熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ

なんとか自分たちのお土産を選び終えた私たち。
だけど、カリム君とケイトさんがまだ戻ってこなかった。

トレイ「ケイトとカリムはまだ戻ってないのか?」

ジャミル「楽器店はそう遠くないはずなんですが……。やけに時間がかかっていますね。いったい……あっ!」

「ちょうど来たみたいね」

カリム「おーい!リリアへのお土産、買ってきたぜー!」

ケイト「お待たせ!いろいろ見てたから、ちょっと時間がかかちゃった」

2人の手には紙袋があり、どうやら目的のものは買えたみたいね。

ジャミル「その様子だと、いいものが見つかったようですね。どんな楽器を買ったんだ?」

ケイト「楽器はやめた!」

ジャミル「は!?」

「え?」

楽器はやめた?
じゃあ、あの紙袋に入っているのは一体何?

ケイト「ジャ―――ン!お土産はこれ!熱砂の国のお菓子!」

カリム「ラクダのミルクを使ったチョコレートに、シロップたっぷりの甘~いクッキー!」

ケイト「それと、ひまわりの種にピスタチオ、ヒヨコマメ……とにかくナッツをたくさん!」

カリム「これでしばらくは、熱砂の国を思い出しながらティータイムを過ごせるな!」

ケイト「うんうん!絶対リリアちゃんも喜んでくれるはず!」

カリム「これこそ、軽音部だよな!」

「「…………」」

2人が買ったものは、全部お菓子とナッツ。
一体どういう経緯で楽器を買うのをやめたのか知らないけど……でも、これだけは言わせてほしい。

「……軽音部って、なんだったかしら?」

私がそう思っていたとき、ケイトさんがメンバーが少ないことに気付いた。

ケイト「あれ?マレウスくんがいないよ?」

カリム「……あ!あそこの店から出てきた!リリアへのお土産、まだ見つからないのか?」

絹織物の店を出てきたマレウスさんの顔は芳しくない。
どうやらあのお店にも彼が求める物はなかったらしい。

ケイト「マレウスくんはリリアちゃんと付き合いが長いしね。妥協したものを買いたくないんだろうな~」

トレイ「学園に戻ったら、マレウスが真剣にお土産を選んでたってリリアに教えてやらないとな」

「そうですね」

あのリリアさんも、マレウスさんの話を聞いたら喜ぶだろう。

ジャミル「マレウス様。なにかお困り事ですか」

マレウス「誰かのために土産を買うのは初めてなんだ。なかなか難しいな。リリアは、観光地のペナントを集めているから探してみたのだが……ここには無いようだ」

トレイ「ペナント……?聞いたことがないな」

ケイト「あ、もしかして観光名所とか刺繍されている三角旗のこと?」

マレウス「ああ。リリアに聞いたのだが、どうやら土産の定番らしい。僕もリリアからよく貰うから、寮の部屋に飾っている。織物が盛んな国だから、ペナントはピッタリな土産と思っていたのだが……」

私も何度か見たことある。でも、あれはもう売ってなかったような……?

「定番商品だったのは、かなり昔のことだよ。今時、どの店でも置いていないと思うな」

マレウス「それは残念だ……」

「この世界でも売ってないんだ、ペナント」

ジャミル「織物……では、これはどうでしょう?」

そう言って、ジャミル君は話しかけた店主の店から1着のシャツを見せた。

オレンジを基調としていて、花火の模様がプリントされている。

マレウス「華やかなデザインのシャツだな。この『束縛から解き放たれし者が纏う自由の衣』という謳い文句も気になる」

ジャミル「これは『ジャーニーシャツ』と言って、ランプの魔人が旅をする際に着た服だと言い伝えられています。旅行のワクワクした気持ちや高揚感を表すために、ド派手な柄や色になっているんですよ。そんな言い伝えや珍しいデザイン性から観光客への土産物として発展していきました」

マレウス「旅好きのランプの魔人、愛用のシャツか。表情豊かで快活なリリアに似合いそうだ。このジャーニーシャツを1枚買わせてもらおう」

すっかりそのシャツを気に入ったマレウスさんが会計すると、店主は笑顔で何故かもう1枚のジャーニーシャツを取り出した。

「まいどあり!お客さん運がいいね~。今うちは、『ヤーサミーナ河花火大会 記念キャンペーン』中なんだ。1つ買うともう1つ無料!君の分も、プレゼントするよ。はい!」

マレウス「なに?このカラフルなシャツを……?」

ジャミル「マレウス先輩が……?」

「「ごくり……」」

マレウス「………………」

無料で受け取ったそれを見つめるマレウスさん。

みんなが息を呑む中、マレウスさんはしばし熟考し……。

マレウス「……今度着てみるか。これが旅の醍醐味というものかもしれない」

「「「「ええ―――――っ!?」」」」

まさかの着るという選択肢、私たちを驚かせた。

トレイ「このド派手なシャツを、マレウスが……。だめだ、全然想像ができない!」

ケイト「大丈夫?罰ゲームでやらされてるって思わない?」

カリム「楽しそうでいいと思うぜ!せっかくだしジャーニーシャツを着て授業に出てみたらどうだ?」

グリム「……リリアへのお土産買ってるだけで、大騒ぎなんだゾ」

監督生「ま、まあツノ太郎の場合はね……」

私はユウとグリム君の会話に苦笑しながら、私はジャーニーシャツを手にした。

「あ、あのマレウスさん。せっかく1枚買ったらもう1枚無料でくれるというのなら、シルバー君とセベク君の分もどうでしょうか?きっと喜ぶと思いますよ。」

マレウス「……そうだな。あの2人にも旅の楽しみを味わってほしいからな」

私の提案にマレウスさんが賛成すると、そのまま彼はジャーニーシャツを計4枚(内2枚は無料)を購入した。

なんとかマレウスさんとリリアさんだけあのシャツコーデになることを回避すると、カリム君以外のみんなは『よくやった!』とグッドサインを向けてくれた。

それから再びお土産探しに行き、私はリリアさんへのお土産として蝙蝠の形をしたオニキスのブローチを選んだ。

一目見た時、リリアさんらしくて気に入ったのよね。

ケイト「トレイくん、市場を行ったり来たりしてなに探してるの?」

トレイ「あぁ。完熟トマトのフレッシュジュースをな。リリアへのお土産用に」

ケイト「リリアちゃん、トマトジュース好きだもんね!」

マレウス「熱砂の国の野菜は品質が良いと聞く。あいつも喜ぶだろう」

トレイ「しかし、『ラクダバザール』にはたくさん売っていたんだが、こちらでは見かけないんだ」

「ここはどちらかというと、雑貨品が多いですから。」

トレイ「失敗したな。ロゼッタみたいにあそこで買っておけばよかった」
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