抱えられてろ」

ロゼッタ「?…ぁ、らぎー」

ラギー「ん?どうしたんッスか?」

小さくなってから1度も呼んでないのに名前はちゃんと覚えてるのか。
それとも、俺が呼ぶから覚えたのか。どっちでもいいが突然呼ばれたラギーはロゼッタの顔を覗き込んだ。

ロゼッタ「もっとこっち」

ラギー「いやいや、これ以上は近いッスよ!?」

ロゼッタ「いーのっ!」

「ッ?!ちょ、ロゼッタちゃん!?」

何を思ったのかロゼッタはいきなりラギーの頬に口付けた。
は?…口付けた、?

「ラァギー…?」

ラギー「ちょ、誤解ッスよ!!ロゼッタちゃんレオナさんにもしてやってくださいッス!!!」

「や!れおな、おろしてくれないもん!」

言うなりレオナはすぐにロゼッタをおろした。彼もして欲しいのだ。

例え小さくとも相手は自分の番である。
他の雄はされて自分はされないだなんて許さなかった。
そして、おろしたロゼッタと近くなるべくしゃがみこみじっと彼女を見た。

きょとん、とするロゼッタに何を言うでもなくじっと待つレオナにラギーは声をかけた。

ラギー「レオナさん、言ってあげましょうよ。して欲しいって」

「………ロゼッタ。俺にもしろ」

ロゼッタ「?うん、わかった!」

うごいちゃだめだよ!なんて肩に手を置かれ尚もじっとするレオナの頬にちゅ、と口付けたロゼッタ。

耳はぴるぴると動き尻尾も嬉しそうに揺れている。
お返しとばかりにロゼッタの頬にたくさん口付け始めたレオナをベリッと剥がしたラギーが睨まれたのは言うまでもない。

ラギー「ほら会議遅れるッスよ!!」

「チッ」

そうしてまたロゼッタを抱き上げるかと思い見遣ると、彼女に手を差し出し繋がれるのを待っているようだ。

キョトン、とレオナを見上げたあとゆっくり手を伸ばし大きな手に小さな手を重ねた。

さて、ところ変わって会議室。
寮長は既に揃っておりあとはレオナを待つだけ…。そこに現れたロゼッタに皆目を見開いた。

リドル「エース達に聞いてましたがここまで小さいとは…」

ヴィル「あら、可愛いじゃない。レオナにはもったいないわ」

カリム「お、小さなロゼッタ!!俺の弟たちみたいだ!!」

等等、遅れてきたレオナよりロゼッタを見て反応を見せる寮長達から隠すように自身の後ろに彼女を隠す。

ロゼッタ「…れおな?」

「…いいから、始めんぞ」

ラギー「じゃあロゼッタちゃん、レオナさんのことよろしくッスね!レオナさんちゃんとロゼッタちゃんのこと見ててくださいよ!?」

「わぁってる」

レオナは席に座りその膝にロゼッタを乗せた。資料を片手にロゼッタの頭を撫でている。

ヴィル「…慣れないわね」

ロゼッタ「…おにいさん、だぁれ?」

ヴィル「ヴィルよ。挨拶が遅れたわね」

ロゼッタと目を合わせじっと見つめ合う2人をせめてもの抵抗でロゼッタをガッチリ捕まえて離さないレオナ。

2人が恋人同士であることは周知の事実だから何も言わない。
が、機嫌が悪くなる前に終わらせてしまおうと会議内容を急ぎ進めた。

会議の内容が全て終わると用無しと言うようにレオナはそそくさとロゼッタを抱えて立ち上がった。

ロゼッタ「れおな」

「どうした?」

ロゼッタ「ううん、もうむずかしいおはなしおわり?」

「あぁ。終わりだ」

静かにしてて偉かったな。と頭を撫でてやると嬉しそうに笑うから少し強めに撫でてしまったのは秘密だ。

ロゼッタ「びる」

ヴィル「…どうしたの?」

ロゼッタ「ううん、れおなとおなじくらいきれいだなっておもったの!」

ヴィル「!…そうね。貴方の恋人と同じくらいって言われるの少し癪だけどまぁ認めるわ」

ロゼッタ「しゃく…?」

ヴィル「なんでもないわ。ほら、帰ったらラギーがご飯作って待ってるわよ」

ロゼッタ「らぎー!」

「バカ暴れんな」

ロゼッタ「れおな、らぎー!」

「わぁったって。じゃあな」

ヴィルと別れた2人は鏡をくぐる前におろされ、手を繋いで寮に帰った。
ラギーは驚いたように2人を見るもすぐにいつもの笑顔で夜ご飯を運んだ。

寝る時はロゼッタを抱き込んで、でも潰さないように気をつけながら寝る。
ロゼッタも大人しくレオナにくっついて寝るため獅子の尻尾は嬉しそうに揺れた。

翌日、朝練があると叩き起されたレオナだがロゼッタが起こすまで起きなかった。朝練もロゼッタを抱き上げたまま指示を飛ばすだけだ。
いつもだいたいそうなのだが今日は昨日のこともあり、ロゼッタを少し強めに抱き抱えていた。
朝練後、朝食を終えたレオナを急かすように手を引っ張るロゼッタと一緒にクラスへ向かった。

ロゼッタ「れおな」

「なんだ」

ロゼッタ「らぎーはいっしょじゃないの?」

「同じ時もあるが基本は違うな」

ロゼッタ「…そっか」

「…一緒が良かったのか」

ここでうん。と言われてもラギーの元へはやらないが…。
ロゼッタは少し考えたあと、ふるふると首を振り抱っこ!とせがんだ。

ロゼッタ「れおなといっしょ、とってもうれしいの!でも、らぎーもいっしょだともっとうれしいの!だってね、れおなたのしそうなの!」

キラキラした笑顔でそう言うロゼッタに何も言えなかった。

否、何を言えば良いか分からなかった。…俺、そんな楽しそうにしてるか?

首元にきゅっと抱きついてすりすりと甘えるようにくっつくロゼッタを抱き抱えたままクラスに入ると奇異の目で此方を見る連中が目に入る。
俺だけならまだ良いが、ロゼッタにもその視線が突き刺さってると思うとやはり来なかった方が良いかと思い直す。

ロゼッタ「れおな」

「どうした」

ロゼッタ「だいじょうぶだよ!れおないっしょだもん!」

「…そうかよ」

ロゼッタ「うん!!」

あまりにキラキラした目で此方を見るからその頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。ふと静かになったロゼッタを見遣ると視線の先にヴィルが居ることに気づいた。

ヴィル「あら、かわいいお嬢さんも一緒なのね。てっきりラギーが面倒みるのかと思った。」

ロゼッタ「びる!おはよ!!」

ヴィル「おはよう。朝から元気ね」

ロゼッタ「うん!れおないっしょだから!!」

ヴィル「そう。」

チラ、と此方を見るヴィルから目を逸らす。

ロゼッタじゃなきゃここまでやらねぇ。小さく舌打ちをし、彼女を抱えて席に座る。膝の上に乗せ、落ちないように抱えた。

ロゼッタ「れおな!」

「ん」

ロゼッタ「いまからなにおしえてもらうの?まほう??」

「…今からは魔法史だな。その後は飛行術」

ロゼッタ「おそらとぶ?」

「あぁ」

ロゼッタ「とぶ!!とびたい!!れおなといっしょ!!」

「あぁ」

膝の上でキャッキャと喜ぶロゼッタを落ちないように支えつつ、頬が緩んでいるレオナにヴィルをはじめその場に居たクラスメイトは驚いていた。
あのレオナがロゼッタ1人にここまで心を開いている。
魔法史の授業が始まるまでその甘い空気にあてられたクラスメイトはげんなりしながら先生の話を聞いた。


飛行術。
レオナは魔法でパッと着替えロゼッタと共にグラウンドに出ていた。
箒を出し早くも目をキラキラとさせて今か今かと待つロゼッタを抱き抱えながら授業が始まるのを待った。

「ロゼッタ」

ロゼッタ「のる?!」

「落ちるなよ?」

ロゼッタ「おちないよ!れおないっしょだから、おちてもたすけてくれるでしょ?」

疑いのない真っ直ぐな目で此方を見るロゼッタ。
なんでそうやって真っ直ぐ俺を見るんだ。
昨日怖い思いをしたばかりだろ。
二度とあんな目に合わせるつもりは無いが万一そうなったらどうするんだ。

ロゼッタ「はーやーくー!!」

「わぁったから静かにな」

クイクイ、と服を引っ張るロゼッタを宥め人差し指をその口元にあてれば自分で口元に手を当てコクコクと頷く。箒に座りロゼッタを前に乗せる。

「どこ行きたい」

「んーとね〜……れおなといっしょならどこでもいい!!」

「!」

ああ、俺の番はなんてかわいいんだ。そう思いながら飛ぶ。そして屋根に着地した。


ロゼッタ「わぁ〜〜〜!!」

キラキラした目で景色を見るロゼッタは儚げで少し目を逸らせば消えてしまいそうだった。

「綺麗か」

ロゼッタ「うん!!とってもきれい!!でも、れおなのほうがすっっっごく、きれいだよ!!」

「…そうか」

ほんと、お前の目に俺はどう映ってんだか。
ま、ここから見る景色も夕方や夜の方が少しは綺麗に見えるだろうが…
こんな昼間から見て感動するようなとこじゃねぇか。

「…そろそろ降りるぞ」

ロゼッタ「え、まだあとすこし!!」

「…少しだけな」

少しと言いつつどれだけ経ったのか気づけば授業が終わるチャイムが鳴っていた。ロゼッタを抱え下まで降りる途中廊下にラギーが居るのを見つけたロゼッタに言われてラギーの元まで飛ぶ。

ロゼッタ「らぎー!」

ラギー「はいはい何スか…って、ロゼッタちゃん!?」

レオナさんまで!!どうしたんスか!!と慌てるラギーにロゼッタが一言「らぎーみつけたからあいにきたの!!」と言えば照れたように笑った。

ラギー「ロゼッタちゃん、お昼食いたいもんあるッスか?何が良いか分かんなくって」

「んとね、、、おむらいすたべたい!!」

ラギー「了解ッス!じゃあ今日は食堂ッスね。レオナさんは…」

「昼向かう。いつもの買って待っとけ」

財布を渡しいつものサンドを買えと伝えてラギーと別れた。
そのまま植物園に向かい授業はどうするのだと怒るロゼッタに授業は無いと言い定位置に腰を下ろした。

ロゼッタ「れぉな…?」

「どうした」

ロゼッタ「んーん…なんもないよ…?」

ロゼッタは何も無い時でもたまに俺の名前を呼ぶ。
まるでそこに居ることを確認するかのように呼ぶのだ。
それが心地良いと感じつつ本当は何かあるのではないかと気になる。
だが、今回のこの感じ…チェカもそうだが…。

「…眠いのか」

ロゼッタ「ねむくない…」

そう言いつつ眠そうにうつらうつらしてるから背中を優しく叩いてやる。

ロゼッタ「やぁ…!」

「眠いなら寝てろ。別にどこも行かねぇよ」

ロゼッタ「…やだ、いっちゃうの…」

きゅ、と服を掴みふるふると首を振るロゼッタ。

…この歳で、何かあったのか。

いつものロゼッタには感じられない寂しさを纏っているように感じる。
否、いつものロゼッタが感じさせないように振舞っているだけかもしれないが。

トントン、とリズムよく背中を叩き続けやがて此方に身を預けるように寝始めたロゼッタに息をつく。
自分も幹に背を預け目を閉じた。

ごそ、と音がして意識が浮上する。
と同時に腕の中に確かに居たはずの温もりがなく目を開けた。
近くに生える花を見てるロゼッタに安堵をつき声をかけるとトテトテと寄ってくる。

「勝手にうろつくな」

ロゼッタ「れおなねてたもん」

「それでもだ。何処か行くなら誰か連れて行け」

ロゼッタ「いっしょなの、れおながいいの!」

「なら俺を連れて行け。何処でもついて行ってやる」

抱き上げて食堂に向かうべく足を進める。ロゼッタは大人しく抱えられ向けられる視線に不思議そうに見つめ返す。

「気にすんな」

ロゼッタ「きにしてないよ?だってれおないっしょ!!」

「…そうか」

しきりに俺が一緒だから良いと言うロゼッタにいつもこれくらい甘えてく売れればいいと思わなくもないがあれはあれでまぁ可愛いからな。
食堂につくと既にラギーが昼飯を用意して待っていた。

ロゼッタ「らぎー!」

ラギー「さっきぶりッスね、ロゼッタちゃん」

ロゼッタを真ん中に挟み座るとラギーにキャッキャと話しかけるその腰にそっと尻尾を絡ませる。
気にしていない様子に少しイラッと来たがそのまま先に飯を食べ始めた。

ラギー「いい子にしてたッスか?」

ロゼッタ「してたよ!れおなといっしょにおねんねしたの!!」

ラギー「そうッスか。レオナさん?」

「…なんだ。二限までは出たから良いだろ」

ラギー「良くねぇッスよ!!ロゼッタちゃんをサボる口実にしないでくださいッス!!」

「クロウリーにはクルーウェルから伝えてある。今日はロゼッタが行くって言うから出ただけだ」

ラギー「だからって、」

ロゼッタ「けんかめーっ!!」

「「ッ、!?」」

ロゼッタを挟み上で口論を繰り広げる俺たちにオムライスをつついていたロゼッタが声を荒らげた。

ロゼッタ「けんか、めっ、だよ!それに、ごはんたべてるときにそんなことしてたらおいしくなくなっちゃう、っておかあさまいってたもん!!」

ラギー「ごめんッス」

「…悪かった」

頭をポンと撫でて再び食事を再開させる。
ロゼッタが何とかオムライスを食べ進めている様子にラギーが手を貸そうと声をかけると少し考えたあと何を思ったのか1口分すくい口元に持っていった。

ラギー「ロゼッタちゃん?」

ロゼッタ「なぁに、らぎー」

ラギー「いや頂けるのは大変有難いんスけど、それはレオナさんにやってあげて欲しいッス」

ロゼッタ「れおな?」

くるっと此方を振り向き、にぱっと笑うとずいっとスプーンを此方に寄越した。

ロゼッタ「れおな、たべる?」

「…あぁ」

ロゼッタ「はいっ!」

満面の笑みでスプーンを口元に持ってこられ口に含むと普通のオムライス。…だが、此奴に食わせて貰えるなら悪くねぇかもな。

ラギー「シシシッ、良い顔ッスねぇレオナさん」

「ラギー…?」

ラギー「なんでッスか!!いつものロゼッタちゃんと居る時もそんな顔ッスよ!!」

キャンキャン騒ぐラギーの声につられるように笑うロゼッタ。

「…ほら、時間無くなるから食え」

ロゼッタ「れおな!」

代わりにスプーンに1口分すくいロゼッタの口元に持っていくとはむ、と口を開けた。目をキラキラさせて此方を見るロゼッタの頭を人撫ですると「もう1回!!」とせがんできたからもう一度食わせてやる。

結局最後までせがんできたロゼッタに食べさせてやり自分のを食べる。
が、ロゼッタがしきりにやりたがるので食わされてやった。

この時には既に授業が始まる時間だったが気にする訳もなくラギーだけが席を立ち2人で食べていた。
食い終わったあとデザートを買い寮に戻って寝た。

夜、仕事を終えたラギーが部屋に来ると飛びついたロゼッタを慌てて受け止めたラギー。
気に食わねぇが文句を言うと怒られるため黙っていてやるが…。

ラギー「どうしたんスかロゼッタちゃん」

ロゼッタ「らぎー、いっしょにでざーとたべる!!」

ラギー「デザート??」

「昼食った後に買ったんだよ。お前と食うって聞かねぇから待っててやったんだ」

ラギー「!?言ってくれればもっと早く来たッスよ!!なんで言ってくれないんスか!!」

ロゼッタ「らぎー、いそがしいのじゃましたくない…」

しゅんとラギーの服を掴むロゼッタにつられて少し耳と尻尾をへにゃらせたラギー。

ラギー「ロゼッタちゃんに言われれば忙しくても時間作るッスよ!ほら、それじゃ仕事全部終わったしそんな悲しい顔してないで食べましょ?」

ロゼッタ「うん。らぎーこっち!」

グイグイ引っ張って俺の元に戻ってくると隣をパシパシ叩き座るよう促した。もちろん、ロゼッタは俺の膝の上だ。

ラギー「レオナさんは食わねぇんスか?」

「ンな甘いモン食ってられるかよ」

ロゼッタ「れおなはこれいっしょにたべるの!」

そう言ってロゼッタが指したデザートはロゼッタ1人が食べるには少し多いと感じるものだった。

ははーん、とラギーはニヤけそうになったがこれ以上王様が不機嫌になっては困るので黙っている。

何せ今さっきまでロゼッタと話していたのはラギーなのだから。

「「いただきます」」

ロゼッタが選んだデザート…ドーナツは数分でラギーの口に食べられた。
何個あったと思ってんだガブガブいきやがって。
ロゼッタは未だ4分の1くらいしか食べておらず、しかもスプーンと違いフォークだからかなかなか取れないようだった。

「貸せ、食わせてやるから」

ロゼッタ「んー」

「なんだ」

ロゼッタ「ひとりでできるもーん!!」

「…俺が食わせてやりてぇから貸せよ」

ロゼッタ「…ぬぬ、」

しぶしぶ、といった形でフォークを渡してきたロゼッタの口元に1口サイズですくったデザートを持っていく。

はむ、と口を開け食べるロゼッタの鼻を噛みたくなり我慢する。
そうすること数分、まだ3分の2程残る段階で彼女はお腹いっぱいと呟いた。俺もこんなにはいらねぇから半分にして残りをラギーに渡した。

そうしてたくさん食って腹がいっぱいになったロゼッタはうつらうつらし始めた。

ラギー「あらら、ロゼッタちゃんおねむッスか?」

ロゼッタ「ねむくないよ…?」

「眠いなら寝ろ。良い子は寝る時間だ」

ロゼッタ「…れおな、いっしょ?」

「あぁ」

ロゼッタ「…ずっと?」

「あぁ」

ロゼッタ「そっかぁ…えへへ」

すり、と甘えるように頭を預けてきたロゼッタの髪をひとなでしてラギーを見遣れば既に食器を重ね始めている。

ロゼッタ「…れぉな、さん…」

「!」

ピク、と耳が反応する。
今までずっと呼び捨てで呼んでいた俺の名前がいつものロゼッタが呼ぶ時のものだったからだ。
ラギーも驚いたように此方を見ている。

「…もしかしたら戻る予兆かもしれねぇ。服用意しとけ」

ラギー「ウィッス」

ロゼッタの着替えを用意させ俺はベッドに寝転がり、彼女を抱きしめて寝た。
──────
ラギー「…レオナさん、ロゼッタちゃん、朝ッスよ〜!!」

ガチャ、といつものようにレオナを起こしに来たラギーが部屋に入ってきた。

レオナを起こそうとベッドに近づいたがそこに違和感があった。
ここ2日程レオナの腕に収まっていた小さな塊が元のサイズに戻っているのだ。…ん??

ラギー「ちょ、ロゼッタちゃん!?!?レオナさん、起きてくださいッス!!」

「…うるせぇぞラギー」

ラギー「いやほら見てくださいよ!!」

「…あぁ?」

見ろと言われて隣を見るとここ2日程小さかった番が元の姿で気持ちよさそうに寝ているのだ。
時折すり、とレオナに擦り寄り寝ている姿にレオナは目を見開いた。

「…戻ったのか?」

ラギー「…ッスね」

これは自分、いろいろとマズイのでは?

レオナは部屋で2人きりで居るのを好みラギーでも滅多に部屋には入れない。ドアの前で声をかけるだけに留めているのだ。

ラギー「すぐ出てくッス!!朝食ここに置いてくんで朝練来てくださいッスよ!!」

慌てて出ていくラギーを見遣ったあと、ロゼッタの頬をすり、と撫でると瞼を震わせてロゼッタが目を覚ました。

「お目覚めか」

ロゼッタ「…ん、レオナさん?」

「あぁ。調子はどうだ」

ロゼッタ「ぇ、…なんともないです。何かあったんですか?」

「…覚えてねぇのか」

ロゼッタ「何をです?」

元の姿に戻ったロゼッタは小さかった時の記憶がなく、俺がどうしてこんな質問をするのかわからないらしい。

「どこまで覚えてる?」

ロゼッタ「錬金術の授業をお手伝いしていたとこまでです。」

「毛玉の失敗した魔法薬がかかってここ2日程お前は小さかったんだよ」

ロゼッタ「え!?」

小さかった時のあれこれを教えてやると次第に顔を青くさせていくロゼッタの鼻に噛み付く。

やんわり噛んだ跡がつき、ぺろぺろと舐める。

ロゼッタ「迷惑をかけたみたいで…ごめんなさい」

「…お前じゃなかったら絶対放置してたな」

ロゼッタ「ぅ」

ズーン、と沈んだロゼッタの表情に頭を撫でてやりベッドから抜けて朝食を食べるよう促す。

「…ロゼッタ」

ロゼッタ「はい?」

「……いや、なんでもねぇ」

ロゼッタ「ふふっ。どうしたんですか?レオナさんなら聞かれたことに答えますよ」

そう言ってほほ笑むロゼッタをじっと見ると視線に気づいたのか頬を染めて黙ってしまう。

「…小さかった時、眠そうなお前を寝るよう促したら“どこかに行っちゃうから嫌だ”と言われた」

ロゼッタ「ぁ…」

「無理に言えとは言わねぇが…」

ロゼッタ「…いえ。昔、私よりも年上の従者の子がいたんです。でも、私が小さい時事故で…そのあとはジンジャーがお世話をしてくれました。」

「…そうか。悪かったな、思い出させて」

やはり、あの時の言葉はそういうことだったのか。1人納得し朝食を食べ進めていき、ふとロゼッタを見遣ればまだ何か言いたげに此方を見ていた。

「…どうした」

ロゼッタ「ぁ、えと、まだ聞きたいことがあるのかなって…」

「は?」

ロゼッタ「ないのなら良いんです!でも、まだ聞きたそうな顔してるので…」

「……小さいお前は、しきりに“レオナが一緒”だと口にしていた。今のお前はどうなのかと思ってなァ」

そう口にすると恥ずかしそうに俯くロゼッタに俺の最大限甘い声で名前を呼ぶ。

ロゼッタ「…レオナさんが一緒だと、なんでも大丈夫な気がするんです。無理そうなことがあっても、隣にレオナさんが居るだけで乗り越えて行ける気がするような…。レオナさんの一言だけで頑張れるんです」

そう言って微笑むロゼッタは酷く儚げで瞬く間に消えていくのではないかと感じさせる。キュッとロゼッタの手に自分のそれを重ねる。

ロゼッタ「…レオナさん?」

「なんでもねぇ」

ロゼッタ「…そうですか。朝練は?」

「…」

ロゼッタ「あるんですね。ラギー君が気を使って部屋に来てないんですから、ちゃんと行きましょう?お手伝いしますから」

「…あぁ」

お前は、俺の一言で頑張れると言ったな。
それは、俺も同じだってこと知らねぇんだろうな。
お前の存在が、どれほど俺に癒しを与えるか分かってねぇ。
どれだけお前の存在に救われるか、お前は理解していない。
教えるつもりはねぇが、離してやるつもりもねぇ。
だから、覚悟しておけよ?my Princess。
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