熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

生前お父様から教わった手品を見せた時、タネを探ってた時もあんな顔してた。

からかいすぎて怒ったと思って、さっきのジャミル君みたいに肝を冷やしたことがあるからよくわかるわ。

「ショーはここまで。さぁ、食べてくれ!」

マレウス「ありがとう。いただくとしよう」

ようやく店主がアイスにカップに乗せて渡すと、マレウスさんは礼を言ってそのまま一口食べた。

マレウス「なかなか良い味だ。食感も面白い。これは気に入ったぞ」

ジャミル「はぁ、それはよかったです……」

「……ジャミル君、学園に戻ったらリリアさんにマレウスさんの表情の機微について聞いたらどう?付き合い長いから、役に立つわよ」

ジャミル「そうですね……そうすることにします」

完全に自分の早とちりだと察したジャミル君は、私の提案に力なく頷いた。


トレイ「すみません。これを1つください」

「はい、ありがとうございます!」

マレウスがアイスを楽しんでいる間、トレイは絹織物の店でバンダナを買っていた。

カリム「トレイ、バンダナを買ったのか?」

トレイ「あぁ。この衣装を着た時から、興味があったんだ。柔らかいし、綺麗だし……なによりいい記念になるかなと思って」

さすがに今しているバンダナは高くて買えないが、ちょうどリーズナブルな価格で売っているバンダナを見つけた。
自分用のお土産としてなら、これはちょうどいい。

カリム「『絹の街』の織物は、熱砂の国の中でも一番だって言われてるからなー」

トレイ「もっとも、こういうものを買ってもあまり使い道がわからないんだけどな」

カリム「使い道?好きなように使えばいいじゃないか」

トレイ「うーん。俺が普段使いするには少しハードルが高いかもしれない」

普段使いする以前に、そもそもこのバンダナをどう巻けばいいのかわからない。
それを察したのか、カリムはトレイに言った。

カリム「そうか?今頭に巻いてるのも、すごく似合ってるぞ!巻き方に困ったらいつでもスカラビア寮に来てくれ」

トレイ「助かるよ」

カリム「ジャミルが教えてくれるからさ!」

トレイ「自分で巻いてなかったのか!?」

まさかの事実を聞いて、トレイは苦笑いしながら、

トレイ「……ジャミルに迷惑をかけるのも申し訳ない。しっかり覚えとくことにするよ」

バンダナを買った店で巻き方を教わることにするのだった。

ザハブ市場を歩き回っている内に陽が落ちていき、天井に吊るされたランプたちに明かりが灯り、幻想的な光景を生み出した。

ジャミル「陽が落ち始めたな。もうすぐ花火の打ち上げ時間だ。会場へ移動するか」

グリム「うぅ……、ウマい物を食べすぎて、さすがにお腹いっぱいだ……。このまま昼寝をしたい気分だゾ」

カリム「おいグリム!メインイベントはこれからだぜ!もうすぐ最高の花火が打ちあがるからな!」

「そうよ。せっかくの本命を見逃すのはもったいないわ」

すでに眠そうなグリム君を頑張って起こしていると、前方から物腰柔らかな男性が現れた。

「おお、カリム様ではありませんか!」

カリム「あっ、おっちゃん!久しぶり!みんな、このおっちゃんが、大会で打ち上げる花火を作っている花火師たちの棟梁なんだ!ものすごい技術を持った職人の中の職人で、この人がいないと花火が上がらないんだぜ!」

ジャミル「祭りの目玉とも言える特大花火は、毎年凄く話題になるんです」

カリム「去年も凄かったなぁ!音楽に合わせてでっかい花火がブワーっと上がって!ランプやスカラベの形をした変わったやつもあって、すっげーおもしろかった!なぁなぁ!今年はどんな花火で、驚かせてくれるんだ?」

監督生「カリム先輩、そんな軽い調子でネタバレお願いします!?」

「そうですよ、それは打ち上がってからのお楽しみ。今年はさらに大きい物も用意しましたぞ。アジーム家からとにかくド派手にとオーダーされたからのう」

カリム「楽しみだなー!」

「ああ、是非楽しみに……ん?」

そこでふと、花火師が眉をひそめた。
そのまま懐やポケットに手を入れたり、パタパタ叩き始めた。

カリム「どうしたんだ、おっちゃん?服をパタパタ叩いて。汚れてたのか?」

「な、無い!大事なアレが!アレがないと、花火を打ち上げられん!」

「「「ええっ!?」」」

まさかの花火師の言葉に、全員が声を上げた。
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