熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

「花火が打ち上げられない……!?一体なにが無くなったんですか!?」

トレイ「打ち上げ方法が記された、秘伝の書物か?」

ケイト「すっごく年代物の火打ち石とかじゃない?」

ジャミル「それか……先祖代々、花火師の家系に受け継がれるお守りとかですか?」

監督生「なんですかその具体的なラインナップは」

「違う違う!無くなったのは、USBメモリじゃ!」

「「「……USBメモリ?」」」

「あのUSBには、花火を打ち上げるためのプログラムデータが入っとる!」

監督生「えっ!?コンピュータで打ち上げを制御してるんですか!?」

ケイト「思ってた職人さんのイメージと違う!」

まあ、普通に驚くわよね。

花火といえば、職人自ら火を着火して打ち上げているイメージが強いから。

「もちろん気候にあわせた職人の技術は必要じゃが……花火大会は年々盛大に、複雑になっておる。1秒の誤差も許されない世界なんじゃ。テクノロジーは欠かせないに決まっておるじゃろ」

たしかに……のろのろと打ち上げられる花火なんて躍動感もなければ、なんの風情も感じられない。

そう考えると、昔の花火師はかなりすごい胆力の持ち主だったのね。

「USBがないと、今日の花火大会をすることは不可能じゃ!」

カリム「えーっ!?マズイぜ、それは!!!」

監督生「ちょ、カリム先輩!声が大きいです!」

思わずユウがカリム君の口を手で塞ぎ、周囲を見渡す。

こんな人だかりの中で花火大会中止するかもしれない話なんてしたら、周囲が騒然となるに違いない。
そう思っていたけど、私の予想に反して市場は別のことで騒ぎになっていた。

「あれっ。私のお財布がない」

「いつの間にか、俺のブレスレットがなくなっている!」

マレウス「周りにいる人々も、ものがなくなったと騒いでいるぞ」

ジャミル「どうやらこの近くにスリがいる。それも凄腕の奴が……」

「そんな人がいたら、ラギー君といい勝負ね」

ジャミル「……ん!?」

そんな会話をした直後、ジャミル君が私のほうを見て形相を変えた。

ジャミル「ロゼッタ様、危ない!」

「えっ!?」

突然腕を引かれて、あまりの力の強さに抗うことはできず、そのままジャミル君の腕の中に入る。

「ウキキー!」

直後、聞いたことのある鳴き声が市場中に響いた。

グリム「あっ!さっきオレ様を馬鹿にしやがった猿!!」

「もう少しでスマホが盗られてしまうところだったわ」

ジャミル「どうやら、あの猿が盗みを働いていた犯人で間違いないようだ。」

「ウキキー!」

猿はそうだと言わんばかりに鳴き声を上げ、そのまま人だかりの中へ消えてしまう。・・・・かと思ったら、

「えっ!」

子猿はロゼッタの手首をつかむと強い力で引き、人込みにロゼッタを連れ込もうとしていた。

監督生「ロゼッタさんっ!」

「ユウっ!」

「「ロゼッタ!!/ロゼッタちゃん/ロゼッタ様!!」」

監督生は手を伸ばすが、その手は宙を切り、ロゼッタに届くことなくロゼッタは人ごみの中に姿を消した。連れ去られる瞬間、サラマンダーは肩から落ちてしまった。

あまりの一瞬の出来事に動くことが出来たのは監督生のみ。ロゼッタが子猿に連れ去られ、周囲でスリに会ったと多くの人々が騒いでおり、自由に身動きを取ることができない。

カリム「た、大変だ!ロゼッタがサルに攫われちまった!」

マレウス「僕の前からロゼッタを連れ去るとはあのサル、命が惜しくないようだな。」

ケイト「ちょっと待って!マレウス君、怒る気持ちはわかるけど、一旦落ち着こう!?マレウスくんが魔法を使って、もし一般の人が怪我でもしたら、国際問題になっちゃうよ」

マレウス「しかし、ロゼッタが」

トレイ「あの猿は相当すばしっこいぞ。俺たちでは追いつけるかどうか……」

サラマンダー『ボクがちゃんとしてなかったから・・・』

監督生「私が追いかけます!!」

ジャミル「……待て、監督生」

監督生「ジャミル先輩?」

異国の地で気が緩んでいたとはいえ、ロゼッタを連れ去られて落ち着いていられるはずがない。監督生はロゼッタが連れ去られた方向に走り始めようとするが、その腕をジャミルが引いた

ジャミル「あの手の悪党の考えることなど、お見通しだ。盗みを働き、ロゼッタ様を攫ったこと後悔させてやる」

ジャミルの顔を見て監督生は思った。あの子猿は、敵に回してはいけない人を敵に回してしまった、と。

ジャミルの予想ならばロゼッタに今すぐ危険が及ぶことはない。子猿に物を盗ませ、盗んだものを回収する黒幕がいるはず。

【絹の街】は自分たちの生まれ育った街。店の場所や、抜け道のことは自分の家のように熟知している。

ジャミル「…きっとあそこにいるだろう。皆さん、行きましょう」

ジャミルはそっとサラマンダーを抱き上げ、肩に乗せる。

そんな彼の声に監督生たちは強く頷くと歩みを進めた。
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