熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

またしても別行動することになったトレイとケイトは、ジャミルに案内されて来た場所は比較的食べ物系が多く取り扱っているエリアだった。

ジャミル「この辺りの露店はお菓子や雑貨が多いのでお土産を選ぶのにいいと思いますよ」

ケイト「ほんとだ、しかも熱砂の国っぽいものがいっぱい!ねえ、トレイくん。この辺で寮のみんなへお土産買っちゃわない?」

トレイ「そうだな。さて、どんなものにしようか……」

ケイト「配りやすい、1個ずつ包まれてるお菓子なんかがいいな~」

トレイ「このデーツチョコなんかどうだ?」

ケイト「いいね!包み紙も可愛いし、中身もこの国の名物ってカンジ。けど、慣れない食べ物は抵抗があるって人もいるかも。無難なやつも欲しいな」

ケイトのアドバイス通りに、トレイが無難な物を選んでいる間に、当の本人は近くの店を見て目を輝かせる。

ケイト「わっ、見てみて。左隣の露店のアクセサリーめちゃくちゃ綺麗!珍しい石が付いたブレスレットなんか、オシャレ好きの子が喜びそうだな。んー、でもお店の奥に並んでる石鹸もココナッツオイルが使われててお土産によさそう…」

トレイ「おいおい、ケイト。お菓子を買うんじゃなかったのか?」

ケイト「あはは。ごめーん。珍しい物がいっぱいあるから目移りしちゃった」

異国の地ということもあり、ケイトのテンションは本人が気付かないほど上がっていたらしい。

ケイト「気を取り直して、と。どれを選んだらみんな喜ぶかなー」

ジャミル「………………」

改めてハーツラビュル寮へのお土産を選ぶケイトを、ジャミルは意味深な顔で見つめていた。


ケイト「無事、寮のみんなへのお土産ゲット!外箱のデザインもカワイイ♪これならみんなも大満足でしょ」

ジャミル「――ケイト先輩」

ようやくハーツラビュル寮が喜びそうなお土産を選んだケイト。
そのタイミングを見計らって、ジャミルが話しかけてきた。

ケイト「あ、ジャミルくん。どうかした?」

ジャミル「さっきお土産を見てましたけど……選んだのは、人に上げるものばかりですよね。自分用のものは全然探してないみたいですけど、なにか買わなくていいんですか?」

ケイト「えっ?」

突然の発言に、ケイトは思わず目を見開く。
だけどジャミルは気にせず続けて言った。

ジャミル「あまり興味を惹かれないようでしたら、別の露店もあるのでお連れします。アテンドするからには、ケイト先輩にも心から満足していただきたいので。……それに、後でまたお土産を見たいと言われても時間をとれるかわからないですからね」

ケイト「いやいや!ジャミルくんのガイドは完璧だし別に自分のものを探してないわけじゃないよ?みんなのお土産を選ぶのが楽しくて夢中になってただけ!ほら、オレってハーツラビュル寮の優しいお兄さん的ポジションじゃん?」

ジャミル「……どちらかといえばそれはトレイ先輩という気もしますけど」

ケイト「あはは。そう?トレイくんはどっちかっていうとお父さんじゃない?」

そう笑顔で言うが、ケイトは内心冷や汗を掻いた。
一瞬だが、自分の本心が彼に暴かれたような気がしたから。

(……なかなか鋭いなー。やっぱり、ジャミルくんって周りをよく見てるよねえ)

さすがは従者というべきか、相手の心情の機微を感じるのは長けている。

ケイト「――あ、そうだ。いいこと思いついた。ねえ、ジャミルくん!まだ自分のお土産をゲットできてないオレのために、ジャミルくんがよさそうなものを選んでよ」

ジャミル「えっ!なぜ俺が!?」

ケイト「せっかく、熱砂の国ならではのものを買うなら現地をよく知る人の意見を聞きたいからさ~。それにジャミルくんが言ったんじゃん?オレに『心から満足してもらいたい』って」

ジャミル「うっ……」

自分の発言を思い出して、呻くジャミル。
だけどすくにため息を吐いた。

ジャミル「はぁ……。わかりました、1つだけですからね」

ケイト「ありがとー!ジャミルくんがどんなものを選んでくれるのか、楽しみだな♪」

結局、先輩の頼みを断り切れず、無茶難題を押し付けられるジャミルであった。

ケイトはジャミルに頼んで、自分に合う土産を選ぶことにした。
しかし……。

ケイト「ねえ、ジャミルくん。オレのお土産を選んでとは言ったけどさー……さっきいた場所から、5分も歩いてるよ?いったい、どこに向かってるの?」

ジャミル「もう着きますよ。――ほら、到着しました。左側の店です」

「いらっしゃいませ!どうぞ、お手にとってご覧ください」

ジャミルが案内されたのは、洋服などを取り扱ういわゆるブティックのような店だった。

ケイト「ん……?うわー、オシャレな服とかポーチがいっぱい!ここって、絹織物のお店?」

ジャミル「はい。すべての品物に熱砂の国の伝統模様が刺繍されています。ケイト先輩の持っているスマホカバー、流行っているブランドのものですよね?今日持っていた鞄も、同じブランドのもので統一してましたし、持ち物に妥協がないご様子。観光客向けの店より、日常でも使いやすい地元の人たちが使う店がいいかなと思いまして」

ケイト「えー、そんなとこまで見てたんだ!?」

まさかジャミルが細かいところまで見ていたことに驚きながらも、彼の言う通りケイトの好みの店であることは間違いない。

ケイト「確かにこのお店、お洒落なものがいっぱいでテンション上がっちゃう。あ、手前にあるのってストールかな?使い勝手よさそう~」

「気に入ったものがあれば、試しに羽織ってみてくださいね」

ジャミル「いいんですか?ありがとうございます!じゃ、このストールを羽織ってみよっと」

店員の言葉に甘えて、ストールを手にするケイト。
それを見て、ジャミルが意外そうに言った。

ジャミル「彩度の高いイエロー……また随分、派手な色の生地を選びましたね」

ケイト「うん。オレ、ビビットカラー好きなんだよね。見てると元気が出ない?どうどう、ジャミルくん?オシャレに見える?」
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