熱砂の国のアリア―ブ・ナーリヤ
ジャミル君に案内され、専門店が多いエリアにやってきた私たち。
その道中、ジャミル君はいろんな店の店主から声をかけられる。
「あら、ジャミル。久しぶりじゃない。花火大会に合わせて帰ってきたの?『絹の街』で育った私たちにとっては欠かせないイベントだものね」
ジャミル「ええ。カリムが挨拶回りをすることもあって、一緒に戻ってきたんです」
「やっぱり故郷は落ち着くでしょう?リフレッシュしていきなさいね」
ジャミル「……そうします」
「お友だちも楽しんで行ってね。はい、皆さんに紅茶のティーバックのサービスよ。これからもジャミルと仲良くしてあげてちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」
紅茶店では、優しそうな女主人からサービスを受け取る。
まるでジャミル君を孫のように扱う彼女の優しさに、自然とこちらもほっこりとした気持ちになった。
「ようこそいらっしゃいませ、お客様。御用があればなんなりとお申し付けくださいませ……って。なんだ、ジャミルじゃないか。いったいなんの用だ?カリム様のお使いってわけでもないだろう」
ジャミル「今日はナイトレイブンカレッジの皆さんに街を案内しているんです」
「それは結構。ただ、ここは学生が来るような店じゃない。アジーム家を始めとした一流のお客様に向けた選りすぐりの商品だけを扱っているんだ。売り物の絨毯で空を飛ぼうなんて馬鹿な真似をされちゃあ困るんだよ」
ジャミル「あのときは、カリム様が大変な失礼を……。当時はまだ分別の付かない子どもだったもので」
なにしてるの、カリム君。売り物で遊んじゃだめじゃない。
「それに……」
マレウス「ふむ、確かに素晴らしい織物だ。魔法はかかっていないようだが……」
「確かに、きれいな織物ですね」
「お兄さん、お姉さん。ベタベタ触らないでくれ。それが学生に手の届く値段の品じゃないよ!」
マレウス「あ゛」
監督生「ちょっ……!!」
マレウスさんと私が絨毯に触っているのを見て、店主が顔をしかめながら追い払おうとする。
どうやら、店主の人格は商品の質とイコールではなさそうだ。
ジャミル「こほん……その御方は我が主人のご学友であり、某国の次期当主であらせられます。そして、このお方は我が国の貴族をまとめるシャーティー家の当主にあらせられます。此度はお忍びでの熱砂の国のご訪問中……無礼な言動は慎んでいただきたい」
「え……!?」
マレウス「ああ。此度の旅もアジームの招待を受けて実現したものだ。客人を追い払うような店を懇意にしているとは……アジーム家の品格に関わるのではないか?」
「私が上に申し上げれば、あなたはもうここで商売ができなくなるかもしれませんね?」
「左様でございましたか!ジャミルくんも人が悪い。そういう大事なことは先に言ってくれないと。今お茶を持ってこさせますからね。あと、皆さんにお土産のコースターもご用意しましょう」
私たちが高貴な身分とわかった直後、へこへこと頭を下げる店主。
慌てて奥へ消えていく彼の後ろ姿を、グリム君が呆れた目で見た。
グリム「さっきと明らかに態度が違うんだゾ」
監督生「覚えておきな、グリム。あれが権力に媚びへつらう人間だよ」
トレイ「せっかくお茶を出してくれるというんだ。ありがたく一休みさせてもらおう。この暑さだ。急いで店を回りすぎると、途中でバテてしまうかもしれないからな」
マレウスさんがお気に召すものがなかったため、一休みとサービスのコースターをもらっただけで店を出る。
ジャミル「さて、一休みしたところで……次はどの店に案内しようか」
「おうおう、ジャミルじゃねえか!ちょっと寄ってけよ。新鮮な果物がよりどりみどりだぜぃ!」
声をかけてきたのは、果物店の店主。
見た感じ、豪快なおじさんという感じの人だ。
ジャミル「ご無沙汰しております。今日は『ザハブ市場』にいらしたんですね。さっき『ラクダバザール』でシルキーメロンの屋台に寄ったのですが、お姿が見えなかったので……」
「そうなんだよ。人手が足りないって呼び出されちまってなあ」
「『ザハブ市場』のこじゃれた雰囲気はどうも性に合わねえが、稼ぎどきだから仕方ねえ」
ジャミル「繁盛しているようでなによりです」
どうやらこの店主は、さっき食べたシルキーメロンの屋台の人らしい。
「おいジャミル、今日はずいぶんお上品だなあ。ヤンチャばかりしてた悪ガキはどこ行ったんだ」
ジャミル「仕事の一環として、主人のご学友に街を案内しているところなんです。そうでなくても、ナイトレイブンカレッジの先輩方に失礼なことはできませんから」
「がははは!!お前も年長者を敬うようになったか。いやあ、感慨深いじゃねぇか。店先のメロンをこっそりくすねてた悪タレが、今や名門ナイトレイブンカレッジの生徒とは……」
「「「「!!」」」」
え、ジャミル君 メロンをくすねたの?
グリム「わかるぜ、ジャミル。普通に食べるより盗み食いした物のほうが何倍も美味いんだゾ!」
ジャミル「お前と一緒にするな!」
グリム君に同意させられて心外とばかりに叫ぶジャミル君。
そのまま店主に睨みつける。
ジャミル「おやっさん、あの日は手持ちがなかっただけで、代金は後日ちゃんと支払っただろう!」
「おうとも。忘れもしねぇぜ。ノートの切れっ端にメロン代包んで、黙って店先に置いてったよな。小賢しいガキだぜ。直接謝りに来りゃオレにどやされるってわかってたんだもんな?」
ジャミル「だから!!余計なことをベラベラしゃべらないでくれ!」
過去の悪行をバラされ、ジャミル君は疲弊し始めていた。
まあ、『ラクダバザール』でも同じことされたものね。
ジャミル「……はぁ。そ、それじゃあ俺は案内の仕事に戻りますから……」
マレウス「バイパー、そう急ぐ必要はない。僕たちのことは気にせずゆっくり会話を楽しむといい」
トレイ「ああ、マレウスの言う通りだ。それに俺たちも昔のジャミルがどんなだったか興味があるしな」
監督生「完全に楽しんでる……」
「話のわかる兄ちゃんたちじゃねえか!いい先輩に恵まれたなあ、ジャミル」
ジャミル「おやっさん、いい加減にしてくださいよ。先輩たちにまでからかわれたじゃないですか」
「悪かった悪かった、お詫びにこの最高級のパイナップルをご馳走してやるよ」
そう言って、店主が見せたパイナップルはしっかりと熟れているものだ。
しかも甘い匂いがする。
その道中、ジャミル君はいろんな店の店主から声をかけられる。
「あら、ジャミル。久しぶりじゃない。花火大会に合わせて帰ってきたの?『絹の街』で育った私たちにとっては欠かせないイベントだものね」
ジャミル「ええ。カリムが挨拶回りをすることもあって、一緒に戻ってきたんです」
「やっぱり故郷は落ち着くでしょう?リフレッシュしていきなさいね」
ジャミル「……そうします」
「お友だちも楽しんで行ってね。はい、皆さんに紅茶のティーバックのサービスよ。これからもジャミルと仲良くしてあげてちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」
紅茶店では、優しそうな女主人からサービスを受け取る。
まるでジャミル君を孫のように扱う彼女の優しさに、自然とこちらもほっこりとした気持ちになった。
「ようこそいらっしゃいませ、お客様。御用があればなんなりとお申し付けくださいませ……って。なんだ、ジャミルじゃないか。いったいなんの用だ?カリム様のお使いってわけでもないだろう」
ジャミル「今日はナイトレイブンカレッジの皆さんに街を案内しているんです」
「それは結構。ただ、ここは学生が来るような店じゃない。アジーム家を始めとした一流のお客様に向けた選りすぐりの商品だけを扱っているんだ。売り物の絨毯で空を飛ぼうなんて馬鹿な真似をされちゃあ困るんだよ」
ジャミル「あのときは、カリム様が大変な失礼を……。当時はまだ分別の付かない子どもだったもので」
なにしてるの、カリム君。売り物で遊んじゃだめじゃない。
「それに……」
マレウス「ふむ、確かに素晴らしい織物だ。魔法はかかっていないようだが……」
「確かに、きれいな織物ですね」
「お兄さん、お姉さん。ベタベタ触らないでくれ。それが学生に手の届く値段の品じゃないよ!」
マレウス「あ゛」
監督生「ちょっ……!!」
マレウスさんと私が絨毯に触っているのを見て、店主が顔をしかめながら追い払おうとする。
どうやら、店主の人格は商品の質とイコールではなさそうだ。
ジャミル「こほん……その御方は我が主人のご学友であり、某国の次期当主であらせられます。そして、このお方は我が国の貴族をまとめるシャーティー家の当主にあらせられます。此度はお忍びでの熱砂の国のご訪問中……無礼な言動は慎んでいただきたい」
「え……!?」
マレウス「ああ。此度の旅もアジームの招待を受けて実現したものだ。客人を追い払うような店を懇意にしているとは……アジーム家の品格に関わるのではないか?」
「私が上に申し上げれば、あなたはもうここで商売ができなくなるかもしれませんね?」
「左様でございましたか!ジャミルくんも人が悪い。そういう大事なことは先に言ってくれないと。今お茶を持ってこさせますからね。あと、皆さんにお土産のコースターもご用意しましょう」
私たちが高貴な身分とわかった直後、へこへこと頭を下げる店主。
慌てて奥へ消えていく彼の後ろ姿を、グリム君が呆れた目で見た。
グリム「さっきと明らかに態度が違うんだゾ」
監督生「覚えておきな、グリム。あれが権力に媚びへつらう人間だよ」
トレイ「せっかくお茶を出してくれるというんだ。ありがたく一休みさせてもらおう。この暑さだ。急いで店を回りすぎると、途中でバテてしまうかもしれないからな」
マレウスさんがお気に召すものがなかったため、一休みとサービスのコースターをもらっただけで店を出る。
ジャミル「さて、一休みしたところで……次はどの店に案内しようか」
「おうおう、ジャミルじゃねえか!ちょっと寄ってけよ。新鮮な果物がよりどりみどりだぜぃ!」
声をかけてきたのは、果物店の店主。
見た感じ、豪快なおじさんという感じの人だ。
ジャミル「ご無沙汰しております。今日は『ザハブ市場』にいらしたんですね。さっき『ラクダバザール』でシルキーメロンの屋台に寄ったのですが、お姿が見えなかったので……」
「そうなんだよ。人手が足りないって呼び出されちまってなあ」
「『ザハブ市場』のこじゃれた雰囲気はどうも性に合わねえが、稼ぎどきだから仕方ねえ」
ジャミル「繁盛しているようでなによりです」
どうやらこの店主は、さっき食べたシルキーメロンの屋台の人らしい。
「おいジャミル、今日はずいぶんお上品だなあ。ヤンチャばかりしてた悪ガキはどこ行ったんだ」
ジャミル「仕事の一環として、主人のご学友に街を案内しているところなんです。そうでなくても、ナイトレイブンカレッジの先輩方に失礼なことはできませんから」
「がははは!!お前も年長者を敬うようになったか。いやあ、感慨深いじゃねぇか。店先のメロンをこっそりくすねてた悪タレが、今や名門ナイトレイブンカレッジの生徒とは……」
「「「「!!」」」」
え、ジャミル君 メロンをくすねたの?
グリム「わかるぜ、ジャミル。普通に食べるより盗み食いした物のほうが何倍も美味いんだゾ!」
ジャミル「お前と一緒にするな!」
グリム君に同意させられて心外とばかりに叫ぶジャミル君。
そのまま店主に睨みつける。
ジャミル「おやっさん、あの日は手持ちがなかっただけで、代金は後日ちゃんと支払っただろう!」
「おうとも。忘れもしねぇぜ。ノートの切れっ端にメロン代包んで、黙って店先に置いてったよな。小賢しいガキだぜ。直接謝りに来りゃオレにどやされるってわかってたんだもんな?」
ジャミル「だから!!余計なことをベラベラしゃべらないでくれ!」
過去の悪行をバラされ、ジャミル君は疲弊し始めていた。
まあ、『ラクダバザール』でも同じことされたものね。
ジャミル「……はぁ。そ、それじゃあ俺は案内の仕事に戻りますから……」
マレウス「バイパー、そう急ぐ必要はない。僕たちのことは気にせずゆっくり会話を楽しむといい」
トレイ「ああ、マレウスの言う通りだ。それに俺たちも昔のジャミルがどんなだったか興味があるしな」
監督生「完全に楽しんでる……」
「話のわかる兄ちゃんたちじゃねえか!いい先輩に恵まれたなあ、ジャミル」
ジャミル「おやっさん、いい加減にしてくださいよ。先輩たちにまでからかわれたじゃないですか」
「悪かった悪かった、お詫びにこの最高級のパイナップルをご馳走してやるよ」
そう言って、店主が見せたパイナップルはしっかりと熟れているものだ。
しかも甘い匂いがする。