熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

リリアさんへのお土産のためにあちこち店を渡り歩き回った私とトレイさん。

運よくジュース専門店を見つけて、お目当てのトマトジュースを無事ゲットすることができた。

トレイ「よかった。なんとかトマトジュースを買えたよ。これで全員、リリアへのお土産を買い終わったのかな」

「はい、買えたとおもいます。」

カリム「みんなからお土産もらったら、リリアも喜ぶと思うぜ!」

マレウス「リリアの喜ぶ顔が目に浮かぶ。みな、学園に帰ったらぜひディアソムニアに来てくれ。旅の話をリリアに聞かせてやって欲しい」

カリム「おう!任せとけ」

旅の話もいいお土産のひとつ。
これは学園から帰っても楽しみがあるみたい。

ジャミル「よし。さて、次はどこへ行こうか……」

監督生「クンクン……あの、コーヒーのいい香りがしませんか?」

「この国の人々は、コーヒーや紅茶が好きで街のいたるところにカフェがあるのよ。熱砂の国名物のスパイスコーヒーは、独特の味で人気なの。それと、コーヒー占いをしてくれるカフェもあるわね。」

グリム「なんだそれ?」

ジャミル「熱砂の国発祥の、珍しい占いだ。ナジュマもハマってるよ。スパイスコーヒーはフィルターを使わずに、香辛料と一緒に煮だして作るから、カップの中にコーヒー粉が残る。そのカスの模様や形、水滴の量で未来を占うんだ」

グリム「よくわからないけど、おもしろいのか?」

ジャミル「おもしろいかはわからないが……やってみるか、グリム?ナジュマに頼まれて、勉強させられたからな。少しは占えるぞ」

「私もお母様から教えてもらったからある程度はできるわよ。グリム君。」

ケイト「へぇー!やってみてよ!オレ、占い興味ある」

トレイ「ケイトは占星術が得意だもんな。よく当たるらしいから、俺も見たもらったことがある」

マレウス「僕も見てみたいな。そのような占いは聞いたことが無い」

監督生「せっかくだし、やってもらったら?」

グリム「オレ様、占ってもらうことにするんだゾ」

ジャミル「わかった。だったら、あそこにあるテラス席でカフェへ入ろう」

グリム君が乗り気になったところで、カフェに寄る私たち。

スパイスコーヒーを頼み、湯気の立つそれをグリム君の前に置いた。

ジャミル「さぁ、グリム。コーヒーを飲んでくれ。上澄みのコーヒー粉を飲まないように気を付けろ」

グリム「わかったゾ!」

ジャミル君の注意を聞きながら、グビグビとコーヒーを飲むグリム君。

グリム「……舌がピリッとして、変わった味がするんだゾ。これ、ホントにコーヒーなのか?」

「コーヒーが浅煎りだからじゃないかしら。スパイスのカルダモンの味が強いの。だから、甘いお菓子を食べながら飲むことが多いのよ。この砂糖菓子を一緒に口にすると、飲みやすくなるわ。」

私が渡したのは、ころんとした可愛らしい砂糖菓子。
グリム君はそれを掴み取って食べる。

グリム「むしゃむしゃ……。お!これなら平気だ!ウマいんだゾ!ゴクゴク……」

ジャミル「飲み終わったら、カップに蓋をしてそのままひっくり返せ。最後にカップの底を押さえながら、占いたいことを唱えるんだ」

グリム「よーし、オレ様の占いたいことは……『大魔法士になるのはいつか』だゾ!」

監督生「もはや安定」

トレイ「なれるかどうか、じゃないんだな」

ケイト「グリちゃんらしくて、良いんじゃない?」

グリム君の占い内容を聞いて、ジャミル君はひっくり返したそれを手に取る。

ジャミル「よし……グリムの占いの結果は……」

グリム「ゴクリ……」

グリム君が息を呑む中、ジャミル君はカップを離す。

ジャミル「……だ、ダメだ、占えない」

グリム「ふなーっ!なんだそれ!?」

ジャミル「飲むなって言ったのに、お前がコーヒーの粉まで飲むからだろうが!」

監督生「うわ、カップの中すごく綺麗」

グリム君が飲んだカップを見ると、粉どころか水滴もひとつがないくらいピカピカだ。

よく全部飲めたわね、かなり苦いのに。

ジャミル「よくあんな苦いものをゴクゴクと飲めたものだ……」

グリム「粉のことを気にして、チマチマと飲めないんだゾ!めんどーくせー!」

監督生「それじゃあ占いの意味がないじゃん。」

ケイト「良いじゃん。グリムちゃんの未来は、占いでは測れないってことだよ♪」

結局、グリム君のコーヒー占いは失敗に終わったのだった。

グリム君のコーヒー占いが失敗したが、飲んでいたコーヒーにマレウスさんが興味を示した。

マレウス「それほど苦いコーヒーなら、シルバーへの土産にするかな。眠気覚ましにぴったりだ」

カリム「そうだな、シルバーなら喜ぶと思うぜ!セベクの分はいいのか?」

マレウス「セベクはコーヒーが飲めないんだ。どうするか……」

「それなら、紅茶はどうですか?紅茶も熱砂の国の名物ですよ。この国ではみんな、1日10杯以上飲むと言われているんです。」

サラマンダー『愛しい子・・紅茶好き』

「ええ、そうね」

トレイ「薔薇の王国の人間も紅茶はよく飲むが……1日10杯はなかなかにすごい量だな」

ジャミル「紅茶もコーヒーと同じように、茶葉を直接煮だして作ります」

グリム「うわ……さっきのコーヒーみたいに苦そうなんだゾ……」

ジャミル「あぁ。味が濃いのでとても苦く、渋みも強い。でもその分、砂糖もたくさん入れるんだ。もちろん、甘いお菓子も一緒に食べる」

グリム「紅茶に砂糖を入れたのに、お菓子も食うのか?今度は、めちゃくちゃ甘そうなんだゾ……」

「健康診断受けたら一発でアウトになりそう。」

ジャミル「紅茶には気分を落ち着かせる効果があるので、セベクにはピッタリだと思います」

マレウス「そうだな。あいつにはせっかちなところがある。よし、セベクへのお土産は紅茶にしよう」

セベク君へのお土産が決まったけれど、そこで何故かジャミル君は黙り込んでしまった。

トレイ「……ん?どうしたんだ、ジャミル?」

ジャミル「そういえばこの前、飛行術の授業で見かけたとき……セベクがマレウス先輩から貰ったクッキーを食べるのが勿体ないと、ずっと胸元に忍ばせていた。動いた拍子にそれが粉々に割れたものだから、見ていて気の毒になるほど落ち込んでいたな」

トレイ「おいおい。その紅茶も、セベクはもったいなくて飲めないんじゃないか?」

ケイト「あはは~。家宝になっちゃうかもね~」

「セベク君ならやりかねないわね」

監督生「真空パックとか魔法使って永久保存しそう……」

ジャミル「新鮮さが自慢の茶葉なので、早めに飲むよう伝えてください」

マレウス「わかった。厳命しておこう」
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